睦月のケガは大したことなく、すぐに完治した。
しかし心の傷は癒えてはいなかった。
そして、剣崎と橘は今後の事を話し合っていた。
ポケモンセンターに神妙な顔をした男が二人。
傍から見るとちょっと変な図だ。
「睦月のことは俺に任せてくれないか?」
「いいですけど、どうしてですか?」
「アイツは心に闇を持っている。以前の俺と同じだ。放っておけないんだよ」
橘なりに心配しているのだろう。
剣崎は橘に睦月を任せることにした。
「じゃあ俺は見回りにでも行ってきますね」
剣崎は外に出た。
「あれ? 始。おーい、始!」
外に出た剣崎の視界に始が入ってきた。
「なんだ、おまえか」
始はつっけんどんに返す。
「こんな所でなにやってんだ?」
話のネタを振る剣崎。
しかし始は食いついてこない。
「別に」
話が続かなくなったので剣崎が立ち去ろうとした時、
空から影が飛来した。
「見つけましたよっ、カリス!」
影は人の形をしている。
しかし羽根が生えている所を見ると人間ではなさそうだ。
「誰だ、貴様」
始の問いかけに羽根付きはあっさりと答えた。
「アンデッドオニドリル。思い出しましたか?」
「悪いが、記憶にないな。まぁ、捕獲してやる」
始がサメハダーを繰り出す。
「記憶障害ですか? それは残念です。しかも人間に捕獲されているとは。
いや、貴方の事だ、その人間を操る目的で捕獲されたのでs……おっと」
サメハダーのアクアジェットがアンデッドオニドリルを襲う。
攻撃を避けるとオニドリルは羽根を開き、空へと舞い上がった。
「ここは邪魔なモノが多すぎる。貴方との決着は相応しい場所で行いたい」
アンデッドオニドリルはそのまま飛び去っていた。
舞い落ちる羽根。それに紛れて一通の手紙が落ちていた。
「始、何が書いてあったんだ?」
話についていけなかった剣崎が尋ねる。
「果たし状だ。明朝、海岸で待つ」
始は特に気にも留めていない。
「行くのか?」
「ああ。……ついて来たければ勝手にしろ」
剣崎の次の言葉を予想して、先に始が答えを続けた。
「あ、ああ、そうさせてもらう」
剣崎は始と別れた。
「橘 朔也だ。こうして顔を合わせるのは初めてかな?」
睦月に自己紹介をする橘。
「……上城 睦月です」
うつむき加減で挨拶をする睦月。
「ふぅ、単刀直入に聞こう。君は、今どうしたい?」
黙っている睦月。
「君には力がある。人を守れる力がな」
「でも、俺、アイツに負けたし……」
睦月の言葉を遮り橘が続ける。
「戦いから逃げても構わない。しかし、待っているのは後悔だけだ」
「……」
睦月の脳裏に大切な人たちが浮かび上がる。
両親、友人、もっと多くの人。
「……俺、やります」
以前よりも大きな決心だった。
「よく言った。それじゃあ、早速特訓だ」
「まずはアンデッドポケモンについて知っておいて貰いたい。
カテゴリーA。コイツのおかげで他のアンデッドポケモンを従える事ができる。
カテゴリーはA~Kの13種類がある。トランプと同じだな。
同様にして、スートも存在する。スペード、ダイヤ、ハート、そしてクラブだ。
彼らは一万年周期で目覚め、覇権を争う。彼らには子孫の繁栄がかかっているからな。
そして何故だか彼らは人間を襲う。野生の本能なのだろうな」
睦月は真剣に橘の講義に耳を傾ける。
「次は捕獲システム。カテゴリーAと同じスートのポケモンはこのプロパーブランクで捕獲できる。
プロパーブランクで捕獲したポケモンは従来のポケモン同様自由に出し入れできる。
反対に違うスートのポケモンを捕獲する時はコモンブランク。なんでも捕獲できる。
しかし、一度ポケモンを出してしまうと、再度捕獲する必要がある」
「それから、後は上級アンデッドポケモンだな。コレについては君も理解しているだろう」
「橘さんは、上級アンデッドを捕獲しているんですよね?」
睦月の言葉に戸惑いながらうなずく橘。
「まあ、な。さて、こんなものだろう。特訓の開始だ」
睦月が連れて来られたのはバッティングセンターだった。
「あの、ここって……」
「動体視力だ。ポケモン勝負では最も重要な要素の一つだ」
そういうと橘はボックスに立つ。
ビュン
「3!」
飛んでくるボールを素手でキャッチ。
ボールには「3」の数字が書き込まれていた。
「時速150kmで飛んでくるボールに書かれた数字を読み取れ」
その無茶苦茶な特訓に睦月が驚きの声を上げる。
「そんな、無理ですよ……」
「来るぞ」
ボールが再び飛んでくる。
「は、8!」
ボールが地面に落ちる。「6」の数字。
「デタラメを言うな」
「は、はい」
三度ボールが飛んでくる。
「5!」
ボールには「4」の数字が書かれていた。
「あてずっぽうで答えるな」
睦月の特訓は始まったばかりだった。
翌日。
始と剣崎は海岸に着いた。
既に羽根付きの男はそこにいた。
「待っていましたよ、カリス」
男の姿が変化する。アンデッドオニドリルだ。
「俺をその名で呼ぶな。ヤドラン!」
ヤドランを繰り出す始。
「アイアンテール!」
ヤドランの尾が鋼となってオニドリルを襲う。
「ふん!」
両腕の爪でヤドランを弾き飛ばす。
「始、俺も……」
「後ろのキミ、コレは私とカリスの戦いです。手を出すのはやめていただきたい」
オニドリルの羽根手裏剣が剣崎の足元に刺さる。
「ヤドラン、みずのはどう!」
容赦なく攻撃を行う始。
アンデッドオニドリルはそれを"かげぶんしん"で回避する。
「はぁ!」
"ドリルくちばし"が炸裂する。ダウンするヤドラン。
「戻れ。いけ、ストライク」
ストライクが飛び出す。
その瞬間、アンデッドオニドリルが驚きの声を上げた。
「! ……どういうことだ? なぜカリスが?」
アンデッドオニドリルは人の姿へと変化した。
「カリスはそこにいる。それなのにお前は動いている。
いや、それだけじゃない。お前からアンデッドの匂いが出たままだ」
始は何も喋らない。
「お前は何者だ!?」
アンデッドオニドリルがつめよる。
「ふん、俺もアンデッドポケモンだからな。当たり前だ」
衝撃が走る。オニドリルにも、そして剣崎にもだ。
「嘘だろ……!? 始が……アンデッドポケモン!?」
剣崎はどうしていいのかわからない。
「そうか、そういうことか。貴様、よくもカリスを!」
いつの間にか男はアンデッド体になっている。
「くらえ!」
強風が吹く。"ふきとばし"だ。
始のモンスターボールが手から落ちる。
オニドリルはそれを奪いストライクをボールにしまった。
「カリスは頂いていく!」
そのままオニドリルは逃走した。
「始、おまえ……」
「聞かれていなかったから答えなかった。それだけだ」
始はカテゴリーAを奪われ、剣崎は始への信頼を失った。
アンデッドオニドリルによって起こされた出来事は想像以上だった。
最終更新:2007年06月14日 19:17