竜とそばかすの姫

登録日:2021/08/02 Mon 21:17:40
更新日:2024/12/21 Sat 09:54:32
所要時間:約 7 分で読めます






ようこそ、<U>の世界へ。

<U>はもう一つの現実。
<As>はもう一つのあなた。

現実はやり直せない。
しかし<U>ならやり直せる。

さあ、もうひとりのあなたを生きよう。
さぁ、新しい人生を始めよう。
さぁ、世界を変えよう。






50億人から たった一人を探し出せ




竜とそばかすの姫とは2021年7月16日に公開された日本のアニメ映画。



概要

時をかける少女サマーウォーズ等で知られる細田守監督とスタジオ地図による作品。
本作により細田監督は「ぼくらのウォーゲーム!」以来約10年間隔でインターネットをテーマとした作品を出している事になる。

巨大インターネット世界と現実世界を行ったり来たりする青春作品という点ではサマーウォーズとも似通っているが、
本作は世界を揺るがす大事件に立ち向かうサスペンス劇というより、謎のアバターの正体と行動の意味を探るミステリーに近い作風である。
また、サマーウォーズではボカされ気味だったインターネット世界の闇の部分についての生々しい描写も多い。

尚、ストーリー展開や登場人物の名前、行動などからもうかがえる通り、本作は『美女と野獣』のオマージュが強く含まれており、
細田監督は本作を「『インターネット版美女と野獣』をやろうとしたもの」と語っている。
また音楽の要素が強いのは「いつかミュージカル映画をやりたかった」という点に因む。



あらすじ

高知県の片田舎*1で暮らす内気な少女すず
歌と音楽を愛する彼女は、幼少期に母を亡くしたショックから歌う事ができなくなってしまっていた。
鬱屈した思いを抱えながら作詞をしつつ日々を過ごしていた彼女だったが、
ある日全世界に50億人もの利用者を有する超巨大仮想世界<U>を紹介される。

Bell(ベル)という<As>(アズ)(=アバター)として参加したすずは、<U>では自然に歌える事に気付き、ログイン直後に披露した歌声で全世界を魅了する。
次第に名前を捩った『Belle(美しい)』の愛称で大人気を博し、遂に1億人規模の巨大コンサートを開くが、
そこに<U>各地で暴れ回る謎のに乱入されてしまう。
最悪の<As>として<U>全体の嫌われ者であり、自身のライブも滅茶苦茶にした竜であるが、すずは竜に興味を持つ。
根気強い調査の末に遂に竜と接触する事に成功し、その心の闇に寄り添うベルに竜もまた少しずつ心を開いて行く。
一方で、<U>の利用者達もまた、竜を排除しようと動き始めていた――。



登場人物


現実の人々

  • 内藤 鈴(ないとう すず)(すず)/Bell
「歌える…!」
CV:中村佳穂
歌が好きな女子高生。そばかすが特徴的な地味少女。
女の子らしい化粧やオシャレもせず、常にボサボサ頭。
顔や髪に泥やゲロが付いてもそのままにしており、彼女の自虐性が見て取れる。
幼少期、見ず知らずの少女を助けに雨で増水した川に飛び込んだ母を亡くしている。
しかしその自己犠牲的行為がネットニュース(ヤフコメに酷似したネットサイトに寄せられたコメント)に取り上げられた際に、一部から冷ややかな反応をされ、それ以来心を閉ざしてしまう。
また、事件を切っ掛けに大好きだった歌を歌う事ができなくなり、現在は作詞だけを趣味に亡霊の様に生きている。
しかしながら、本人が思っている以上に周囲からは好かれているのだが、過去のトラウマから自分に自信が無く自己肯定感はほぼない。
賛否両論なら賛が全く目に入らないタイプ。

ルカちゃんに「相談」を持ちかけられてから、しのぶくんへの想いが破れる事、心の支えが消えてしまう事に号泣するが…!
終盤ではその過去のトラウマと、自己否定精神から決別する事になる。

歌と作詞に於いて天才的な才能を秘めており、<U>では薄ピンクの長髪とそばかす状の文様が特徴的な美貌の歌姫Bell(ベル)となり、
<U>の中では自由に歌える事を知った事から、眠り続けていたその才能が開花。
その美しい歌声で全世界的に大人気の歌姫となる。
<U>を知らなかったら一生片田舎でくすぶり続けていたであろう事を考えると、ヒロちゃん大ファインプレーである。
<As>生成に集合写真を使用した関係で、Bellの容姿は本人よりもルカちゃんがベースになっている。*2

