橘はシュルトケスナーの水槽の中で目を覚ました。
伊阪が近づいてくる。
「お目覚めのようだな。桐生から伝言だ。北西の草原で待つ」
既に桐生は外に出ていたらしい。橘も準備をする。
「人間とは面倒くさい生き物だな」
伊阪が嘲笑する。橘は無言で外へ出た。

「橘君!」
橘が研究所外に出た途端、小夜子がやってきた。
「どいてくれ。俺にはやらなきゃならないことがあるんだ」
小夜子を手でどけると橘は草原の方へ向かう。
「嫌、もうやめて!これ以上戦ったらあなたの体は!」
小夜子が再び割って入る。
「俺は……変わったんだ!」
小夜子を軽く振り払うと橘は駆け出した。
追いかけようとする小夜子。しかし追いつけずその場にへたり込んだ。


「待っていたぞ、橘!」
橘が草原に着いた時、既に桐生が待ち構えていた。
「お前と戦えるなんてな、面白い」
桐生はこの戦いをゲームの様なものと認識しているらしい。
この一言が橘の心に火をつけた。
「俺は、アンタを倒す!」
カイロスが繰り出される。向こうはアリアドスだ。
「全力で来い!」
己の信念を懸けた戦いが始まった。



「カイロス、つばめがえし!」
カイロスがアリアドスに接近する。
「どくどくだ!」
突っ込んできたカイロスに向かってアリアドスが"どくどく"を放つ。
カイロスが猛毒を浴びて、勢いを失う。
「くっ、戻れカイロス!ギャロップ行け!」
カイロスを引っ込めるとギャロップが現れる。
「一撃で決める、フレアドライブ!」
ギャロップが焔を纏って突進する。直撃を受けたら即気絶だろう。
「アリアドス、ふいうち!」
アリアドスがギャロップを超えるスピードで攻撃を仕掛ける。
ギャロップはダメージを受けたがそのまま突っ込んだ。
倒れるアリアドス。ギャロップも反動を受ける。
「やるな、橘。次はコイツだ」
アーボックが飛び出す。
「ギャロップ、戻れ!ニョロトノ!」
橘はダメージの大きいギャロップを戻すと新たにニョロトノを繰り出した。



特訓中の剣崎は野生のアンデッドポケモンと戦闘していた。
相手はこの前逃がしたペルシアンだった。
「ヘラクロス、インファイト!」
強力な技が炸裂する。ペルシアンは回避行動をとったが完全には避けきらなかった。
「このまま押し切る!もう一度インファイトだ!」
再びヘラクロスが突撃する。しかし今度は完全に見切られてしまう。
それどころか隙を突かれて"きりさく"をまともに受けてしまった。
急所を狙った一撃にヘラクロスがダウンする。
「ヘラクロス!リザード、頼んだ!」
リザードが飛び出す。二匹がにらみ合う。
「きりさく!」
両者のツメが激しくぶつかり合う。ペルシアンが若干優勢だった。
「まだだ、オドシシ!ライトニングスラッシュ!」
オドシシを追加で繰り出すとコンボ技を発動させる。
電撃を纏ったツメはペルシアンを吹き飛ばした。
柔軟なペルシアンには麻痺の追加効果は期待できないがダメージは十分だった。

「リザード、追い詰めろ!かえんほうしゃ!」
リザードが火を吹く。が、ペルシアンは攻撃をかわすと一気に距離を詰めた。
相手の"きりさく"が直撃する。リザードが倒れる。
「くそ、奴の動きを封じなきゃ……。行け、カブト!」
リザードを戻すと新たにカブトを繰り出す。
ペルシアンが続けて"きりさく"。しかしカブトに効果は薄い。
「マッドショット!」
泥の一撃。ペルシアンがよろめく。
一旦距離を置こうとしたペルシアン。だが動きが鈍い。
「もう一発マッドショット!」
次々に泥の塊が放たれる。当たるたびに動きを鈍らせるペルシアン。
「これでトドメだ!げんしのちから!」
カブト最大の技がぶち当たる。猛攻を受け倒れるペルシアン。
そのままモンスターボールに吸い込まれる。
「ペルシアン、ゲットだぜ!」



「ニョロトノ、サイコキネシス!」
アーボックに強烈な念波が襲い掛かる。
技を受けたアーボックがのた打ち回る。効果は抜群の技だ。
「やるなぁ、リングマ!ブリザードクラッシュだ!」
桐生はリングマを続けて繰り出しコンボを命じた。
リングマの"れいとうビーム"とアーボックの"こおりのキバ"。
二つの凍気が一つになってニョロトノに迫る。
「効果は今ひとつ。まだいける……!?」
ダメージはそこまでない。しかしニョロトノは氷漬けになっていた。
「もらったぞ、かみくだく!」
氷ごと砕かれるニョロトノ。当然戦闘不能になった。

「さすが桐生さん。だが負けるわけには行かない!」
橘は引っ込めたカイロスを繰り出した。
「猛毒をくらった状態でできることなんて……」
桐生が余裕の表情でアーボックに攻撃を指示しようとする。
「からげんきっ!」
カイロスが突撃する。毒の痛みを忘れたような動きでアーボックを襲う。
直撃だった。アーボックは地面に突っ伏した。
「な! 止めろ、リングマ!」
リングマが飛び出す。しかしカイロスの勢いは止まらない。
「もう一撃!」
再び"からげんき"をくりだす。リングマも吹き飛び、気絶した。
ここで毒が完全に回りカイロスも倒れた。
「やはりこうでなきゃな。さぁ、次のポケモンだ!」



