嶋の薦めもあって剣崎たちは小夜子の家を借りる事にした。
それからしばらくアンデッドポケモンの反応も起きない。
そこで嶋から一つの提案が出された。
「親睦会を開くのはどうだろう?」
親睦会。何ともいえない響きである。
既に親密なようで全然親密じゃない関係。
剣崎達がそんな関係であるかのような言葉だ。
実際、そうなのだから仕方ない。
「トレーナー同士の友情は大切だ。
そうだ、相川君も呼ぼうか」
嶋がポケナビを取り出す。始と話しているようだ。
いつの間にか始のアドレスまで知っている。恐ろしい人である。
「OKだそうだ。それじゃあ公園に行こうか」
「こ、公園ですか?」
三人とも驚く。てっきりここでやるものだと思っていたのだ。
「ああ。外でやった方が楽しいだろう。
さあ、支度支度。早くしないと彼を待たせてしまう」
四人は急いで支度をすると近くの公園に向かった。
公園には既に始が待っていた。
嶋を除く三人が時間をかけすぎたのだ。
「始、すまない、待たせちゃったか?」
剣崎がフォローを入れる。
「いや、俺も今来た所だ」
どこぞのギャルゲーの様な会話。
しかしこんな会話ができるぐらい始も丸くなった。
そう剣崎は思い、少し感激した。
「さあ、まずは食事の準備だ。
近くに評判の鯛焼き屋があるらしいんだ。四人で買って来てくれないかな?」
笑顔で命令する嶋。
「鯛焼きですか? でも弁当は持って来てますよ」
睦月が質問する。嶋がにこやかに返す。
「食後のデザートだよ。君達が買って来ているうちにこっちも準備しておこう」
無茶苦茶なことを言っている気がすると全員が思った。
しかし、嶋の事だから考えがあるのだろうと思い起こし、素直に従った。
「あのさ、相川。この前はすまなかったな」
橘が謝罪する。橋落としの件についてだ。
「……あの事か。別にもう気にしていない」
始はそっけなく流した。
実はまだ怒っているんじゃないかと三人は勘繰った。
だが、それは杞憂だった。
「それと、俺のことは始でいい」
フレンドリーな雰囲気。怒ってないようだ。
「ああ。よろしく、あいk……じゃなくって、始」
そうこうやっているうちに鯛焼き屋についた。
「いらっしゃい! ウチの鯛焼きはうまいでぇ」
ジョウト訛りの店主。それとガールフレンドだろうか。
二人で切り盛りしているようだ。
まあ屋台だから何人もいても困るだけだろう。
「オススメは?」
「新製品のデリシャス鯛焼きや!」
なんだかやばそうなネーミング。
「と、とりあえず一個」
試しに買ってみる。美味かったらデザート用に大量買いしよう。
四人の結論はそうなった。
「はいお待ち!」
でかい。通常の3倍はある。
文句も言ってられないので少し摘まんで食べる。
「……うぇ!」
剣崎が倒れる。
「ま、まず……」
睦月が泡を吹く。
「…………っ」
始の足元がふらつく。踏ん張っているようだ。
「どうや、デリシャス鯛焼き! お客さんらが一号さんや」
とにかくまずい。その言葉が脳裏をよぎった。
そんな壊滅的な状況で唯一笑みを浮かべている男がいた。
男は美味そうに鯛焼きを噛み締めている。
もう一切れ、とちぎって食べる。
さらにちぎって口に放りこむ。
いてもたってもいられなくなり、ついにはこう言った。
「これ食ってもいいかな?」
「本当に美味いんですか!?」
全員で橘に突っ込みを入れた。
「だから言ったんや、オレンのみなんか混ぜるから……」
女性が店主に話しかける。
「大体、味見もしないで客に出すなんておかしーで」
ボロクソに言われている店主。
「せやけど、理論上サイコーの味になるはずなんや、未知」
女性は未知というらしい。
「もうええわ、了。お客さんに謝っとき」
店主……了は素直に剣崎たちに謝った。
「ま、別にいいですよ。えっと、それじゃあ……」
普通のください、剣崎はそう言おうとした。
