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伊阪の研究所に辿り着いた剣崎たち。
「これは……」
思わず驚きの声を上げる始。剣崎も同様に驚いている。
「とにかく、中に入ろう」
二人は研究所内に足を踏み入れた。
橘が破壊した道順で歩いていくと二人の目に巨大な穴が入った。
そこから外を覗くと橘が佇んでいた。

「橘さん!? どうしてここに!?」
とりあえず驚く剣崎。
始は以前の事からか、橘を鋭く睨みつけた。
「ああ……剣崎か」
上の空な橘。
始の態度も気にしていないようだ。
「研究所をやったのはお前か?」
始が口を開く。目つきは変わらぬままだ。
「ああ、そうだよ。伊阪も捕まえた」
けだるそうにボールを見せる。
橘一人で上級を捕獲。この事に二人は衝撃を隠せなかった。
「さすが橘さんじゃないですか! やっぱ一流だなぁ」
その言葉に特に反応も見せない橘。
そして突然妙な事を言い出した。



「そうか……。これ、お前にやるよ」
橘がモンスターボールをセットしたベルトを差し出す。
Aはもちろん橘の所持ポケモン全てがセットされているモノだ。
「もう……戦う気にはならないんだ」
それだけ言うと橘は研究所の方に歩いていった。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよダディヤーナザン!」
追いかける剣崎。始もそれに続く。


研究所外まで出た橘。放置してあった桐生の亡骸を見る。
「……無い、モンスターボールが」
橘が剣崎に渡したベルト。それと同じモノを桐生もしていた。
しかし今はそれが無くなっている。
「まぁ、今の俺には関係ないことか」
そう呟いたところで剣崎が追いついた。
「橘さん、トレーナーやめるんですか!?どうして!」
橘は何も言わない。何も言わずに桐生の亡骸を抱える。
そしてどこかへと行ってしまった。
「……橘さん」



少年は興奮していた。
森に散歩をしにいったら人が倒れていた。
よくよく調べて見るとベルトにモンスターボール。
そのモンスターボールが自分に向かって話しかけてきた。
お前を変えてやろう、と。
少年は光が欲しかった。別に視力を失っていたわけではない。
自分の道を照らす光。もしくは道を切り開く力。
それを手に入れた、そう思っていた。


上条 睦月。少年の名前だ。
睦月は桐生のベルトを持ち去り、家に帰っていた。
ベルトを巻き、声の指示に従う。
まずAと書かれたボールを投げる。
アリアドスが飛び出す。強そうだなぁ、とか睦月は思った。
睦月の意識はそこで飛んだ。



剣崎は仕方なくポケモンセンターまで戻った。
始は、
「他にいくところがある」
とだけ言い残すと勝手にどこかへ行ってしまった。
剣崎が途方にくれていると見覚えのある男が近づいてきた。

「剣崎」
中年の男。恐らく理系。その名は烏丸。
「所長! 今までどこ行ってたんです」
驚いてばかりの剣崎。烏丸は表情を変えずに話し始めた。
「アンデッドサーチャーが完成した。これがあればアンデッドポケモンの動向が探れる」
そういって小さな機械を取り出した。
トレーナーの間で流行っているバトルサーチャーに形が似ている。
「橘にも渡してやってくれないか?」
烏丸がもう一つ取り出す。こちらは色が赤い。
「橘さんは……トレーナーをやめるって……」
その一言に烏丸はしばし固まった。

「……そうか。だがいつか必要とする時が来るかもしれない。
 その時まではお前が預かっていてくれないか」
二つとも押し付ける烏丸。
「私はこれからチベット地方に行く。アンデッドポケモンを見つけた場所だ。
 何かわかるかもしれない」
烏丸はそういうとポケモンセンターから出て行った。

