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再びシュルトケスナーの水槽から出た橘を待っていたのは、
伊阪ともう一人の男だった。
「……あんたは?」
寝ぼけなまこで顔をはっきり捉えることが出来なかった。
だんだんと顔のつくりが明らかになっていく。
「久しぶりだな、橘」
橘にとっては聞き覚えのある声。
「桐生……さん!」
BOARD時代の先輩、桐生 豪だった。
喜びと同時に橘の脳裏に疑問がよぎった。桐生はそんな橘の表情を見逃さなかった。
「まぁ、そんな怖い顔するな。俺も伊阪に協力しているんだよ」
意外な答えが返ってくる。桐生も伊阪と手を結んでいた。
「……この男の持つBOARDの技術力、それと引き換えにある条件を出した」
伊阪がゆっくりと語りだした。



「カテゴリーAの重要性については知っているな?
 人間がアンデッドポケモンを使役するに当たってカテゴリーAは必要不可欠な存在だ。
 しかしこの男はカテゴリーAを持っていなかった。そこで私は力を貸した」
カテゴリーAには強大なエネルギーが秘められている。
その力を専用ボールを介して、モンスターボールの捕獲ネットを強化している。
ここで話し手が桐生に変わった。
「カテゴリーAは伊阪に捕獲してもらう。その為に俺はBOARDの技術を提供した。
 そしてお前がアリアドスを捕獲した。これで俺も晴れてアンデッドポケモントレーナーって訳だ」
橘は状況を把握した。桐生は力を得るために、伊阪は技術を得るために、手を組んだ。
ここで橘の中で新たな疑問が生まれた。
桐生は本来カイロスのパートナーになる予定だった。
しかしカイロスが拒絶反応を起こし暴走、桐生は左腕を失った。
その事がきっかけで桐生はBOARDをやめていたのだ。

「桐生さん、あなたは……」
橘が話そうとしたが、桐生が割り込む。
「大丈夫だ、前のようにはならない。伊阪が処置をしてくれている」
伊阪の方を見て話す。伊阪もそれに対しうなずいた。
「……とにかく、仲良くやろうぜ」
四人目の捕獲者の誕生だった。



「じゃ、俺は出かけるから。始よろしくね」
剣崎は始を天音に預けると伊阪の元へ向かった。
橘と決着をつける、そういった心境だった。
だが、そう上手くいかないのが剣崎である。


「フォー! コンニチワァ、ポケモントレーナーさん」
見るからに怪しい男。しかも体から電気を放っている。
「キミの噂は聞いてるよぉ、強いんだって?」
剣崎は相手にしたくなかったので無視を決め込んだ。
「オイオイ、そりゃ無いでしょ?相手してくれないのかなぁあ」
変人の挑発に剣崎が思わず叫ぶ。
「お前の相手なんてしてる暇はない!」
その言葉に変態の表情が変わった。
「あ~あ、怒らせちゃった。遊びは終わりだよ」
言い終わるか否か、男の姿が変化する。
モココ。いや、モココモドキ。
男はショッキングピンクのボディの怪人へとなった。

「おまえ! ……まさか、上級アンデッドポケモン!?」
剣崎も烏丸から話は聞いていた。上級は人に近い存在という話。
「オオ~アタリィ~」
モココモドキが手を叩く。小馬鹿にした態度は変わらなかったようだ。
「私はモココの始祖、アンデッドモココォ!」
名乗り終えたアンデッドモココは口から電撃を飛ばしてきた。
「イノムー!」
間一髪、イノムーが防ぎきる。電気技は効果が無いレベルにまでシャットできる。
「俺様の苦手なタイプだなぁ、……ッアイアンテェイル!」
アンデッドモココの尻尾が鋼鉄化し、イノムーを襲う。
強烈な一撃にイノムーはダウンした。
「仮にも上級だよ、簡単には倒せないぃ!」
剣崎は相手のキャラに押されつつも次のポケモンを繰り出した。



「いけ、リザード!」
リザードが飛び出す。景気付けに一発火炎弾を発射した。
「はぁん、パワァジェム!」
火炎弾を飲み込んで宝玉に似た光がリザードを襲う。
「メタルクロー!」
リザードのツメが金属のように輝くと、"パワージェム"を打ち破った。
「続けてきりさく!」
リザードがアンデッドモココに斬りかかる。
激しい火花が散った。両者吹き飛ぶ。
リザードの動きが鈍る。まひ状態になったようだった。
「あーあーあー、ワタシの特性ぐらい知っといてよねぇ、せ い で ん き」
ため息をつきながらアンデッドモココが話し始める。
「このまま畳み掛けてもいいんだけどねぇ。今日はやめとくわ」
姿が元の人間体に戻る。そのまま剣崎とは反対方向に歩き出す。
男が突然、何か思い出したように振り返る。
「俺、この姿では 矢沢 って名乗ってるからー。覚えといてよ」
男――矢沢が再び歩き出すとその姿はすぐに消えた。
「……なんなんだよ、この!」
剣崎は形容しがたい敗北感に襲われた。