モチーフは「美女と野獣」の主人公ベルと思われる。

ちなみに、中の人の中村佳穂氏はこれがメジャーデビュー作。
劇中歌も担当しているがこれがメジャーデビュー作。(※大事なことなので二回)
冗談抜きでガチである。


  • 別役 弘香(べつやく ひろか)(ヒロちゃん) 
「Bellのオリジンが、まさかこんな辺境のド田舎にいるダッサい小娘だなんてだーれも思わないって!」
CV:幾田りら
すずの親友。メガネと毒舌の子。
実家は金持ちで、コンピュータとインターネットのエキスパートであり、すずを<U>に招待しつつそのプロデューサーとして彼女をサポートする。
そして『謎の超大型新人』『突如現れた正体不明の歌姫』として世間を賑わすBellの正体を知る唯一の人間として、
Bellの正体は世界のどの有名人でもなく日本のド田舎の地味な女の子である事を知らずにてんやわんやする世間の人々をせせら笑うという意地の悪い面を持つ。
一方でスマホの待ち受け画面が物理の先生*3である、
その補習授業を受けに行くために竜探しを休むなど、結構乙女チックな所もある。

<As>は大きな帽子を被った三頭身ミニキャラクター。

主人公の親友・眼鏡・ITエンジニア・小さいアバターという点でサマーウォーズの佐久間と通じるが、
恐らくモチーフは「美女と野獣」のベルの父で発明家のモーリス。
声を担当しているのはikura名義でも活動するYOASOBIボーカルの人。
シンガーさんが完全にプロデュース側に回る配役はなかなか面白い。


  • 渡辺 瑠果(わたなべ るか)(ルカちゃん) 
「あ……、言っちゃった。フフフ」
CV:玉城ティナ
吹奏楽部でアルトサックスを吹いている女子。
同性も羨み認める、顔良しボディ良し性格良しの美少女。
それだけに、ヒロちゃんからは「ああいう子程裏がある」だの、中盤の修羅場の黒幕だのと言いがかりをされてしまっているちょっと不憫な子。

しのぶくんに思いを寄せているらしく、学校ではほぼ公認カップル状態。
その友人であるすずにアドバイスを求めるが……。



  • 久武 忍(ひさたけ しのぶ)(しのぶくん)
「すず。お前…Bellだろ?」
CV:成田凌
すずの幼馴染。
バスケ部所属。カミシンとも友人同士。
そのクールな立ち振る舞いと男前な容姿から、女子から絶大な人気を集める観賞用イケメン。

ルカちゃんとは、お似合いの公認カップル(と、思われている)。

中の人の成田凌氏は、「君の名は。」では180度違う性格のキャラを演じていた為、同一人物だと気付かなかった方も多い事だろう。成田凌氏の本気である



  • 千頭 慎次郎(ちかみ しんじろう)(カミシン) 
「…オホン。オレのこと、ちょっとは好きってことかなあ? …え。マジ?」
CV:染谷将太
すず・しのぶくんの友人。
たった一人でカヌー部を運営・活動している暑苦しい少年。
容姿は悪くなく所謂「黙っていればいい男」の部類な方なのだが、しのぶくんとは真逆の濃ゆいキャラ故に女子から人気があるとは言い難い三枚目。
カヌーにかける情熱は強く、努力は欠かさない。
たった一人の部活ながらも、インターハイに出場出来る程の才能の持ち主。



  • すずの両親
    • 父 CV:役所広司
    • 母 CV:島本須美
すずは現在父と片足のない老犬・フーガと暮らしている。
母が亡くなって以来、父とすずは関係がギクシャクしてしまっており、家庭崩壊寸前になってしまっている。

母はすずが幼少の頃、増水した川の中州に取り残された見ず知らずの子供を助けに行き、自らの救命胴衣を託して身代わり同然に死亡している。
その子は助かったものの、母の死はすずの心に大きな傷を残している。
それを英雄的死と称賛されていたならせめてもの慰めになっていたかもしれないが、
インターネットでは一部の心無い人間に英雄ではなく自分に酔った愚か者と断じられてしまう。
これが、すずが心を閉ざす決定的要因となってしまった。*6

父役の役所広司氏は、「バケモノの子」「未来のミライ」に続いて三度目の細田作品出演である。


  • 吉谷さん
  • 喜多さん
  • 奥本さん
  • 中井さん
  • 畑中さん 
CV:森山良子(吉谷)、清水ミチコ(喜多)、坂本冬美(奥本)、岩崎良美(中井)、中尾幸世(畑中)
地元の女性合唱隊のメンバー達。
現在公民館となっている旧小学校で活動している。
それぞれ本業は吉谷さんが漁師、喜多さんが酒屋さん、奥本さんが農家、中井さんが医師、畑中さんが大学講師を営んでいる。
母を亡くして以来、塞ぎ込んでしまっているすずをずっと見守っている。

