斑鳩(STG)

登録日:2021-08-28 Sat 12:31:41
更新日:2025/07/21 Mon 20:50:02NEW!
所要時間:約25分で読めます






我、生きずして死すこと無し。

理想の器、満つらざるとも屈せず。

これ、後悔とともに死すこと無し…




斑鳩 IKARUGA』は、トレジャーによって開発され2001年12月20日にアーケードで稼働を開始した縦シューティングゲームの事。
現在は多くの移植版も存在するがそれは後述する。

最初にかな~りざっくり説明すると本作は
  • 「7種というSTGには豊富すぎる武器種を操る自機」
  • 「スコア稼ぎとその為のパターン構築を半ば強制されるプレイスタイル」
  • 「敵のほとんどを"倒さない"選択すら迫られる稀有な仕様」
といった独特すぎるゲーム性から沢山の中毒者と脱落者を生み出した前作、『レイディアントシルバーガン(以下"銀銃"と表記)の根本的な要素は引き継ぎつつも幾つかの要素をオミット・デチューンし、

より遊びやすく、よりのめりこめる作品へとブラッシュアップしたゲーム

と言える。ただ、それでも一般的な弾幕系シューティングゲーム(以下シューティングは"STG"と表記)とはプレイ感覚が大幅に異なる事は相変わらずだったので、前作と同じかそれ以上の中毒者と脱落者を生み出した点は変わらなかった。
現在では、前作と今作共に伝説のSTGとして語り継がれている。

AC版にはNAOMIという基板で発売された物とNESiCAxLiveで配信されている物の2種類がある。
区別する必要がある際は、前者をオリジナル、後者をNESiCA版と表記する。



[物語 -Story-]


強国「鳳来ノ国」は「石の様な物体」の圧倒的な力で世界を支配し、人々から自由を奪った。
鳳来の反抗組織「天角」もついには壊滅し、たった一人の青年「森羅」を残すのみ。
単身立ち向かうも返り討ちに会った森羅は、老人たちが集う姥捨て山「斑鳩の里」にて拾われる。
森羅は老人たちが一矢報いようと開発していた最新鋭機体「斑鳩」の乗り手に選ばれ、
斑鳩の里に流れ着いた鳳来の逃亡兵士「篝」と共に、まだ見ぬ自由のために戦いを挑む。


[登場人物 -Charactar-]


森羅(シンラ)
「技師長……制御装置……外してくれるか?」
今作の主人公。
“たった一つの事でいいから後悔のないことをしたい”と言う信念と若さゆえに時々無鉄砲になってしまう事がある青年。壊滅した“天角”の生き残りでもある。
浅見影比佐との戦いで敗れた後、斑鳩の里に墜落。そこで今作の自機である飛鉄塊「斑鳩」を授かり、浅見との戦い、ひいては鳳来ノ国との戦いに再び身を投じる。

(カガリ)
「“我、生きずして死すことなし…”私達は、自由を見られるかしら?」
今作の2P側。
元々鳳来の人間だったが、森羅と同じく斑鳩の里に墜落。森羅含む里の住人に助けられるも、自害しようとする。
だが、時と共に落ち着きを取り戻し、森羅と共に飛鉄塊「銀鶏」に乗り、鳳来の国へと戦いを挑む。
ちなみにノーブラである。

風守(カザモリ)老人
「我、生きずして死ぬことなし。理想の器、満つらざるとも屈せず。これ、後悔とともに死すこと無し…」
斑鳩の里の長老。鳳来ノ国との戦いのために天内技師長と飛鉄塊「斑鳩」を作り上げる。
里の住人と共にサポート役として戦いに身を投じる。

天内(アマウチ)技師長
「おいっ、色男!壊すなよっ!」
斑鳩の設計、組み立てを行った技師。
斑鳩には相当な愛情を注いでおり、最終決戦で森羅の意志が変わらないこと*1を悟った際には泣き崩れた。
少々ひねくれた性格だが、面倒見の良いツンデレである。

新海(シンカイ)里長
「やれるだけの事は、やってある。後は奴の腕次第じゃ。」
斑鳩の里の里長。監視役みたいな役職。面倒見が良いため森羅の兄貴分でもある。
天内と共に斑鳩を整備するが、ガサツな性格が災いし力仕事しか頼まれない。

