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星脈


概要

 星脈は、天体の内部に残った古い世界法則の名残である。
神の沈黙を境に宇宙の理は特定の時間軸へ収束したものの、進行は薄い空間から先に及び、重い天体の深部には古い理が残った。
残された層から細い筋が伸びており、筋の通う一帯では、物質の形が定まるまでに間合いが生じる。

成立経緯

 星脈の始まりを遡れば、古典古代の世界ヒュプノクラシアが備えていた秩序に行き着く。当時の宇宙では、物の形も物の動きも理の側が直に決めていた。距離を測る手順は種族の手を離れており、遠い星に移る行為すら理の働きだけで片付いた。神が世界の運行を種族に委ねると、理が自ら働く力は後景へと退いた。以後の宇宙を支えたのは、観測の積み重ねから読み解かれた道理であって、時計と物差しの目盛りで測れる形に整えられている。新しい道理が最初に行き渡ったのは、物質の薄い空間であった。天体の側では内側へ進むほど浸透が鈍り、地殻より深い層は古い理を抱えたまま取り残される。取り残された層から古い理は岩体の隙間に道を求め、細い筋を成して浅い層へ上がっていった。空間にも行き渡りきらない箇所が点在しており、そちらは事象災害の姿を取る。災厄の連なり全体を指す語が、神々の防壁にあたる。空間に残った古い理は、星から星へ渡る移動を狂わせた。天体内部の歪みが緩めるのは、物質の定着である。岩体の薄い天体ほど上昇の経路は短く、脈は地表の近くを走る。始まりの年代をめぐる記録は複数の年代に跨がっており、起点の特定は今も割れている。

作用

 脈の働きは物質の組成を素通りし、形が一つに落ち着くまでの手順に及ぶ。作用の強さを決めるのは、脈の断面と地表からの深さである。

定着の遅れ
 定着の遅れとは、力の加わった物質が一つの形に落ち着くまで、しばらく揺れたまま残る現象を指す。新しい道理の下でなら、形は力の加わったその瞬間に決まる。古い理の残る土地では形を決める働きが脈の側に預けられ、決着は流れの揃う時刻まで持ち越された。持ち越しの続く間、押し潰された金属の表面には、へこんだ後の輪郭と押される前の輪郭が並んで残る。どちらの姿も日を追って入れ替わり、同じ箇所へ重ねて力が届けば、先の変化を抱えたまま輪郭だけが移り替わっていく。持ち越しの長さは脈の断面に従っており、細い流れの周辺なら短く尽きた。太い流れの直上では、揺れが日を跨いで続く。生き物の組織にも同じ働きが及び、断たれた面は塞がる途中の姿を保ったまま留まった。癒着の進みは緩やかになり、傷の閉じる時点も持ち越しの長さに応じて遠のく。自己の構造を組み替える変異キメラの場合、揺れの続く土地ほど再編は速く進んだ。落ち着き先の決まる前の物質は届いた力に柔らかく応じ、砕ける手前まで大きく歪む。崩落で削られた崖の面がもとの輪郭へ戻る推移も、同じ働きの現れにあたる。

状態の確定
 脈の流れる向きが揃った時刻に、揺れ続けていた形は一つに落ち着く。落ち着き先を選ぶのは、持ち越しの間に最も長く保たれていた姿である。長く保たれた姿が残る筋道から、支えを受け続けた物質は支えられた通りの形に定まった。時刻を刻むのは天体の受ける潮汐であり、伴天体の重力が地殻をたわませるたび、脈の断面は絞られて向きが揃う。伴天体を複数抱えた天体では、たわみの重なり方に応じて時刻の間隔も伸び縮みした。並びの重なる夜には持ち越しが最も長く延び、日を幾度か跨いだ後にようやく次の時刻を迎える。時刻の到来した時点で揺れの残っていた箇所は、途中の姿のまま固まった。深い層を走る脈までたわみの届く度合いは浅く、時刻の間隔も長い。地表の近くでは向きの揃う頻度が上がっており、揺れの続く時間は短く区切られていった。潮汐の周期と確定の時刻を並べた表が各地の観測の場に備えられ、潮位の記録と突き合わせて読まれる。

可視放射
 確定を終えた脈は、落ち着き先から外れた姿との差分を光として手放す。地表の近くで向きが揃えば、脈の走りは夜のうちに細い筋となって地面へ浮かび上がった。光の強さを決めるのは差分の量であり、揺れの長く続いた一帯ほど筋は濃い。時刻を過ぎた直後の地面は、放つものを失って暗く沈んだ。波長は、地殻を成す鉱物の組成に従って移る。珪酸塩の厚い層なら青みに寄り、鉄の酸化物を含む層では赤みが増した。光は岩盤を透過するため、地下を走る脈の位置も地表から追える。透過の度合いを落とす鉱石が坑道の壁を覆えば、地中でも筋の位置は読み取れた。放射の総量は確定の一回ごとに定まり、形の揺れた範囲が広いほど大きくなる。観測の側は筋の強度を書き留めており、現れる間隔から地下を通る脈の太さを推し量った。深い層で起こる確定の光は岩体に吸われ、地表に届く筋は浅い層に由来する。夜間の照度が高い天体では、筋の判別に濾光の器具が用いられた。

分布

 脈の太さには天体ごとの開きがあり、幅を決めたのは浸透の届いた深さである。深部まで浸透の及んだ天体では地殻に留まる分が浅い層で尽き、脈の筋も途切れ途切れに走る。浸透の浅い段階で止まった天体なら、太い筋が地殻のすぐ下まで迫り上がった。質量の大きい天体ほど内側の物質は密に詰まっており、浸透の進みも早い段階で鈍る。同じ天体の内側でも筋の走りには濃淡が現れ、岩盤の割れ目に沿った区画では上昇の経路が開けて脈も太い。硬く締まった岩層の下では経路が幾筋にも分かれ、地表へ届く頃には細った状態で散らばる。地殻の動く帯では経路そのものが移り替わり、筋の位置は世代を追ってずれた。空間に古い理の濃く残る星域では、天体の内側に留まる分も厚い傾向が観測の記録に現れている。星域をまたいだ分布の図は複数の文明圏の観測機関が持ち寄る形で組み上がり、書き換えは年ごとに重ねられた。海底に露頭の開いた天体では、水中を走る筋の位置が海図に書き込まれる。

用途

 確定のたびに手放される光を受け止め、電力へ移す設備が一部の地域で稼働している。受光の板を筋の現れる位置に敷けば、放射は電位の差に置き換わり、系統へ送り出された。取り出せる量は光の強さに比例しており、揺れの長く続く一帯ほど一回あたりの収量も大きい。出力は確定の間隔に沿って断続し、時刻と時刻の合間には途絶えた状態が続く。蓄電の設備を挟んだ構成が広く採られた背景には、断続する出力を平す事情がある。板の敷設は筋の走りに沿って進み、脈の位置が移れば架台ごと組み替えられた。地中の脈から直に受ける方式も試みられ、坑内に据えた受光の面が深い層の確定を拾う。岩体に吸われる分が大きく、坑内の方式で得られる収量は低い水準で推移する。潮汐の周期から次の時刻を割り出す手順が運用に組み込まれており、送電の計画も表に沿って立てられた。伴天体の並びが重なる時期には一度の収量が跳ね上がり、蓄電の設備は容量の上限まで満たされる。

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最終更新:2026年09月03日 16:53