730年マフィア(銀河英雄伝説)

登録日:2021/08/05 Thu 18:59:41
更新日:2021/08/19 Thu 09:36:56
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帝国軍に告ぐ

お前たちを叩きのめした人物はブルース・アッシュビーだ

次に叩きのめす人物はブルース・アッシュビーだ

忘れずにいてもらおう

ブルース・アッシュビー
宇宙歴742年、ドラゴニア会戦後帝国軍への通信文


730年マフィアとは、「銀河英雄伝説」に登場する集団の通称。
自由惑星同盟軍が誇る名将たちであった。
本編には登場しないが、外伝「螺旋迷宮」に過去の存在として登場する。

概要


銀英伝本編の50年以上前、宇宙歴730年に同盟軍士官学校を卒業したグループの中でも最も秀でた7名。
ダゴンの英雄リン・パオユースフ・トパロウルと並んで同盟軍最大の英雄とされるブルース・アッシュビーを中心に、様々な戦いで活躍した。
戦死した一人を除いて全員が生前に大将となったほどの優秀な将官たちであり、同盟軍、帝国軍の双方に大きな影響をもたらした。
ファイアザード星域の会戦という小規模な戦いでの完勝で名をあげたという。
なかでも彼ら全員が揃った最後の戦いであった第二次ティアマト会戦においては、わずか40分の間に帝国軍は名将コーゼル大将*1を含む高級士官(将官クラス)が大量に戦死。この被害の再建には数十年の歳月がかかったことから、「軍務省にとって涙すべき40分」と呼称されるに至った。
そしてこの敗戦をきっかけに帝国軍はイゼルローン要塞の建設を決断。
加えて上級貴族のみならず平民や下級貴族出身者でも積極的に高級士官として採用するようになり、数十年後のラインハルトやキルヒアイス、ミッターマイヤーらの登場にも繋がる。
極端な言い方をすれば、この第二次ティアマト会戦の結果は帝国と同盟の両方を滅ぼす遠因の一つとなったのである

内部では毒舌や皮肉の応酬こそあったものの、基本的には良好であり、むしろそういったところから活気が生まれ、勝利への原動力にもなっていた。
しかし、自己主張の激しいアッシュビーを中心とする彼らの軋轢を完全に取り除くことも不可能で、第二次ティアマト会戦の時には内部での対立はかなり深刻なものになっていた。

その活躍ぶりは当時の政治家らに政界進出、ひいては軍閥化を警戒されたほどであったが*2、彼らが最後にそろった第二次ティアマト会戦にてリーダーのアッシュビーが戦死すると急激に分裂。
その後の彼らは活躍はしたが、全盛期のそれと比べればはるかに地味な物であり、しかも大半が不遇の晩年を送ることとなった。
彼らの結束と活躍はアッシュビーというカリスマ的人物の元成り立っていたため、彼に成り代わる人物はついに現れなかった。

宇宙歴788年(本編開始の6年前)時点でアルフレッド・ローザスのみが存命。
後に魔術師と呼ばれる天才戦術家ヤン・ウェンリーがまだ若い士官のときにある疑惑の調査の一環としてローザスの元を訪れ、回想として彼らの活躍が語られる。

構成人物

CVは石黒OVA版の配役

ブルース・アッシュビー

CV:風間杜夫
730年マフィアのリーダーであり、同盟軍最大の英雄の一人。彼の戦死した日は同盟の休日となっているほど。
「少尉の身で大佐より偉く見えた」と称される長身の美丈夫であり、自信と覇気に満ちた人物であった。その性格ゆえか周囲との対立も絶えなかったが。

「自分には不可能なことがないとでもいうつもりか」

「無論、私にも不可能なことがあります。貴方以上の失敗をすることです」
}

(少佐時代、上官に対しての発言)

士官学校を首席で卒業後に活躍を重ね、国民の英雄に。
当時はまだ最年少の一兵卒だったコステア大佐によれば、兵士たちからすれば神様のような存在であり、批判や批評といったものの対象になる人物ではなかったという。
後に英雄(自称)ことウィレム・ホーランド提督も自らを「アッシュビーの再来」と呼んでいた。

