剣崎はポケモンセンターに帰還していた。
「この辺にアンデッドポケモンたまっているなぁ、もうちょいここに留まるか」
無意識のうちに呟いていると始が話しかけてきた。
「当たり前だ。アンデッドポケモンはバトルファイトに勝利する必要がある。
逃げてばかりでは勝ちなど掴めん」
剣崎の呟きを聞いていたのだろう、するどいツッコミを入れる。
「うぉ、始。何だ、バトルファイトって」
始に驚きつつもさほど気にせず聞き返す剣崎。
本人は友達と思っているようだ。当の始は何も思ってなさそうだが。
「何だそんな事も知らないのか。よくこれまでトレーナーをやってこれたな」
剣崎はその言い草に少々ムッとした。しかし、すぐに始は話始めた。
「バトルファイトで勝ち残った時、全知全能の力が与えられる。
勝利条件は簡単だ。全員が戦闘不能になればいい」
始の解説に耳を傾ける剣崎。一つ疑問を持ったようだ。
「でもさ、アンデッドポケモンは不死な上に回復スピードも速い。
完全に倒す事は不可能なわけだ。そうすると捕獲することになる。
でも、このモンスターボールでしか捕獲できないだろ?」
長いセリフを一気に喋ったせいでため息をつく剣崎。
その質問に始が答えようとした時、外で悲鳴が聞こえた。
素早く飛び出す剣崎、そして始。
外ではアンデッドポケモンであるスピアーが女性を襲っていた。
リザードを繰り出す剣崎。始はサメハダーだ。
「かえんほうしゃ!」
「つじぎり」
二匹の攻撃がスピアーにヒットする。
スピアーはたいした反撃もせずに逃げ出した。
「大丈夫ですか?」
女性に駆け寄る剣崎。
「はい、なんとか……。助けてくれてありがとうございます」
女性は笑顔で剣崎に礼を言った。
「私、吉永 みゆきっていいます。あの、お礼がしたいんですけど」
剣崎も笑って返事をする。
「俺は剣崎 一真。俺になんていいよ、人助けは当然の事だから」
するとみゆきはポケナビを取り出した。
「そうですか。でも何かの縁ですし、ナビに登録しあいましょうか?」
特に気にせずに剣崎はナビにみゆきの番号を登録した。
「何かあったら呼んでね!」
そう言うと剣崎はみゆきと別れた。
その一部始終を見ていた始は何か気にかかっていた様だった。
みゆきと別れた剣崎は給料引き落としのためATMに向かった。
一応剣崎もBOARD職員である。BOARD崩壊後もどこからか給料は出ているようだ。
途中に通る路地裏で少年が倒れていた。よく見ればレンゲルの少年だった。
「お、お前は!」
思わず身構える剣崎。しかし睦月は予想外の行動に出た。
「ここ、どこですか? もしかして、俺また奴に……」
レンゲルの支配が弱まっている。睦月の意思で行動しているようだ。
「カテゴリーAじゃないのか……? 君、名前は?」
「上城 睦月です。……コイツの事、知ってるんですか?」
アリアドスの入ったボールを取り出す睦月。
「あ、ああ。そいつは君の身体を乗っ取って行動している。
できれば手放した方がいい」
身振り手振りを交えて睦月に事を伝える剣崎。
「でも、捨ててもいつの間にか帰ってくるんです。
だから……コイツを使いこなせるようになりたい」
睦月の意志を聞いた剣崎はアドバイスをし始めた。
「そうか。じゃあまずは心を強く持て。操られたりしちゃダメだ。
それから、体力を付けること。強い身体に正義の心は宿るんだぜ!」
剣崎の話をきょとんとした顔で聞く睦月。
剣崎はそれだけ言うと、「じゃっ」、と去っていった。
翌日。
剣崎のポケナビに連絡があった。
みゆきが食事を一緒にしないか、と言ってきたのだ。
そういうわけで剣崎は待ち合わせ場所の自然公園に向かった。
みゆきは既に待ち合わせ場所に来ていたようだ。
剣崎に気づくと手を振ってアピールする。
剣崎が足を走らせると突如レンゲルが現れた。
レンゲルは糸を飛ばすとみゆきの動きを封じた。
「睦月、お前!」
叫ぶ剣崎。モンスターボールに手をかける。
「待て。動けばこいつの命は無い」
「剣崎さん、助けて!」