浅見(アサミ)  影比佐(カゲヒサ)
「曲がりなりにも、私は鳳来の人間でな。貴様等の立場は解しても、見逃す訳にはいかぬのだ……」
1面ボス。鳳来ノ国の武将。斑鳩に乗る前の森羅を撃墜した男。
義理堅い性格が故、国を壊滅させられた森羅に同情しながらも敵対する。

法角(ホウカク)
「何を騒いでいるかと来てみれば、性懲りも無くまたおまえらか。今更廃墟と化した阿魏を取り戻してどうするつもりなのやら……」
2面ボス。 かつて、鳳来ノ国と敵対していた“阿魏ノ国”を一般人にも執拗に攻撃を加え、強制的に降伏させた非常に冷酷な人物。
その冷酷さの前に、森羅と篝も一度は撤退するが、雪辱を晴らし、阿魏ノ国を取り返すため再び戦いに身を投じる。

鳳来(ホウライ) 天楼(テンロウ) 
「おまえ達を生かしているのは、この私。正しき道を歩めるようにと……だが、おまえ達はそれを理解できぬというのか?」
鳳来ノ国の支配者。少女のような見た目をしているが、顔には皴があり、一体何歳なのか誰も知らない。いわゆるロリババアである
ある日発掘された“石のような物体”───産土神(ウブスナガミ)黄輝ノ塊(オウキノカイ)の遭遇を境に次々と奇跡を起こし、その力で鳳来のトップに上り詰めた。
しかし、産土神黄輝ノ塊の力を自分の力に取り込もうとした結果、暴走。狂気に取りつかれるようになった。


[ゲームシステム -Game system-]


1撃死、その場復活、残機制。残機はスコアで増える方式。
自機を8方向に動かすオーソドックスな作りとなっている。全5面の1周エンド。
武器の多さと強化必須の仕様に唖然とした前作に対し、今作はレベルアップなし、武器種は真っすぐ進む通常ショット*2と後述の力の解放の二つだけ。他のSTGと比べても武器は少ない。

だが、本作には他の作品でもなかなか見られない特徴的なシステムがある。属性システムによる敵弾の吸収と、吸収した弾を武器として使う“力の開放”だ。
まず、このゲームは敵味方問わず機体と弾に【白】【黒】の二つの属性がある。
自機の色は任意に変更可能で、弾は自機の色に対応したものが発射される。
敵の機体と異なる色の弾で撃つとダメージが2倍になる。
自機の色が敵の弾と同じ色の場合、被弾せずに吸収できる
自機がの場合は弾が黒ければ吸収&敵の機体がだったらダメージ2倍って感じ。
同じトレジャー製のアクションゲーム『シルエットミラージュ』のダメージシステム*3をSTG向けにアレンジしたとも言える。

力の開放とは、敵弾を吸収したら貯まるケージを使って放つホーミングレーザーの事。
威力・追尾能力共に申し分なく、雑魚なら一発で蹴散らせる上にショットだけではカバーしきれない範囲の敵を捉えるのにも重宝する。
このシステムは「敵弾がエネルギー源になっている」点が大きなポイントで、状況によっては下手に逆属性で攻めるよりも、同属性で敵の攻撃を喰らい解放を織り交ぜながら攻めた方が効率的な場合もある。
更に、この弾の吸収自体がスコアとしてカウントされるばかりでなく、難易度次第では「敵撃破に伴う撃ち返し弾」という形でその数を"能動的に"増やす事も可能となっている。*4
この仕様によって本作はSTGにしては非常に珍しい
  • 「本来こちらにとって脅威である筈の敵の攻撃にプレイヤーが積極的に当たりに行く行為がベーシックなスタイル」
として確立され、同時に
  • 「マイナスをプラスに変換して更なるゲインを狙うことが出来る」
側面が、多くのシューターが持つ向上心を滅茶滅茶刺激する起爆剤として機能する。
ただし…(後述)

他の要素としては、当時のアーケード縦STGではあまり見られなくなった「接触するとミスになる地形」が積極的に取り入れられている。
2面の移動するコンテナや破壊不能な壁を皮切りに、3面の狭い通路や後方から追撃してくる大型機から逃げる為に入り組んだシャッターを潜り抜ける等90年代ゲームのような「地形避け」をするシーンが増えてくる。