天才的な戦術家で、参謀長だったローザス曰く「戦機を見計らう天才」とのこと。ごくわずかな情報から相手の策を見抜き、常識破りの策で打ち破ることを得意とした。
第二次ティアマト星域会戦においては、「戦闘中に各艦隊から割いた兵力を混乱なく統合して新規に主力になりうる部隊を編成する」という常識を逸脱した作戦を成功させている。
また、戦闘で敵軍を打ち負かすと、必ず敵軍を煽る通信を送っていた。これは本人の自己顕示欲を満たすだけではなく、帝国軍の冷静さをそぐための策でもあった。
当時病床にあった軍務尚書・ケルトリング元帥*3が、「アッシュビーを倒せ」と叫んで死んだという逸話が語り継がれている。

人生最後の戦いとなった第二次ティアマト星域会戦では同盟軍大将・宇宙艦隊司令長官で、同盟軍側の総司令官となったが、いつになく高圧的な態度を取り、同僚たちの反発を招いていた。
帝国軍を壊滅せしめたものの、本人は不幸にも旗艦への流れ弾によって重傷を負い、戦死。享年36歳。
退役後は政界進出を目指していたと言われるが、結局は幻に終わった。そして彼の死と同時に、730年マフィアは実質的に終焉を迎えた。
なお、この際の乗艦の名は「ハードラック(不幸)」。

実は活躍を始めたころから、帝国から亡命した上級将校であり、同盟の中で彼に希望を見出したマルティン・オットー・フォン・ジークマイスターと、彼と協力して帝国軍内部に密かにスパイ網を作っていたクリストフ・フォン・ミヒャールゼンという帝国軍人から多数の情報を得ており、これが敵の動きを完全に読んでいるような完璧な采配に繋がっていたことが、事実こそ不明ながらほぼ確実視されている。
が、その情報も玉石混合よりましといったものが多いもの。加えて情報伝達後に状況が変化することも十分にありうる。その点を考えると、それらの情報を使いこなし、そこから巧みな策を立てて勝利を重ねたアッシュビーの才覚は本物だったと言える。
彼の死後このスパイ組織は弱体化し、ジークマイスターの失意の病死とミヒャールゼンの謎の暗殺をもって幕を閉じる。

戦略家としての才覚もあったようで、帝国軍より前にイゼルローン回廊への要塞の建設を構想し、簡単な設計図を作ったこともある。
が、本人は艦隊決戦を好んだため、予算は艦隊編成に使われることとなってお流れになってしまった。
結局イゼルローン回廊への要塞建設は帝国軍が成し遂げたが、もし同盟軍がこれを実現していれば、歴史の方向性は大きく変わっていただろう。

私生活も軍歴に負けず劣らず華々しいものであり、2度の結婚、そしてわずかな期間での2度の離婚を経験。どうにも家庭というものになじめなかったようだ。
愛人、情人も多数いたと推測される。
魅力的な人物だったようで、離婚という形で別れたはずの元妻は彼の死後もなお彼からのラブレターを自分宛てに送るということまでしているそうだ。

フレデリック・ジャスパー

CV:藤原啓治
精悍でダイナミズムに富んだ戦術家。
中途半端ということはなく、勝つときも負けるときも派手と言われ、彼の戦いは圧勝か惨敗のどちらしかなかったと言われる。
そのことから付いた異名が「行進曲(マーチ)ジャスパー」。
また、「2回連続で勝つと次は負ける」という妙なジンクス*4があり、
負ける順番にいた兵士たちは遺言書を書いたり、ひどいときは脱走を計画するものまでいたという。それでも愛嬌ある人物ゆえ、兵士には愛された。
730年マフィアの名を知らしめたファイアザード星域会戦では巧みな指揮で敵軍を翻弄、アッシュビーとともに完全勝利を収めている。
ただ、活躍にもかかわらず、この戦いの主役をアッシュビーに掻っ攫われたことは不満だったようで、のちに酒の席で、酔った勢いで不満を叫んだこともある。
第二次ティアマト会戦には中将・第4艦隊司令官として参加した。

会戦後は大将に昇進した後、ウォーリックの後任として宇宙艦隊司令長官に就任。史上最長の17年にわたって在任し、そのうち6年は統合作戦本部長となったチューリンとコンビを組む。
司令長官就任前のバランティア会戦では救援艦隊を指揮し、コープの戦死には間に合わなかったものの敵軍を攻撃して戦果を挙げたが、「功績を独占しようとしてコープを見殺しにした」という心ない噂が立ち、コープ夫人に責められるという一幕もあったという。
統合作戦本部長を務めたのちに退役し、730年マフィアの中では最も軍に長く在籍した。退役後は妻と旅行に出かけたが、その際の宇宙船の事故で不慮の死を遂げた。享年61歳。

