一人の男が寂れた寺院跡に入っていく。
「遅かったわね。10分遅刻よ」
声の主は吉永みゆき――アンデッドキレイハナ。
「たかが10分ごときでカリカリするな。それで今日は何のようだ」
男は彼女の知り合いらしい。
「新しいポケモントレーナーが現れたわ。放っておくと成長して倒しづらくなる」
睦月の事らしい。
レンゲルの支配を受け付けなくなった睦月はアンデッドポケモンにとって厄介なだけだ。
「俺に潰せと。……まあいい、以前と同じように闇討ちしてやるよ」
そういうと男は黒い毛で覆われた姿に変化した。
「頼んだわよ。新名さん」


睦月は森で特訓していた。
早く剣崎の様なポケモントレーナーになりたい。
その気持ちが睦月を動かしていた。

一方、背後から忍び寄る影。
影は睦月に狙いを付けると襲い掛かった。
間一髪攻撃を避ける睦月。
「ちっ、外したか」
影が睦月の方を向く。
「おまえは、上級アンデッド!?」
人であり獣でもある姿。
まさしく上級アンデッドポケモンそのものだった。
「は、その通りだ。俺はグラエナの始祖、アンデッドグラエナ」
自己紹介をした男は吉永に新名と呼ばれていた男だった。



「上級だって問題ない! 捕獲してやる」
サイドンを繰り出す睦月。
「はん、無駄だよ」
アンデッドグラエナが跳びあがる。
「ロックブラスト!」
サイドンは上空目掛け岩の礫を投げつけた。
しかし全て回避されてしまう。
アンデッドグラエナのキックがサイドンを直撃する。
「カウンター!」
攻撃を受けたサイドンがアンデッドグラエナを掴むと思いきりブン投げた。
木にぶつかりダメージを受けるアンデッドグラエナ。
「痛ぅ。やるじゃねえか。だが森は俺の狩場だぜ?」

アンデッドグラエナが口笛を吹く。
すると何処からか野生のグラエナ達が集まってきた。
「な、こんなにいっぱい……!?」
あっと言う間に多対一に追い込まれた睦月。
たまらず所持ポケモンを全匹投入する。
「スピアー、サイドン、オクタン、スリープは雑魚を!
 リングマはアンデッドにれいとうパンチ!
 アリアドス、アーボックはリングマの援護!」
全員に指示を下す睦月。
それぞれの攻撃が野生のグラエナたちを倒していく。
しかし倒しても倒してもきりが無い。
アンデッド本体へのダメージはグラエナ達によって阻止される。
「ほらほらどうした? 捕まえてみろよ」
アンデッドグラエナの"はかいこうせん"がリングマを襲う。
吹き飛ばされるリングマ。
「リングマ! ……ウワァァ!?」



一瞬の隙を突いてグラエナの一体が睦月に噛み付いたのだ。
アーボックがそれを弾き飛ばす。
睦月の手から血が滴り落ちる。
「うわ、うわぁぁぁぁ」
戦意喪失の睦月。その場に崩れ落ちる。

「あっはっは。情けない奴だな! ん?」
アンデッドグラエナを狙って電撃が放たれる。
グラエナはバク宙で電撃をかわした。
「アンデッド! そこまでだ!」
剣崎とオドシシがそこに立っていた。
アンデッドサーチャーを頼りにここまで来たようだ。
「睦月!? ペルシアン、睦月を安全な場所まで!」
ペルシアンを繰り出し睦月を運ばせる。
睦月のポケモンたちは未だにグラエナたちと戦っている。

「お前は対象外なんだがな。相手してやる」
アンデッドグラエナが剣崎目掛け蹴りをかます。
カブトを繰り出し防ぎきる剣崎。
「リザード、ライボルト、ケンタロス!
 睦月のポケモンの加勢をしろ!」
3匹を繰り出すと野生のグラエナの相手をさせる。
さらにオドシシを戻し、ヘラクロスを繰り出す。
「こいつは結構しんどい戦いになりそうだな……」
剣崎は覚悟を決めた。



橘朔也は小夜子の家にいた。
あの日以来無気力に過ごしていた彼。
何をすべきかわからず、気づけばそこに辿り着いていた。
家の中を物色する橘。
スクール時代に2人で撮った記念写真。
高そうな写真立てに大事そうに収められている。
「こんな物、まだとってたのか……」