各ボス戦においても、真っ向勝負の1面以降、力の開放や接近戦を駆使すれば早く倒すことが出来る2面、自機の属性と地形に気を配る必要のある3・4面とアイレムの『イメージファイト』のような工夫が試される敵は、見る人に強烈な印象を残すだろう。
特に、とあるボス戦での「撃ちあい」はそのリズムもあって音ゲーを思わせたりもする。


[神業への道 -Chain-]


STGの華とは即ち「スコア稼ぎ」である。よってここでは斑鳩のスコア稼ぎがどういうものかを説明しよう。
本作のスコアの大半を占めるのはChainによるボーナスで、これは

  1. 「同じ属性の敵を3回連続で倒すことでChain成立によるスコアが発生し、連続で成立させると1Chain当たりの獲得点も倍々に増えていく*5
  2. 「但し、一度でもChain法則から外れた撃破をしてしまうと、累積した倍率ボーナスが初期値に戻る」

というルールで成り立っている。
後者が特に重要で、適当に弾をばら撒いてしまうとせっかく積み上げたボーナスがすべて台無しになってしまうことから、「スコア稼ぎに"生半可な"アドリブが入り込む余地はなく、プレイヤーは予め各シーンにおいて厳密な敵機破壊パターンを組んでおくのが定石」といったスタンスが求められる。

Chainシステムは銀銃から受け継いだ要素であり、故にこのスタンスも根本的には変わっていない。
ただ、「Chainの為には三色の内、撃破対象を一色に絞らなくてはいけなかった」前作と違って「同属性を三回連続で1セット」のルールから外れない限りは、違う属性の敵を倒してもChainが継続する点が大きく変わった。
これは即ち、異色同士の組み合わせによりプレイヤー側が取れる選択肢の幅が物凄~~く広がったという事を意味する。
そして異色撃破可能によりシステム上敵を全滅させる行為が「是」になったお陰で、STGではお馴染みの「早回し*6によるスコア稼ぎ」という要素をより前面に押し出す事をも可能にした。
前述のスタンス故に何かと「ガッチガチのパターンゲー」と呼ばれるきらいがあるが、少なくとも本作のスコア稼ぎはそういった言葉から連想されがちな「最適解のテンプレをひたすら覚えて、それをなぞるだけの単純なゲーム性」では決してなく、

  • 「テンプレと同じChain数を保ちつつ、より自分のスタイルに合ったオリジナルパターンを開発する」
  • 「早回しをさらに突き詰める事で理論値の底上げを狙う」
  • 「逆に、苦手な所は無理せず妥協して幾つかのChainを諦めるという"引き算"を以てスコアの向上を図る」*7

等々、プレイヤー個々人の創意工夫を受け止められるだけの懐をきちんと備えている。しかもかなり深いレベルで。
攻略法が大分確立された現在においてでさえ、この点はいささかも衰えていない。
ってか未だ現在進行形でスコアの更新が進行しているのでこのゲームの本当の最適解は未だ見出されていない

更に言葉を重ねるのなら、例えば
  1. 「難易度が変われば敵の配置構成や弾の吸収量等も変わり、個別の攻略法が求められる様になる。」
  2. 「2Pプレイに興じれば一人でやる時とは比べ物にならない位選択肢が広がる。実際オンラインco-opプレイに対応している機種も存在する。」
  3. 「なんならこの2P同時プレイを一人でやってのけるダブルプレイなる遊び方を嗜む方々もいる。…人間か?それ…
  4. "一切スコアを稼がないどころか一発の弾丸すら撃たないでクリアする"真逆のスタイルすら認められ、専用の称号まで用意されている。」*8
といった具合に、パターン構築一つとっても多種多様なアプローチの形があり、それぞれが違った顔を見せてくれる。

要は斑鳩のスコア稼ぎは、ともすれば一生モノの付き合いになってもおかしくない位、奥深くて長く楽しめるシロモノだってことだ。特に
  • 「ゲームが持つ仕様や理論の理解を深める事に快感を覚える」
  • 「試行錯誤を繰り返して新たな解を生み出すのが大好き」
なゲーマーにはかな~り刺さるだろう。
君達も、ゲームの攻略本やサイトを読み漁って貪欲に知識を求める事に悦を感じた経験があるだろう?あれをもう少し拗らせれば丁度ピッタリという具合だ

