探偵物語(涼村暁編) ◆gry038wOvE




(おーい、ほむらー)

 ……の一言に始まるのは、暁の思考の世界であった。彼は、何度か夢の中でほむらに会ったような気がするので、ここらでいっそ、ヒントを聴くためにほむらにこちらから交信してしまおうかなー、という、ちょっと反則的な技を使ってみようと思ったのである。
 そのために、彼は瞼を閉じて外界の映像と音声を途絶した。
 暁は、瞼の裏の真っ黒な世界で、ほむらの姿が浮かぶのを期待した。
 心頭滅却。馬耳東風。弱肉強食。起承転結。西川貴教。天然記念物。代々木公園。万国博覧会。学園七不思議殺人事件。
 あらゆるそれらしい四字熟語を頭に浮かべながら、心霊を呼ぶ準備をする。
 霊の世界と交信するには、何か漢字をいっぱい使っていた事だけは何となく知っていたので、ダメ元で真似してみたのだ。

「死んでいる人を軽々しく呼ばないで」

 と、ほむらが悪態をついて現れた。
 もはや、何でもアリである。

「人に現れすぎとか言っていた割りに、いざって言う時に頼るのね。本当に最低の大人だわ」
(いいからいいから。細かい事を気にすると長生きできないぜ、ほむら)
「……殺されたいのかしら。私、もう死んでるのよ?」

 皮肉にしか聞こえない暁の言葉に、ほむらは険しい表情で辛辣な一言を返した。ほむらは既に死人である。死人がこうして出てきちゃっていいのかは、もう暁とほむらに関してはあまり深く考えてはならない部分である。

(いや、たとえここで駄目でも、パラ○ワとかオ○ズロワとか二次○次とかでも長生きしたいだろ? 細かい事は気にするな、人生は楽しまなきゃ~!)
「……」

 ほむらは、そう言われて息を飲んだ。──確かに、そっちではもう少し長生きしたいと思っているのかもしれない。

 ちなみに、今回はどんな感じの容姿のほむらなのかは想像に任せる。この殺し合いに呼ばれた時の彼女なのか、メガネなのか、悪魔なのか、幽霊の衣装なのかは、暁の好みが結局どれだったのか、推して知るべしというところだが、想像力豊かな人間は自分の好みで考えて良いだろう。
 小説には多様な解釈が求められるのもまた一興だ。特に、読者の好みが分かれる場合。

「……で、本題は何かしら。そっちに入りましょう」

 ほむらは話題を逸らした。

(率直に言おう。……暗号の答え教えて)

 暁は相手を安心させるように微笑みながら言った。
 まるで餌を欲する犬のような目でじーっとほむらの方を見る。死人ならば答えを知っているとでも思っているのだろうか。そういうわけでもあるまい。

「自分で考えて。……というか、どう考えてもこのやり方は反則だと思わない?」
(俺は解ければいいんだ! どんな手を使ったって解ければ問題はない。
 お前とマミちゃん、つぼみちゃんとラブちゃんの決定的な違いを教えてくれればいい。……とにかく違う点だ。
 ほむらとつぼみちゃんが小さくて、マミちゃんとラブちゃんが大きい物を答えてくれ。
 ……これがわかれば、俺たちは、それにみんなが助かる。
 だから、頼む。この通りだ!)
「……」

 ほむらは黙った。考え込んでいるわけでも呆れているわけでもなく──ましてや、暁の切実さに感銘を受けたわけでもなく、ただ何というか、殺意が湧いたのだった。

 ほむらとつぼみが小さく、マミとラブで大きい?
 ……言いたくないが、一つしかないではないか。それを思うと殺意が湧くのも当然。殺意の対象は何故か暁だった。

 しかし、暁ならば真っ先にそれに目をやるのではないかと思っていたくらいだが、何故暁は気づいていないのだろう。流石に暁も、中学生くらいが相手だと興味がないのか? ──とも思ったが、そういえば開始してしばらくして自分をナンパしたのはまぎれもないこの男だった。

「────ねえ、自分で言ってて、答えに気づかないの?」
(え?)

 ほむらは、我慢できずに深い溜息を吐いた。ほむらの負けだ。
 せめて、ヒントをやろう。この男にはどうやら、敵わないらしい。

「この問題は、本当にふざけた問題よ。涼村暁らしいふざけた考え方をするといいわ」
(で? 答えは?)
「ヒントならあげるわ」

 ほむらは、答えを自分の口から言うのを拒絶した。
 自分からなんてとても言えない。

「あなたが街を歩いていて、偶然目の前から、マミと同じ体格の女性が歩いていたら、まず、どこを見る?」
(────それは)
「そう、単純に考えて、暁……」

 やはり、ヒントでも口にしてみると殺したくなったが、それが答えだ。
 少なくともここにいる奴らくらいは助けたい、と少なからず願っている暁に、極上のヒントを与えよう。
 ほむらは、そのまま暁の瞼の裏から消えていった。






「暁! 暁! おい、まさか十数年ぶりに頭を使って死んだんじゃないだろうな……」

 石堀の声が暁の脳にまで達した。自分が何度か呼びかけられていたらしい事を暁は察する。寝ていたのか、考え込んでいたのかは自分の中でも判然としない。
 しかし、暁はぱっと目を開けて立ち上がった。暁が瞼を閉じてから三分も経っていないらしく、みんなまだ考えている。

