ファイレクシアの抹消者/Phyrexian Obliterator(MtG)

登録日:2011/05/06 Fri 01:31:27
更新日:2025/09/04 Thu 08:39:35
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「祝福されし完成をとくと見よ」




《ファイレクシアの抹消者/Phyrexian Obliterator》とは、マジック:ザ・ギャザリングに登場するカード。
のクリーチャ-。

カード性能

ファイレクシアの抹消者/Phyrexian Obliterator (黒)(黒)(黒)(黒)
クリーチャー - ファイレクシアン・ホラー
トランプル
いずれかの発生源がファイレクシアの抹消者にダメージを与えるたび、その発生源のコントローラーはその点数に等しい数のパーマネントを生け贄に捧げる。
5/5

解説

能力と名前やフレーバーテキストを見てわかるように、《ファイレクシアの抹殺者》の完成型。
後述の通り、抹殺者の弱点を長所に変えた「祝福されし完成」。強いことしか書いてない上に、禍々しい黒のクアドラプルシンボルはまさに「ファイレクシア全盛期の黒が戻ってきた」というイメージを強く醸し出した。

まず大きく目を引くのがその能力である。
抹殺者の能力は抹殺者がダメージを受けると、受けたダメージだけ自分がコントロールするパーマネントを生け贄に捧げなくてはいけないというデメリット能力。
これにより、直接ダメージを与えるのを得意としていた当時の赤に対して大きく不利であり、代わりにノンクリーチャーが当たり前だった当時の青を相手には「軽い・速い・硬い」という暴力的な強さを発揮するという両極端なカードだった。

しかし抹消者はその逆で、抹消者がダメージを受けると、ダメージを与えたプレイヤーが与えたダメージだけパーマネントを生け贄に捧げなくてはならない。
つまりダメージを与えると、与えた側が致命傷になりかねないディスアドバンテージを強いられる
ブロックするにしても上記の能力とトランプルがあるため、チャンプブロックをするメリットがほぼない。
そして殴り勝てるもしくは相打ちを取れるクリーチャーでブロックしても、マイナス修正がかかっていない限りパーマネントを5個以上確実に失うことになるため非常に痛い。
何より《紅蓮地獄》のような全体ダメージなどにもにらみを利かせることができるため、出してさえしまえばそういうカードに頼るプレイヤーは大きな減速を強いられる。
立っているだけでダメージに対して無類の強さを発揮するため、ハマれば本当に強い。

このようにダメージで突破しようとするとめちゃくちゃな損害を与えてくるカードなのだが、弱点はいくつかある。
というか弱点がなかったらこんな無法なものはカード化されていない。

Condemn / 糾弾 (白)
インスタント
攻撃しているクリーチャー1体を対象とし、それをオーナーのライブラリーの一番下に置く。それのコントローラーは、そのタフネスに等しい点数のライフを得る。

ダメージに対して無類に強くても、ダメージに頼らない除去に対しては単なるバニラ
そのくせ黒のクアドラプルシンボルというアホみたいな色拘束を求められるため、マナ基盤への負担が大きい。

Consecrated Sphinx / 聖別されたスフィンクス (4)(青)(青)
クリーチャー — スフィンクス(Sphinx)
飛行
対戦相手がカードを1枚引くたび、あなたはカードを2枚引いてもよい。
4/6

飛行などの回避能力で迂回してくる敵に対しても無力。

Wrack with Madness / 狂気の残骸 (3)(赤)
ソーサリー
クリーチャー1体を対象とする。それは自身に、自身のパワーに等しい点数のダメージを与える。

Clash of Titans / 巨獣の激突 (3)(赤)(赤)
インスタント
クリーチャー1体と他のクリーチャー1体を対象とする。その前者はその後者と格闘を行う。(それぞれはもう一方に自身のパワーに等しい点数のダメージを与える。)

ダメージで突破できないこともない。
「自傷」を行うカード(《巨獣の激突》は相手のクリーチャー同士を戦わせる場合)。これらのカードの処理は「発生源と抹消者のコントローラーが同一になる」ため、抹消者はコントローラーに賠償をせびりに来る。
特に《狂気の残骸》は後述するように、このカードの専用対策として非常に役に立った*1

