特集 SFバラエティー 宇宙最前線(NHK花のステージ)

登録日:2023/04/19 (水曜日) 14:32:57
更新日:2024/02/21 Wed 18:32:06
所要時間:約 15 分で読めます




時は西暦2600年…地球のはるかかなた銀河系のはずれに、夜空の真珠と呼ばれるハナステアという星があった。そのハナステア星では王位継承をめぐって二つの家が対立していた。



NHK総合テレビ1978年5月25日放送『NHK花のステージ』冒頭より~





特集 SFバラエティー 宇宙最前線』とは、1978年5月25日にNHK番組『NHK花のステージ』内で放送されたSF音楽舞台作品である。
2015年からNHKの番組公開ライブラリーにて視聴可能となっている。



概要

始めに本作が発表された『NHK花のステージ』について少し説明しておくと、同番組は1978年1月11日から1980年4月3日までNHKで放送されていた公開収録音楽番組。
番組の詳しい概要に関しては資料が少ないが、NHK公式データベース「NHKクロニクル」内の情報やWikipedia、及び本作の内容を見るに、
NHKホールを舞台に「各回ごとの特集」を軸に出演歌手による新曲発表コーナー*1を取り混ぜた番組だったようである。
ただ通常は50分番組だったのだが、『宇宙最前線』放送回は月1のSP編だったため時間を拡大し79分構成となり、その内約半分が特集として組まれていた。
そして本回のマスターテープ自体は時の流れの中で消えてしまったものの、2013年に番組関係者だった山川静夫アナウンサーから記録テープが提供され、晴れて本作が再び日の目を見る事になったのである。

…で、肝心の特集…つまりこの放送回のメインコーナーである『宇宙最前線』とはいかなる企画だったかと言うと、
殺陣監修:若駒冒険グループ・作品内の人形(着ぐるみ)提供:劇団カッパ座・協力:ナムコと多彩なバックアップを受け、
レコード大賞歌手三人・この後1978年NHK紅白歌合戦の紅組トリ歌手に選ばれるアイドル等、令和時代でも現役陣が多い名歌手たちを揃え
SF設定の舞台仕立て歌謡ショー(音楽劇)を披露するという挑戦的なものであった。
1978年当時、世界では前年に公開された映画『STAR WARS』によってSFブームが始まりつつあり*2、恐らくはそれに便乗…もとい影響を受けて制作が決まったものと思われる。
なお尺自体は約40分と短めなものの、ちゃんと起承転結を付け、歌を始めアクション・ロマンス・コメディ等各出演者それぞれの見せ場を取りそろえたストーリーラインとなっている。

…が、その実態は、NHKのアーカイブス回顧番組『天然素材NHK』(2023年4月12日放送回)にて紹介された際、「大気圏を跨いだ異次元の歌謡ショー」と称される程に何かがずれたものでもあった
  • 宇宙時代なのに宇宙間通話手段がダイヤル式黒電話いくら昭和とはいえ、そこはせめてトランシーバーの方が…
  • 殆どの登場人物の役名・及び一部用語が演者さん関連ネタ由来で、作中でも少し会話内にリアルネタが挿入される
  • 銃撃戦もある未来戦闘の中で、近接戦用の武器が蛍光灯型の剣
  • 宇宙時代なのに衣装にSF系とファンタジー系が入り混じっている
等、出演者は大真面目に演じて歌っているにもかかわらず、後世の視聴者から見ると異様なギャグ状況に見えるという、なんかちょっと気の毒な事にもなっていたり。
ただ当時の一般視点からのSF観の考察、後の大御所たちが普段の活動では着ないだろう衣装を纏い活躍する名(迷)シーンの記録ではあるので、暖かい目で見るのが一番いいのかも知れない。



注:以下、作品内容のネタバレになります





ストーリー

時は未来、宇宙に輝く「ハナステア星」は、王位継承をめぐるいがみ合いと、食糧難から来る地球侵略計画に揺れていた。
一方地球でも、迫りくるハナステア星の脅威に対し、地球防衛軍が対策を講じていた。
宇宙を駈ける愛、陰謀、争い、ギャグ…その果てに2つの星の人々が行きつくのは…。



登場人物



ハナステア星の人々

本作の舞台の一つとなる異星。主食となる「竹のもと」(竹から創る食料)の枯渇から、地球…中でも日本の竹を狙う侵攻計画が始動することに。
なお衣装はエモモ姫・バイブレ王子・カスレゴーエ隊長・モブ兵士達はSF系のラメが入ったスーツ、それ以外の人々は中世西洋王宮系衣装となっている。