「……バカ言え。俺は生きてる。それより、わかったぞ」
「わかった? 何がだ? 自分が寝ていた事か?」
「暗号の答えさ」

 石堀がこの上なく驚いた様子で暁を見る。これだけの人数で解けない問題に、暁は出ていった。

「……そうだ。わかったんだ。つぼみちゃんとラブちゃん、ほむらとマミちゃんの違い──その意味が」

 そう暁が言うと、須らく、その場にいる者たちは戦慄した様子であった。
 名探偵による推理ショーが始まる。──という時の光景だ。
 誰もが黙り、暁の方を見る。暁も、その空気の重さに、少し鼓動を速めた。
 自分の答えが間違っているかもしれない──そのスリルが暁の中に生まれた。この感覚は久々である。
 過ちは恥、答えれば英雄だ。

「……言ってみろ。真面目に聞いてやる」

 石堀は、そこに生まれた静寂を切り裂くようにしてそう言った。
 暁はうなずき、全員の眼が一層真剣に暁を見た。
 暁は、唾を一口飲むと、口を開いた。

「まず、この暗号が誰に渡された物なのかっていうのが重要だ。
 そう……こいつは、他の誰でもない、この俺、涼村暁様への挑戦状だった。
 でも、相手は黒岩みたいに知識をひけらかして俺を貶めようなんて考えてる奴じゃない。
 むしろ俺にヒントとしてわざわざこの問題を送ったはずだ。
 それなら、俺が解けないような難しい問題は出さない」
「……というと?」
「この問題を送ったのは、ゴハット。あいつは、変わった趣味のダークザイドだ。
 敵のくせに俺の──いや、シャンゼリオンの活躍を望んでいる、まあちょっと頭がおかしいんじゃないかと思う手の奴だった。
 そして、それならこの暗号も『俺に解かせるため』に作った物なんじゃないかって事だ。
 これはただ難しい問題というより、多分、他の誰でもないこの俺が単純に考えればわかるようにできたなぞなぞなんだよ」

 饒舌な暁に、全員が息を飲む。
 言っている事は少しばからしいが、いつになく真面目に自分の推理の過程を熱弁する暁には、探偵らしい迫力があった。
 ただ一人、翔太郎だけは安易に彼を評価するわけにもいかないと思っていた。他の全員は暁に対して微かに見直したかもしれないが、翔太郎にとっては、もしかすると商売敵やライバルとでもいうべき存在になる。世界の違いがあるので、利益には直接影響しないだろうが、それでも、自分の腕に自信がある以上、他を手放しに認めるのはプライドが許さないだろう。
 暁は続けた。

「使われる名前が桃園ラブ、花咲つぼみ、暁美ほむら、巴マミでなければならなかった理由も、考えてみれば単純だ。
 ……俺は、ゴハットと戦う前にこの四人全員に会っていたんだ。
 マミちゃんがここに来る前にこの全員に会っていたのは俺と杏子ちゃん、それからラブちゃんだけのはずだ。……まあ、マミちゃんの場合は名前も知らなかったけど、俺は『死体』を見て、『体格』を覚えていた。
 あの死体がマミちゃんだっていう事は、みんなに聞けばすぐにわかる事だ」
「で、長々話すのはいいけど、使われる名前がその四人じゃなきゃいけなかった理由って何だよ?」

 杏子が訊いた。前置きの長さに苛立ったのだろう。
 しかし、探偵はこうして焦らさなければならない。……と、暁は勝手に思っている。
 そして、何よりそんな自分に酔っている。

「……ちょっと待てよ、杏子ちゃん。折角、珍しく探偵らしくやってるんだから。焦らさせてくれよ」
「もはやキャラ崩壊レベルだもんな。実物はこんな事できない」
「あー、うるせー! とにかく、その理由は、さっき言った通り、『俺が全員の名前や体格を知っていた』って事だよ。
 この暗号は、なるべく俺以外の人間に解かせないようにできているんだ。この暗号は、そもそも名前が書いてある四人、全員分の姿がわからないとどうしようもない作りになっている。
 だから、俺が知っているこの四人を暗号に使って、そこで俺が一人でこの暗号を解けるようにゴハットの奴が作ったに違いない。
 ……俺や杏子ちゃんのように全員の体格や容姿をきちんと把握して覚えていた人間じゃないと最初から解きようがない。
 今はほむらやマミちゃんを見た人もいるから全員の顔と名前が一致する奴も多いが、元々、マミちゃんはあのまま死んでいた可能性だって高かったわけだから、ここにマミちゃんが無事に来ていなければ、全員の容姿を知らなかった人間の方が多かろう」

 そう、ゴハットが絶命した時点では、マミがどうなっているのかはまだわかっていなかった。マミがここに来ると、ゴハットはどの程度考えていたのだろう。
 結果、マミが出現した事で、暁以外にも暗号を解読できる可能性は高まった。
 ほむらの遺体は警察署に安置されていたので、多くの人間は彼女の遺体の体格を目にしている。翔太郎も、これによって、全員の体格は知っていた。
 本来ならゴハットは望まない状況だったはずだ。
 しかし、それでも翔太郎たちは問題の核心となる部分を解けていなかった。

「そう、何度も言う通り、これは全部、俺のための暗号なんだ。ゴハットは、誰でも解ける問題にするつもりは最初からないし、むしろなるべくなら俺以外に解けないように作ろうとしている。
 あいつは俺ことシャンゼリオンの熱狂的ファンで、それが高じたからだろう。俺の活躍だけを望んでいるんだ。
 だから、重要な手がかりを示す暗号に俺が知っている四人の名前をヒントに記して、俺によこした。──元々、俺に向けた暗号だから、俺以外がそう簡単に解けるはずがない」