中の人達はいずれも大ベテランだが、坂本冬美氏は今回が声優初挑戦。




竜の正体候補


  • イェリネク
CV:津田健次郎
芸術家の男性。竜の正体と噂される人物の一人。
約6ヶ月前(=竜の活動開始直後)から身体に痣状のタトゥーを入れる、その頃から急に彼の作品が注目され始めるなど、竜との何らかの関係が疑われている。

すずとヒロちゃんがビデオ通話でコンタクトを取ったところ、肝心な話を聞こうとしたら急に機嫌を損ね通話を中断させられるなど、
何か抱えているのは間違いなさそうである。



  • 理想の主婦
CV:小山茉美
上品なマダム風の中年女性。竜の正体と噂される人物の一人。
表向きは幸せな家庭を築いているように装っているが、その実はSNSに上げている家族写真や料理写真は全てフリー素材であり、
彼女自身は最低でも5ヶ月に渡って引きこもっている独身女性である。

また少しでも気に入らない事があると「私は傷付けられた!」と喚き散らすなど、お世辞にも「理想の主婦」とは言い難い人物。



  • フォックス
MLBの人気強打者。竜の正体と噂される人物の一人。
メジャーリーガーとしての人気は高いが、人に肌を見せる事を極端に避けており、
また「こういう一見穏当な人程怪しい」という言いがかりめいた理由で世間では竜の正体ではないかと噂されている。




<U>の人々

  • ペギー・スー
「ベル!歌え!!」
CV:ermhoi
Bellが現れるまでの<U>で圧倒的人気を誇っていた歌姫。長い白髪をした大人っぽい美女の姿をしている。
謎の大型新人として彗星の如く現れたBellを快く思っておらず、当初はファンと共にBellを批判していたが、
いつしか彼女らの方がノイジーマイノリティと化し、遂には過去の人となってしまい隅に追いやられる事になる。



  • ジャスティン
「竜を倒さなければ、<U>の平和は保たれない!」
CV:森川智之
<U>の治安を守るために自警活動している組織「ジャスティス」のリーダー。
世間からも一定の支持を受けており、スポンサー企業も多数抱えている。
自身も治安維持に努める「正義の味方」としての自負は強い。
どこから手に入れたのか作り出したのか、<As>の容姿を強制的に現実の姿に(アンベイル)する装置を持っている。

ライブで偶然遭遇して以来、竜と接触している可能性が高いと見てBellを詰問する。
Bellからはその強引さからあまり快く思っておらず、他人を従わせたいだけと見做されている。実際民衆からも、竜の追跡に関しては他に対抗馬がいないためかそれなりに評価されているだけに過ぎず、上記の強制アンベイル装置の保有など、本来の立場上は通常の<As>と変わらないにも関わらず多大な権限を持つ故に、活動そのものは疑問視されており決して受けは良くない。

「怪物と敵対しており、大衆の人気者だが主人公には嫌われている」という造形から、
モデルは「美女と野獣」のヴィラン、狩人ガストンと思われる。
また劇中の人物像などから、いわゆる「自治厨」「○○警察」を風刺したキャラでもあるのだろう。



「おれを…見るな…!」
CV:佐藤健
本作のキーパーソンの一人。巨大な黒い竜の姿をした、正体も目的も謎の<As>。
背中のマントには痣のような模様が入っている。
7ヶ月前に現れてから、その圧倒的強さで<U>各地の道場を荒らし回っている。
彼に勝利した者は極少数存在するが、その理由は竜が戦いの最中で急に無気力になったり別の事に気を取られる様子を見せたためであるという。

十代の少年を中心にその強さに魅せられたファンは極少数いるが、基本的に<U>のほとんどの利用者達から蛇蝎の如く嫌われている。
しかしながら、その理由は「戦い方が全く美しくない」「背中の痣を見せびらかしている様で腹立たしい」という私怨のようなものが中心である。
「必要以上に相手を攻撃して時に使用不能になるほどデータ破損させる事もある」らしいが、それとライブ乱入以外で悪事らしい悪事を働いている様子はなく、
ジャスティスからは「秩序を乱す無法者」として扱われているが、実の所そこまでの存在ではないように見える。

噂では、<U>の廃墟エリアにある「城」を拠点にしているという。

ともすれば馴れ馴れしいとも言えるBellに対しても強い拒否反応を示すが、次第に彼女に心を開いて行く。

モデルは「美女と野獣」の野獣と思われる。
それだけにケモナー達からは「どうか人の姿にならないでくれ」と祈られていた。


  • 天使
「Bell…。キミハ、キレイ…」
CV:HANA
Bellとなったすずの前に現れた、クリオネっぽい姿をした謎の<As>。
Bellの最初のフォロワーとなり、その後も度々登場する。
竜とも何かしらの関係がある事を匂わせているが…