ウォリス・ウォーリック

CV:小山力也
キザかつ芝居がかった言動から「男爵(バロン)」というあだ名で知られ、本人もこれを好んでいた。
突出こそしていないが指揮能力は確かなもので、アッシュビーの作戦には不可欠の人物であったという。

紅茶色の髪と瞳を持った伊達男で、女性に好かれ、彼自身も女性を好んだ。
手品や占い、ダンス、音楽、スキーなどをたしなむ多趣味な人物であったが、同僚のローザスは「何をやっても一流の寸前まで行けた」と評していた。
もっともこの評は裏を返せば「何をやっても超一流にはなれなかった」ということであり、男爵というあだ名に「公爵や伯爵にはなれない」という揶揄が見え隠れすることからも伺える。
これらの点は本人にも自覚はあったが、最高責任者ではなく、あくまでアッシュビーの下でいいと考えていた。
士官学校時代、いつもアッシュビーに次ぐ二番手であったことが影響しているのだろう。

第二次ティアマト会戦では中将・同盟軍第5艦隊司令官として参加*5。敵の攻撃で危機的状況に陥り、戦力を分割させたアッシュビーに激昂する場面もあった。
会戦後は大将に昇進した後、宇宙艦隊司令長官に就任。まだ若いうちに退役し、大学の学長や出身惑星の知事を務めたのち中央政界に進出。国防委員長にまで上り詰める。
順風満帆な人生を送り、名士として知られたが、在任中に彼の関わっていない汚職事件で辞任を余儀なくされる。
その後も愛人の麻薬中毒死をはじめとするいくつかの事件によって名声は失墜。
失意の中ハイネセンの小都市に隠居し、心臓発作で急死した。享年56歳。

かつて彼の従卒を務めたこともあるチャン・タオ一等兵によれば、少々気障なところはあったが人間としては立派な人物だったとのこと。
ただし、彼本人はともかく彼の周囲には時々ろくでもない人間もいたとも語っている。

ジョン・ドリンカー・コープ

CV:佐古正人
実直な戦術家で、追撃戦を得意とした。
「ドリンカー」というのは渾名ではなく正真正銘の本名であり、別に飲兵衛というわけではない…というかむしろ実は銀英伝でも珍しい下戸。しかもその理由はアルコールアレルギーによるものであった。
その体質のため勝利の祝杯をあげるときもアルコールではなくアップルジュースを飲んでいたが、ある時ウォーリックがふざけてシャンパンにすり替えたときは蕁麻疹が全身に発生して騒ぎになったんだとか。
なお、ウォーリックは同盟軍史上唯一となる蕁麻疹が原因で始末書を書かされた提督となった。

寡黙な人物であったが、アッシュビーに対して思うところも多かったらしく、中将・同盟軍第11艦隊司令官として参加した第二次ティアマト会戦の時には、いつになく高圧的な彼に対し明確に不満を言い、緊張状態になっている。
戦後に大将に昇進して宇宙艦隊副司令長官に就任するが、パランティア会戦において精彩を欠いて大敗、戦死した。享年41歳。

ファン・チューリン

CV:菅生隆之
アジア系の人物で「ファン」が姓。手堅い作戦を得意とする。大いに崩れるということがなく、彼の戦線の維持から逆転につながった戦いも多いという。
大変な堅物かつ気難しい人物で、他人から聞いた笑い話を同僚に伝えたが、それに大笑いする同僚たちをしり目に「一体何が面白かったのか」と真剣に質問したというエピソードも。人気こそなかったが、アッシュビーからは信頼されていたようだ。

第二次ティアマト会戦では中将・第8艦隊司令官として参加。アッシュビーに兵力の一部を要求されたことから彼と口論になったが、最終的に提供し、大勝利に繋げている。
その後は大将に昇進、宇宙艦隊総参謀長を務めた後、宇宙艦隊司令長官となったジャスパーとともに統合作戦本部長としてコンビを組む。
優れた実務能力と、温かみに欠けるが筋の通った人事により高く評価された。
だが、妻と離婚、息子には先立たれ、家庭的には恵まれなかった。
退役後は名誉職を務めつつ、公園の鳩に餌をやる毎日を送っていたが、肺塞栓で死去。
その死も極めて冷静かつ事務的なものであった。享年63歳。