  • エモモ姫(演:山口百恵)
ハナステア星・イッポンドッ家の三女。役名の由来は単純に演者の実名(ももえ)を逆読みしたもの。
本作本編は彼女が和装の「かぐや姫」として地球に降り立ち、ロケット発射後銀河を語る持ち歌『乙女座 宮』を唄う場面からスタートしたが、直後地球側の兵士が襲来。姉チェリーによって逃がされることに。
そして星に戻った後、かぐや姫として潜入する事で知った地球事情を王に報告。争い続ける実家や世界に悩みながら恋仲であるバイブレ王子と唄いあうことに。
なおバイブレ王子の演者とは所属レコード会社と会社側Pが一緒な仲なのだが*3、地球の流行りを語る中でなぜか互いのリアル名を出してけなしあっていた
余談だが山口女史はこの2年後、結婚引退記念の歌謡ショー・アルバムとしてSF設定の『不死鳥伝説』を発表。そして引退後、彼女の夫もまたSF映画に出演する事になる。

  • チェリー姫(演:桜田淳子)
ハナステア星・イッポンドッ家の次女であるエモモ姫の双子の姉で、誰よりも愛と平和を信じる男装装束の麗人。名前の由来は「桜=チェリー」。
オープニングで妹を逃がすためシンガリとなり地球に残り怪我を負うも、中盤で右腕を吊りながら地球防衛軍の前に登場。
食糧難から来る自星の侵攻計画を止めるため、防衛軍側に双方の星間での資源の譲り合いを提案するが…。

  • バイブレ王子(演:郷ひろみ)
ハナステア星・グレゴリー家の長男。名前の由来は78年当時の新曲で本回後半でも披露した『バイブレーション(胸から胸へ)』から。
武術や踊りに長けた二枚目であり、エモモ姫と相思相愛だが、互いに親から交際を猛反対され思い悩むことに。
クライマックスの決戦前にはエモモ姫から金色のペンダントを贈られるものの、素材が『イミテイション・ゴールド』*4と言われ思わずズッコケた。

  • モチモチ姫(演:西川(現:仁支川)峰子)
ハナステア星・グレゴリー家の長女でバイブレ王子の妹。
普通に明るい性格の女の子なのだが、家族勢ぞろい時にはたまたま長い棒を持っていた父とそれに変な連想をした兄をノせて野球ショートコントに持っていくノリの良さを見せた。
また途中でダックスフンドに「こぶしが効いている」と評されていた。

  • グレゴリー(演:伊東四朗)
ハナステア星・グレゴリー家当主でバイブレ王子・モチモチ姫の父。リアルでは本番組の司会者でもあり、出演者の中で一番舞台経験持ちな(プロの喜劇役者)人物でもある。
息子を次代の王にしようとイッポンドッ家の当主と相争う怒りっぽい父親だが、要所要所で結構愉快な面も見せている。
ちなみに伊東四朗・郷ひろみの父子関係は、当時TBS系で放送されていたドラマ『ムー』が由来だろうか。

  • カスレゴーエ隊長(演:森進一)
ハナステア星・攻撃隊隊長。名前の由来は森進一の持つ独特の「掠れ声」から
登場時には活動初期の代表作『港町ブルース』を宇宙っぽい替え歌にして歌い揃いの服を着た兵士達を引き連れ、一同勢ぞろいからしばらく後、王から地球攻撃の命を賜るが、
中盤で(銀河繋がりからフォークソング『出発の歌』をカバーしつつ)王の様子を訝しみ密かにその自室を偵察。そこで彼が見たものは…
ちなみに途中の人物紹介時、ダックスフンドから「実につまらなそうな顔」と言われそっぽを向いていた

  • イッポンド(演:水前寺清子)
ハナステア星・イッポンドッ家の当主で三姉妹の母。名前の由来は演者の代表歌の一つ『いっぽんどっこの唄』からで、同曲を歌いながら登場した。
娘エモモ姫を次代の王にしたいためにグレゴリーとは顔を見る度に取っ組み合いになる犬猿の仲だが、エモモ姫曰く昔は一時愛し合うも、互いの親の反対で破局した関係だったという。

  • ゴッド姐(演:和田アキ子)
ハナステア星・イッポンドッ家の長女。名前の由来はかつて日本テレビ系番組『金曜10時!うわさのチャンネル』で和田についたあだ名「ゴッド姉ちゃん」から。
母と争うグレゴリーへと身長的にやや無理があるが「か弱い娘」として『笑って許して』と嘆願するも、直後つい「姐さん」っぽい威勢を見せていた。
またバイブレ王子に惚れており、彼を見ると思わず煩悩をむき出しにした肉食系女子化していた。

  • ホシカゲ王(演:千昌夫)
ハナステア星の王で、豪勢なマントの裏地に「大王」と記している。名前の由来は演者の初期の代表曲『星影のワルツ』から。
東北弁っぽい喋り(リアルで岩手県出身)でなんか話の途中でダンサーを呼んで宴を催す等微妙に威厳がなく軽い性格。彼に世継ぎがいない事がグレゴリー家・イッポンドッ家の争い(自らの子を次代の王に)を激化させている。
地球侵攻を積極的に推し進め、手柄を立てた者に王位の座を与えるとするが、その裏では…。