しかし、自機である斑鳩の「黒」と「白」が表裏一体であるのと同様に、どんなポジティブなモノにもその裏には必ずネガティブな部分を孕んでいる。
それは上記のシステムにおいても例外ではなく、この独自性が沢山の脱落者を生む負の部分を併せ持っている事も知っておかなくてはいけない。


[トレジャーお得意の癖がありすぎるシステム -Originality-]


それらを述べる前に先ずは本作の「Chain以外の主な得点源」を紹介しよう。
その内訳は「敵弾の吸収点、ボス撃破時のタイムボーナス、そしてクリア時の残機ボーナス」である。
これでお気づきになられたと思うが本作、STGにしては珍しく、敵を撃破することによる素点が存在しない。
撃ち込み点自体は一応存在するが、はっきり言って「無視して良い」と断言出来る程、僅かなスコアしか得られない。*9
そして先述の通りChainがスコアの大半を占めている為、稼ぎには「流れ弾によるChain切れを防ぐためのショット自重」や「着弾順の完全制御が大前提レベルの繊細さを求められる力の解放の運用」*10といった、非常に緻密で神経を削る立ち回りが要求される。
前作とは違って「敵を遠慮なくめちゃくちゃ倒す」事自体は可能であるが、それは"それだけの完成されたパターンを構築できた場合に限った話"。
要はSTGでは割とポピュラーな「とにかく一杯撃ってガンガン稼いで気持ちよくなる」トリガーハッピー的な快感を本作から得ることは難しいということだ。

そしてこれは弾避けに関しても似たような事が言える。
一見回避不可能にしか見えないような敵弾の嵐をスイスイ避けていく事で得られる快感は弾幕系の醍醐味ではあるが、本作は仕様上「寧ろ弾に当たりに行くことで活路を見出す」形の弾幕構成が圧倒的に多く、「避けのテクニックだけを純粋に要求される場面」は皆無ではないがかなり少ない。
よって敵弾を凌ぐ楽しさに関しても従来のSTGとはかなりベクトルが異なる。
これらの点がSTG経験者であってもプレイを躊躇させる要因になっている。

そして熟練者でも持て余すゲーム性が当然初心者に優しくしてくれる筈がない。
当たる事で活路を見出す、というのは「避けだけでは絶対に凌げない弾幕がある」という意味も含んでいるので、属性変更によって目まぐるしく切り変わる"当たるべき""避けるべき"弾に即反応できる感覚を養わなければ序盤であっても生き残る事は難しい。
それどころか「"敵を倒し相手の攻撃機会を減らすつもりで"弾を発射したのに、逆に撃ち返し弾にあっさりと討ち取られるハメに」なんてケースすらある始末。
そして先述の通り、敵の配置を把握しある程度撃破パターンを組めるまでやり込まなければ、STGの醍醐味であるスコア稼ぎの楽しみに触れることも出来ない。
つまり「何もわからなくてもとりあえずショット押しっぱなしで適当に動いていれば最低限ゲームとしては成立してる」なんて甘さはないのだ。
……まあ、これでも前作と違ってスコア稼ぎが強制されていない点においてはかなりとっつきやすくなっているのだが。*11

以上の様に、本作はSTG初心者から見れば「のっけから難しすぎる」、熟練者から見れば「ユニークではあるが、自分には合わない」といった感じで、おいそれと気軽には遊べない近寄りがたさを醸し出す正に「人を選ぶ作品」に仕上がっており、結果、その知名度に対して、実際にやり込んでいるプレイヤーの数が非常に少ないという大きなギャップをもたらした。
そして十分な実体験を伴わずにそのユニークさばかりが注目された結果、実際のゲーム性とは大きく剝離した