 ふと、翔太郎たちは正反対のニードルの問題を思い出した。
 あの問題は、それこそ「引き算」の概念のないグロンギや、極端に知識のない人間以外は誰でも解答できるようになっている。使用された名前さえ読めれば、あとは問題がない。
 ここにいる殆どの人間は、主催側の問題という事であのニードルの問題と同じく、誰でも解ける事を前提に考えただろう。
 しかし、これは根本的に、他の人間に向けられた物ではなく、暁に向けられた問題なのだ。
 ほむらなどの人間と接触──あるいは、写真を見るなどしなければ解きようがなかった。

「そして、杏子ちゃんたちみたいに全員を知っていても、ある一点だけは、俺の思考にならないとほとんど解けない。俺と同じレベルの思考の奴ならまた別かもしれないが。
 とにかく、俺の性格をちゃんと把握したうえで、ゴハットはこの問題を作ってるんだ。そう────それは、この『胸に飛び込みなさい』の部分だ」

 暁は、ここからだんだん得意げになっていた。
 今までよりも数段、鼻が高くなっているようである。ギャラリーもだんだん、感心するよりも呆れ始めていた。普通なら関心するシチュエーションであるというのに、暁がやるとそうもいかないのだ。
 暁の推理の披露も芝居がかっており、だんだんと演出が感じられるようになっている。
 その小芝居のひとつだろうか、暁はラブの方を見てこういう聞き方をした。

「なあ、ラブちゃん、もし『胸に飛び込め』って言われると何を想像する?」
「え……。えっとぉ……私は、白馬の王子様との抱擁とか……?」
「じゃあ、石堀は?」
「そうだな……。俺もほとんど同じ……抱擁かな」

 帰ってくるのは、抱擁というワードだった。上品な言い方だ。
 しかし、暁はこれまでも、「つぼみちゃんの胸に飛び込む」だとか、「マミちゃんの胸に飛び込む」だとか、そういうもっと下品な言い回しで使用していたはずだ。
 それが、ラブや石堀と、暁との決定的な違いである。

「……いーや、違うね。俺の場合はそうじゃないんだ。
 ここは俺のレベルで物事を考えないといけない。……俺なら、全く別の物を想像する」

 暁はここでニヤリと笑った。





「そう、────『ぱふぱふ』だ!」





 それから、周囲が冷めた様子で暁を見つめた。
 約十秒ほど、全員が固まって、暁の方を白けた様子で見ていたのだった。
 暁も凍り付いて動かず、しかしその顔はニヤリと笑ったままだった。
 思わず、石堀が訊いた。

「…………は?」
「胸にな、顔をうずめるんだ」

 ラブの顔が赤くなり、杏子の顔が険しくなり、美希とマミの顔が完全に呆れ果てていた。
 この瞬間、彼の推理はクライマックスに突入し、同時に再下降に向かっていったのだ。

「胸という言葉の解釈が、今回のキーワードってわけか」

 翔太郎は、肩をすくめながら言った。呆れ顔であるように見えて真剣だった。

 胸に飛び込め。そう聞いて、邪な考えを捨て去った人間──というか、まともな人間は、胸をただの体の一部と考える。「胸に飛び込む」という行為は、青春ドラマの中でも熱血台詞の一つとして使われるが、それは抱擁という接触であって、胸の大きさは勿論、男女の関係ない物であるとされる。
 しかし、暁はもう少しバカだった。胸と聞けば、当然、それを「おっぱい」と訳す。女性の胸。ボリュームを尺度に入れて考える物体になる。
 この問題においても、多くの人間は、仮に考えても「まさか敵が暗号でそんな内容書かんだろ」と勝手に思い込んで、一瞬でボツにしていただろう。しかし、実際は、これはバカな怪人がバカなヒーローの為に作った問題なので、そのくらい単純で良いのである。

「つまり、つぼみちゃんとラブちゃん、ほむらとマミちゃん──この二組において、ラブちゃんとマミちゃんの共通点は、『胸の大きさがもう片方より勝っている』というところなんだ。
 言っちゃ悪いが、つぼみちゃんとほむらは二人に比べて貧乳だ。そして、ラブちゃんとマミちゃんは見ての通りだ。暗号が示しているのは、『ふくらみの小さい方』という事だったんだよ!」
「ええーーーーーーーーーっっっ!!」

 思わず胸を抑えてラブが驚いている。つぼみがここにいなかったのは幸いである。
 絶対につぼみに、今後永劫、暗号の話はしてはならないだろう。相当傷つくに違いない。
 これからなのであまり気にするな、と一言フォローを入れるしかない。
 しかし、何にせよ、他の全員が固まっている様子である。

「────つまり、おっぱいなんだ、今回の暗号はおっぱいだったんだ! わかったか? みんな!」

 勝ち誇ったように、暁はガッツポーズをした。
 この一言のために長々と推理を話してきたかのように。
 これまでにない調子の乗りようであった。

「……」

 翔太郎が、仏頂面でそんな暁に歩み寄っていった。
 何か言い知れぬ怒りを感じたようで、暁はふとその顔を引きつる。
 革のブーツがてくてくと暁の方に足音を近づけ、やがて、暁の目の前で止まった。