  • 電話(テレフォン)ロボット(演:角川博)
ホシカゲ王が星間電話をする際使用する赤色ダイヤル式電話機型頭部の着ぐるみロボ。
しかし、なぜか王からの命令を聞く時着ぐるみの頭部を外して素顔となり三波春夫の物真似で応対。2回目の時にはネタ後「こればっかり」とぼやいていた*5
…流石に一人だけあんまりな扱いだったせいか、番組後半の「ヒットパレード」(曲披露コーナー)では持ち歌の他に、布施明と共に「キングあきら・ひろし」と称して関西弁漫才を披露していた。*6
ちなみに登場時にはなぜかサンタ帽を被った黒い着ぐるみ(当時人気だったマスコットキャラ「ダッコちゃん」似)とセットで現れていた。



地球防衛軍


衣装は個々で色等に差異はあれどSF風のスーツで統一され、隊長・副隊長のみマントを着用している。ちなみにモブ兵士の衣装は人ごとにカラーリングが別だったり。


  • 細目ひろし(演:五木ひろし)
地球防衛軍「よこはま・たそがれ*7支部」の隊長。名前の由来は恐らく演者が「細めの眼」な事から。
なぜか一人だけどこか礼装じみた装束を纏っており、ホシカゲ王からの勧告を断固として断る決断力と、多数の兵をも剣・銃・柔術で薙ぎ払う武術を持つ人物。
また部下の小柳とは信頼しあうと共に結婚を誓い合った仲であり、仲が進まない状況を憂う彼女を慰め「戦いが終わったら結婚出来る」と共に歌いあう愛の深さを見せた。
そしてその最中現れたチェリー姫から和平案を提案され考えるが、なぜか途中で謎の兵士の襲撃を受け…。
ちなみに小柳隊員との会話中「ハナステア星はまず東京上空から攻めてくる(意訳)」なんて予測を聞き、田園調布に建てたばかりの家の安全も心配していた(家の場所は実話)。

  • 森隊員(演:森昌子)
細目隊長の部下の一人で黒い隊員服の女性。
活発な性格で、『見上げてごらん夜の星を』を唄って登場した後、隊長にデビュー曲が『せんせい』なので先制攻撃を主張して諫められていた。
ちなみにリアルでは後にカスレゴーエ隊長の演者(バツイチ)と結ばれ子宝に恵まれるも、最終的に熟年離婚する事になるのだが、当時はまだフラグが立っていなかったので番組中での絡みも特に無かった。
また出演者の内山口百恵(同じホリプロ)・桜田淳子(サンミュージック)とは『スター誕生』出身の「花の中3トリオ」と称された関係性でもあった。

  • 奥副隊長(演:奥則夫)
やたらオペラっぽい話し方が目立つ(一応普通に話す事も出来る)眼鏡男性。それもそのはず、実はリアルではプロのカンツォーネ歌手
劇でのちょっとのネタ的な出番のためだけにプロ声楽家を呼ぶのは贅沢過ぎないか…
細目隊長への報告にあたるが、なぜか途中から隊長との声量対決に突入。結局細目・小柳のツーショット時場を邪魔しないように森に押され退場した。

  • 小柳隊員(演:小柳ルミ子)
白い衣装を着た清楚そうな女性隊員。リアルでは本番組の司会者の一人でもあった。
細目隊長の腹心にして結婚を前提にして交際中の彼女でもあり、「ひろしさん」「小柳君」と呼び合う仲。二人っきりの会話の最中、中々進まない結婚話を憂う乙女心をも見せた。
…ちなみに、五木・小柳の交際関係というのは当時実際に話題になった話だそうだが、結局2人の仲が実る事は無かったという…*8



その他登場人物


オープニング後、話の解説役として現れた「銀河宇宙系長老」な隠者風の老人。自称は「ダックスおじさん」。
名前の由来は当時演者が「胴長短足」と山川アナや翌1979年に同じ局の歌番組に出演した際にいじられていた事から。ちなみに登場時のBGMは名曲『シクラメンのかほり』。
ホシカゲ王が開いた宴の途中でストップモーションを掛けて(ついでにダンサーも一端退場させて)ハナステア星側のキャラ紹介を行い、それから少し後には星側の背景設定解説も行うが…。


  • 山川静夫
オープニングと本編の合間で視聴者向けのブリッジパートを担当したNHKの名アナウンサーにして番組司会者の一人。本映像の記録所持者でもある。
…が、なぜか解説では日曜洋画劇場の淀川長治風に喋っていた。