  • 「ランダム性が全くない完全なパターンゲー」
  • 「同じことをやれば絶対に同じ結果になる」
  • 「運に殺されることはない」

等といった誤解がまかり通る弊害すら生み出している。

+ 実際のゲーム性の詳細。ここからは余談な上に結構ニッチな内容なので収納。
上記の様にやり込み勢が少なすぎるせいでほとんど知られていないがこのゲーム、実は

スコアに拘れば拘る程ランダム性と格闘しなければいけない

という意外な一を持っている。
確かに仕様上、パターン構築が大きなウエイトを占めている作品であることは事実だが、少なくともネット上でよく散見される上記の様な評価には決して当てはまらない。
と、いうか本当にランダム性が皆無だったら簡単にマクロで世界記録とれちゃうので、制作側から見れば当然の処置ともいえる。
以下比較的知られている例を列挙。

  • Chapter1 ボス「烏帽子鳥」
第三形態でばら撒いてくる榴弾の展開位置と破裂タイミングがランダム
榴弾からの破裂弾は全吸収した際のスコアが高いだけでなく、力の解放でボスを早期撃破(ボス戦では一秒ロス=1万点ロスになる)する為の重要なリソースとなる為、この破裂タイミングのご機嫌次第では簡単に数万点レベルで差が開いてしまう。
またこのゲームは「トータルスコアのランキング」とは別に「Chapter毎のランキング」も備えているので、後者でのトップランカー入り、或いは自己ベスト更新を狙う際、ステージの最後の最後で運ゲーを制さなくてはいけないという、ご無体な仕様になっている。

  • Chapter2 コンテナ地帯
オープニングシーン及びテロップを抜けて少しした先にある、「位置固定のコンテナと左右から流れてくるコンテナが混在する」地帯。
この左右から流れてくる奴の初期位置がランダムであり、配置次第ではChain最大数を取る為に破壊順を変えなければいけない場合がある。
そして同じ破壊順でも「同属性で倒して吸収点を稼げるくらい余裕がある場合」と「逆属性で急いで破壊しないと間に合わない」ケースにさらに分岐するから始末が悪い。
見た目こそ地味だが、実際に動かすプレイヤーにとっては「予め複数のレシピを用意し、そのどれを使うかを瞬時に判断しなくてはいけない」「最適解を選んでもスコアが下振れる場合がある」という二重の負担を強いられる、結構な難所となっている。

  • Chapter3 シャッター地帯
本作の超強敵である「鷸(しぎ)」直前にある、連続したシャッターが次々に閉じられていくシーン。
このシャッターの「どこに抜ける隙間ができるか」がランダムになっている。
直前の隙間と比べて極端に離れた所が開く事はないため、"抜けるだけなら"さほど困難ではないが、
「ショット垂れ流しにすれば間違いなく流れ弾でChainが切れる」非常にいやらしい塩梅で、各シャッターの隙間の中央に敵が居座っている
なのでプレイヤーはChainを継続させるためには自機が取るべきルートをきちんと確立した上で居座る敵を単発ショットで丁寧に処理しなくてはいけない。
ここのシーンは基本的に頭でっかちな本作では珍しい「純粋な反射神経勝負」を挑まれる所であり、ここだけは安全の為にChain継続をあきらめるプレイヤーも珍しくない。

  • Chapter4 中ボスその一
製作者の頭の構造を疑う地獄の前半戦を抜けた先で対峙する中ボスで鞭の様に撓りながら常時展開する白黒ワインダーを潜り抜け、回転する本体の円柱にくっ付いている12個のターゲットを破壊する、というシーン。
だが厄介な事にこのターゲット、初期位置が毎回ズレる。
一方でワインダーの展開にばらつきはないので、そちらばかりに目が行ってこのシーンを「完全なセットプレイで抜けようとする」と、この毎回微妙に変わる差異に気づかず「同じことをやっているはずなのになぜか上手くいかない」という勘違いを引き起こしやすい。
そして例によってこの初期配置次第では同じやり方でも1秒~2秒撃破時間が変わるという若干の運ゲー要素も孕んでいる。

  • Final Chapter ボス「田鳧(たげり)」
本作でも特に知名度の高い所謂「解放合戦」が始まる第三形態。
ここは基本速攻撃破が原則のボス戦で唯一「残り一秒になるまで敵弾吸収を続けた方がスコアの理論値が高くなる」シーンで、スコアラーは約80秒弱「回避不能のホーミングレーザー」「これまた回避不能の扇形弾幕」「左右からの白黒ランダムばら撒き弾」3つの猛攻に耐え続けなくてはいけない
前者二つが回避不能な為、こちらの属性変更のタイミングが著しく制限された状況でばら撒き弾に晒される形になり、故に弾の展開次第では「どうあがいても回避・吸収できない」ケースが極稀に起こる。正に「運に殺される」場面というわけだ。
「一機失うと50万点相当のロス」「解放合戦中に被弾すると相手の攻撃ペースが落ちる(吸収点の総量が減る)」という事情から、ここは1ミスによる損害が特に大きく、「ここまで完璧なプレイをしていても最後のここでスコア更新を阻まれて涙を飲む」悲劇が繰り返される名所として恐れられている。