しかしそれを阻む者が現れた。
「クェアァー!」
でっかいドードリオ。アンデッドポケモンだ。
「みんな伏せろ! ……ウワァァァァァ!」
ドードリオが橘を突き上げる。
そのまま背に乗せて走っていく。
「た、橘さぁん! 俺、追いかけます!」
睦月が橘、いやドードリオを追いかける。
「な、なんや今の」
了が一瞬の出来事にキョトンとしている。
「ちょっと変わったドードリオですよ」
剣崎がお茶を濁す。
「そうかそうか。で、お客さん何買うん?」
了が注文を聞く。
今度こそ、と剣崎が注文しようとした時、またもお邪魔虫が現れた。
「アッハッハッハ。見つけたぞ、噂の鯛焼き屋」
露出度の高めの服を着た女性。
ちょっとねじの外れた人だとその場の全員が思った。
次の瞬間、女性の姿は異形の者へと変わっていった。
「鯛焼き、貰おうか?」
パニックに陥る了と未知。
すかさず剣崎が飛び出し、上級アンデッドを牽制する。
「ば、化け物!?」
「いや、ちょっと変わった人間ですよ」
そう言いながら剣崎が始にサインを送る。
二人を連れて逃げろ、と。
幸い始はすぐに理解し、二人を連れてその場を離れた。
「あ、待て鯛焼き!」
追いかけようとした上級アンデッド――恐らくアンデッドハブネークを掴む剣崎。
「お前の相手は俺だ!」
アンデッドハブネークも戦闘態勢になる。
「いいだろう。準備運動にお前を倒しておこう」
「な、なんか今日は変なことばっかやな」
ぼやく了。
「この遭遇率は異常だ。何かあるんじゃないのか」
始が了に尋ねる。
「なんか? あっ、ポケモンマーチが流れとる!」
屋台のラジオからポケモンマーチが流れていた。
ポケモンを活性化させ、行動を活発にさせる曲。
慌てて電源を切る了。
しかし少し遅かったようだ。
本日三人目のお客様。
バクーダ。やっぱりアンデッドポケモン。
そのバクーダから"ロックブラスト"が放たれる。
「あぅ!」
近くにいた未知に当たる。気を失ったようだ。
「未知、未知! しっかりしろー!」
大げさに揺さぶる了。彼にとっては大事なのだろう。
そんな事お構い無しに始は戦闘を始めた。
「遅いねぇ、みんな」
ナチュラルに話しかける嶋。
4人はなかなか帰ってこない。
しかし特に気にも留めずにのほほんとしていた。
「あ、この卵焼きおいしい」
「うわぁぁぁ、うお!」
振り落とされる橘。同時に睦月も追いついた。
「橘さん! 援護します!」
睦月がオクタンを繰り出す。
煙幕がドードリオの視界を遮る。
その間に橘はニョロトノを繰り出した。
「一気に行くぞ、バブルこうせん!!」
オクタン、ニョロトノのダブル"バブルこうせん"。
三つの頭それぞれにダメージを与える。
ダメージはそれほどでも無く、ドードリオも反撃に移る。
右の首が"みだれづき"、左の首が"スピードスター"、そして中央の首が"ドリルくちばし"。
連続で繰り出される高速攻撃。
さらにフィニッシュは"トライアタック"。
オクタン、ニョロトノに多大なダメージを与える。
「くっ、クロバット! つばさでうつ!」
橘のクロバットが右の首に攻撃を行う。
睦月も新たにアーボックを繰り出し、左の首に"どくばり"で攻撃する。
しかし、中央の首から"はかいこうせん"が放たれ、二匹まとめて吹き飛ばされた。
「このままじゃ埒が明かない。睦月、奴の動きを止めろ!」
「はい、ブリザードゲイル!」
ダグトリオの"どろかけ"とリングマの"ふぶき"。
強烈な間接攻撃がドードリオの三本の首を封じた。
「トドメだ、バーニングディバイド!」
必殺の分身火炎攻撃。
二匹のホエルオーがドードリオの脳天を直撃した。
橘がカテゴリー4のプロパーブランクを投げつけた。
「やりましたね、橘さん」
「ああ、はやく戻らなきゃな」
二人は鯛焼き屋があった場所を目指して歩き出した。
剣崎はアンデッドハブネークに押され気味でいた。
