ポケモンセンター内。
アンデッドポケモンの使い手達がだべっていた。
「剣崎さん、また上級アンデッドポケモン捕獲したんですって?」
睦月が興味津々な顔をして尋ねる。
「ああ。始と協力してゲットしたんだ」
剣崎は始がアンデッドポケモンである事は伏せていた。
橘は二人も大切な人を殺されているし、睦月も苦い思い出しかない。
この二人に話せば今すぐ捕獲しろと言われるに決まっている。
「始? ああ、あのストライクの人ですか」
睦月も何度か会っているので記憶に残っているらしい。
「相川 始か。彼には悪い事をしたな。今度会ったら謝らないとな」
橘は始を橋から叩き落したことがある。
さすがに罪悪感を感じているのだろう。
唐突にアンデッドサーチャーが響く。
「出番だな、いくぞ!」
三人はポケモンセンターを飛び出した。
「あーあ、めんどくせーな」
男がアンデッドポケモンへと姿を変える。
「あいつらをおびき出すためとはいえ、いちいち暴れんのか」
ぶつくさ言いながら男が辺りを壊し始める。
すぐに剣崎達が駆けつけた。
「そこまでだ!アンデッドポケモン!」
「ようやく来たか。俺の名は大地。まぁ覚える必要もない」
大地と名乗った上級アンデッド。
ドンファンの始祖なのだろう、牙と長い鼻が特徴的だ。
「いけ、ヘラクロス!」
「カイロス!」「アリアドス、いけ!」
三人が一斉にポケモンを繰り出す。
「めんどくせえなぁっ!」
アンデッドドンファンが武器の鉄球を投げてくる。
"ジャイロボール"に似た一撃にアリアドスが吹っ飛ぶ。
「アリアドス! いとをはく!」
アリアドスが宙返りで着地をすると糸を吐き出した。
アンデッドドンファンの動きを封じる。
「今だ、カイロス、はかいこうせん!」
カイロスの必殺攻撃が放たれる。
しかしドンファンは糸を引きちぎると攻撃を回避した。
「まだだ! ヘラクロス、インファイト!」
ヘラクロスが隙を突いて突撃する。
力と力の戦い。競り勝ったのはドンファンだった。
投げ飛ばされるヘラクロス。
「ヘラクロスッ! うわ!」
投げられたヘラクロスが剣崎に激突する。
転倒する剣崎。
「なんだなんだ、大したこと無いなぁ」
アンデッドドンファンは肩をすくめて小馬鹿にする。
「くっ、カイロス、つばめがえし!」
高速で放たれる一撃。
しかしその攻撃さえも無効化される。
"まもる"。相手の技を一切受け付けなくなる。
「八方塞じゃないですか! どうするんです?」
思わず弱気になる睦月。
ザンッ
アンデッドドンファンの装甲を何かが切り裂いた。
「! 誰だ?」
そこに立つ影。そのシルエットは妙に刺々しい。
「ここは私が引き受けよう。君達は逃げたまえ」
「あんたは……一体?」
橘が疑問の声を上げる。
「じきにわかるさ。さぁ、早く!」
気絶している剣崎を抱えて三人は一旦退散した。
「さぁ、私が相手だ」
刺々しいシルエット。それは上級アンデッドポケモンのモノだった。
「貴様……まさかカテゴリーK!?」
アンデッドドンファンが驚きの声を上げる。
「さぁね。それじゃあ始めようか」
カテゴリーKの腕を中心に竜巻が巻き起こる。
そのままそれをドンファン目掛け投げつけた。
「ぐっ! 何故貴様が人間の味方をする!?」
「今の彼らじゃ、ちょっと厳しそうなのでね」
カテゴリーKが肉弾戦に持ち込む。
アンデッドドンファンも善戦するが、先ほどと打って変わって押され気味だ。
「ちっ、貴様が出てくるとは計算外だった」
鉄球を振り回すと距離を取るドンファン。
「逃げるのかい? 止めはしないよ」
余裕のカテゴリーK。
アンデッドドンファンのプライドにダメージを与える。
「ふん……面倒事は嫌いなんでな」
ドンファンもその場から立ち去った。
「さて、行くとしようか」
カテゴリーKは人間の姿に変わると歩き始めた。
ボロボロになった三人はひとまず無人の小夜子の家に着いた。
「ここでケガの手当てをしよう」
剣崎の受けたダメージは大したことなく、処置はすぐに終わった。
「今の状態じゃ俺達勝てませんよ」
睦月が本音を言う。どうもネガティブに考える癖があるらしい。
「全部のポケモンたちを使えばあるいは……」
橘も勝つ為にいろいろ悩んでいる様だ。
「俺達が倒さなきゃ誰が倒すんだ! 俺達がやらなきゃならないんだ」
剣崎が声を張り上げる。
急に扉が開く。
「やぁ。剣崎一真君はいるかな?」
風変わりな男が立っていた。バンダナに鈴の音。
「あんたは……?」
剣崎の名を知っている上、ここにいることを知っている。
只者ではない事だけは確かだった。
「私の名前は嶋 昇。この子はカナリアのナチュラル」
そういって持っていた鳥かごを皆に見せる。
「何者何だよ?」
「烏丸所長の知り合いと言えばわかってもらえるかな?