ただ実際にこういう弱点とかちあう頻度は別問題だ。つまり、典型的なハマれば強いカードである。
抹殺者?《ショック》一発じゃんwとか言っていた使いは、きっと祝福されし完成をとくと味わうことになるであろう。
あれ、ゴブナイトさん。何もしないの?
あ、対抗策が《稲妻》しかないんでしたねwごめんねーwwwこれが黒の力なんでwwwwwカラーパイなんでwwwwwwwwww
友好色同士仲良くしましょうよwwwwwwwwAll Will Be One.ってことでさwwwwwwwwwwwwww

赤「火歩きの方がうざいんだよね」


スタンダードでの活躍(初出時)


初出時は神話レアで収録。「新たなるファイレクシア」というエキスパンション名と原型がまったく残っていない新ファイレクシアの設定において、旧ファイレクシアを非常に強く想起させるカードとして大人気を博した。
黒の法務官の沼渡りさんに比べ、こちらは4マナとそこそこ軽く、強いことしか書いてない。当時のスタンダードで活躍が期待されるカードであったが、実際のところは大して暴れなかった。

まず、被覆やプロテクションを持っているわけではない。
黒なら喉首狙いなどの単体除去、白なら平和な心やタッパー、金属術適用時限定の《急送》、青ならバウンスや打ち消しと赤と緑以外は他のクリーチャーと同じ対処で処理できる。
つまりコントロール相手にはほぼバニラであり、そして当時(ZEN~SOM期、およびSOM~INS期)はコントロールデッキの全盛期だった。遊戯王もかくやというほどによく除去が飛んでくるようなご時世である。

白「その『その発生源のコントローラーはその点数に等しい数のパーマネントを生け贄に捧げる』って文章何?フレーバーテキスト?
青「シーッ!……ふ、フレーバーwwwフレーバーテキストwwwwwwあっ《蒸気の絡みつき》使うねwwwwやべっ1点ライフロスだから誘発……しませーんwwwwww」
黒「ぐぬぬ」

そもそも多色推奨時代にクアドラプルシンボルという時点でお察しである。当時は多色地形というと「黒赤を除く2~3色デッキを強化する」というものが多く、ハイブリッドランドのように色拘束の強いカードを唱えやすくするものはなかった。
つまりこのカード、他の色と手を組むことを諦めないと使えないくせに格上(コントロール)相手にポメラニアンと化すカードだったのだ。
これに関しては悪斬の天使の個別記事の「もしその後も再録されていたとしたら?」という考察も参照のこと。「除去耐性のないファッティ」なのでほとんどのことが当てはまる。

それでもやはり旧ファイレクシアのにおいがぷんぷんする美しい神話レアを使いたいという黒単使いは、「青や白や黒に対して使えないなら、赤や緑に対して使えばいいじゃない」と考える。
しかしそもそも当時のスタンダードには色を問わずにわずか1マナで-5/-5修正を与える四肢切断》が存在しており、それがほとんどのデッキにプロテクション対策などを兼ねて採用されていた。
そして《戦争と平和の剣》の登場で赤との除去の信頼性が下がっていたため、Caw-bladeや大幅有利と思えた赤単にすら《四肢切断》で殺されるレベル。とてもじゃないが分が悪すぎる。

黒「不当な対人メタまで張って勝って楽しい!?」
赤「これ《コーの火歩き》用なんで……なんかすみません……」
黒「ぐぬぬぬぬ」

もちろんそれらがないなら対処は大変だが、大体そんな場面ってこいつでなくても大体脅威。
さらに黒には一大勢力を築いていたデッキとして「黒単(黒緑)感染」があったのだが、感染デッキはそのデザイン上「感染を持たないクリーチャーをできる限り採用したくない」。
つまり《ファイレクシアの十字軍》と《ファイレクシアの抹消者》は、どちらも相当強いカードにもかかわらず同じデッキに入れるとデッキが激烈に弱くなるという、アイスクリームとラーメンのような相性だったのである。

