ほうれんそうマン

登録日:2025/02/22 Sat 21:00:00
更新日:2025/04/21 Mon 06:47:28
所要時間:約 8 分で読めます






きつねのゾロリが、わるだくみをはじめました。
ついにぶたのポイポイのでばんです。

へんし〜ん、ほうれんそうマン登場!


ほうれんそうマン』は、児童文学作家・みづしま志穂とイラストレーター・原ゆたかによる児童書のシリーズ作品。

毎日小学生新聞に1983年に連載され第7回毎日童話新人賞を受賞した『つよいぞポイポイきみはヒーロー』を出版に伴い改題したもの。


◆概要

図書館などでは有名な大人気絵本シリーズ『かいけつゾロリ』。実はこのシリーズはスピンオフで、その派生元となった作品が本項目で紹介する『ほうれんそうマン』である。そしてかいけつゾロリシリーズの主人公・ゾロリも元々は本作の悪役だった。

主な話の内容は、主人公である豚の小学生ポイポイが正義のヒーロー・ほうれんそうマンに変身して、ゾロリの悪事を阻止して退治するという、『それいけ!アンパンマン』や『タイムボカンシリーズ』を思わせる、いわゆる勧善懲悪作品である。
各巻は一巻完結型だが、第5巻と第6巻のみ続きものとなっている。物語の題材は「学校生活」、「おばけ」、「カーレース」、「妖怪」など、幼年読者に親しみやすい内容が選ばれている。

その後、本シリーズ終了に伴いイラストレーターの原氏が作家のみづしま氏の許可を得て、悪役ゾロリを主役にしたスピンオフとして始まったのが、かいけつゾロリシリーズである*1
ところが元々ほうれんそうマン時代から悪役ながら憎めないゾロリは本作の誰よりもキャラが立っており、主役のポイポイを差し置いて子供達に人気だったため*2、当初は本シリーズ再開までの繋ぎのつもりで10作品で終わらせるつもりが*3、やがて2冊ペースで発刊したことで、いつの間にかスピンオフ元の本作より人気になってしまった。そればかりか今となってはほうれんそうマンシリーズの存在と、ゾロリシリーズは元々そのシリーズのスピンオフであることは知る人ぞ知るものに。
挙句の果てにはゾロリのアニメ版では本作の設定は最初から無かったことにされてしまった

一応スピンオフらしい設定として、本作の最終作の最後で城から出たゾロリが新たな城とお嫁さんを探す旅に出ることと、ゾロリの母やようかい学校の先生など一部のキャラが引き続き登場してるところがある(ただし設定等がだいぶ異なる。詳しくは後述)。それらに加え、「ちきゅうさいごの日」では「じどうしゃレース」でのF1ゾラーリ号がオナラジェット噴射で谷間を飛び越えた話をゾロリが回想するシーンが存在する。
また、ゾロリの絵本シリーズの全巻巻末には「この話の主人公かいけつゾロリは原ゆたかがみづしま志穂の許可を得て執筆したものです」という旨が記載されている。

かつてはゾロリシリーズ共に図書館に置いてあったものの、今では無くなり、通販などで購入するしかないと思うが、もし機会があれば本作を是非とも読んでほしい。

挿絵はもちろん、擬人化された動物や妖怪のキャラクターや第6巻に登場する芸術家の岡本太郎をもじったキャラクター「バクハツダー」などのパロディや、
読者に直接語りかけるようなセリフやナレーション、常識をひっくり返す言葉遊びや意外な展開といったゾロリの芸風は、本シリーズでも既に多用されている。

◆登場人物

ほうれんそうマンと仲間たち

  • ポイポイ/ほうれんそうマン

ぼくは ポイポイ
ほうれんそうを たべるとね
ちからもちの ほうれんそうマンにへんしんするんだよ


このシリーズの主人公であるブタの男の子で、小学1年生。
普段は心優しいものの*4冴えない少年だが、ピンチの時にほうれん草を食べると*5、ピンクの顔とほうれん草が描かれたオレンジのシャツ、青いパンツそしてほうれん草のマントを身にまとったヒーロー「ほうれんそうマン」に変身する。また初期では麦わら帽子を被り、青いサーベルを武器にしていた。
この状態だと普段の何十倍の身体能力に強化される。
但し、「よいこの1年生」ではゾロリにたくさんのたんこぶをつけられて大幅にパワーダウンしてしまった*6
苦手なものはおばけと妖怪だが、ほうれんそうマンに変身すれば一時的に克服できる。
それでも悪知恵の働くゾロリとの直接対決では劣勢に立たされることが多いが、すみれちゃん始め同級生たちがゾロリの作戦の弱点に気付いたり、ゾロリが自制心の無さから自滅したりして勝利する。
ちなみにどういう経緯でごく普通の少年ポイポイがほうれんそうマンの変身能力を獲得できたかについては最後まで描かれなかった。
後、人間のみんなはサラダ用でない限り尿管結石の原因となるので生のほうれん草を丸かじりするのはやめておこう。