「え、おいおい……」

 零距離。
 キス目前のところまで、翔太郎の顔が暁に近づいた。まるでガンを飛ばされたような気分である。
 そして、翔太郎が口を開いた。

「…………………………で?」

 翔太郎は一言、──いや、一文字、言った。

「え?」

 暁も負けずに一文字、返した。
 翔太郎はコホンと咳払いをした。暁が気づいていないようなので、翔太郎は問い返す。

「今回の暗号がおっぱいだったのはわかった。だがな、……だから何だっていうんだ?」
「だから、おっぱいなんだ。もう全部おっぱいなんだ」
「違ぇよ!! おっぱいじゃ何の解決にもなってねえ!! それがわかったからって、後はどうするんだよ!! それがわかったところで何にもならねえだろ!!」

 そう、翔太郎の言う通り、そこまで推理が辿り着いたとしても、そこから先に全く進まないのである。ゴハットが、「小さい方」を意味する言葉を暗号として残したとしても、そこから進みようがない。
 そこだけわかったとしても、主催に関する何の手がかりになるというのだろう。

「そ、そうだな……そ、それじゃあこれからの意味を一緒に考えなきゃな」
「おいおい……ちょっと待てよ」

 この暗号には続きがあるはずだ。────それを、暁は忘れていた。
 翔太郎の目が険しかったのは、このためだった。彼が、おっぱいで満足してその先に進めなかった事に怒りを感じているのだろう。

「……暁。こいつは、そのゴハットとかいう奴がお前の為に残した暗号なんだろ。じゃあ、ここから先もお前が解くんだ」
「え?」
「ゴハットは、お前の為にこの暗号を残した。そいつがヴィヴィオを殺したってんなら俺は許せねえ……けど」

 暁からすれば、ゴハットが冤罪被っているのを訂正したいが、それをする事で逆にヴィヴィオに危険が迫るであろう事を考えると何も言えない。
 翔太郎は続けた。

「考えてみろ、そいつに救いをやれるのは、お前だけだ。
 ────俺は力を貸さない。お前が解くんだ……ここにいるみんなのために」

 そう、暁はこの問題を暁自身で解かなければならなかったのだ。






 時は、フィリップが生きていた頃までさかのぼる。
 翔太郎が、フィリップに頼んで主催に関して調べていた時だ。

 闇生物ゴハット。
────その名前を、以前、フィリップは無限の本棚で検索した。
 ゴハットに関するデータは、『ヒーローおたく』としての記述が大半を占めていた。
 やはり、放送での情報に嘘偽りはなく、彼はヒーローを愛する存在だったようだ。

 しかし、一筋縄ではいかない部分もゴハットには多い。
 ゴハットには過剰ともいえる拘りがあった。
 そう、「ヒーローは死なない」という幻想や、非人間的な生活をしている者というイメージでの独自のヒーロー観の押しつけである。
 ずっと昔のヒーローを前提とした、勧善懲悪型の「名乗ったり」、「爆発したり」、「叫んだり」を行うヒーロー以外、彼はヒーローと認めず、世捨て人のように飄々として自分の幸せをなげうった孤独な者をヒーローと呼ぶのだ。それ以外は、更生させるためのスパルタ教育をする。
 涼村暁や左翔太郎の持つ一般人としての生活感覚を彼が認めるかといえば、おそらくはNOだろう。

「なあ、フィリップ……こいつは、ちょっとヤバいんじゃねえか?」
「ああ。以前僕たちが戦ったコックローチ・ドーパントの持つ独善性にも似ているね。ヒーローが好きだからといって、彼自身の行いが立派なヒーローといえるかは別問題だ」

 ヒーローに憧れるという人間が決して、人間的に成熟できた立派な人間になれるという事ではない。
 いや、むしろ憧れたものに対する一方的な幻想を抱く者だって、悲しい事に一定数いるのである。──ゴハットや、コックローチ・ドーパントこと伊狩はそういう物を持っていただろう。
 ある種、オタク気質というか、それを突き詰めた人間に陥りやすい傾向だ。

「まったく、ヒーローってのは、なんだかわからねえな、本当に」
「確かにね。わからないなら僕たちも自分たちの事をヒーローと思わない方がいいかもしれない。
 僕たちも血の通った人間には違いないからね。所謂──そう、Nobody’s perfect」

 フィリップは、どうやらそこから先の事もあまり考えていないようである。自分がヒーローであるか否か、という問いから先、彼が答えを出す事はなく、答えを出す気もなかっただろう。
 彼は、自分がヒーローと呼ばれる事に、この時はあまり関心を持っていないようだった。
 やはり、既にこの殺し合いの中で幾人もの犠牲者を出した後だったから──だろうか。
 到底、自分の事をそう呼べる精神状況ではなかった。
 それから、フィリップは補足した。

「……ただ、街の人や……特に子供たちを見ていると思うよ。ヒーローにあこがれる人間は、行いも含めてヒーローのようであってほしいとね。
 完璧じゃなくたっていいから。────まあ、これは、僕自身の勝手な願望だけど」

 あの時、フィリップは、一見すると興味なさそうにそう言っていた。
 翔太郎は、それを思い出した。






 翔太郎は、暁の推理を訊いた時に、こう思ったのだ。──データによると、あそこまで独善的で、一方的なゴハットの感性ならば、当然こんな問題は出しえない、と。
 翔太郎が問題に答えを出せなかったのは、それが原因だった。彼も、一度はその解答も考え、ボツにしたのだった。
 ゴハットは、本来なら暁にこんなふざけた問題は出さない。ヒーローに対して、「硬派」という幻想を抱いているゴハットが、暁を認めてこんな問題を出すだろうか?
 ゴハットが、データと全く同じでぶれない存在であったなら、暗号の内容はもっと難解で硬派な物だったはずである。
 しかし、現実には、あらゆる案が出されたものの、おそらく暁の解答で間違いない。

