ペニシール
[解説]
ただし、このペニシールは、あくまでアオカビを精製し、薬効成分のみを抽出した「天然ペニシリン」と呼ばれるものであり、旧人類が作り出したペニシリンの薬剤そのもののレベルにまでたどり着いているとはいえない。
というのも、本来、薬剤として完成されたペニシリンというものは、分子構造の置換や合成等の高度な生化学的手法を用いて製造される「合成ペニシリン」と呼ばれるものであり、天然ペニシリンでは効果の薄い大腸菌や、全く効果のない緑膿菌などの菌に対しても効果を示すようにその作用が強化されたものなのだ。
このため、いくら旧暦時代の医学書を発掘し、研究を重ねた同盟といえど、ここまでのものを作り上げられるだけの生化学技術や生合成技術の再現には至っていないのである。
というのも、本来、薬剤として完成されたペニシリンというものは、分子構造の置換や合成等の高度な生化学的手法を用いて製造される「合成ペニシリン」と呼ばれるものであり、天然ペニシリンでは効果の薄い大腸菌や、全く効果のない緑膿菌などの菌に対しても効果を示すようにその作用が強化されたものなのだ。
このため、いくら旧暦時代の医学書を発掘し、研究を重ねた同盟といえど、ここまでのものを作り上げられるだけの生化学技術や生合成技術の再現には至っていないのである。
[開発経緯]
ペニシールが開発されたのは聖華暦690年ごろのことである。
聖華暦500年台以降、自由都市同盟では、旧暦時代の科学書解析が国策として行われていた。
このような科学技術の探究がこんなにも熱心に行われていたのは、帝国と聖王国という強大な二国に魔法という技術において、大きく溝をあけられていた同盟がこの二大国になんとか追いすがるためには旧暦時代の高度な知識がどうしても必要であったためであろう。
このような科学技術の探究がこんなにも熱心に行われていたのは、帝国と聖王国という強大な二国に魔法という技術において、大きく溝をあけられていた同盟がこの二大国になんとか追いすがるためには旧暦時代の高度な知識がどうしても必要であったためであろう。
そんな中で、シン・ヨモカタという一人の医師が旧暦時代の医学書から、ペニシールの開発に繋がることになる、ペニシリン系抗生物質という薬剤の存在と、細菌、そして細菌性感染症という概念を再発見することになる。
旧暦時代の医学書により、知識を得はしたものの、目に見えない細菌という存在自体には半信半疑であったヨモカタ医師であったが、彼にも、確かに、この細菌と呼ばれるものが引き起こすとされている炎症。肺炎や筋膜炎という症状には覚えがあった。
「魔法や魔法薬によって治癒力を高めるという従来の手法では効果の薄かったこれらの症状も、もしこのペニシリン系抗生物質を現代で再現することができたなら、治療できるかもしれない。外科的な治療の際に起こる炎症も細菌感染なのだとすれば、これを使えばあるいは抑えられるかもしれない……」
そう考えた彼は、聖華暦830年代において、ペニシールとして知られているペニシリン系抗生物質の開発に着手したのだ。
「魔法や魔法薬によって治癒力を高めるという従来の手法では効果の薄かったこれらの症状も、もしこのペニシリン系抗生物質を現代で再現することができたなら、治療できるかもしれない。外科的な治療の際に起こる炎症も細菌感染なのだとすれば、これを使えばあるいは抑えられるかもしれない……」
そう考えた彼は、聖華暦830年代において、ペニシールとして知られているペニシリン系抗生物質の開発に着手したのだ。
しかし、旧暦時代の医学書があるとはいえ、その実現、そして実用レベルでの量産化の為には越えなければならない壁がいくつも立ちはだかることになる。
研究開始当初、まず直面したのが、発見された医学書に記載されていたペニシリン系抗生物質はとてもではないが聖華暦時代の技術力では再現不可能なものであったということだ。
先にも述べたように、旧暦時代、ペニシリン系抗生物質は非常に高度な生化学的技術を用いた分子の合成によって製造される「合成ペニシリン」であった。当然、これを製造する為には「高度な生化学的知識」と「それを実現するための機器類」が必要不可欠だったのだ。
先にも述べたように、旧暦時代、ペニシリン系抗生物質は非常に高度な生化学的技術を用いた分子の合成によって製造される「合成ペニシリン」であった。当然、これを製造する為には「高度な生化学的知識」と「それを実現するための機器類」が必要不可欠だったのだ。
しかし、彼は、諦めなかった。
「現在見つかっている医学書に残る製法は旧暦の時代の中でも最先端であったもの。そうであるならば、旧暦ではこのペニシリン系抗生物質はどうやって発見され実用化されてきたのか。それを解き明かすことができたなら、同盟が今の時点で保有している科学技術でも実現できるかもしれない。」彼は、決意とともに旧暦時代の書物の中でも、特に医学史についてのものや参考書の類を読み漁るようになる。