その他の人物


  • ひとかわむい太郎 & ぐっとこらえ丸
CV:宮野真守
子供中心に活躍してるYouTuberコンビ。
Tシャツを着た犬と、ひびの入った卵の姿をしゆるキャラで活動している。
数少ない竜擁護派。




用語

  • <U>
そのまま「ユー」と読む。
「この世の知性を司る5人の賢者『Voices』」によって作られたという。
全世界に50億もの利用者を有する巨大仮想空間。利用者数で言えばサマーウォーズのOZの約5倍の規模である。*9

現実の行政・インフラとも深く関わっていたOZに対して、こちらはSNSの延長という感が強い。
またあくまで画面上のアバターをコントローラーで操作しているOZに対し、
こちらは視覚・感覚をそのまま<U>に移行させて感覚で操作するという、(技術の進歩からか)より未来的な技術が用いられている。
いわゆる「フルダイブVR」に近いと言えるだろう。
生体情報を読み取って作られる<As>で運用される性質と相俟って、<U>では当人が隠し持っている真の能力が引き出される。
一方で現実空間と<U>を同時に操作する場面も存在したりする。


  • <As>
「アズ」と読む。
<U>で使用されるアバターのこと。この<As>の持ち主、つまり<U>の利用者の正体は「オリジン」と呼ばれる。
デバイスから利用者の生体情報を読み取り自動生成される。

<As>は利用者に紐付けられるため、複数の<As>を持つ、つまり「複垢」を持つ事はできない。
またその性質上、現実の肉体が変化すれば<As>にも影響される。
例えば、現実で怪我を負えば<As>にも反映される事になる。
また、劇中語られた話によればバトルゲームなのであまりに激しい攻撃を受けるとデータが壊れ<As>が使えなくなってしまうらしい。


  • アンベイル
<As>のオリジンを暴くこと。早い話が「特定行為」、それと同時に「晒し行為」である。

由来は「ベールを外す」、転じて「秘密を明かす」といった意味のunveilと思われる。


余談

細田守監督作品としては最大級のヒットとなり、興行収入は日本では66億円、アメリカでは5700万ドルを突破している。

日本テレビアナウンサーの水卜麻美氏が冒頭の<U>のナレーションを、桝太一氏がBellのコンサートでのアナウンスを担当している。

第45回日本アカデミー賞に於いて優秀アニメーション作品賞、最優秀音楽賞を受賞した。



ようこそ<アニヲタwiki(仮)>の世界へ

<アニヲタwiki(仮)>はもう一つの現実。
<メンバーアカウント>はもう一つのあなた。

現実はやり直せない。
しかし<アニヲタwiki(仮)>ならやり直せる。

さあ、もうひとつの項目を建てよう。
さぁ、新しい追記修正を始めよう。
さぁ、記事を変えよう。



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  • 2021年
最終更新:2024年12月21日 09:54

*1 高知県吾川郡いの町にある伊野駅から学校に通っている描写がある

*2 とは言っても、下記の通り<As>はその人の潜在能力が具現化した姿なので、すずにもし過去のトラウマがなければ、このような美女になっていた可能性もなくはない。

*3 若い先生でなく白髪のおじいちゃん。いわゆる「老け専」である。

*4 序盤の演奏シーンにてカミシンが現れた時に露骨に目を逸らしていたのは嫌っていたのではなく、この伏線と思われる。

*5 終盤の竜探索のシーンで、彼一人だけUのデバイスを付けていない。

*6 すずと彼女の母には悪い言い方になってしまうが、念の為に言っておくとすずの母のやっていることは誰が何を言おうと素人が絶対にやってはいけない行為。もし遭遇してしまったならば状況にもよるが救助を呼んで待つ、ロープにペットボトルやビニール袋を括り付けて投げ渡す等の対応をすること。アニオタの皆様も毎年同じようなニュースを見かけて思うだろうが何かあった時残される側の事も考えて行動しよう。

*7 声優こそ違うが、危険な思想や言葉の言い回しがほとんど同じである。

*8 ちなみに公開当時(2021年夏)は所謂コロナパンデミックで在宅勤務が一般化しはじめた頃

*9 これは世界人口が現実と大体同じ70〜80億だとしたらインターネットが使える人間はほぼ全員Uを利用していることになる。余談だが総務省のホームページによれば2020年までの世界携帯電話普及率予想は43億3400万人、Twitterでも2019年5月時点でアクティブユーザーは大体3.3億なので驚異的とかそういうレベルではない数字。しかも複アカ作成不可能な条件で、である。