始は天音の部屋で目を覚ました。
「ここは……?」
視界に天音が入る。始は状況を認識した。
自分は橘に吹き飛ばされたが誰かに助けられ、ここに連れて来られた。
連れて来たのは大方剣崎だろう。そんな事を考えていると天音が声をかけた。
「大丈夫? 始さん」
とりあえず始は反応する。
「ああ……。剣崎がここに連れて来たのかい?」
「うん、ここは私の部屋。あ、飲み物買ってくるね」
天音が家から出ようとする。
その時始がアンデッドポケモンの気を感じ取った。
「……ダメだ。家から出ちゃいけない」
そういうと始は起き上がる。本人は外に出る気だ。
「え、うん。わかった」
不思議に思いながらも天音は部屋に残った。


「お前か、敵意むき出しでうろついている奴は」
アンデッドポケモンの一匹、ヤドラン。
天音の家の前に堂々と立っていた。
「俺に用があるんだろう、相手になってやる」
そういうとストライクを繰り出す。
「シザークロス!」
鋭い一撃。しかしヤドランは尻尾で受け止める。
「ほう。ならこれはどうだ?スピニングウェーブ!」
ストライクが引っ込むとサメハダーとムクホークが現れる。
ムクホークの起こす風を利用してサメハダーの"つじぎり"。
今度も尻尾で受け止める。強固なシェルダーが攻撃を弾く。
さらに反撃とばかりにアイアンテールを叩き込む。
強烈な一撃に倒れこむサメハダー。ヤドランはピンピンしている。



「面白い。コイツを使わせてもらう」
始はサメハダーを戻すとドラピオンを繰り出した。
「ツボをつく」
ドラピオンの特殊防御力が大きく上った。ヤドランは水の波動を繰り出した。
攻撃はあまり効いていない様だ。
「ツボをつく」
ドラピオンの回避力が大きく上った。ヤドランは水の波動を繰り出した。
ドラピオンは攻撃をかわす。
「ツボをつく」
ドラピオンの防御力が大きく上った。ヤドランはアイアンテールを繰り出した。
しかし大きなダメージにはならない。
「ツボをつく」
ドラピオンの攻撃力が大きく上った。ヤドランはアイアンテールを繰り出した。
攻撃を再びかわしたドラピオン。ここで始が指示を変える。

「きあいだめ、だ」
ドラピオンの精神が研ぎ澄まされる。相手の急所を狙う体制になった。
「遊びは終わりだ!つじぎり!」
急所を狙う一撃。"きあいだめ"によってその精度は大きく上昇していた。
尻尾を使って受け止めようとするヤドラン。しかし失敗に終わる。
"スナイパー"の特性を持つドラピオンに急所を突かれることは、敗北することであると言ってもいい。
思いっきり倒れるヤドラン。始はボールを投げつけた。



新たに繰り出されたスピアーとクロバットがぶつかり合う。
「かげぶんしんだ、スピアー!」
桐生の指示でスピアーが分身を作り出す。
「くろいきり!」
クロバットの黒い霧が分身をかき消した。
「ブレイブバード!」
クロバットはどんなに視界が悪くとも攻撃を当てられる。
霧を貫いて飛行タイプ最強の技が炸裂する。
スピアーが墜落する。桐生はスピアーを戻す。

「そろそろ手駒が少なくなってきたな……。っ!?」
桐生が倒れこむ。何か呻いている様にも見える。
「桐生さん!? どうしたんですか!?」
橘が駆け寄ろうとすると、桐生はゆっくりと立ち上がった。
「続けようか、タチバナ」
声が二重になって聞こえる。目の色もおかしい。
「桐生さん……?」
「キリュウじゃない。俺はアンデッドアリアドス――レンゲルだ」
橘も驚きの発言だった。
「桐生さんを……乗っ取ったのか!?」
「そうなるかな、ふん!」
桐生の手から蜘蛛の糸が飛び出る。
クロバットは地面に突き落とされる。そのまま気絶した。
「さあ、止めてみろ。そうしないとお前が死ぬぞ?」
レンゲルの挑発。橘は戸惑いながらサンドパンを繰り出す。



「はぁ!」
人間とは思えない動きでレンゲルが飛び掛る。
「サンドパン、きりさく!」
攻撃を受け一旦離れるレンゲル。
「一撃で……終わらせます、桐生さん」
ホエルオー、バルビート、ギャロップが繰り出される。
レンゲルはコンボの妨害をしようとするが、
サンドパンの"どくばり"によって動きを封じられる。
「バーニングディバイドォッ!!」
三匹の合体攻撃がレンゲルを叩きのめした。
「ぐおぅあっ!」


桐生に駆け寄る橘。アリアドスの意識は既にいなくなっているようだった。
「大丈夫ですか、桐生さん!」
桐生は傷だらけだったが死んではいなかった。
「なんとかな……。!? 橘、避けろ!」
そう言いながら桐生が橘を突き飛ばした。
橘は何が起きたか分からなかったが、目を開けてすぐ理解した。
上級アンデッドポケモン。何かは判断できなかったが、そいつが桐生の腹を貫いていた。
「ち、しくじったか」
アンデッドポケモンは桐生を投げ飛ばすと姿を消した。
「桐生さんっ!!」
投げ飛ばされた桐生に近づく橘。
桐生はゆっくりと喋りだした。
「橘……。お前はさ、真面目すぎるんだよ」
橘は何も言わない。ただ泣きそうな顔で桐生を見つめる。
「……もっと、バカになれ」
桐生はそう言うと息を引き取った。

一人残された橘は叫び続けた。

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最終更新:2007年02月02日 23:59