彼とはチベットで知り合ったんだ」
今度は懐から一枚の写真を取り出す。
そこには嶋と烏丸が一緒に映っていた。
「信じて……いいみたいですね」
三人はひとまず彼への警戒を解いた。
「そうそう、彼から預かってきた言葉があるんだ」
その言葉に目を輝かせる三人。
「本当ですか!?」
「あぁ。じゃあ言うよ。
「たくましくあれ。そしてひるむことなかれ。絶望の後には必ず希望が来る」
終わり」
あまりに抽象的かつ普通のことに三人はどう反応してよいのか迷った。
「それだけ、ですか?」
睦月が恐る恐る尋ねる。
「ん、それだけ」
訪れる沈黙。
「あ、それから一つ言っておこう。しばらくはここを前線基地にするといい」
他人の家だというのにまるで自分の家の様に話す嶋。
「はぁ」
三人はよくわからないといった表情を浮かべた。
「あら、随分と傷を負ったみたいねー。荷が重かったかしら?」
傷を負った大地にみゆきが話しかける。
「ふん、カテゴリーKとやりあったんだ。トレーナー共は大した事ない」
カテゴリーKの名を聞いてみゆきの眉間に皺が寄った。
「ふーん、そう。Kが出てきたのならしょうがないわね。
でもまぁ、引き続きトレーナーの始末お願いね?」
どうやら今度は大地と手を組んだらしい。
自分はなるべく戦わずに勝利を得ようとする。
この手の戦いには、一人はこういう奴がいるものだ。
「またカテゴリーKが出てきたらどうする?」
圧倒的な力を持った大地が妙に控えめな発言をする。
それほどまでにカテゴリーK――最強のアンデッドポケモンは強力な存在なのだ。
「心配ないわ。今回は私もついて行く。Kが出たらひきつけてあげる」
その言葉を聞いて安心したのだろう、大地は口元を緩めた。
「あ~あ、めんどくせぇな。ま、仕方ねぇか」
再び上級アンデッドが動き出そうとしていた。
すっかり嶋は家に居ついていた。
「あの、嶋さん。アンデッドポケモンに勝つ方法ないですか?」
剣崎がいてもたってもいられなくなり、妙な事を口走る。
「今の君じゃ無理だ。あのアンデッドドンファンには勝てない」
剣崎、そして残り二人の顔が険しくなる。
剣崎はアンデッドポケモンとしか言っていない。
それなのに嶋は、まるで剣崎が戦っていた所を見ていた様に「アンデッドドンファン」と言ったのだ。
「嶋さん、あなた一体……」
橘がそこで言葉を詰まらせる。
「君達は戦う事を義務だとか使命だとか思っている。
それでは力は出せない。勝利することなど出来ないだろうね」
嶋は答えを言わず、示唆しようとしていた。
しかし三人にはそれが理解できなかった。
理解しようと思えなかったのだ。
「そんな事より! 何故あなたがアンデッドドンファンの事を?」
剣崎が詰め寄る。睦月も立ち上がり嶋を見つめる。
「ふぅ、私としたことが。つい言葉を滑らしてしまったか」
そう言うと嶋はちょっと下がって、と手で合図した。
仕方なくそれ応じる三人。
嶋の姿が変化していく。それは見覚えのあるものだった。
「上級アンデッド!? 嶋さんあんた……!」
睦月が怒りをあらわにする。今ここで戦ってやると言わんばかりだ。
「待て、睦月。……やはりそういうことか。
彼は先ほどの戦いで俺達を助けてくれた」
橘が睦月をいさめ、自分の思っていたことを暴露した。
「察しがいいね。私はカテゴリーKのアンデッドポケモン。
アンデッドアリアドスだ」
改めて自己紹介をするアンデッドアリアドス。
「アリアドス……? 睦月のカテゴリーAも……」
剣崎が疑問を呟く。同一種族が何故?