そして、数年後、彼はついにペニシリンが普遍的に存在しているアオカビと呼ばれる細菌から分離できるらしい水溶性の物質であることを突き止める。……しかし、それでも肝心の「初歩的な分離方法」そのものについてはどうしても見つけることができなかった。
「現在見つかっている医学書に残る製法は旧暦の時代の中でも最先端であったもの。そうであるならば、旧暦ではこのペニシリン系抗生物質はどうやって発見され実用化されてきたのか。それを解き明かすことができたなら、同盟が今の時点で保有している科学技術でも実現できるかもしれない。」彼は、決意とともに旧暦時代の書物の中でも、特に医学史についてのものや参考書の類を読み漁るようになる。
そして、数年後、彼はついにペニシリンが普遍的に存在しているアオカビと呼ばれる細菌から分離できるらしい水溶性の物質であることを突き止める。……しかし、それでも肝心の「初歩的な分離方法」そのものについてはどうしても見つけることができなかった。
それはやはり、旧暦時代時点においてすでに、はるか太古の技術であったアオカビからの直接的な分離技術を詳細に記した書物というものがほとんど存在していなかったためであろう。
書籍の解読による研究に限界を感じた彼は、研究手法を変えることを考える。つまり、外部の協力者を頼ることにしたのだ。
そこで彼が協力を求めたのは、彼の故郷、カミナの里に存在する古来からの手法を守った酒造りを行っている酒造、クシナダ酒造であった。
とはいえ、もちろん、クシナダ酒造の杜氏たちも細菌類という存在やその作用について、知識として知っているわけではない。それでも、細菌類による発酵を利用した酒造りを行なっているのであれば、それとは知らずとも細菌類の扱いに長けているのではないか、共同研究によって何か得るものがあるのではないかと期待したのだ。
とはいえ、もちろん、クシナダ酒造の杜氏たちも細菌類という存在やその作用について、知識として知っているわけではない。それでも、細菌類による発酵を利用した酒造りを行なっているのであれば、それとは知らずとも細菌類の扱いに長けているのではないか、共同研究によって何か得るものがあるのではないかと期待したのだ。
当初、突然、細菌類の存在とそこから作り出せる未知の薬について力説され、最初は戸惑った杜氏たちではあったが、ヨモカタ医師の根気強い説得と熱意に次第に心動かされ、最終的には協力を約束するに至った。
その中心となったのがクシナダ酒造の杜氏、ハナ・クシナダであった。彼女を筆頭とする杜氏たち数名がアマルーナの研究所に派遣され、異分野共同でのペニシリン研究がスタートすることとなったのだ。
その中心となったのがクシナダ酒造の杜氏、ハナ・クシナダであった。彼女を筆頭とする杜氏たち数名がアマルーナの研究所に派遣され、異分野共同でのペニシリン研究がスタートすることとなったのだ。
共同研究が始まってまず取り組んだのはアオカビの純粋培養であった。
アオカビからの分離方法は依然不明なままではあったが、実験を重ねるためにも、そして将来的に量産を考えても、純粋なアオカビのコロニーを安定して手に入れる方法を確立する必要があったのである。
この研究において、早速杜氏たちの知識が役立つことになった。というのも、杜氏たちの行っている酒造りにおいて避けては通れない酒母作りにおいて、蒸米に麹と共に酵母と呼ばれている粉末を添加するのだがこの酵母こそ、発酵の原因となる細菌、酵母菌の純粋培養された集合体であったのだ。
つまり、杜氏たちはそれと知らぬまま、経験知によって酵母菌の純粋培養を成功させる技術をすでに持ち合わせていたのである。
アオカビからの分離方法は依然不明なままではあったが、実験を重ねるためにも、そして将来的に量産を考えても、純粋なアオカビのコロニーを安定して手に入れる方法を確立する必要があったのである。
この研究において、早速杜氏たちの知識が役立つことになった。というのも、杜氏たちの行っている酒造りにおいて避けては通れない酒母作りにおいて、蒸米に麹と共に酵母と呼ばれている粉末を添加するのだがこの酵母こそ、発酵の原因となる細菌、酵母菌の純粋培養された集合体であったのだ。
つまり、杜氏たちはそれと知らぬまま、経験知によって酵母菌の純粋培養を成功させる技術をすでに持ち合わせていたのである。
こうして、思わぬ躍進を遂げたヨモカタ医師らは早速この技術を応用しアオカビを純粋培養するための技術研究を進めて行くことになるのだが、その研究の中でもう一つ嬉しい誤算、それも革命的な発見をすることになる。
研究中の操作ミスにより常在菌の混入、つまりはコンタミネーションが起こってしまったコロニーにおいてアオカビ周辺の常在菌の生育が抑えられるという現象が確認できたのだ。
この現象こそ、紛れもなくペニシリンによる殺菌作用にほかならなかった。
この現象こそ、紛れもなくペニシリンによる殺菌作用にほかならなかった。
つまり、アオカビのもつ抗生物質、ペニシリンとはアオカビ自身が優位にコロニーを広げるために周りの細菌類を死滅させるために放出している物質であることが判明したのだ。
