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パワーボウリング


概要

 パワーボウリングは、リンベルーク・アカデミア付属サー・フォス・カレッジの公認(❓️)サークル遊理部が考案した危険遊戯の一つである。
異世界の娯楽であるボウリングを下敷きに、重い球で金属のピンを薙ぎ倒す腕力勝負へ作り変えた競技を指す。

開発史(床が先に音を上げた)

 パワーボウリングの原型は、失われた歴史の発掘に打ち込む歴史研究組が、古い文献の山から掘り当てた異世界の記録にある。記録には、円筒形の標的を並べて球を転がし、倒した本数を競う娯楽が図解付きで残されていた。報告を受けた部長スーラ・ヴィ・レクサーニは図解を眺め終えるなり席を立ち、壁際に並ぶ爆発後処理班の消火器を十本引き抜いて床に立てると、古文書の重石に使っていた鉄の文鎮を放り投げた。消火器は三本だけ倒れ、ぽこん、と気の抜けた音を立てる。部長の眉間に皺が寄った瞬間、技巧と正確性を競う穏やかな原型の命運は尽きた。(消火器の持ち主たちは、その間ずっと悲鳴を上げていた)改良は翌月の爆心地ワークショップへ持ち込まれ、題目は「倒れる音に説得力を持たせよ」と定められた。工学組が球を鋳直して重量を増やしていく一方、軽い試作球は「手応えがない」の一言で次々に却下されていく。木のピンは重い球を受けた途端に木屑へ変わり、合金への置き換えが決まった頃には、倒れる音こそ快感の指標だとする部長の美学が部の総意になっていた。最後に作られた最も重い試作球は部室の床を踏み抜き、下の階の天井から顔を出したところで廃案となる。床の修繕費が嵩んだうえ、風紀委員会から深夜の騒音を名指しで咎められたことも重なり、部は競技の場を地下へ移すと決めた。

地鳴りの間(苦情は上の階へ)

 地鳴りの間は、パワーボウリングの専用レーンを収めた学園の地下施設で、投球のたびに響く轟音と振動が名前の由来になっている。壁と床には防音と耐震の構造が施されたものの、揺れは地盤を伝って地上まで這い上がり、真上の講義室では試合の日に限ってチョークが教卓の端から転がり落ちる。板書の線が波打つたびに講師から苦情が入り、苦情は風紀委員会を経由して始末書量産工房の机へ回ってくる。同じ文面の使い回しを禁じられた工房にとって、揺れの詫びは最大の難所となった。「揺れ」「震え」の言い換えは早々に底を突き、最近の始末書では地殻の活動にまで話が及んでいる。(地殻の責任は誰が取るのか)施設の運営で最も骨が折れるのは、倒れたピンを立て直す作業である。既製のピン返し機を据え付けた初日に、合金のピンの重さで機械の腕が折れたため、以来この作業は准怪人たちの手に委ねられた。入部した新入りが最初に覚えるのは、ピンの底を膝で支えて起こす持ち上げ方で、部長いわく「これを覚えた者から地上へ帰れる」。重球の転がった跡はレーンに溝として残り、試合の後には准怪人が総出で溝を埋め戻す。溝の深さで誰の投球か言い当てると豪語する者まで現れ、埋め戻しを重ねた彼らの腕は、競技者に負けず劣らず太くなりつつある。

ルール(腕力以外お断り)

 パワーボウリングの規則集は始末書量産工房が清書したもので、改訂のたびに頁と注意書きが増えている。

投球

 投球者は助走をつけ、レーンの奥に並ぶ合金のピンめがけて専用の重球を転がす。球の重さは原型の数倍に達しており、腕力の足りない者は持ち上げた時点で膝が笑い、球と一緒に床へ座り込む羽目になる。勝負を分けるのは膂力に加え、重量物を狙った線に乗せ続ける制御の腕である。前の投球が刻んだ溝に球を落とせば軌道は勝手に定まるが、溝の行き先はピンの正面から逸れていることも多く、溝を読んで外す技術が上級者の見せ場になった。規則の第一条は「異能の使用を禁ず」。純粋な腕力勝負を謳う以上、術で球を加速させる行為は反則とされ、違反はレーンの音で露見する。術を帯びた球は転がる音がわずかに軽く、爆発後処理班の耳はその差を一投で聞き分けてしまう。挑戦者の多くは学内の不良や腕自慢で、遊理部の地下へ降りること自体が度胸試しに数えられている。もっとも、階段の途中で最初の地鳴りを浴び、そのまま引き返す者が半数を超える。

採点

 得点の基本は倒したピンの本数で、倒れたピンの勢いと飛距離が加点として上乗せされる。遊理部が独自に加えた項目が轟音点で、ピンが倒れる瞬間の音を爆発後処理班の班員が採点する。部室で爆発音から原因の装置を言い当ててきた耳は、音の高さと響きの長さからピンの折れ曲がり具合まで推し量り、点数を一桁刻みで読み上げる。厄介なのは実況席の部長で、ピンが倒れるたびに本人の絶叫が轟音に重なる。班員たちは部長の声だけを差し引いて採点する技術を身につけ、差し引いた分を別の帳面に「部長点」として記録してきた。部長点の累計が競技者の誰の得点よりも高い事実は、班の内部で固く伏せられている。一投で全てのピンを薙ぎ倒せば完全破砕として最高得点が与えられ、達成者の名は部室に掲示される。掲示の行を最も多く占めるのは物理的話し合い課の班長エリカ・キリシマで、その場に足を据えたまま、腰の回転だけで球を送り出す。競技は複数人が順に投球を行い、規定回数を終えた時点の総得点で順位が決まる。

観戦

 観戦は安全区域から行うよう推奨されており、区域の縁には跳ね返った球とピンの破片を受け止める鉄柵が巡らされている。あくまで推奨である理由は明白で、熱狂した観客は試合が佳境に入るたびに柵から身を乗り出し、飛んできた破片で額を割る。負傷者は死なない程度に治す係のもとへ運ばれ、手当てが済めば観客席へ送り返されるため、同じ顔が一試合に二度三度と担架に乗る。最前列の柵に張り付いているのは実況席の部長で、マイクを握ったまま誰より深く身を乗り出し、担架の常連の筆頭に名を連ねている。(実況が途切れるのは担架の上にいる間だけ)物理的話し合い課は、安全区域の縁を鍛錬場として使っている。課員は柵の内側に立ち、跳ね返ってくるピンの角度を読んでかわす訓練を積んでおり、試合一回分の観戦で一か月分の反射神経が鍛えられるとされる。ただし、かわしたピンの先には大抵ほかの観客が座っており、課員が上達するほど救護係の仕事が増えていく。

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最終更新:2025年12月07日 01:19