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始は傷を癒しながら自分の事について考えていた。
「このまま俺がここに留まれば……天音ちゃんに迷惑をかける」
決まりだった。始は天音の家から姿を消した。

行く当ても無い。しかし問題ない。
気ままにアンデッドポケモンとしての生活を過ごすだけだ。
今までもそうだったはずだ。
だが、何か足りなかった。それが自分では理解できなかった。
いや、理解しようとしないだけだった。
本当はわかっている。自分の中で生まれた感情。
人の愛。それが自分を変えたことを。
認めたくなかったのかもしれない。心のどこかで。




始は一体のトライアルと対峙していた。
広瀬の放った新たな実験体。トライアルF。
Fの姿はどことなくジョーカーを連想させた。
模倣しているだけか、それとも能力まで同一のものかはわからない。
そもそも気にしてもしょうがない。
始はムクホークを繰り出した。

ムクホークは"つばめがえし"で確実にダメージを与えていく。
一方のトライアルはエネルギーを溜めているようだった。
じゅうでん。そして電撃を纏った鉄拳。
気づいた時にはもう遅い、ムクホークは一撃で撃破された。
始の手持ちはAを含め後三匹。
全員が戦闘不能になってはジョーカーを抑えられるかわからない。




始はアンデッドグラエナを開放、吸収した。

トライアルFの攻撃がグラエナとなったジョーカーを襲う。
グラエナも爪を最大限に活かした接近戦で応戦する。
戦力は互角だった。
しかしトライアルは理解したのだ。
グラエナは長射程の技を持ち合わせていないことに。
戦闘パターンを切り替え、相手と距離を取るようにしている。
一定の距離から火球や光弾を連発する。
戦況は完全にトライアル優勢に移った。
グラエナは敵の攻撃から身を隠すことしか出来ずにいた。

始は焦りを感じていた。
このままではいずれやられるだろう。
ジョーカーで一気に押し切るべきだろうか。
いや、それでは敵の思う壺だろう。
それ以上に始自身がジョーカーになりたいとは思わなかった。

結論は出た。




始はトライアルの前に高らかに躍り出た。
トライアルは獲物を見つけ、冷静に攻撃を開始する。
右腕にエネルギーが蓄えられ、始に照準を合わせる。
だがその攻撃は始には通らなかった。
一匹の野生のグラエナが妨害したのだ。
一匹だけではない、何匹ものグラエナが集まってくる。

アンデッドグラエナの能力、群体指揮。
破壊力はないが相手の隙を作るには十分すぎた。
グラエナの爪がトライアルFの腹部を貫く。
さらに蹴りを食らわせ、敵を吹き飛ばす。
始は確かな手ごたえを感じた。

しかしそう上手くはいかなかった。
腹部にあけた穴は瞬く間に塞がれていく。
アンデッドポケモンを超える再生スピードだった。
トライアルは邪魔なグラエナ達を放り投げていく。
火球が始目掛け放たれる。

始は敗北を覚悟した。




――突然舞い起こる吹雪。
火球は消し去られ、トライアルの視界を奪う。

「無事か、始!」
聞き慣れた声が聞こえる。
振り向くとそこには剣崎が立っていた。
隣にはリングマが。恐らく睦月から借りたのだろう。
「受け取れ!」
有無を言わさずモンスターボールを投げる剣崎。
受け取る始。
一度は手にしていた懐かしい顔ぶれ。
その全てが再び揃った。そして、カテゴリーK。
13体のアンデッドポケモンとジョーカー。
始は本能で悟った。
どうすれば敵に勝てるか、そして自分自身でいられるかを。




「……変身」

13のアンデッドポケモンをその身に宿してゆく。
光は始を包み、輝き続ける。
強く、
鋭く、速く、
硬く、気高く、雄雄しく、
眩く、逞しく、永く、
猛々しく、美しく、また強く。
そして――激しい力がこみ上げてくる。

光がやんだ時、そこには新たな戦士が降り立った。
紅き鎧を纏いしポケモン、ハッサム。
だがその名は適切ではない。



彼の名はワイルドカリス。
カリスを超え、ジョーカーを超え、相川始を超えた一つの終着点。




ワイルドカリスはトライアルFをその視界に捉えると戦闘態勢を取った。
両腕の鎌――というよりは鋏のようなモノ――、ワイルドスラッシャーを構え跳びかかる。
その跳躍は鋭く隙の無いものだった。
渾身の一刀がトライアルに浴びせられる。よろめくトライアル。
さらに連撃。その力の差は圧倒的だった。
一撃一撃がトライアルの不死身の肉体を破壊していく。
とどめに回し蹴りを絡めて一旦距離を置く。

ようやく無限ループから解放されたトライアルFが攻撃に転じる。
グラエナ達を吹き飛ばした火球がワイルドカリスを飲み込む。
しかし炎はカリスに触れることすら許されなかった。
反射され、旋風によって散らされる。
残った炎は熱風となり、トライアルの元へ戻って行く。
ダメージを受け、傷ついても命令を果たそうとするトライアル。
今度は火球を散弾モードにして、連続発射する。

ワイルドカリスの装甲には傷一つつかない。
ダメージを受ける傍から即座に修復されていく。
そして始がトライアルに与えた時間は終わった。



突風が舞い起こる中、ワイルドカリスは静かに浮上していく。
両腕のワイルドスラッシャーの狙いをトライアルに定める。
背中の羽根、そして両腕から最大級の一撃が放たれる。

銀色の旋風――ワイルドサイクロン――!

風が止んだとき、そこに立っていたのはワイルドカリス。
一人だけだった。
最終更新:2007年10月17日 22:07