橘はさらに物色をした。
研究資料や辞書に混じってそれはあった。
「これは……日記?」
橘は小夜子の日記をペラペラとめくり始めた。
ふとあるページに目が留まる。
橘と出会った日のことが書かれていた。
「俺のことか……」
橘は過去を振り返りながら読み始めた。



○月○日
今日は嬉しいサプライズがあった。
トレーナーズスクールの同期、橘君と出会ったのだ。
ちょっと勇気を出して家に誘ったらOKサイン。
手料理を作ったらおいしいと言ってくれた。

○月×日
橘君は度々家にやってくるようになった。
スクール時代の話で盛り上がる。
彼は変わってない。
正義感が強く、頼りになるがちょっとおっちょこちょい。
そんな彼が私は好きだ。

○月△日
近所で有名なシュークリームを食べてみた。
おいしかった。思わずあぅあぅ。
PS:橘君の身体に何かついていた。
後で調べてみようと思う。

○月■日
橘君の身体についていたものは危険な物だった。
説得しようとしたが聞き入れてもらえない。

昔の、優しい橘君に戻って欲しい。
きっと彼も苦しんでいるんだと思う。
どうにかして救ってあげたい。
人の役立つ仕事に就きたい、それが彼の口癖だった。
私も彼の役に立ちたい。そう思う。


日記はここで終わっている……。



「小夜子……。俺は、俺は!」

日記を机に置くと橘を意を決した。
ポケットからアンデッドサーチャーを取り出す。
電源オン。反応アリ。
それを見ると同時に駆け出す橘。
「いってくる、小夜子!」
写真立てだけが彼を見送っていた。


玄関を飛び出した橘。
そこに更なるアンデッド反応が発生する。
イノムーだ。
「ニョロトノ!」
橘は走りながらニョロトノを繰り出す。
ニョロトノの"きあいパンチ"。
一撃だった。
橘はイノムーを回収するとギャロップを繰り出した。


「くっそお、コイツ強いな……」
剣崎は完全に押されていた。
ヘラクロス、ライボルトは気絶。
睦月のポケモン勢も限界が来ているようだった。
「こうなったら、コイツを使うしか……」
Qのボールに手を掛ける剣崎。
その時、爆音とともにあの男が現れた。

「た、た、橘さん!」
橘朔也、完全復活。



剣崎、すまなかった。また戦わせてくれ」
剣崎に頭を下げると橘は戦闘態勢を取る。
「あぁ、誰かと思えばこの前仕留め損なった奴か」
新名の言葉に橘が怒りを燃やす。
「貴様か。貴様が桐生さんを!」
カイロスを繰り出す橘。
「はん、お前ごときに……」
「はかいこうせん!」
カイロス必殺の大技。
周りのグラエナ達を根こそぎ吹き飛ばす。
「戻れ、カイロス! サンドパン、ブレイククロー!」
アンデッドグラエナ目掛け鋭い爪が振り下ろされる。
「グオァ! おいおい、こんな話聞いてないぞ!?」
新名はたじたじだった。
逃げる準備までしている。
「逃がさん! クロバット、くろいまなざし!」
クロバットの視線がアンデッドグラエナの足の、全身の動きを奪う。

「今だ、剣崎!」
「はい!」
剣崎はサワムラーとオドシシ、橘はホエルオーとバルビートを繰り出す。
「ライトニングブラスト!」
「バーニングスマッシュ!」
2人の必殺技が決まる。
電撃キックと火炎プレスを受け、アンデッドグラエナは気絶した。



「嘘だっ……! 俺がやられるなんて……」
新名は自分の敗北を認められずにいた。
「桐生さんに詫びろ」
橘はボールを投げつけた。
「剣崎、コイツはお前が持っていてくれ」
スート違いのカテゴリーJ。
コモンブランクで捕獲されたグラエナを橘は差し出した。
「それと、コレ。来る途中で捕まえた。お前のだろ?」
イノムーもセットで渡す。
「橘さん……」
「心配するな。もう戦いから逃げたりはしない。
 人の役に立つ事を……人間を守ってみせる」
橘の目は澄んだ色をしていた。
(これでいいんだよな、小夜子……)

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最終更新:2007年03月09日 17:42