橘は再び小夜子の家に泊まっていた。
そこで小夜子が橘に何かがついていることに気づいた。
「何かついてるわよ、橘君。ほら」
小夜子がその何かを取る。植物、藻の様だった。
「何かしらね、これ」
小夜子の問いに対して、
「さあな。もう寝るよ。おやすみ」
橘はそっけなく返し、ソファに横になった。
小夜子もそれを自分の机の上に置くと、寝室に向かった。



翌日。
桐生と橘は共闘してアンデッドポケモンを追いつめていた。
初の共同戦線だった。
「橘、いったぞ」
桐生はリングマを、橘はニョロトノを繰り出す。
「リングマ、れいとうビーム」
リングマの放つ冷凍光線がターゲットであるアーボックを襲う。
「ニョロトノ、援護しろ!」
橘の指示を受けニョロトノが"バブルこうせん"を放つ。
2方向からの攻撃にアーボックも苦戦を強いられる。
黙ってやられる訳にもいかないのだろう、反撃のポイズンテールを繰り出そうとする。
が、あっけなくアリアドスに動きを封じられる。
桐生が"くものす"を仕掛けていたのだ。
「トドメはまかせた!」

桐生の言葉を受けて橘はバルビートを追加で繰り出した。
「連携攻撃……ファイア+アッパー!」
バルビートがアーボックに火炎弾を投げつける。
火炎弾が命中すると今度はニョロトノの"きあいパンチ"がアッパー状にして叩きつけられた。
集中攻撃を浴びて倒れるアーボック。
「捕獲は任せます、桐生さん」
桐生がボールを取り出すとアーボックはそれに吸い込まれていた。
「アーボック、捕獲完了」
桐生がアーボックのボールを拾う。
「今日はお開きだな。じゃあな」
桐生はアーボックを伊阪に見せに行くと言って橘と別れた。
橘は特に行く所も無いので小夜子宅に向かった。



「邪魔するよ」
橘が家に入ると小夜子が駆け寄ってきた。
「橘君、話があるんだけど」
深刻な表情を浮かべている。橘は嫌な予感を感じた。
「シュルトケスナー藻って知ってる?」
橘の顔が険しくなる。
「橘君の肩についていた奴何だけどね、あれ人体に悪影響を及ぼすものなの」
伊阪に言われた事と全く違う。
橘は一瞬驚いたがすぐにそれを否定した。
「何を言い出すかと思えば。アレは良薬だよ、俺の病気を治してくれる」
すると小夜子が間髪いれずに返した。
「そんなことない!アレは使い続けると体を蝕んでいく毒なの!」
悲痛な叫びが部屋に響く。
「……それでもいいさ。俺は花火のように生きていたいんだ」
橘は扉に手をかける。
「待って、橘君!」
小夜子の声を無視して橘は外へ飛び出した。



行く当ても無く飛び出した橘は路地裏をふらついていた。
「……俺は変わったんだ。俺は……ん? あれは……」
橘の視界に入ったもの。それは桐生とアーボックだった。
何かと戦っているようだ。桐生が何か指示している。
だが様子がおかしい。相手は人間に見える。
橘は近づいて確信した。どう見ても人間だった。
「何やってるんですか、桐生さん!」
橘が止めに入ろうとする。しかしアリアドスに動きを阻まれてしまう。
「ハン、こいつはなぁ、強盗犯なんだよ。間違いない」
桐生の言葉で上級アンデッドポケモンという線も消えた。
桐生が襲っているのは紛れも無い人間。
「だから……コイツに生きてる資格はない!!」
桐生の叫びと共にアーボックが男にかみつく。
男は断末魔の叫びを上げ、息絶えた。
「……なんて事を!あなたは何をしたか分かってんですか!?」
橘が食いかかる。そんな橘を鼻で笑う桐生。
「悪を消して何が悪い? 俺はな、こういう事をする為にアンデッドポケモンを手に入れたんだよ」
桐生の発言が路地裏にこだました。

「……俺はあなたを許せない」
橘が呟く。
「許されたいとも思ってないさ。それで、俺を倒すのか?」
桐生の挑発にも似た言葉に橘が返した。
「明日、決闘しましょう。負けた方が勝った方の言う通りにする」
橘に勝利する自信は無かった。だが桐生のやってることを止めたかった。
「いいだろう。明日が楽しみだよ、じゃあな」
桐生は足早に立ち去った。
最終更新:2007年02月02日 23:49