ヴィットリオ・ディ・ベルティーニ

CV:乃村健次
勇猛な指揮官で、献身的な戦いぶりを見せ、その破壊力はアッシュビーに勝った。ビッテンフェルトのような人物だったのだろう。
立派な体躯と荒々しい髭で、「粗野な猛将」といったイメージの人物であったが、実際は気の優しい人物で、「クマとリスの結婚」とからかわれるような小柄な女性と結婚し、熱帯魚を飼う趣味があったという。
その熱帯魚に同僚の名前を付けていたという噂があるが、真偽のほどは不明。

第二次ティアマト会戦では中将・同盟軍第9艦隊司令官として参加。会戦前、水槽の管理を誤って熱帯魚を死なせてしまった妻を難詰してしまい、どう和解するべきか後悔していた。勇猛な大男のいつにない沈黙は兵士の不安を誘ったという。
その後、混戦の中で味方艦の爆発に巻き込まれて戦死。享年36歳。
死後は2階級特進で元帥になるはずだったが、同じく戦死したアッシュビーの名声を高めるための政治的配慮が原因でしばらく大将に据え置きにされ、死後6年たってようやく元帥に昇進した。

アルフレッド・ローザス

CV: 瑳川哲朗(老年期)、井上倫宏(青年期)
指揮官としては並だったが、幕僚たちの間の調整や緩衝において優れた才能を発揮。個性的な730年マフィアの面々を巧みに調整し、彼らの総合的な力量をさらに引き上げていた。アッシュビーの司令部の重鎮として10年にわたって活躍した。
第二次ティアマト会戦時は宇宙艦隊総参謀長を務めている。
沈着かつ公正で信頼され、アッシュビーの一回目の離婚の仲介人をさせられたことも。

大将で退役。出版した回想録は後世まで高い評価を受けたという。
老後は孫娘のミリアムとともに暮らしており、アッシュビーに関して調査していたヤンのインタビューにも応じた。
その数日後、多量の睡眠薬を摂取し死去。死んでも死ななくてもよい、という心境だったようだ。享年78歳。不幸な末路を迎えることが多かった面々の中では長寿であった。
死後元帥号を贈られ、730年マフィアは全員が元帥となった。
その死は、一つの時代の終わりの象徴でもあった。

余談

彼らのグループ名がマフィアとなっているが、特に犯罪を行っていたというわけではない。
Mafiaという単語には犯罪組織のマフィアの他にも非合法とは限らない秘密結社や単純に結束の固い集団という意味もある。

ただ、リーダー的存在であったアッシュビーには周囲には不可解なほどの読みがあり、その点を不審に思われてのもの(上述したように帝国にスパイがいた可能性が高いとされている)、
あるいは上の人間にも煽るような自己主張をした気性の強さ、当時の政治家からは政界進出を警戒されていた点など、
圧倒的な実力実績に加えて疑惑・警戒・反感等も含まれた総合的な評価として「マフィア」と呼ばれるようになったのだろう。


「項目を作成した人物は、ブルース・アッシュビーだ。次に追記・修正をする人物はブルース・アッシュビーだ。忘れずにいてもらおう」

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最終更新:2021年08月19日 09:36

*1 当時の帝国軍では極めて珍しい平民出身の将官だった。

*2 傍目には幕僚を同期で固め、武勲を盾に政府や軍上層部に対して意見をゴリ押しする態度がアッシュビー自身の高慢な性格と相俟って危険視されていた。

*3 息子二人がアッシュビーとの戦いで戦死している。また、本編開始時の宇宙艦隊司令長官(ラインハルトの前任)であるミュッケンベルガー元帥の大叔父にあたる。

*4 よく先程の異名の由来とされることが多いが、実際には「勝ち方も負け方も派手」ということからきている。そもそもジャスパーの異名である行進曲は2拍子であり、3拍子はワルツなどである。

*5 ちなみに第5艦隊所属の戦艦「シャー・アッバス」には、後に同盟軍最後の宇宙艦隊司令長官となるアレクサンドル・ビュコック(当時19歳・階級は軍曹)が砲手として乗っていた。