  • ロボット
オープニング冒頭に登場した小型の電動機械。2台のロボがファーストコンタクトする様に交差しすれ違っていた。
そしてクライマックスでは内一台がホシカゲ王の護衛として登場したが、銃を持っているのになぜかUターンして王に向かってきたため役に立たなかった。





+ 以下、終盤のネタバレに付き注意!
いよいよハナステア星からの地球侵攻の時が翌日となったある日、突如として地球側からの先制攻撃が開始
城の大広間へと攻め入り、襲い来るハナステア星軍を次々薙ぎ払う細目隊長は、迎撃のため現れたバイブレ王子との決闘へと突入。
双方のヒロインが止めるのも構わず剣を打ち合わせ死闘を繰り広げる二人だが、そこにチェリー姫(及び他の殆どの登場人物)も登場。
折角の和平案を蹴ったかに見えた地球側を問い詰めるチェリー姫に対し、細目隊長は「一旦は小柳君とその案を考えていたが、星側が先に攻めて来た(意訳)」と主張。
しかし王子ら星側はまだ直接侵攻には至っておらず…

そんな状況も度外視する様に双方の争いを煽るホシカゲ王の前に、王の罪と裏で蠢く黒幕の存在を告げ争いを止めるためカスレゴーエ隊長が参上。
…少し前王の部屋を偵察していた彼が見たもの、それは王が電話で「惑星デビルマーダーグループ」との間に「ハナステア星と地球を売り地位を得る」密約をし、電話相手に「地球攻撃軍」を要請する声だったのだ。
つまり王は王位を誰かに譲る気なんてまったく無かったとなんか時々カンペを見るように不自然に首を動かす隊長が真相を告発した事で、グレゴリーらの怒りも爆発。
それに対し王は音響兵器「ミラクルマシン」による範囲攻撃で応戦するも、チェリー姫の銃撃によって止められ、一同によって何とか王は拘束された。

だがその時「しくじったなホシカゲ王…」とどこかから声が響き…


  • ダウス・ダービー(演:布施明)
「ダックスフンドおじいさん」の仮面を被り裏で暗躍していたラスボスにして、銀河宇宙系の黒幕
名前の由来はどう見てもこの人だが、衣装は銀の上着にサングラスとスタイリッシュなものとなっている。

そしてNHKホールの二階席側から現れたダービーはスモーク筒バズーカによる砲撃で舞台上の人々を圧倒するが、
傷を負ってもなお立ち上がるチェリー姫からの渾身の射撃によって、ついに崩れ落ち斃れた。

…しかし、チェリー姫もまた致命傷を負い斃れ、虫の息でエモモ姫の腕に抱かれながら宇宙の平和や妹の結婚の許しを懇願。
それに母イッポンドも優しく応じ、姫と王子の結婚…そしてこれから2人が新たに星を治めるだろう事を約束。
そして最後にチェリー姫は遺言の様に愛の大切さを語る歌『愛あればこそ』を唄い、
宇宙は一つ」と姉が息絶えた後、その思いを託されたエモモ姫がそれを引き継ぎ歌い、物語は幕を閉じたのであった…。



しれっと拘束されたはずのホシカゲ王も電話ロボットと一緒に普通に姫君たちの歌を聴いていた事は気にしないでおこう。半分カーテンコールみたいなもんだし。










余談

本編終了後、番組は様々な曲を普通に披露する「ヒットパレード」へと移ったのだが、
山口百恵が『プレイバックPart2』・出演者中唯一芝居に関わらなかった庄野真代が『飛んでイスタンブール』を披露した際、NHKなので商標に関わる部分が自主規制されていた


追記・修正お願いします。

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最終更新:2024年02月21日 18:32

*1 ちなみに『花のステージ』の他回からの出典映像が西城秀樹・沢田研二のNHK映像傑作集に収録されており、『宇宙最前線』の他にも現存映像自体は複数存在するようである。

*2 日本でも1978年には正月に東宝で『惑星大戦争』・4月に東映で『宇宙からのメッセージ』と相次いでSF映画が上映されていた。

*3 共にCBSソニー(現:ソニー・ミュージック)の酒井政利プロデューサー傘下で活躍したアイドル。

*4 山口百恵が1977年に発表した歌。

*5 なおこの後、クライマックス時チェリー姫らを追うように舞台に現れた際も着ぐるみ頭部は外したままだった。

*6 コンビ名の由来は当時角川・布施両氏が共にキングレコードに所属していた事から。ちなみに角川氏は広島県出身・布施氏は東京都出身である。

*7 五木ひろしの最初の代表曲『よこはま・たそがれ』から。

*8 現実ではその後、1989年に五木ひろしは元女優と結ばれ、小柳ルミ子も同年に大澄賢也と結婚(後に離婚)している。