  • すみれちゃん
ポイポイのガールドフレンドのウサギの女の子にして本作のヒロイン。
しっかりもので、普段は冴えないポイポイに対して様々なサポートをする。
気が強くお転婆な面があり怒らせると怖いが、ポイポイとゾロリの双方から思いを寄せられる美少女。
最終巻でゾロリの作った牧師ロボット*7に洗脳され、ゾロリと結婚させられそうになるも、本人は洗脳にも屈することなく自らの意思でポイポイを選んだ。
ちなみにかいけつゾロリに付属する「ゾロリしんぶん」で連載している、ゾロリ自身が作者という設定の4コマ漫画「ゾロリちゃん」に登場するウサギの女の子「うさぎちゃん」は彼女に容姿が酷似しており、ゾロリ自身が失恋を引きずっているモデルにしているのではないかという疑惑が存在する(また、ゾロリのしばしば妄想する結婚相手がウサギの女の子なのも、この事を引きずっているからという推測もある)。

  • シマオ
ポイポイの親友の虎の男の子。
体はでかい。以上。

  • イヌジ
ポイポイの親友の犬の男の子。
とてつもない食いしん坊で好き嫌いがなく、ようかいがっこうの激辛ケーキにも全く屈する事なく、最後は火を吹いた上で完食した。
エスキモー犬の血を引いており、寒さに強い。
ちなみにスピンオフの「かいけつゾロリきょうふのサッカー」で彼によく似た生徒が学校の教室にいる。

  • ポンチ
ポイポイの親友のタヌキの男の子。
泳げない。以上。

  • さゆり先生
ポイポイたちの学校の担任の教師。
バラのような美しさをもち、ゾロリの憧れの的。
面倒見もよく、ポイポイたちを優しく指導したりするだけでなく、ようかいじまのドッカン火山に数え方も教えたことも。
焼き芋と羊羹とたこ焼きが大好物でこれがゾロリの悪巧みに利用された。
彼女もブタであるが、ポイポイとの血縁関係があるわけではない。

ゾロリと悪の仲間たち

  • ゾロリ/かいけつゾロリ
本作の悪役であるキツネの男。別名「いじめのプロ」「いたずらの王者」
ゾロリ城に住んでいて、ポイポイ達に様々な発明品などでイタズラを仕掛けるも、ほうれんそうマンに変身したポイポイの逆襲を受けて倒されるか、自身の間抜けや詰めの甘さによる自滅で失敗するのがほとんど。
狡賢く悪知恵が働き、目的のためなら手段を選ばず、暴力や他人を騙すのも厭わないが、ポイポイ達に敗れたら潔く負けを認める、母親の言いつけを守り感謝するなど根っからの悪人ではない。また妖怪たちからは「ゾロリ先生」と呼ばれて慕われている。
ちなみに変装が得意で、本作でかいけつゾロリに変身するには尻尾を振り回しながら「ゾロリ ゾロゾロ ナム ゾロリ トワッチ!」または「ナムナムゾロリ、ナムゾロリ、トイッ!」という呪文を唱える*8
最終巻で102歳の誕生日になり、普段から恋心を抱いていた小学生のすみれちゃんに牧師ロボットに洗脳させた上で結婚を迫るも、すみれちゃんはポイポイを選んだため、城をポイポイ達に明け渡し、自身はいたずらの王者を目指すための修行の旅に出た*9
そしてこれが大人気スピンオフ「かいけつゾロリ」の第一作目に繋がる。

  • ゾロリママ(ゾロリーヌ)
ゾロリの母親で故人。名前は『ほうれんそうマン』シリーズの時点ではまだ不明。
死んでも幽霊になってゾロリを影から見守っている。
ちなみにかいけつゾロリシリーズでは少なくともゾロリが子供の頃は健在だが、本作ではゾロリが小さいときに亡くなっている*10

  • ようかい学校の先生
ようかいしまのようかい学校の先生。
ゾロリを「ゾロリ先生」と呼び従っていて、教え子の妖怪たちと共にゾロリの悪事に協力する。
後にかいけつゾロリシリーズでも準レギュラーとして登場する。

  • 水妖怪、芋妖怪、タコ妖怪
ようかい学校の落ちこぼれ生徒。
3人とも成績は悪く、このままでは卒業ができないところを見かねたようかい学校の先生からゾロリに鍛えなおすようお願いされる。当初はタコ妖怪を除く2人は全くやる気がなく、水妖怪は「このままでは家族に会えなくなる」、芋妖怪は「おじいさんになるまで卒業できない」、と言われてようやくやる気を出し、元々やる気があるのはタコ妖怪だけだった。
水妖怪は寝ているポイポイにおねしょしたと見せかけて、芋妖怪はイヌジに食事中にオナラをしたと見せかけ、さらにすみれちゃんに派手なメイクを付け、タコ妖怪はシマオとポンチに憑依して長時間インベーダーゲームをやらせるイタズラをした。
ちなみにさゆり先生を騙すためにゾロリが作ったチラシ*11ではそれぞれ水羊羹、芋羊羹、タコ羊羹に修正されていた。