そう言われ、手を離す剣崎。
「いい心がけだ。次はモンスターボールを置いてもらおうか」
剣崎がベルトを外し、地面に置く。
睦月――レンゲルが近づいてくる。
「変な真似するなよ?こいつの命がかかっているんだからな」
剣崎が歯がゆさに身を震わせていると始が現れた。
「何をしてる、そいつはアンデッドポケモンだ」
みゆきを指差して叫ぶ。驚く剣崎。
「昨日は確証が持てなかったが、間違いない。
奴は上級アンデッドだ」
始にネタバラしをされるとみゆきは笑い始めた。
「ウフフフフ。バレちゃ仕方ないわねぇ」
みゆきの姿が変化していく。
キレイハナの始祖、アンデッドキレイハナ。
それがみゆき本来の姿だった。
剣崎が怒りをたぎらせる。
「お前、よくも騙したな!」
アンデッドキレイハナは気にもせず
「騙される方が悪いのよ」と言い放った。
「作戦失敗か。どうせこんなもんだと思ったがな!」
レンゲルが剣崎に仕掛ける。
剣崎がヘラクロスを繰り出した。
「睦月、お前まで! アンデッドに負けてしまったのか!?」
剣崎の声は届かない。レンゲルの糸がヘラクロスを襲う。
始はアンデッドキレイハナと対峙していた。
「騙まし討ちか。趣味が悪いな」
ストライクを繰り出す始。
「ハッ。勝てればいいのよ」
"はなびらのまい"を繰り出すキレイハナ。
ストライクへのダメージはあまり無いようだ。
「無駄だ。そんな攻撃など……ん?」
ストライクが麻痺し始める。
本来はなびらのまいにマヒ効果などは無い。
「しびれごなを上乗せしてやったのよ」
勝ち誇るように言うキレイハナ。
「本当に趣味が悪いな」
「やめろ睦月! 落ち着くんだ!」
必死に説得を試みる剣崎。しかしレンゲルは聞き入れない。
「俺はレンゲルだぁッ!」
棒状の武器を取り出すと剣崎に振り下ろす。
寸でのところでヘラクロスが割って入り、跳ね返す。
「心を強く持て! 正義の心を忘れるな!」
剣崎は叫び続ける。ヘラクロスも剣崎のサポートをする。
「正義の……心ぉ? くだらんな!」
棒を振り回すレンゲル。ヘラクロスが"メガホーン"で受け止める。
「睦月、アンデッドなんかに負けるな!」
剣崎の度重なる説得を受け、レンゲルの動きが止まる。
「オレは、オレは、えええい出てくるな!」
頭を抱えてのた打ち回るレンゲル。
それを見た剣崎は駄目押しをする。
「心を強く持て! アンデッドの支配なんてぶち破れ!」
絶叫するレンゲル。衝撃波が周りの草木を揺らした。
「オレは、オレは、上城 睦月だぁっ!」
宣言する睦月。その目には正義の心が宿っていた。
「やったな、睦月!」
剣崎が安堵していると草むらからサワムラーが飛び出してきた。
以前解放された奴だ。睦月が前に出る。
「コイツは俺がやります!」
スピアーを繰り出す睦月。
「ダブルニードル!」
鋭い針がサワムラーを狙う。サワムラーは一発目を避ける。
しかし左からの一撃を受け、膝をついた。
「とんぼがえりだ!」
スピアーの尻の針がサワムラーに命中する。
そのままスピアーがボールへと戻っていく。
「今です、剣崎さん!」
剣崎がリザード、オドシシを繰り出す。
「ライトニングスラッシュ!」
電撃を纏った鋭い爪がサワムラーを切り裂く。
ボールを投げる剣崎。オドシシに続き、サワムラーも再捕獲された。
一方、始の方もいい展開で進んでいた。
新たに繰り出されたムクホークが空を裂く。
キレイハナは追い詰められていた。
「まずい状況みたいね。レンゲルを当てにしたのが間違いだったわ」
再び"はなびらのまい"を発動させるキレイハナ。
今度は攻撃ではなく撤退するためだ。
花吹雪がおさまった時、そこに残されていたのは始とムクホークだけだった。
「逃がしたか」
始もそれだけ呟くと姿を消した。
戦い終わって、帰り道。
「睦月、お前これからもやれそうか?」
剣崎の問いかけに睦月ははっきりと答えた。
「はい、コイツにはもう負けません」
二人は笑いあいながら公園から立ち去った。
最終更新:2007年03月04日 03:59