それでも勝利手段を「サイズや速度で圧倒してダメージで勝つ」ことに依存している赤や緑にとって、このカードは本当に不倶戴天の敵だった。
当時は赤緑ケッシグなどを分からせるために採用する剛の者がおり、このカードは「赤や緑に対してはライオンのごとく活躍するカード」という位置づけだった。
つまり御大層なテキストが書いてあるが、特定のデッキを重く見た場合に対策されるというカード、つまりやっていることが《コーの火歩き》と同じ。

だが《コーの火歩き》と違って、プロテクションという邪悪な能力を持っていない。つまり赤は《裏切りの行動》のようなカードでどかしてしまうことも考えられた。デッキの構築を工夫すれば怖くもなんともなかったのだ。
おまけに闇の隆盛で《狂気の残骸》というほぼ専用の対策カードを入手してしまう始末。抹消者に撃てば「4マナで滅殺5のソーサリー」と化す*2


そもそもコントロール全盛の時代である。
このカードを採用した青黒ゾンビもトーナメントシーンの一角には存在したが、結局ゼンディカー期は上記のカウブレードの、イニストラード期は青白デルバー等の隆盛を抑えきれず、活躍しきれないままスタン落ちを迎えたのだった。

そしてこのカードのあんまりな肩透かしっぷりが、みんな大好きな「一人去るとき」ネタを加速させていくことになる。
まだヴォーソスの敷居が高かったとはいえ、新たなるファイレクシアのカードから感じられる情報は明らかに「ヨーグモスの原型ないやん」というものであり、
「白マナで滅ぼされたファイレクシアの白が一番強いって何?」「優遇されている白が俺たちの希望の星を虐げている」と、黒使いはいよいよいじけてしまったのである。

ただこのカードの行うことは結局「戦闘というもっともポピュラーな勝利条件を全否定する」ことに他ならない。
もしこのカードが満足に強い環境、つまり環境に強い除去がほとんどないとか、当時黒使いがやたら語っていたぼくのかんがえたさいきょうの調整でよくつけられていた呪禁やプロテクションといった強力な除去耐性持ちだったら、
「抹消者を出せばいいゲーム」と化してゲーム性も何もなくなってしまい、その後の「両面カード」という蛮勇的な試みも向かい風となってゲーム自体が完全に凋落した可能性も否定できない*3
つまり現実では黒使いがまったく気持ちよくなれずに1人去っていたが、黒使いだけが気持ちよくなって他の色が興ざめになったら4人去ってゲームが終わってたよね、って話。
これはむなしいたられば考察にすぎないが、ハマれば強いという評価のカードが常にハマるようになるとどうなるかは様々なゲームの歴史が証明していることである。5人去るとき環境とか。

ちなみに当時はキーワード処理の「格闘」が制定されて常盤樹入りした時期だったのだが、あまり実用的なカードがなかったことや、呪禁やプロテクションの全盛期だったこともあって、
現在でいうところの《ジャボテンダー》+《ブリッツボール、オーラカシュート》のようなレベルのコンボとも言えない小学生レベルの発想と思われていたことも付記しておく。2色土地も今より弱かったし、滅殺を使いたいんだったらエルドラージがいるような時代だったしね。


スタンダードでの活躍(再録時)



「ノーンの幇間が小綺麗な磁器の下に隠しているものを見せてみよ。」
――シェオルドレッド

そして時は流れ2023年…なんと新セット『ファイレクシア:完全なる統一』にてレアになって再録された。*4
イラストも新調されており、前と比べるとおどろおどろしさが減ってスリムな外見になった。またイラスト違い版では日本人アーティストによる墨絵バージョンも用意されておりこちらも中々かっこいい。

カード性能はスタンダードでさえ評価はあまり高くなかった。
除去耐性の低さは変わっていないし、特に4マナ域はだいぶ混雑していた。
何よりクリーチャーの性能がインフレしており、特に新たな下半身を得た上司が強すぎた。
当時分からせてやれた赤や緑も、色の役割の整頓によってさまざまな迂回手段を取れる時代になっていたし、
エキスパンションごとに強力な2色土地が出るようになったことで多色化も極めて容易になった。早い話がロートルだったのだ。