  • 妖怪プラモデラー
巨大な船のプラモデルの妖怪。
普段はようかいじまの木になっていて、プラモデルの要領で完成すると足が生えて動き出す。その後はポイポイ達をようかい学校に誘導した。


◆シリーズ一覧


  • へんし〜んほうれんそうマン

  • ほうれんそうマンよいこの1年生

  • ほうれんそうマンのおばけやしき

  • ほうれんそうマンのじどうしゃレース

  • ほうれんそうマンのようかいじま

  • ほうれんそうマンのようかいがっこう

  • ほうれんそうマンのゆうれいじょう(最終巻)


◆余談

この項目を読んだ人なら察したと思うが、主人公の名前が「ポイポイ」、「ほうれん草を食べると超人級の力を発揮する」という設定から、ほうれんそうマンはアメリカで大人気の漫画『ポパイ』をオマージュしたキャラクターである。
しかしポパイは元々は『シンブル・シアター』という漫画に登場する一度きりの脇役のハズが、何やっても死なない不死身の個性が人気を博し、そのポパイを主人公にしたスピンオフ作品を展開したらいつの間にか本家より人気を博すという、立ち位置的には寧ろゾロリ寄りであったりする。そして逆にほうれんそうマンはそんなポパイに主役と作品と恋人のオリーブ・オイル、そして人気を取られてしまった『シンブル・シアター』の主人公「ハム・グレイヴィ」のようになってしまった。
ポパイをオマージュにしたキャラが、まさかポパイに主役と作品を乗っ取られたハムと同じ境遇になってしまうとはなんとも皮肉な巡り合わせである。
それどころか、ゾロリの高い知名度・人気のために一部の人、特にゾロリから入った人にとっては悪役であってもゾロリの方が感情移入しやすいことから、正義のヒーローなのにもかかわらずほうれんそうマンを嫌う人まで出てしまう始末…。
一方ヒロイン争奪戦はポパイと同じくほうれんそうマンの勝利に終わって、ハムの二の舞にはならずに済んだのでそこは不幸中の幸いか。

主人公の座をゾロリに明け渡したポイポイは、その後「かいけつゾロリ」シリーズ第1作「ドラゴンたいじ」のおまけ「ゾロリしんぶん」に登場している。この時は同新聞に掲載された「ほうれんそうマン」の宣伝広告内での出番で、「ぼくのこともわすれないでね」とメッセージを添えている。
ポイポイがゾロリシリーズに登場したのはこれが唯一であり、現時点で本編では一度も再登場していない。


追記・修正はほうれん草を食べて正義のヒーローになってからお願いします。

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最終更新:2025年04月21日 06:47

*1 重版もかかり本屋の棚も確保したシリーズの終わりを惜しんだ出版社が本シリーズの挿絵のレイアウトなどページ構成にもかなり関わっていた原氏に声をかけたという

*2 原因としては、良くも悪くもポイポイは良い子過ぎた故に人間臭いゾロリに比べ個性に欠けた点や、本作のストーリーもゾロリの悪巧みありきとなっている点、「豚のヒーローがほうれん草を食べて変身する」という設定がメインターゲットの子供たちにあまりウケなかった可能性などがファンからは推測されている

*3 10巻の「大かいじゅう」が序盤でゾロリ城を手に入れる内容なのは元々ここで終わらせる予定だった名残と思われる

*4 後述のさゆり先生を閉じ込めて代わりの教師として女装したゾロリがあまりにも醜く、他の生徒が授業を拒否してさゆり先生のもとへ行こうとした時泣いたゾロリ(もちろん演技だが)をかわいそうに思い、授業を受けるようみんなに提案したりしている。まぁそのせいでゾロリにたんこぶをつけられてしまったのだが。余談ではあるが、ゾロリの女装は後に上達をみせ求婚されるほどであった。

*5 最終巻では一度だけほうれん草を食べずにゾロリ城の「言ったものに変身する鏡」の力で変身した。

*6 ただし、倒される寸前にいなり寿司を食べすぎたゾロリが腹を下してトイレに逃げ込んだため、逆転勝利した。

*7 ちなみにこのロボットは「かいけつゾロリのまほうつかいのでし」でも魔法で呼び出した式場セットと共に登場した。

*8 かいけつゾロリシリーズではただの変装。

*9 ゾロリシリーズでお馴染みの股旅姿は、本シリーズではこのシーンでしか見られない。

*10 初期の『かいけつゾロリ』シリーズにおいては、ゾロリの母親が故人であることが言及される際に本シリーズ第一作目である『へんし~んほうれんそうマン』を参照する記述がみられるが、この本には彼女が今際の際に「100歳になったら卵を100個食べるように」という遺言をゾロリに遺した以上の情報は特に存在しない

*11 「ようかいじま(妖怪島)」を「ようかんじま(羊羹島)」に修正してある。後にかいけつゾロリシリーズでも「ゆうれいせん(幽霊船)」を「ゆうらんせん(遊覧船)」に修正したチラシを作っている