 ────どういうわけかわからないが、ゴハットは暁を認めたのである。

 彼は、かつての暑苦しいヒーロー像に熱狂していたはずだが、この場において、一人間としての──時にふざけているが、時に真面目な、暁や翔太郎のような新世代のヒーローを認めたという事になる。
 バカでも。ぶっきらぼうでも。体が弱くても。自分の宿命に押しつぶされるほどに弱い一人の人間であっても。──それは、立派なヒーローの形の一つである、と。
 それはきっと、暁がこのバトルロワイアルで行ったすべてをゴハットが見届けた結果だ。
 暁の生き方は、一つの考えに囚われた旧世代をも突き動かしたのである。

 これは、そんな彼が、シャンゼリオンに向けて作った挑戦状であり、ラブレターなのだ。
 その手柄を、今回ばかりは翔太郎が奪うわけにはいかない。照井竜が井坂深紅郎との決着をつける事になったあの戦いの時と同じく、脇役として見守るだけだ。
 そして、暁を推理の過程で立ち止まらせて、この暗号の答えを解かせないわけにはいかない。

 翔太郎には、もう答えはわかっていた。
 しかし、暁が答える事に拘って、彼は黙って暁を見ていた。誰も、暁に協力してやろうとは思っていないようだった。
 その状況で、暁は口を開いた。

「……わかった。ここから先は、俺に任せてくれ」

 自分がやらなければならない。
 癪だが、今はゴハットの為に。あの怪物の為に。暁はまた、やらなきゃならない。
 確かにあのゴハットは、ヴィヴィオを救っているのだ。そのお返しと言っては何だが、暁自身が自分の力で最後のピースをはめる事で、ゴハットの悲願をかなえさせてやらなければならない。

 暁は考えた。
 もう一度、暗号を考えてみよう。

『桃園ラブと花咲つぼみなら、花咲つぼみ。
 巴マミと暁美ほむらなら、暁美ほむら。
 島の中で彼女たちの胸に飛び込みなさい』

 まだ触れていないのは、そう……「島の中で」という部分だ。先ほどの暁の推理の中では、わざわざ「島の中で」と注されている部分が完全に無視されている。
 島の中。ここは孤島だ。この島の事だろう。しかし、その意味だ。暁たちがこの島の中にいるのは当然である。
 じゃあ、この暗号における島とは何だ? 島の中には、何がある?

「……島! そうだ──」

 暁は、何かに気づいたように、慌てて手近なデイパックを漁った。
 中にある物を床に散らかして、暁は、それを必死に探した。

 そんな姿を、誰もが黙って見つめていた。暁は、今、真相に近づこうとしている。
 ある者の意志に答える形で、必死にデイパックの中身を漁っている。暁の慌てようは、答えを探す為の行為に見えた。

 そう、彼が探しているのは、ヒントではない。──答えなのだ。

 ペットボトルを投げる。パンを投げるのを杏子がキャッチして文句を言う。その言葉は暁の耳に入らない。中身を引きだして投げていく暁は、ある答えだけを探していた。
 そして、それはすぐに見つかった。

「そうか……そういう事だったのか」

 涼村暁は、決定的な答えを広げた後、その意味に気づき、握りしめた。
 彼の考えには思い違いはなかったらしい。

 謎は、すべて解けた。






 彼らが監禁され、殺し合いを強要されているこの島は、そのほとんどが山のみと言っていいほどに緑が豊かな島である。人間たちの侵攻は浅く、外れに小さな街や村がある程度で、参加者たちもこの暗い山々に何度悩まされた事だろう。
 夜は特に参加者たちの恐怖を煽る。緑ばかりが茂り、その木々は何度も参加者たちに根本から切り落とされ、焼き尽くされてきた。元の形はないが、地図上では今もそれらの山々は真緑で表現されていた。
 この緑の部分が、今回の暗号において、注目されるべき物だった。

 そう、暁が今回、手に取ったのは、「地図」だ。
 ところどころが禁止エリアとして黒く塗りつぶされている地図を、暁は掲げる。
 そして、ある部分を指さした。

「この山に注目してくれ」

 暁がそう口にするのを、誰もが黙って聞いていた。全員が注目する中、暁は先ほどのような緊張を感じなかった。もはや、核心ともいえるべきものが彼の中にあったのだろう。
 地図上の山について、暁は話した。

「この山は、あるところで二つに分かれている。この山の高さが問題なんだ。グロンギ遺跡のある方の山は南の山より少し大きいだろ?」

 確かに、山の大きさは二つとも違う。
 中央部だけが凹んでおり、この島の山は頂きが二つある形になっていた。
 高く積もった方と、やや沈んでいる方。この二つが今回のキーワードだ。

「これはただの山じゃない。俺が考えている通り、おっぱいなんだ」

 全員が白い目で暁を見た。
 少し見直そうとした者たちも、やはり見直した分を無しにした。

「わからないか? この大きい方の山がマミちゃんのおっぱい、この小さい方の山がほむらのおっぱいなんだ」
「あの、いい加減にしないとそろそろセクハラで訴えますよ……?」
「訴えるならゴハットの奴にしてくれ。俺は答えを言っているだけだぜ」