「……俺これからどーしよ」
一人残された剣崎はポツリと呟いた。



レンゲルは再び活動できる事に喜びを感じていた。
手始めに人間を襲う。まず一人。
更なる快感を得るため、大通りに出た。
腐るほどいる人間。こいつらを全員殺したらどれだけ楽しいだろうか。
そう思いながらレンゲルは暴れ始めた。


剣崎がボォーとしていると通りから悲鳴が聞こえてくる。
ポケモンセンターから飛び出すとそこには一人の少年が立っていた。
「何者だ、お前!」
叫ぶ剣崎。少年は何も答えずに襲い掛かる。
攻撃を避けると剣崎はイノムーを繰り出した。
「まさか、上級アンデッド!?」
少年は手から糸を飛ばして攻撃してくる。人間とは思えない。

「俺の名は、レンゲル!」
少年が叫ぶ。声は二重になって響いた。
レンゲル。剣崎にとっては聞き覚えの無い名だ。
レンゲルが糸でイノムーの動きを封じた。
剣崎が押されているのは明らかだった。
余裕の笑みを浮かべるレンゲル。

突然切られる糸。ドラピオンが断ち切ったのだ。
「ドラピオン? 始か!」
始が後ろに立っていた。レンゲルと戦う気らしい。
「ほう、カリスか。あの時の借り、返させてもらおう」
レンゲルが腰のボールに手を掛ける。
スリープが飛び出した。伊阪が以前使っていた物だ。
「やれ、リモートだ!」
レンゲルの指示を受け、スリープが不気味に動き始めた。



イノムーとドラピオンの様子がおかしい。
小刻みに震えて唸っている。やがて剣崎達の方を向いた。
「どうした、イノム……ウェッ!」
イノムーが突進してきた。剣崎に向かってだ。
攻撃をかわして体勢を立て直す剣崎。
始もドラピオンに襲われていた。
「どうなってんだよ、コレ!」
今度はドラピオンが剣崎に攻撃する。
"つぼをつく"から攻撃を続けて出してきた。

「ほぅ。ドラピオンか、面白い。やれ」
レンゲルがリングマを繰り出す。
"れいとうビーム"がドラピオンを氷漬けにした。
レンゲルは腰についたボールを投げる。
ドラピオンはレンゲルの手に渡ったのだ。

「どうやら奴はボールマーカーを壊す事ができるようだな」
始がイノムーの攻撃を避けながら話す。
「ドラピオンはいまやアイツのものだ」
ストライクを繰り出そうとするが、繰り出すのをやめる始。
同じ事をされるだけだと悟ったらしい。

「流石だな、カリス。!? チッ、コイツ……」
頭を抑えよろめくレンゲル。声も普通に聞こえる。
「今日の所はこのくらいにしといてやる」
オクタンを取り出すと"えんまく"を指示した。
煙幕が消える頃には少年の姿も、イノムーも消えていた。



「アイツ、一体何者何だ?」
剣崎が始に尋ねる。
「ただの人間だろう。カテゴリーAに支配されているようだがな」
始は淡々と話す。ドラピオンをとられた事も気にしていないようだ。
「ウェ!? カテゴリーAってそんなに危ないモノだったのか……」
驚く剣崎。こちらはイノムーが逃げた事を忘れているようだ。
「とにかくアイツのスリープは厄介だ。対処法を考える必要がある」
それだけ言うと始はまた何処へと去っていった。
「俺もどうにか考えないとな」
そう言って歩き始めた剣崎。
ふと、足を止めてつぶやく。
「橘さん探さなきゃ」


「はぁ、はぁ、俺、なにやってんだよ……」
意識を取り戻した睦月。気づいたら路地裏にいた。
手には血がついている。
恐怖におびえているとまたあの声が聞こえてきた。

「俺を受け入れろ。強くなりたいのだろう?」
睦月は否定した。頭の中で完全に否定した。
しかし身体は自分の意思に反して動く。
Aのボールが再び開く。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
再び睦月は意識を失った。
最終更新:2007年02月14日 23:24