「ヘラクロス、メガホーン!」
角が振り下ろされる。が、相手の尾のような左腕に絡めとられてしまう。
「甘い!」
さらに右腕の鉈でぶった切られるヘラクロス。
「こうなったら……ラウズアブゾーバー!」
左腕を掲げる剣崎、そしてベルトからボールを2つ取り出す。
「アブゾーブクイーン」
「フュージョンジャック」
2体の上級アンデッドの力を解放、ジャックフォームに移行する剣崎。
「リザードン!」
翼を得たリザードンが空中から必殺の斬撃を決める。
「あうぁ!」
吹っ飛ぶハブネーク。剣崎は容赦なく攻める。
「ライトニングスラァッシュ!」
オドシシの電撃がリザードンの尾に与えられる。
今回は趣向を変えて尾で薙ぎ払った。
壁に打ち付けられ、戦闘不能になるハブネーク。
「た、たいやk……」
剣崎はコモンブランクを取り出し、ハブネークを吸い込ませた。
「そんなに鯛焼きが魅力かねぇ」
始はサメハダーを繰り出し交戦していた。
「アクアジェット!」
高速の一撃がバクーダに激突する。
だが効果は薄いようだ。
「ならば、ハイドロポンプ!」
巨大な水流がバクーダに押し寄せる。
こちらもあまり効き目がないようだ。
「装甲が硬いのか? いや、違う」
確かにダメージは与えられている。
しかしその場で回復してしまうのだ。
通常のアンデッドポケモンを上回る回復力でダメージを無かったことにする。
これが今回の相手の能力のようである。
「どこかに弱点があるはず……」
攻撃を繰り返す始とサメハダー。
しかし弱点を突くことがなかなかできない。
「うおおおおおおおおおお!」
妙な声が聞こえたので振り返ると了がいた。
ただ、妙な衣装を着込んでいる。
ヘルメットに肩アーマー、さらにプロテクター。
胸には鯛焼きのマークが描かれている。
手には鯛焼き用の鉄板を所持している。
「アルティメットフォーム!」
名乗りをあげる了――アルティメットフォーム。
「スペシャルターボ! 未知の仇ぃ~!」
常人の2倍の速さでバクーダに突撃するアルティメットフォーム。
鉄板がバクーダのこぶを捉えた。
予想外の攻撃にたじろぐバクーダ。
鉄板を押し付けられて型が残っている。
その型はなかなか戻らなかった。
「そうか! サメハダー、あそこを狙え!」
始が指差したのはもう一つのこぶだった。
"アクアジェット"がバクーダのこぶを襲う。
今度は確かなダメージを与える事が出来たようだ。
体力回復も発動していない。
「こぶにエネルギーを蓄え、傷を癒していたようだな。
だが、これで終わりだ。スピニングダンス!」
上昇するヤドラン。高速回転しながらの"アクアテール"がバクーダを貫いた。
「カテゴリー9か」
始はバクーダを捕獲した。
「……ん、あっ、了」
未知が目を覚ます。
「未知ぃ~! 心配したでぇ!」
了は元の姿に戻り、屋台があった場所まで戻ってきていた。
「よかったですね、了さん」
橘、睦月も帰ってきている。
「お客さんらのおかげや。好きなだけ持ってって!」
「本当ですか!? ありがとうございます」
剣崎たちは両手に鯛焼きの入った袋を抱えて公園に戻った。
橘の袋にはあのデリシャス鯛焼きが入っていたのは言うまでも無い。
「あぁー!」
剣崎、睦月が素っ頓狂な声をあげる。
「やぁ、遅かったね」
嶋がにこやかに話しかける。
足元には空の弁当箱がちらほら。
「嶋さん、食べちゃったんですか!?」
橘も激しく動揺している。
「ああ、おいしかったんでね、つい。
まだいくつか残ってるから大丈夫だよ」
そうは言っても7割がた食べられてしまっている。
争奪戦になるのは明らかだった。
「ちょ、剣崎さん! 俺のカマボコ!」
「とったもんがちだ! ……あ、橘さん!」
「これ食ってもいいよな?」
「……付き合いきれんな」
なんだかんだで四人の仲は深まったようだった。
最終更新:2007年06月14日 19:22