  • ラスボス「産土神黄輝ノ塊(うぶすなかみおうきのかい)」
第一形態~第二形態で放ってくる針弾。
これは他の弾とは違って「特定の発射源を持たず、画面内のどこからでも突然出てくる」かなりえげつない特徴を持っている。
故に上記の田鳧と同様「常時展開している回避不能の弾幕相手にこちらの選択肢が絞られた状況で突然襲い掛かられミスになる」ケースが結構ある。
例え自機から遠く離れた所から発生しても「展開している弾幕が丁度カモフラージュとして機能し、被弾するまで気が付けない」パターンも多い。
よってここも「ここまで完璧なプレイをしていても最後の最後のここで(ry」というスコアラーの怨嗟の声が絶えないスポットになっている。

  • 番外編 打ち返し弾
本作の打ち返し弾は基本的に自機狙いだが、所謂「散弾銃」の様にある程度のバラツキをもって展開される特徴がある。
故に毎回全く同じ位置・タイミングで敵を撃破したとしても吸収できる弾の量は一定ではない。(この差異を0に近づける為、スコアラーは極力至近距離で敵を倒す傾向がある)
一機につき50発以上の撃ち返しを発生させる敵なんかもいるお陰で、場面ごとの吸収量もゲーム毎にかなりバラつくのが常であり、現状トップランカー間でも採用されているテンプレの中にすら「吸収量が多すぎても少なすぎても失敗する」類のレシピがそれなりに存在する。
よってプレイヤーは「毎回同じパターンを成功させる為に、時折吸収量を調節するアドリブを挟まなくてはいけない」といった、一見すると矛盾した行動を強いられる場合があったり。
「全く同じことをやっていても撃ち返し弾のご機嫌次第で用意していたパターンが使えなくなる」といった、理不尽に見舞われることもある斑鳩は寧ろ「運ゲー」だった…?


[見る者を釘付けにする演出 -Direction-]


ここまで述べた事は「実際に体験して、或いは丁寧に解説を受けてようやく理解できる」類の内容ばかりだったが、本作には素人玄人関係なく誰の目から見ても明らかな事実が一つある。
それは演出面の素晴らしさ、有体に言えば美しさだ。
基本属性であるを基調として構成されたコントラスト鮮やかな敵弾幕や、「倒される事を前提に」計算しつくされた敵機の配置や挙動は、他の弾幕系STGが持つそれとは全く異なり且つ勝るとも劣らない唯一無二の世界を表現している。
常時回転しながら画面全体を覆う勢いで美しい曲線弾幕を展開し続けるChapter4の白黒ワインダー地帯や、本作でもとくに有名なFinal Chapterの「解放合戦」等には思わず目を奪われたという人もきっと多いのではないだろうか。
各Chapterの開幕が終了したタイミングで必ず挿入されるテロップ(文章)の内容もかなりかっこよく、どれも印象深い物となっている。
中には、人によっては座右の銘にしてもいいレベルの名文もある。

その見た目の美しさに併せて間断なく被せてくるのが音の美しさ実際に聞いて見ればすぐ分かるが、本作の音響はサガフロンティア2の様に「共通のメロディラインを擁しているBGMを複数展開させている」大きな特徴がある。
その共通したベースとなるのがChapter1のBGMである「Ideal」。
ゲーム開始時のOPからいきなり十分すぎる位の悲壮感と勇猛さを感じさせるメロディでプレイヤーをガツンと打ち据えてくる。
これ単体でも十分に素晴らしいのだが、これに加えてゲーム側はプレイ進行に合わせて共通部分を度々聞かせ、徐々にそのメロディをプレイヤーの頭と耳にこびりつかせるニクイ仕込みまでやってくる。
んで、その仕込みが最高の演出効果として花開くのがFinal Chapterのボス戦第三形態突入時。
ここで使われているBGMは"Idealのアレンジではあるが、ほぼそのまんま"な構成となっており、自力で此処までやってこれたプレイヤーなら、これを聞いた瞬間