 マミがもじもじした。暁はおそらくわざとセクハラ性を強調した言い方をしているのだが、「ゴハットのせい」という盾で自分を守る。
 これだからセクハラは悪質である。女性が言い返せない状況が自然に作られるのだ。

「で、この山だ。ずっと前は何もなかっただろ? でも、今は違う」

 暁は、気にせずに続けた。
 暁はかつて、このどこかにある禁止エリアを恐れて、その山を駆け抜けた事がある。その時には、この山には何もなかった。
 ──そう、しかし、今は暁の言う通り、違う。
 実はその後、この山の上で、通常なら見逃すはずもないような物を見たと証言していた(らしい)人間が現れたのだ。

「……そうか、ドウコクが見た山頂の物体だ」

 石堀が気づいて言った。
 血祭ドウコク。──外道衆総大将を仲間に引き入れた事が、思わぬところで役に立ったらしい。翔太郎や一也がドウコクから得た情報はこの場において共有されている。

「その通り♪」
「じゃあ……」

 孤門が見たのは、窓の外だった。
 もはや外の戦いは終わっただろうか。静かな外の空気の中で、たった一つ、見えている物があった。森の中、微かに膨らんでいる一つの山の頂。



「────つまり、ゴハットの奴が示したかったのはその事なんだ。小さい方の山──すぐそこに見えている、あの山こそ、俺たちが飛び込むべき、つぼみちゃんとほむらの小さいおっぱいに何かあるって事なんだよ!」



 暁が遂に、後ろからスリッパで殴られた。殴ったのは、美希だった。
 暁の解答は、結論から言えば間違いなかった。
 ドウコクが見たというあの奇怪な物体こそ、主催陣営のもとへ向かう鍵となる。
 考えてみれば、最も怪しいのだ。現時点で、鳴海探偵事務所やクリスタルステーションのように、戦闘配備としての意味がまるで感じられないあの物体。

 それは、この冴島邸から見える景色の中にあった。
 青く光っている、あの奇妙な物体──暁たちは、それをただ見つめていた。












 ここは、既に冴島邸を離れた外の森エリアだった。
 少し生暖かく、嗅いでみれば硝煙の匂いもするかもしれない森の中──心地よい森林の香はもう、どこかへ消えている。
 彼らの目の前にある、山の山頂を彼らは目指す事になった。
 冴島邸内で合流した、孤門チームと良牙チーム。──これで残る参加者は遂に全員出揃った。

「残ったのは、十五人か……」

 孤門一輝。石堀光彦。涼村暁。左翔太郎。沖一也。響良牙。桃園ラブ。蒼乃美希。花咲つぼみ。佐倉杏子。巴マミ。レイジングハート・エクセリオン。涼邑零。血祭ドウコク。外道シンケンレッド。そのほか、リクシンキ。

 ──ガイアセイバーズ。
 そう名付けられた部隊は、これにて全員集合した。

「ゲーム終了までは、一時間──」

 ゲーム終了までの時間もわずかとなった。
 沖一也と血祭ドウコクの約束の時間、十一時が遂に来る事になった。
 本来ならば、ここで一也の首はない。────しかし。

「てめえら、よくやったじゃねえか」

 血祭ドウコクは、その時、彼らの報告に素直な賞賛の言葉を与えた。暗号が解き明かされた以上、ドウコクが謀反を企てる意味はない。
 それから、そこで用済み、という事もなく、ドウコクは素直に彼らと共に行動している。
 それというのも、やはり戦力・駒としてはまだ十分に使えると判断しているからだろう。

 一也は、タイムリミットまでに暁と翔太郎が成功させた事でかなり安心しているが、一方で不可解に思う部分もあった。

(……この島の外に何かがいた事も確かだ。あれは一体────)

 一也だけが見た、あの黒い影。──あれを話すべきだろうか? しかし、仮にその事を話せばそれはそれで、ドウコクは帰還不可能とみなし、内部分裂が起こるかもしれない。
 何もいえないもどかしさが一也の胸にしこりを作った。

(まずは彼らが得たヒントをもとに、あの場所に向かうしかない……)

 それから、少しだけここにいるメンバーは情報を交換した。






 花咲つぼみは、美樹さやかの死について全て語った。その報告に最もショックを受けていたのは、佐倉杏子であった。

「そうか、それであいつは……」

 彼女が魔女に救われたと聞いた時、これは和解のチャンスだと、杏子は思ったが、その直後に結局、別の人間に殺されてしまったらしい。その人間──天道あかねも死んでしまった。
 杏子としては、美樹さやかも天道あかねも知り合いだっただけに、こういう結末になったのは残念でならなかった。
 さやかとも、あかねとも、和解をする機会は永久に失われてしまったわけだ。──そう思うと、最悪のコンタクトを相手に残せてしまったのは残念でならない。二人とも、もっと別の形で会いたかった相手である。

「……人間に戻るって事は、それだけ体が弱くなってしまうって事なのね」

 マミが、落ち込んだように言う。
 知り合いの死を知って、やはり悲しみもあるのだろう。元の世界の知り合いで生存しているのは、もう杏子だけだ。しかし、一人でも元の世界の仲間がいれば、それは十分恵まれている。ほとんどの人間が、自分以外の仲間がもういない状態だった。

 さやかは、魔法少女であれば変身してどうにか対処できたかもしれない状況で死んだという。変身できないという事は、それだけの危険も伴うという事だ。それもマミは考慮に入れなければならない。
 魔法少女の感覚に慣れていたがゆえ、彼女にとっても気を付けなければならない話である。まして、これから行く場所はどんな戦闘が巻き起こるかわからない。
 荷物をしっかりと持って、武器を把握して、マミは出来る限りの手段で仲間を支援し、生き残らなければならないのだろう。