だが、約2年後の『霊気走破』で《ウェイストウッドの境界》が登場すると、黒緑デッキに抹消者を投入することが可能になり、格闘呪文の《薮打ち》*5と組み合わせて盤面をつるつるにするコンボを搭載したゴルガリ・ミッドレンジが登場。プロツアー霊気走破でスタンダード9勝1敗という好成績を残した。
非常に素朴なコンボ、かつ一方的格闘(噛みつき)が当たり前になっていた時代では、このコンボは完全な盲点だった。

完成されたファイレクシアの殺戮兵器は、皮肉にもその故郷が滅んだことで*6真価を発揮できたのであった。
そして最近では友好色・対抗色という設定が薄れてきているというが、やっぱり友好色でデッキを組めば強いのである。


下環境での活躍


残念ながら「環境」のデッキで採用されることはほぼない。そもそもMTGはカードプールが充実すればするほど除去が飛び交うゲームのため。
登場当時は下環境といえばレガシーであり、《剣を鍬に》《四肢切断》《意志の力》などが大暴れしていたので除去耐性がほとんど生きない。
《暗黒の儀式》からのスピード召喚が可能とはいえ、赤や緑という格下カラーを殺すための機械という何とも情けないカードだった。
モダンに至っては《暗黒の儀式》すらない。

だが、そのステータスや設定などのロマン性の高さから人気は高く、「環境には届かないがガチ寄りのデッキ」や「ファンデッキ」ではよくお目にかかる。
特にパイオニアの黒単信心での採用率は高く、4ターン目こいつ、5ターン目《アスフォデルの灰色商人》で6点以上のライフを吸っていることがよくある。
まあここでも《黙示録、シェオルドレッド》と枠を争っていることが多いが…。

再度言うが「ハマれば強い」カードである。それを「ハマらなきゃ弱い」と考えるか、「どうやってハメるか」を考えるか。
黒「『ひとりの黒使いは壁を見ていた』……『もうひとりの黒使いは鉄格子からのぞく星を見ていた』 あたしはどっちだ?
「25周年マスターズ」やMTGアリーナの「ヒストリック・アンソロジー3」で再録されており、比較的入手も容易なので、興味があれば組んでみるのもよいだろう。
ダメージに頼り切ったアグロデッキが隆盛すれば、あるいはサイドボードあたりに取られる日が来るかもしれない。


アニヲタから暇な時間を奪い取るのだ。
聞きかじりの見聞。偏った知識。語られる無駄そのもの。
それをページ保存してはじめて貴様の追記・修正は完成化する。


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最終更新:2025年09月04日 08:39

*1 この「自傷」は、カラーパイを渡り歩いていた。白3マナの《悔恨》→黒2マナの《切苦の影》→赤のこのカード。……マナ総量を見ればわかるだろうが、同じことをもっと軽くできる色に対して、赤のこのカードは死ぬほど弱い。上位互換もたくさん出ている。それでもトーナメントで最も活躍したのがこの重いわ遅いわ弱いわと三拍子そろったカードのあたりが面白いところ。こんなものに頼るほど赤が恵まれていなかったのか?それともこのカードにとって環境が恵まれていたのか?そもそも弱いカードではなかったのでは?それは読者が判断することだ。

*2 《狂喜の残骸》自体は極めて弱いカードである。4マナなのに相手のパワーやタフネスに依存している除去ソーサリー、しかも絆魂を持っている相手に撃つとしっかり回復させてしまう始末。

*3 両面カードのほかにも、久々の禁止カードやカードの全体的な高額化、ファイレクシア・マナによる色の役割の崩壊とプロテクション付与を行うレアカードの跳梁跋扈、プロプレイヤーの不祥事など、当時は本当に荒れる話題が非常に多かった。

*4 ちなみに完全なる統一では対となるクリーチャーとして、《ファイレクシアの立証者/Phyrexian Vindicator》が登場した。こちらは白のクァドラプルシンボルで飛行5/5、ダメージを受けるとそれを軽減して反射することができる。

*5 格闘モード以外に基本土地サーチモードもある点も抹消者と噛み合っている

*6 『霊気走破』の背景ストーリーで開催されるレースは、新ファイレクシアの侵攻用戦略兵器を破壊したことで生じた現象を土台として開催されている