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その渇きは誰のものだ


概要

 『その渇きは誰のものだ』(共立英語題名:Whose Thirst Is It)は、シーナ・フリートンが作詞と作曲を手がけた楽曲である。
泥の底で孤独にもがく創作者に問いを突きつける歌として書かれており、日本語の歌詞に共立英語の歌詞を加えた二つの版を持つ。

制作

 本曲が書かれた時期は、シーナが療養を終えて船に戻り、声を取り戻す稽古を少しずつ積み直していた数か月にあたる。歌詞の草稿は退院の直後に仕上がり、療養明けに手がけた曲の中で最も早く形を得たものの、旋律の側は喉の回復に歩調を合わせて組み上げられた。嘲る側の台詞を並べた連を組み立てるにあたり、彼女は歌い手の集まりで浴びた失笑を下敷きに置き、共作を申し出た先で受けた扱いも材料に加えた。嘲りの台詞を鍵括弧で括り、歌い手自身の言葉と同じ連に並べる書き方には、一曲の中で語り手を入れ替える彼女の作法が表れている。作曲の作業は船の作業台で進められており、電子ハープを膝に載せたまま、歌詞の行ごとに節回しを試しては書き留める夜が重なった。喉を休ませる日には旋律を弦だけで鳴らし、歌うはずの音の高さを、譜面の余白に書き込んで残している。終盤の井戸掘りの連に新しい言葉を差し込む作業は草稿の中で最も遅くまで残り、書き直した紙の束が、作業台の引き出しを一段埋めるほどに積み上がった。共立英語版が加わった時期は、公演の場が学区をまたぐ興行にまで広がった後にあたり、日本語の草稿を傍らに置いた書き起こしも、彼女自身の手で進められた。

主題

 本曲は、注文主も観客も不在のまま作り続ける創作の営みを、無人の土地で井戸を掘る作業に重ねて描く。掘り当てた水を真っ先に口にするのは掘った本人であり、作品が最初に潤す相手も作り手自身の渇きになる、という順序が歌の土台に据えられている。地中の最も低い層を水脈が走る以上、底まで落ちた者ほど水に近く、歌は最底辺の位置づけを、転落の終点から湧き水の在りかに読み替えてみせた。題名の問いは、称賛を目当てに言葉を削るうち、作る動機が他人の期待にすり替わっていく危うさを、聴き手の側に差し戻すものである。嘲りを投げる者の正体は、台詞の連の終わりで反転しており、かつて同じ穴を掘りながら途中で道具を手放した人間として、相手の姿が描き直される。蔑みの声は、掘るのをやめた者の古傷から漏れる音として聴こえ直すことになり、怒りの矛先にも憐れみが混じり込んだ。井戸を掘れと呼びかける言葉が終盤に戻ってきても、掘り手は一人のまま土の中に留まり、耳を当てた地面の向こうから、未知の誰かが掘り進める音だけが伝わってくる。報われる保証の代わりに歌が差し出すのは、二杯目の水をいつか別の誰かが飲む見通しで、足下の泥を分け合う相手の存在も、地中から届く一つの音に託されている。

歌詞

 共立英語版の歌詞は、日本語版の直訳を避けたうえで、韻と音の数を歌い口に合わせて書き直されている。

日本語版


スコップはあるか
なけりゃ手でいい

午前三時の机の下で
削りかすの粉を吸いこんでる
誰の予定にも載ってない仕事
締め切りもないのに手が止まらない
壁の向こうで乾杯の音
あいつはまた何か当てたらしい
こっちは地面を十センチ
それが今日のぜんぶだった

掘ったぶんだけ手が汚れて
汚れたぶんだけ爪が割れて
誰にも見えない穴の底で
それでもまだ息をしてる

誰も来ない土地に井戸を掘れ
地図にない場所で井戸を掘れ
最初に飲むのはお前の喉だ
泥の味でも水は水だ
底まで落ちたなら笑っていい
水脈はいつも一番下にある

数字を数えて眠った夜は
心臓で借金してる気がした
褒められたくて削った言葉
削りすぎて骨も残らない
誰かの真似なら売れるだろう
わかってる わかってるけど
借りた靴で歩いた道に
あたしの足跡は残らない

掘ったぶんだけ背中が曲がって
曲がったぶんだけ空が遠くて
見上げた穴の小さな口から
誰も覗きに来やしない

誰も来ない土地に井戸を掘れ
地図にない場所で井戸を掘れ
最初に飲むのはお前の喉だ
泥の味でも水は水だ
底まで落ちたなら笑っていい
水脈はいつも一番下にある

「まだそんなもの掘ってんの」
「誰が飲むのさ、そんな水」
「もっと賢い場所があるよ」
「手伝ってあげようか?」
黙って見てろ
スコップは貸さない
あんたも昔 掘ってたろ
爪の割れ方で わかるんだ

掘れ!
掘れ!
掘れ!
掘れ!

誰も来ない土地に井戸を掘れ
耳を当てれば聞こえるだろう
土の向こうで誰かのスコップ
顔も知らない 同じ泥の中
最初に飲むのはお前の喉だ
二杯目はいつか 誰かの喉だ

スコップはあるか
なけりゃ手でいい
手がだめなら
歯でいい

共立英語版


Got a shovel?
If not, use your hands

Three a.m. beneath the desk
Breathing dust of what I scraped away
Work on no one's calendar
No deadline, still my hands won't stay
Through the wall the glasses clink
Someone struck it rich tonight
Me, I dug four inches down
And that was my whole life tonight

Every inch, my hands get blacker
Every inch, my nails split wide
Down a hole that no one sees
I'm still breathing here inside

Dig a well where no one walks
Dig it where the maps run out
First to drink will be your own throat
Mud and all, it's water now
If you've hit the bottom, laugh out loud
The vein runs deepest underground

Nights I fell asleep on numbers
Felt like mortgaging my heart
Filed my words to be adored
Filed until the bone came apart
I could sell a copy of someone else
I know, yeah, I know it well
But a road walked in borrowed shoes
Never learns the shape of my own heel

Every inch, my back bends lower
Every inch, the sky pulls far
From the small mouth of the hole
No one leans to see who we are

Dig a well where no one walks
Dig it where the maps run out
First to drink will be your own throat
Mud and all, it's water now
If you've hit the bottom, laugh out loud
The vein runs deepest underground

"You're still digging that old thing?"
"Who's gonna drink that water, hon?"
"There are smarter places, you know"
"Want a hand with it? Just one?"
Shut up and watch
You don't get my shovel
You used to dig too, didn't you
I can tell by how your nails are broken

Dig!
Dig!
Dig!
Dig!

Dig a well where no one walks
Put your ear against the ground
Through the dirt, somebody's shovel
Faces unknown, the same mud, the same sound
First to drink will be your own throat
Someday the second cup goes round

Got a shovel?
If not, use your hands
If your hands give out
Use your teeth

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音楽
最終更新:2026年09月24日 02:21

*1 作:SUNO

*2 作:SUNO