剣崎達は研究所から出ると二手に分かれた。
「行動を共にしている必要も無い、分かれるぞ」
「ああ、気をつけろよ」
剣崎は始を見送ると町へ戻った。
橘が目を覚ました時、伊阪が近づいてきた。
「……お前もアンデッドポケモンを捕獲しているのか」
伊阪が言葉を投げかける。あまり興味はなさそうだ。
「誰だお前。アンデッドポケモンについて何を知っている?」
橘が敵意をむき出しにする。だが手は震えている。
「俺が怖いか。随分繊細な心の持ち主だな」
その言葉に橘が切れた。
「怖いはずが無い! 来い、お前を倒してやる!」
伊阪を挑発する橘。正体も分からない男を相手に。やせ我慢にしか見えない。
「いいだろう。だがお前はこれで十分だ」
伊阪がモンスターボールを取り出す。中からサイドンが飛び出す。
「サイドンか……。いけ、ホエルオー!」
「ホエルオー、たきのぼり!」
先手を取った橘がホエルオーに命じる。
ホエルオーは滝を登る勢いでサイドンに向かってゆく。
「アームハンマー」
サイドンが力強く腕を振る。ホエルオーは吹き飛ばされてしまった。
「何!? バカな、タイプ相性では俺が有利なはず!」
慌てる橘。ホエルオーは気絶している。
「弱いな。力だけでなく心もだ」
伊阪が言い放つ。今の橘にとっては一番きつい一言だ。
「……恐怖心。俺の心に恐怖心……。」
橘は烏丸に言われたことを繰り返していた。
「お前を強くしてやってもいいぞ」
ふと、サイドンを回収した伊阪がつぶやいた。
「……何?」
「強くしてやってもいいと言った。どうだ?」
「お前が誰かも知らずに従えと……」
橘はそれを断ろうとする。
「そうか。では無かったことにしよう」
伊阪は立ち去ろうとする。
橘は悩んでいた。どうするべきか。
(俺は……どうしたい? どうなりたい?)
やがて橘の中に一つの答えが生まれた。
「……待て。話を……聞こう」
「アンデッドポケモンか!」
剣崎は町に戻る途中でアンデッドポケモンと対峙していた。
強力な磁力を角に秘めたケンタロスの始祖、それが今回の相手だった。
「いけ、ヘラクロス!」
ヘラクロスが飛び出ると同時にたいあたりを食らわす。
「一発で決める、インファイト!」
ヘラクロスが急激に加速し、ケンタロス目掛けぶつかろうとする。
しかし攻撃は不発に終わった。ケンタロスに弾かれてしまったのだ。
「ナンダァ? クォゲキガハズィカデタ?」
剣崎が不思議がっていると、今度はヘラクロスが引き寄せられた。
「え、あ、おい! アリかよそんなの!」
ひきつけられたヘラクロスは角の直撃を受け気絶した。
「近づいても、離れてもダメ。どうすればいい?」
剣崎は迷っていた。まずは角をどうにかしなければならない。
「ええい、いけ!リザード!」
新たにリザードを繰り出す剣崎。
ケンタロスの角が光る。するとリザードが引き寄せられていく。
「そうか! そういうことか」
剣崎はカラクリに気づくとさらにオドシシを繰り出した。
「ライトニングスラッシュだ!」
オドシシの"でんげきは"を纏ったツメでリザードがケンタロスに仕掛ける。
その一撃は紙一重で相手の角をへし折った。苦しみもがくケンタロス。
「戻れリザード!トドメだ、サワムラー!」
リザードを戻すと続けてサワムラーを繰り出した。
「ライトニングブラスト!」
鉄壁を誇ったカブトをも打ち破った必殺の蹴りがケンタロスに命中した。
倒れるケンタロス。剣崎はモンスターボールを取り出すと投げつけた。
「これで7体目か」
ヘラクロス、リザード、イノムー、サワムラー、オドシシ、カブト
そして先ほどのケンタロス。剣崎にとって7匹目のポケモンだ。
アンデッドポケモンは通常とは異なったモンスターボールで捕獲する。
そのため6匹を超えて携帯することが出来る。
「実際に7匹も持ってると変な感じだな」
嬉しい違和感を感じながら剣崎は町に向かった。
一方、始は伊阪の追っ手を蹴散らしていた。
「ムクホーク、ブレイブバード」
一般人相手に容赦なく攻撃を仕掛ける。流石に急所は外しているようだ。
「相手が悪かったんだ、文句を言うな」
始が倒れたまま起き上がらない追っ手につぶやいた。
「まずは自己紹介といこうか。俺は伊阪」
伊阪が橘に話しかける。研究所に戻ったようだ。
「俺は……橘。橘 朔也だ」
橘も自己紹介をする。伊阪への不信感は無くなりつつあるようだった。
「せっかくだ。俺の本当の姿も見てもらおうか」
そう言うと伊阪の姿が変化していった。
――ペラップ。あえて言うならそうだろう。
伊阪の立っていた場所に巨大なペラップが現れた。
色彩や一部が似ているだけで、人の形をしていたのだが。
「……!? ……やはりそういうことか」
橘は驚きの表情を見せたがすぐに状況を理解したようだった。
「ほう。あまり驚かないのだな。そうだ、俺は上級アンデッドポケモンだ」
変化した伊阪が喋りだす。声は人の時のままだ。
「烏丸から聞いたことがある。上級アンデッドポケモンは人の形をしているとな。
まさか人間に化けることができるとは思っていなかったが……」
既に橘の中の不信感は無くなっていた。それが何故かは本人も分からなかった。
「前置きはこれぐらいにしておこう。お前を強くする物……それがこれだ」
伊阪はモズクのような海草を取り出した。
「シュルトケスナーの藻。古代の海草だ。闘争本能を刺激する効果がある」
闘争本能を刺激する。それは恐怖心を取り除く事にもつながった。
「いいだろう。アンデッドポケモンが言うことなら間違いなさそうだしな」
橘は伊阪の指示に従った。
その指示とはシュルトケスナーの藻の入った溶液に体を浸すことだった。
(これで……俺は強くなる。……恐怖心も……無くなる)
橘は薄れゆく意識の中でそんなことを考えていた。
「これで俺の計画も進めやすくなるというもの。この男にも感謝しなくてはな」
眠った橘の横で、伊阪が不敵な笑みを浮かべていた。
最終更新:2007年01月17日 22:18