このメロディラインと共に体験した初プレイの事とか、
ここに至るまで繰り返し繰り返しOPを聞かされる羽目になる程重ねた苦労と努力の数々とか、
「頼むからこの感動のままクリアまで行かせてくれ」という悲痛な心の叫びとか、

そんな様々な記憶や感情が一気に洪水の様に溢れ出し、否応なしに心を揺さぶられる事になる。
初回ではほぼ間違いなく敗北エンドだろうが勝つにしろ負けるにしろ、ここから迎える結末は絶対に忘れられない特別なモノになるだろう。

その様なグラフィックやサウンドの美しさの上に、熟練者の極限まで練りに練られた鮮やかなプレイングがさらに被さるのだとしたら、もうそれが美しくないわけがない。
「本作の極まったプレイは正に芸術」なんて言われるのも納得である。
そしてそんな芸術レベルまで昇華したゲーム映像はそれだけで見た人々をプレイに駆り立てるだけの強烈な魅力を持っている。実際、
「(先述の様な)システムがどーたらとか従来のSTGがなんたらとかなんてどうでもいい。自分はとにかくこの手でこの美しさを実現してみたいんだ!」
というモチベーションだけでプレイを継続している人もきっといる筈だ。

幸い本作は開発元であるトレジャーの公式サイトから各プラットフォームのトッププレイヤーのリプレイ映像が閲覧できるようになっているので、未だ見たことがないという方は是非一度目を通してもらいたい。


[ゲーセンでの現実 -Reality-]


しかし、家庭版の方はともかく斑鳩のオリジナルはアーケードゲームである。アーケードでは複雑すぎるゲームは利益が出ない……。
かつて、レイディアントシルバーガンがそうだったように、斑鳩もゲーセンからの評価はよくなかった。
ただでさえ前作のインカムが悪すぎたため今作を導入するゲーセンは少なかった上に、“まず慣れるまで時間がかかる”ゲーム性が災いして、撤去されるのも早かった。すでに述べた様に前作よりとっつきやすいとはいえ、それでもまだとっつきにくかった。

ちなみにシステムそのものだけでなく、スコアを無視しても普通に高難易度である。
2面から即座に狭い通路とボスが登場するため、ライトプレイヤーはまずここで脱落。
3面以降は職人技の域であり、「他人のプレイを観戦する分にはいいが自分でやるのはちょっと…」という人が続出した。

結果、今作も前作と同様に高品質なゲームだが、好き嫌いが真っ二つに分かれる結果になった。
だが、クソゲーと言った声は全く聞かない。徹底的にこだわり、なおかつ完成度が高かった故人気が出なかった不運のゲームである。

2013年にNESiCAxLiveで配信が開始され、対応している筐体さえあればどこでも遊べるようになった。
ただし、現在はSteam版がベースとなっており、オリジナルとは細かな差異がある。


[移植 -Porting-]


斑鳩は、2021年現在トレジャー製STGのなかで一番移植されているゲームである。
どれも移植度は高い為、アーケード版を遊ばないのであれば好みのハードや価格で選んでも構わない。
練習目的の場合、オリジナルに近いのはDC版かGC版、NESiCA版に近いのは各種ダウンロード版と言われている。
ダウンロード版は安価で入手できる為、STGの中でも定番のタイトルとなっている。


●移植されてるハード
  • ドリームキャスト版
ほぼ完璧な移植。プレミアがついてることを考えなければ、あえてこれを選んでみるのもいいかもしれない。
「セガなんてだっせーよな!」なんて言うやつは投げ飛ばされなさいおじさんを見習え。

  • ニンテンドーゲームキューブ版
こちらも概ね忠実な移植であり、DC版よりスーパーリプレイの実装やスローモードなどの練習環境が充実しているのだが、BGMにズレがある事が惜しまれる。
完璧な斑鳩をやりたい!という人はDC版、練習したい!という人はGC版をやるといいだろう。
ただし、NESiCA版とはパターンが異なる為、そちらの練習で買う場合はSteam版がお勧めである。
ちなみに今買うとGC版の方がDC版より50%くらい安い。

