電車

登録日:2025/10/15 Wed 13:35:17
更新日:2025/10/25 Sat 08:59:33
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電車とは、鉄道車両のうち、電気を動力として駆動する車両のことを指す。



概要

大まかな仕組みを解説すると、架線や第三軌条からパンタグラフ等の集電装置を介して電力が供給され、その電力でモーターを駆動して走行するもので、動力装置以外の設備(客席や荷物室)を装備する車両全般を指す。
客車としての機能を持つ車両が電車、貨車としての機能を持つ車両が電動貨車と呼ばれるが、一般的にはこれらをひっくるめて電車と呼ぶ。

一般的なレールの上を走る車両のほか、モノレール・新交通システム(AGT)も電気を駆動源としていることから電車と呼ばれる。


呼称としての電車

「電車が遅れる」など、一般的な鉄道の呼称としても使われることが多い。
尤も1980年代までは地方出身者は機関車で客車をけん引する「汽車」を使うことが多かったため、「電車を汽車と呼ぶ」ことが都会人の田舎者に対するマウントあるあるとしてよく使われていた。
地方では今でもエンジンで動く「気動車」が主流であることが多く、列車や汽車の方が正解ではある。
全国のJRや大手私鉄などの鉄道で電車が走ってないのは徳島県のみで*1、徳島県内の列車はすべて気動車となっている。貨物線、回送線などを除く旅客路線がすべて電化されているのは東京都神奈川県大阪府奈良県*2である*3

一方、西日本エリアの私鉄では鉄道路線の名称として「○○電車」という言葉が使われることが多い。
これは蒸気機関車に端を発する「汽車」を走らせていた国鉄に対し、最新鋭かつ高速の「電車」を走らせているというアピール策でもあった。
中京・近畿圏に路線を持つ近鉄はJR東海エリアでは「近鉄線」、JR西日本エリアでは「近鉄電車」と案内されている程。
かつては関東地方でも同様の看板が見られたが、地下鉄との相互直通運転が始まった前後から次第に「○○線」の名称が一般化し、2025年現在関東の事業者で公式に使用しているのは小田急箱根こと「箱根登山電車」程度である。

また、JR東日本の首都圏エリアではいわゆる電車特定区間内を走行する列車が「電車」、それ以外のエリアを走行するのが「列車」と案内上使い分けられているほか、JR西日本のアーバンネットワーク管内に導入されている運行管理システムでは、通過時の注意放送において新快速や快速等は「電車が通過します」、特急や貨物列車は「列車が通過します」と案内される。


歴史

1834年にロシアで研究が始まり、1842年には電池式の電気機関車の走行試験がスコットランドで行われたが、当時は実用化には程遠かった。
その後1879年のベルリン工業博覧会にて、ジーメンスによって開発された電気機関車が客車をけん引したのが、電気鉄道の始まりとされている。この機関車・客車は実際の鉄道のサイズよりもはるかに小さく、軌間は490ミリ、約19インチ程度と乗用の鉄道模型より若干大きい程度であり、電車は2本のレールの間の第三軌条より集電する方式をとっていた。客車はベンチを背中合わせにしたものに車輪がついたようなものである。
1881年には同じくベルリンにて路面電車が運行を始め、電車列車による営業運行が開始した。
日本国内では1890年の内国勧業博覧会にてアメリカから輸入した電車が上野公園内を走行、1895年に京都電気鉄道での運航開始を境に、普及が始まった。

当初は近距離輸送向けの路面電車から普及が進んだが、徐々に長距離運行へと適合していき、電気機関車や電車による運行が当たり前となった。
とくに、1964年の東海道新幹線開業以来、高速鉄道は電気鉄道で建設されており、電車または電気機関車のプッシュプルによって運行されている。ヨーロッパでは後者が主流だったが、ICEやユーロスターでは車両の世代交代とともに電車化されている*4


種類

一般的な電車以外にもざっくりわけるとこんな感じである。

路面電車

こちらは文字通り、道路の上を走る電車。
1970年代までは廃線が相次いだが、近年は環境と人にやさしい乗り物として見直されており、21世紀以降は既存路線の延長や普通鉄道からの転換、果ては宇都宮ライトレールのように完全新設例も出てきている。
一方、現在の大手鉄道会社の中には路面電車から出発した事業者も少なくない。
これは、鉄道建設時に「鉄道」ではなく「軌道法」を適用して免許を申請→路線を建設するという法の抜け穴をついたもので、阪神電車や京阪電車、京浜急行電鉄がまさにそれである。
また、次述のモノレールやAGT、Osaka Metroの路線のように法的な「路面電車」扱いの路線もあるが、これは本筋から逸れるのでここでは解説しない。

モノレール

その名の通り、単一のレール上を走るもの。
大都市圏郊外など、普通鉄道では採算が見込めないエリアに建設された例が多い。
詳細はリンク先も参照。

AGT(新交通システム)

専用軌道上の案内軌条に従ってゴムタイヤで走行する電車。
こちらも建設エリアはモノレールに近く全線高架とどことなく構造が似ているせいか、モノレールと混同する人も少なくない。
新交通ゆりかもめが有名。

無軌条電車(トロリーバス)

名前の通りレールの無い電車で、バスの上に集電装置を付けて走るもの。
構造的には電気バスでもあるため、後述するアルペンルートの公式スタッフでもどちらに分類するかは曖昧だったようだ*5
かつては欧米や日本にも存在したが、小回りが利かないなどの理由から次第に廃止されてしまった。一方、東欧地区や共産圏の国家では今なお現役路線が多く、アメリカでもハワイ州では主要な公共交通機関でもある。

日本では1970年代後半以降、導入路線は立山黒部アルペンルートのみとなっていた。これは環境保全の観点から、排気ガスを出す車両の通行が規制されていたため。
しかし電気バスの導入に伴い2024年12月で全廃され、日本からトロリーバスは姿を消した。
某登山家が遺した「寝たら死んじゃうんだから。トロリーなんかで寝た日には」という名言を覚えている人も多いかもしれない。トローリー、オー!