「カテゴリーAとKは表裏一体。私も彼もアリアドスだ。
ただ、私は戦いに勝利しようと思う気持ちが起きなくてね」
嶋のあっさりとした状況説明。
しかしそれでは解説には至っていない。
「そんなもの信用でk……」
アンデッドサーチャーが鳴り響く。
再びアンデッドドンファンが現れた事を知らせる。
「いくぞ、睦月。剣崎は彼を見張っていろ」
橘は睦月をつれて現場に急行した。
「……嶋さん。俺、正直アンデッドポケモンの事がわからないんです。
アンデッドペラップや下級アンデッド、アンデッドキレイハナみたいな悪い奴もいる」
嶋は無言のままだ。
「でも、矢沢って奴は一対一を守るため、俺を庇ったりもした。
それに……始も……あいつもアンデッドポケモンだって言っていた。
でも、俺はあいつの事信じたい。だから……」
嶋が目を閉じる。そして開く。
「行きたまえ。剣崎君。今の君なら勝てるかもしれない」
「はい! あ、これだけ言わせてください。
俺はあなたのこと、信じてみたい!」
それだけ伝えると剣崎は外へ飛び出した。
「そこまでだ、アンデッドポケモン!」
橘、そして睦月が駆けつける。
「一人足りんな。楽に片付けてやる」
アンデッドドンファンが鉄球を投げつける。
「舐めるな! サイドン、弾き返せ!」
睦月がサイドンを繰り出す。
サイドンは鉄球を掴むと投げ返した。
「ならこれはどうだ!?」
ドンファンが"こおりのつぶて"を飛ばしてきた。
高速で飛来するいくつもの氷塊。
「ギャロップ、でんこうせっか!」
橘はギャロップを繰り出した。
ギャロップは高速で移動しながら全ての氷塊を溶かして回った。
「少しはやるみたいだな。次はこれだ」
強烈な地面の震動。"じしん"だ。
その攻撃に二人とも立っていられなくなる。
ギャロップも、サイドンも気絶してしまう。
「く、くそ! こいつまだこんな技を!」
「大丈夫ですか、橘さん! 睦月!」
剣崎が駆けつける。
「ようやく三人か。まとめて倒してやる」
ドンファンが鉄球を再び構えた。
その頃、近くの藪にはアンデッドキレイハナが潜んでいた。
「今回も来るのかしらねぇ? カテゴリーK」
退屈そうに独り言をつぶやくキレイハナ。
「さぁな」
突然の相槌。戦慄が走る。
「誰!?」
そこに立っていたのは、相川 始だった。
「かくれんぼか? 鬼は誰だ?」
ジョークを挟みながら始がポケモンを繰り出す。
「あなた……! こんな所で出会うとはね!」
キレイハナの"はなびらのまい"。
しかし始の繰り出したポケモン……モルフォンにはほとんど効果ない。
「対策は立ててある。貴様が攻撃に手を加えても無駄だ」
モルフォンが"ぎんいろのかぜ"で反撃する。
「"りんぷん"か、この!」
キレイハナが火炎弾で攻撃する。
植物系だというのに無茶苦茶な攻撃パターンだ。
「この辺の草にはオッカのみがなってるのよ。知ってた?」
またもネタばらし。この辺が策士としてやってはいけない所だ。
本人の自信から来ているのだろうが、そのせいで始はすぐに攻撃に気づく。
「"しぜんのめぐみ"。小賢しい手段だな。だがこれでどうだ?」
始がポーズを取ると本人の力で技を発動させた。
「な……。これは、"さしおさえ"!?」
"しぜんのめぐみ"は手にした木の実の力を解放して攻撃する。
道具の使用を"さしおさえ"てしまえば技は発動しない。
形勢はあっという間に傾いた。
始は新たにストライクを繰り出す。
「つばめがえし!」
確実に、そして大ダメージを与える。
連続攻撃を受け、キレイハナの体力は底をつきた。