  • Xbox版
Xbox360向けに発売されたが、2015年にXbox Oneの後方互換にも対応した。
処理落ちが無い等、オリジナルとは細かな差異があり、同様のパターンが使えない事もある。
また、ここから「プロトタイプモード」と呼ばれる解放ゲージが無くなり、ショットに弾数制限が付いた代わりに弾数の許す限り力の解放が撃ち放題(最大弾数999、ショットの消費弾数が1~2発に対し解放消費弾数は120発かつ連続発射可能。)のモードが追加されている。ちなみに解放連発という圧倒的火力で全てのボスを瞬殺可能な為、ある意味では真の意味で初心者向きのモードと呼べる。あるで面の撃ち合い合戦は必見

  • Steam版
XBLA版とオリジナルの中間の感覚で遊べるように調整されており、NESiCA版のベースでもある。
HD画質になっており、アップデートでのブラッシュアップも経た為、今現在の完成度はかなり高い。
斑鳩の設定画なども見れるため、ちょっとした設定資料集としても使える。
このゲームの登場人物も描かれているが、斑鳩の世界観に合っていてとてもかっこいい。一見の価値あり。
値段も安く、定価でも980円、セールでは半額くらいになっている事も。
NESiCA版のクリアを目指す際は、こちらで練習すると良いだろう。

  • PS4 Nintendo Switch版
Steam版をベースにした移植。
Steam版同様に値段も安価なので、自分の遊びやすいハードで選んで構わない。
ただし、今買えるのはDL版だけであり、パッケージ版はプレミア価格になっているため注意。




我、追記・修正せずして死すことなし。

理想の項目、満つらざるとも屈せず。

これ、後悔とともに死すこと無し…


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最終更新:2025年07月21日 20:50

*1 森羅は“石のような物体”を破壊するため斑鳩の力を全て開放する=斑鳩が耐えきれず破壊される可能性がある

*2 ボタン押しっぱなしとタップ入力とで若干弾の性能が異なる

*3 同属性なら攻撃性能ダウン、反属性・無属性ならダメージ。

*4 難易度Normalでは「同属性で敵を倒した場合に」、Hardでは「撃破属性に関わらず(但し同属性撃破の方が量が多い)」撃ち返し弾が発生する仕様になっている

*5 9Chainでキャップの25,600点に到達する

*6 あるシーンにおいて「画面上の敵を全滅させる」「一定以下まで減らす」「特定の敵を撃破する」といった条件を素早く満たした場合、次のシーンが始まる迄の空白の時間に追加の敵が発生する仕組みの事。その性質上、早回しの成立が早ければ早いほど、追加の敵も多く発生する。」

*7 スコア計算式の関係上、本作はChain切れのペナルティが非常に重い。一度切れれば最低でも20万点弱のロスが発生し、さらに切れる場所次第では「もう一度Chainが切れる事が確定する」事すらある。よってスコア理論値を下げてでもパターンを簡潔にし成功率を高めた方が結果的に期待値が上がるケースも多い。

*8 開発段階ではどうしても障害物を破壊しなければ通れない通路があったが、ロケテストで先述のプレイを試したプレイヤーが居たことから、それを可能にする為に破壊無しで通行可能な隙間を設けた、というエピソードがある。

*9 更に「敵の体力が減った分しか入らない。攻撃方法による倍率の変動も無し」な仕様の為、理論上同じChainプラン(=倒す敵の内訳が同じ)なら撃ち込み点に差が全くできない。ボス戦では本体でない部分(随伴する子機や弱点を守っている隔壁等)に撃ちこむ事でスコアは入るが、そんなことをするくらいならさっさと本体を倒してタイムボーナスを貰った方が圧倒的にお得。

*10 各ホーミングレーザーのロックオン及びそれらが描く軌道には、「非常に厳密で融通の利かない鉄のルール」が設けられており、プレイヤー側がとことんそのルールに従う様立ち回らないと、思い通りの順番で着弾してくれない。ルールの詳細についても述べたいところだが、言葉だけで説明するにはちょっと複雑すぎるので、残念だが割愛。

*11 本作のスコア稼ぎによる恩恵はエクステンドのみ