番外:電車に近いけど電車じゃないもの

非電化区間で走行する、エンジンを使用する鉄道車両である気動車(ディーゼル機関車含む)の分類の中に、エンジンで発電してモーターを駆動する電気式気動車が存在する。
日本国内では1950年代の液体式気動車の開発とともにいったん途絶えたが、1990年代以降は技術革新から採用例が増え、2010年代以降は液体式気動車の代替車種として導入が進んでいる。
また、発電した電力と蓄電池にためた電力を両方使ってモーターを動かすハイブリッド式の気動車も存在し、JR東海のHC85系のように電車の運転士でも操縦可能な車両*6も存在する。

電車のメカニズム

ここからはどんな構造か簡単な解説をしてゆこう。
床下機器(鉄道車両)にも詳しい解説があるので、そちらも参照されたし。

電化方式

  • 直流電化
スタンダードな電化方式。
電圧は一般的には1500Vだが、路面電車や一部の中小私鉄では750Vや600Vといった低電圧の路線も存在する。
関西の私鉄は路面電車から発展した路線が多いため、高度成長期以降電圧を600Vから1500Vに昇圧させる工事を実施した事業者が多い。
そのため、同時期に導入された車両には両方の電圧に対応する「複電圧車」が存在した。
  • 交流電化
1920年代から実用化された電化方式。
大容量送電が可能かつ送電ロスが少なく地上設備のコストが低いことから、新幹線はこの電化方式を採用した(25000V)。
在来線では1960年代以降地方幹線(北海道・東北・九州地区)がこの方式(20000V)で電化されたが、すでに電化されていた直流区間との直通運転のため交直流車両が多数導入されるようになった。

電源方式

電気のとり方も路線や車両によって以下の方式がある。

  • 架空電車線方式
所謂架線から集電装置を経由して電気を取り走行するもの。
集電装置は黎明期はポール、現在はパンタグラフと進化している。
  • 第三軌条方式
走行用レールに並行して敷かれたレールから電気を集電して電車を動かすもの。
日本では東京メトロ銀座線Osaka Metro御堂筋線でおなじみだが、かつてはアプト式時代の信越本線碓氷峠でも採用されていた。
最大電圧は750V止まりで高速走行に向いていないため日本での採用例は少なめだが、欧米では地上鉄道や山岳路線での採用例が多く、イギリスには160㎞/h走行をするユーロスターという化け物が存在する。
  • 地表集電方式
路面電車における第三軌条方式で、フランス・ボルドーで採用されている。
架線が不要であるため景観面で優れているのが特徴。
  • 蓄電池方式
その名の通り車両にバッテリーを搭載し、そこから電流を車両内の回路へと取り入れるもの。
日本では古くは火気厳禁の炭鉱等で使われた他、宮崎交通の鉄道線で存在してそれっきりだったが、2010年代以降技術革新に伴い実用化された例がある。

制御方式

  • 抵抗制御
電車の登場以来使われていた制御方式。
回路内で電気抵抗をかませるかどうかのスイッチをたくさん用意して順次切り替えていくもの。
一番古典的で非省エネだが回路構成などが単純なため、現在も地方私鉄では現役車両が多い。
  • 電機子チョッパ制御
省エネルギーを目的に開発された制御方式で、直流直巻電動機を使用する。
詳細は国鉄201系電車も参照。
  • 界磁チョッパ制御
1970年代後半以降本格普及したが、国鉄・JRグループでは採用例が一切なかった。
  • 界磁添加励磁制御
複巻電動機を嫌った国鉄が開発したもので、直巻電動機が使用可能かつ抵抗制御からの改造も可能。
詳細は205系直流通勤型電車の項目も参照。
  • VVVFインバータ制御
1980年代後半以降普及した現代の制御方式の主流。
直流電力を三相交流に変換し、周波数と電圧を変えることで交流電動機を駆動する。
構造は簡単だが制御が難しい交流電動機を電車の動力用として使えるようにしたもので、メンテナンスフリーと省エネを同時に実現した。
力行時に独特の音を出す個体が多いため、それを集める音鉄も少なくない。



追記・修正は徳島県の鉄道が1mでも電化されてからお願いします。

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最終更新:2025年10月25日 08:59

*1 沖縄県はモノレールのみで普通鉄道としての電車は走っていない、太平洋戦争までは電車を含む普通鉄道が営業していたが、戦争の影響ですべて廃止された

*2 1984年10月に当時の国鉄和歌山線が全線電化されたことにより県内すべての路線が電化、日本の都道府県では初となる

*3 大阪府以外は定期旅客列車で気動車が走ってない

*4 EU圏すべてではなく、TGV系の車種などは今でもプッシュプル構造のものも多い。

*5 別の例として、模型商品『ジオラマコレクション』では鉄道に分類していた。

*6 ついでに車両の個別ナンバーも「クモハ」「モハ」など電車に使用する符号を使って附番されている