「あの、つかぬ事をお伺いしますが、マミさんは、……やっぱり、人間に戻れて幸せですか?」

 ふと、つぼみはマミに訊いた。人間として救いだされた率直な感想を、マミから訊きたかったのだ。さやかがどう思っていたのかを知る術はないが、同じ境遇の人間から聞き出す事はできる。

「そうね……。魔法少女として、みんなを守っていた時は自分にしかできない事があるっていう嬉しさがあったけど、今は違うわ」
「え?」
「私たちの力には、魔女になるリスクもあった。
 ……ずっと一緒にいるには危険すぎる力だし、何より魔女になって暴れ続ける事なんて全然幸せじゃないと思うの。
 人間は本来、人間であるべき──それが普通なのよ」

 そうマミが言った時に、横から杏子が言った。
 彼女こそ、正真正銘、魔法少女の心情を誰よりもよく知っているのだった。
 全ての真実を、冷徹に目の前に突き付けられ、それを乗り越えた彼女である。

「なあ、つぼみ。現役の魔法少女から一言言っておくよ。
 魔法少女として死ぬよりは、人として死んだ方がずっといい。
 ……ましてや、魔女として死ぬなんて最悪だ」
「そう、ですか……」
「あんたはよくやったよ。あいつもきっと、喜んでいるはずだ」

 そう、この中では杏子だけ、今もまだ魔法少女でいる。
 彼女にはまだ心に孤独があるはずだ。だから、こんな事を言うのだ。まだ体は人でなく、いつでも魔女になる可能性があるだろう。
 いつか、人間に戻すことができるのなら、そうしてやりたい──と、つぼみは思う。

「……ありがとうございます」

 つぼみは、苦い顔で礼を言った。杏子の境遇を思えば、彼女は慰められる側であろう。しかし、つぼみを慰めようとしている。
 その事を、つぼみは少しばかり情けなく思った。






 響良牙は、まず沖一也と左翔太郎に向けて謝らなければならない事があった。
 それは、天道あかねを絶対に救うと「仮面ライダー」の名に誓いながら、それを果たせなかった事である。

「すまねえ……。あんたたちの名を語っておきながら、約束を果たせなくて」

 良牙が他人に頭を下げるのも、滅多にありえない事である。
 彼はそうそう人に向けて素直に謝れるタイプの人間ではない。しかし、ここにいる大人たちには、良牙がそうそう敵うような相手ではないと本能的に悟ったのだろう。単純な腕力とは別の次元で、自分より「上」の相手である。
 五代雄介や、一条薫もそうだった。

「……いや、いいんだ。良牙君は出来る限りの事をしただろう?」

 一也が訊くが、良牙は何も言えなかった。
 彼は自分がどれだけの事ができたのか、わからなかった。全力でやれた実感はない。
 ただ、良牙は、当然ながらあかねを助ける為に何でもするつもりだった。
 その想いだけは決して変わらない。自信を持って言えるのは、その想いがあった事だけである。あれが良牙のできる全力の手助けだったのかは何とも言えない。
 あかねが負っていた生傷を考えれば、最初から命を助ける事はできなかったのかもしれない──。

「誰だってそうだ。意志があってもできない事はある。俺も……」
「……あんたにもあるのか?」
「ああ。父のような人も、同僚も、師匠も、兄弟子も、仲間も、親友も、先輩たちも、未来の後輩も──俺にはこの手で守れなかった命がいくつもある」

 一也は、スーパー1として戦った日々を少し回想した。そして、このバトルロワイアルで喪った仲間たちの事も浮かんだ。
 あの無力の痛みが一也の拳にもまだ残っている。
 仮面ライダーは、決してここで全ての人間を救えていない。しかし、一人でも多くの命を守るために彼らは戦った。本郷猛も、一文字隼人も、結城丈二も、村雨良も、五代雄介も、一条薫も、フィリップも、照井竜も──。風見志郎も、神敬介も、アマゾンも、城茂も、筑波洋も、門矢士も、鳴海壮吉も、火野映司も──。
 その生き様に恥じぬよう、一也はこれからも仮面ライダーとして、一人でも助け出すために戦うだけである。
 たとえ、誰も助ける事ができなくても、助ける為に戦い続ける──それが力を持った宿命である。

「良牙。……俺から言える事は何もねえ。
 もしかしたら、俺よりもお前の方がずっと仮面ライダーらしいかもしれないからな」

 翔太郎も、そう言った。少し前までしょげていた翔太郎とは顔色が違うと、良牙はすぐに見抜いた。
 彼もまた、フィリップという仲間を失い、しばらく茫然自失の状態だったのだ。

「俺たちは、仮面ライダーである以前に人間だ。
 Nobody’s perfect──完璧な人間なんていやしない」

 翔太郎の胸の中に在るその言葉は今も、時として彼を慰める。
 戦い疲れた仮面ライダーの心に、師匠から受け継いだその言葉は今も何よりの癒しになるのだ。

「たとえ誰かを守れなかったとしても、お前は立派に仮面ライダーだったさ」






「……サラマンダー男爵によると、ここに永住しても問題なく食料に不便はないという話だ。
 だけど、ここで永久に生活しようって思ってる奴はいるか?」

 零が、他の全員に訊いた。この情報は既に全員に行き渡っているので、改めて確認の為にそう口にしたのだった。肯定する者はここにはいなかった。
 勿論、いるはずはない。
 ここにいる者には、ドウコクも含めて帰るべき世界、帰るべき場所があるはずなのだ。