「チェックメイトだ。スピニングウェーブ!」
ムクホーク、サメハダーの多段攻撃。
ふらつくキレイハナに直撃する。
「馬鹿な、私が!?」
お決まりのセリフ。つい言ってしまうのだろう。
「お前の負けだ!」
素早くモンスターボールを投げる始。
「Q」のプロバーブランクがアンデッドキレイハナを吸い込んだ。
「お前ごときが俺に勝てるはずがない」
始はもう一つの戦いには気づかずに立ち去った。
剣崎が来ても状況は進展しなかった。
アンデッドドンファンの攻撃に追い詰められる3人。
「そろそろ終わらせるか……」
ドンファンが鉄球を投げつける。
「ケンタロス、弾き返せ!」
ケンタロスが磁力で鉄球を弾き返した。
しかし更なる問題が起きた。
「! 人が!」
弾き返した方に逃げ遅れた人がいたのだ。
「くそ!」
走り出す剣崎。
「け、剣崎!?」
剣崎は二人の制止も聞かずに割って入った。
「痛ぅ! ……大丈夫か?」
剣崎が助けた少年に声をかける。
剣崎本人はカブトを瞬時に繰り出してはいたが鉄球ごと吹き飛ばされていた。
剣崎は自分を盾にしても人を守ろうとしたのだ。
「は、はい、ありがとうございます!」
礼を言うと安全なところまで逃げ出す少年。
それを見て剣崎は何かに気づいた。
「俺、何か分かった気がする。
俺の体を動かすのは、義務とか使命じゃない」
立ち上がり、アンデッドドンファンを見据えて話す剣崎。
「そこに居る人を守りたいという思い…。人を愛しているから俺は闘っているんだ」
さらに言い放つ剣崎。
その気に思わずたじろぐアンデッドドンファン。
「剣崎……」
「剣崎さん……」
睦月、橘も彼の言葉に何か感じたのだろう。
「そうだ、それだよ剣崎君!」
どこからか声がする。嶋の声だ。
後ろを振り返ると彼の姿があった。
「剣崎君!」
嶋が何かを投げる。機械のような何か。
「それが烏丸所長から預かったもんだ!
ラウズアブゾーバー、今の君なら使いこなせる!」
嶋の言葉にうなずく剣崎。
アブゾーバーを左腕にとりつける。
カテゴリーQ アンデッドモココをセット。
「アブゾーブクイーン」
無機質な音声が戦場に響き渡る。
さらにカテゴリーJ アンデッドオニドリルをセット。
「フュージョンジャック」
もう一度アブゾーバーが音を出す。
それと同時に剣崎のモンスターボールが輝きだす。
剣崎は迷うことなくカテゴリー2 リザードを繰り出した。
ラウズアブゾーバーが吸収したモノ。
それはオニドリルの飛行能力だった。
翼の力が剣崎に、剣崎のポケモンたちに授けられる。
「いけ、リザード! いや、リザードン!」
リザードに翼が生える。それはまさしく一つの進化。
リザードはリザードンとなったのだ。
翼を羽ばたかせ、飛翔するリザードン。
「ドラゴンクロー!」
龍の一太刀がドンファンに振り下ろされる。
強大な力の前にどうする事もできないドンファン。
「馬鹿な……!?」
闇雲に攻撃するがリザードンは再び空へと舞い上がっていく。
「これで決める。ライトニング、スラッシュ!」
オドシシの電撃を纏い、リザードンがドンファン目掛け突撃する。
ドンファンは抵抗するがすれ違いざまに最大の一撃を喰らう。
崩れ落ちるアンデッドドンファン。
タイプ相性だとかそんなモノが通用しない、圧倒的な力の差。
剣崎はコモンブランクを取り出し、ドンファンに投げつけた。
「これが……ジャックフォームの力……」
新たなる力。その名はジャックフォーム。
最終更新:2007年06月14日 19:21