「……小夜子!?」
小夜子が倒れている。橘は桐生を下ろすと小夜子に駆け寄った。
身体から血が流れている。傷は深そうだった。
「橘……君?」
小夜子は息絶え絶えに話しかけてきた。
もう手遅れ。橘は本能的にそう感じ取った。
「……ごめん、ね」
小夜子が橘に微笑みかける。今にも消えてしまいそうな命の灯火。
「謝らなきゃいけないのは俺のほうだ!俺は、俺は」
自分を責め続ける橘。小夜子を放っておかなければこうならなかった。
「……ありがとう」
小夜子の目が閉じる。手がガクリと落ちた。
「小夜子?小夜子!」
小夜子は目を開けない。息もしない。
橘は再び叫んだ。
前よりも大きく、長く。
橘の中で何かがはじけた。
死に直面して彼は生まれ変わった。
手が震える。恐怖心ではない。形容しがたい怒りで。
「伊阪ぁー!!」
研究所に乗り込む。手当たり次第機材をぶち壊す。
小夜子は橘にシュルトケスナーをやめるよう訴えていた。
それを疎ましいと思う存在は一人。伊阪しかいない。
実際、小夜子には火球を受けた傷があった。
橘は二人の死による怒りを伊阪へと向けた。
「どうした、橘」
伊阪が現れた。橘は無視してカイロスを繰り出す。
カイロスはシュルトケスナーの水槽を破壊した。
「どういうつもりだ?これが無ければお前は……」
「黙れ!貴様を捕獲する!」
橘の怒りが最頂点に達する。伊阪も状況を把握したようだった。
「そうか、アイツを殺したのが裏目に出たか。まあいい。
お前はもう用済みだ。俺の研究は完成しつつある」
長々と台詞を喋る伊阪に橘が不意打ちをかました。
「ホエルオー!」
ホエルオーが狭い研究室に繰り出される。
伊阪を吹き飛ばしながら壁に穴を開けた。
開いた穴から外に飛んでいく伊阪。
アンデッドペラップへと姿を変化させている。
「ニョロトノ、バルビート!」
追撃をかける橘。バルビートの火炎攻撃が伊阪の動きを封じる。
ニョロトノのきあいパンチがクリーンヒットした。
「んぐぁ!」
更に吹き飛ぶ伊阪。波打ち際に打ち付けられる。
バトルフィールドは海岸へと移行した。
始のケガは完治していた。
いつまでも居座るわけにも行かない。彼は天音の家から出ることにした。
その足で、始は伊阪の研究所のある森へ向かう。
伊阪を倒す。それが今の始の目的だった。
いつまでも負けっぱなしでいるわけにもいかない。
しばらく歩いていると人の悲鳴が森に響いた。
駆けつける始。そこにいたのは一人の男とメガヤンマ。
どうやらアンデッドポケモンようだ。男は既に息絶えていた。
始はストライクを繰り出す。
「きりさく!」
ストライクの高速攻撃がメガヤンマを捉える。
しかし紙一重で鎌の一太刀をかわされてしまう。
「つばめがえし!」
攻撃方法を変えてもう一撃。今度は命中する。
ここでメガヤンマも反撃に移る。
シグナルビーム。虫タイプの技だがストライクに確かなダメージを与えた。
「むしめがね、か」
特性のおかげである程度タイプ相性を無視できる。
さらに草むらから何かが飛びだす。ライボルト。
こちらもアンデッドポケモンだった。
スパークを喰らい気絶するストライク。
若干不利な状況、そこに見慣れた人物がやってきた。
「待てぇ!イノムー、じしん!」
イノムーの"じしん"が大地を揺らす。ライボルトがよろつく。
「あ、始!」
剣崎だった。ライボルトを追いかけてきたようだ。
「ちょうどいい。手伝え」
始は新たにモルフォンを繰り出す。
「おーけー!いけ、オドシシ!」
「でんじは!」
「ねむりごな」
それぞれが別の相手に技をかける。
メガヤンマはマヒし、ライボルトは眠りにつく。
「トドメだ、スピニングアタック!」
ヤドラン、そしてムクホークが飛び出る。
ムクホークはヤドランを抱えて急上昇、そして足を離す。
上空から回転しながらのヤドランの突撃が決まる。
メガヤンマが力尽き、地に堕ちた。
「必殺、ライトニングソニック!!」
剣崎もトドメにかかる。サワムラー、オドシシ、ペルシアン。
ペルシアンの高速のスピードをサワムラーが引き継ぐと
オドシシの電撃を纏いながらとびげりをぶち込む。
3匹のコンビネーションの技。
ライボルトは目を覚ます間もなく気絶した。
その後メガヤンマは始に、ライボルトは剣崎に捕獲された。
「始、何でこんな所に?」
一息ついた剣崎が始に尋ねた。
「伊阪を倒しにいく」
あっさりと一言。始はそれだけ言うと研究所に向かおうとする。
その時、ドォンと大きな衝撃音が響いた。
「な、何だ!?」
身構える剣崎。始は微動だにしない。
爆発が起きた様だ。しかもかなり大きいものだ。
「伊阪のトコの方だ!」
剣崎が走り出す。始もそれに続いた。
――海岸。橘の攻撃はやむことが無かった。
カイロスの"はかいこうせん"が伊阪に直撃する。
(小夜子……。君との思い出は……数えるほどしかないが……)
カイロスが引っ込むとクロバットが飛び出す。
"ブレイブバード"で伊阪の腹部目掛け突進するクロバット。
(君を思い出させるものは……数え切れないほどある……)
クロバットが引っ込む。ニョロトノが現れる。
"バブルこうせん"の応酬。伊阪は体勢を崩す。
(そして何より……何より君の笑顔が忘れなれない……)
ニョロトノの"きあいパンチ"。横に吹っ飛ぶ伊阪。
「バカな、下級ポケモンどもが、俺を上回るだと!?」
伊阪が予想できない状況に叫ぶ。
(遅いかな……。今頃になって言うのは……)
ニョロトノが戻る。再びカイロスが繰り出される。
カイロスは"つばめがえし"で追い討ちをかける。
(俺は、俺は、君のことが好きだった!)
伊阪の必死の反撃。火球攻撃。
しかしカイロスの"はかいこうせん"に相殺される。
(君の事を大切に想っていた!!)
伊阪は羽を広げ手裏剣状にして飛ばしてくる。
カイロスに変わりサンドパンが"どくばり"で防ぎきる。
さらにホエルオー、バルビート、ギャロップが繰り出された。
「小夜子ォーーーーーーーー!!!」
バーニングディバイドが伊阪――アンデッドペラップを打ちのめした!
地に伏せる伊阪。それにふらふらと近づく橘。
「俺が、お前ごとき……に……」
伊阪が気絶状態になる。橘はJと刻まれたモンスターボールを取り出した。
モンスターボールがスゥーと落ちてゆく。
伊阪はモンスターボールに吸い込まれていった。
海岸に立ち尽くす橘。その目はどこか虚ろだった。
最終更新:2007年02月09日 22:21