「……じゃあ、決まりだな」
「異存はありません」

 決意は胸にある。
 恐怖も胸にある。
 しかし、元の世界に帰るためには、そこへいかなければならない。
 それに、ここで倒れた人間の為にも、これからこのように殺し合いに巻き込まれるかもしれない人間の為にも、戦わない時が近づいているのがわかった。

 十五人。
 兵力としては、あまりにも少ない。これで戦えるだろうか。
 ほとんどの人間の胸には、焦りと不安が湧いていた。まるで特攻にでも向かうような心境である。手が震えているのは止まらない。言葉も零のように発せない物もいるかもしれない。

「行こう、みんな────ガイアセイバーズ、出動!」

 孤門一輝が喉の奥の震えを押し殺して、そう叫んだ。


 ──そんな中、石堀光彦だけは内心、薄気味悪く笑っていた。





 To be continued……





状態表は長くなるので、これまでの物語を参照してください。
全員の最優先行動方針に、「F-5山頂に向かう」が追加されています。



【支給品紹介】
※これまで公開しきれなかった不明支給品を全て紹介します。

【鳴海亜樹子のツッコミスリッパ@仮面ライダーW】
冴島鋼牙に支給。
亜樹子がツッコミに使用する緑のスリッパ。毎回別の文字が書いてある。

【セガサターン@現実】
冴島鋼牙に支給。
「超光戦士シャンゼリオン」のスポンサー会社のゲーム企業が1994年に発売した家庭用ゲーム機。略称はSS。

【アヒル型のおまる@らんま1/2】
冴島鋼牙に支給。
ムースが暗器として使用した武器のひとつ。場合によっては撲殺に使える。

【フラケンシュタインの被りもの@フレッシュプリキュア!】
村雨良に支給。
第16話でラブのクラスが文化祭のオバケ屋敷の為に用意していたフランケンシュタインらしき怪物の被りもの。ちなみに、一応「フランケンシュタイン」は怪物を作った博士の名前なのも有名な話。

【ネギ@仮面ライダーW】
孤門一輝に支給。
小説版で翔太郎の風邪を治したネギ。使用方法は……。
なので使用済じゃない事を祈りたい。

【ドリームキャスト@現実】
孤門一輝に支給。
「超光戦士シャンゼリオン」のスポンサー会社のゲーム企業が1998年に発売した家庭用ゲーム機。略称はDC。

【風の左平次パニックリベンジャーDVD-BOX@仮面ライダーW】
東せつなに支給。
巷で流行している時代劇のDVD。左翔太郎と鳴海亜樹子がこれのファン。

【メガドライブ@現実】
沖一也に支給。
「超光戦士シャンゼリオン」のスポンサー会社のゲーム企業が1988年に発売した家庭用ゲーム機。略称はMD。

【おふろセット@魔法少女リリカルなのはVivid】
沖一也に支給。
高町ヴィヴィオが普段お風呂の時に使っているアイテム。
アヒルのアレや水鉄砲などが入っている。
もしかしたら、美希、杏子、ヴィヴィオが銭湯に入った時に使っている可能性あり。

【プリキュアのサイン入りクリスマスカード@ハートキャッチプリキュア!】
ズ・ゴオマ・グに支給。
第44話でハートキャッチプリキュアの面々がプリキュア好きの青年にあげたサイン入りカード。キュアブロッサム、キュアマリン、キュアサンシャイン、キュアムーンライト、そしてキュアフラワーのサインが書いてある。うらやましい。

【マタタビ@現実】
バラゴに支給。
猫を酔っぱらわせる実。このロワではわりと使える。

【配置アイテムネタバレマップ@オリジナル】
園咲冴子に支給。
支給されていない配置アイテムの場所が記されている。何が置いてあるかは書いていない。

【ハートリンクメーカー@フレッシュプリキュア!】
園咲冴子に支給。
誰でもビーズが作れるという画期的なアイテム。
第18話と第40話くらいしかまともに出番がない。「ハートキャッチプリキュア!」などのプリキュアシリーズにも、各作品ごとに別の物がたまに出てくる。

【未確認生命体第0号の記録映像@仮面ライダークウガ】
溝呂木眞也に支給。
長野県九郎ヶ丘遺跡で未確認生命体第0号(ン・ダグバ・ゼバ)が研究員を殺害して暴れた映像が記録されているビデオテープ。

【山邑理子の絵@ウルトラマンネクサス】
月影ゆりに支給。
山邑理子が描いた不気味な絵。
東武動物公園で家族旅行された帰りに家族が殺され、ビーストにされた少女がその光景をクレヨンとかで描いたもの。

【魔力負荷リストバンド@魔法少女リリカルなのはVivid】
月影ゆりに支給。
マリエル・アテンザがヴィヴィオたちのために作ったリストバンド。
これをつけると魔力の使用に負荷がかかる。要するにドラゴンボールの重いリストバンドの魔法少女版みたいなやつ。

【HK-G36C@仮面ライダーW】
早乙女乱馬に支給。
葦原賢が使用する突撃銃。装弾数は30発。
「仮面ライダーSPIRITS」などにも登場する。

【白埴鋤歯叉@侍戦隊シンケンジャー】
早乙女乱馬に支給。
モチベトリが使用する武器。
「しらはにすきばのまた」と読む。


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最終更新:2015年07月13日 21:40