ここまで判明すれば、そこから先はこれまでの期間に比べればまさしく「アッというま」であった。
ペニシリンが水溶性の物質であることはすでに文献の研究から判明しているため、純粋培養を行ったアオカビの液体培地を、酒造りの過程で使用される器具を使用して濾過し菌体を取り除く。
そうして得られた液体に油を加えて攪拌したあと放置する。
こうすることで液体は「油に溶ける脂溶性物質」「水にも油にも溶けない不溶性物質」「水に溶ける水溶性物質」の3種類に分離する。
このうち水溶性物質の含まれる部分を取り出せば、やや不純物は含まれるもののペニシリン溶液を取り出すことが可能になったのだ。
ペニシリンが水溶性の物質であることはすでに文献の研究から判明しているため、純粋培養を行ったアオカビの液体培地を、酒造りの過程で使用される器具を使用して濾過し菌体を取り除く。
そうして得られた液体に油を加えて攪拌したあと放置する。
こうすることで液体は「油に溶ける脂溶性物質」「水にも油にも溶けない不溶性物質」「水に溶ける水溶性物質」の3種類に分離する。
このうち水溶性物質の含まれる部分を取り出せば、やや不純物は含まれるもののペニシリン溶液を取り出すことが可能になったのだ。
この後、ヨモカタ医師らはペニシリン溶液のさらなる純度向上、さらには薬効検査による薬効が強いペニシリンを生成するアオカビ株の選別などの研究を進めていき、ついに、聖華暦687年、安定して生成可能な乾燥ペニシリン、のちのペニシールの製造に成功することになった。
こうして製造法が確立されたペニシールはその後、レッド・クロスの下部組織としてヨモカタ医師らを中心に新たに立ち上げられたペニシール製造所、信友堂において安定的な製造及びさらなる研究が進められていくことが決まり、菌株の品種改良や精製方法の改善などが重ねられ現代のペニシールにまで続いていくことになる。
[ヨモカタ医師らの確立した製法及び使用法]
<ステップ1>
アオカビの培養作業をする。
芋の煮汁と米のとぎ汁を合わせた液体を容器に入れ、液体培地を作る。
その上に、集めたアオカビ(カビは27℃で一番発生しやすい)を移植する。
↓
<ステップ2>
ペニシリンの抽出作業を行う。
蓋つきの陶器の樽の上に綿をつめたじょうごを置き、その上からアオカビの培養液を流し入れ、培養液を濾過する。
↓
濾過した液体の中に、菜種油を注ぎ、樽の中を棒でかき混ぜる。
この作業によって、樽の中の液体が「油に溶ける脂溶性物質」「水にも油にも溶けない不溶性物質」「水に溶ける水溶性物質」の3種類に分離する。
↓
樽の栓を抜き、一番下に溜まった水の部分(水溶性物質)だけを別の容器に移す。
ペニシリンは水溶性物質のため、この部分に溶けているということになる。
↓
ペニシリン溶液からさらに不純物を取り除く。
煮沸消毒して砕いた炭を入れた甕(かめ)にペニシリン溶液を流し込み、再びかき混ぜる。「ペニシリンは炭に吸着する」性質があるため、炭のみを取り出し、容器(※注ぎ口と排出口のついたもの)に詰めかえる。
↓
煮沸蒸留したきれいな水を注ぎ口から流し込み、不純物を洗い流す。
さらに純度を上げるため、今度は酸性水(お酢と蒸留水を混ぜたもの)を注ぐ。ペニシリンは酸性物質のため、酸性水で洗うことによって、炭に吸着しているアルカリ性の不純物質を取り除くことができる。
↓
最後に、容器の排出口に綿をつめた(フィルターの働きをする)器具を取り付け、受け皿となる容器を用意。注ぎ口から重曹を溶かした蒸留水(※アルカリ性)を通す。これによってペニシリンは炭から溶け出し、排出口からは純度の高いペニシリン溶液が抽出される。
↓
<ステップ3>
ペニシリン抽出液の薬効を調べる。
半合ずつに分けたペニシリン抽出液を、患者の膿から採取したブドウ球菌をなすりつけた寒天培地に少しずつたらす。蓋をして数日待つ。
↓
<ステップ4>
薬効の確認できたペニシリン抽出液を和紙に染み込ませ乾燥させる。
乾燥しきった和紙(乾燥したペニシリンが付着している)を5cm角程度に切り分け、保存する。
アオカビの培養作業をする。
芋の煮汁と米のとぎ汁を合わせた液体を容器に入れ、液体培地を作る。
その上に、集めたアオカビ(カビは27℃で一番発生しやすい)を移植する。
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<ステップ2>
ペニシリンの抽出作業を行う。
蓋つきの陶器の樽の上に綿をつめたじょうごを置き、その上からアオカビの培養液を流し入れ、培養液を濾過する。
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濾過した液体の中に、菜種油を注ぎ、樽の中を棒でかき混ぜる。
この作業によって、樽の中の液体が「油に溶ける脂溶性物質」「水にも油にも溶けない不溶性物質」「水に溶ける水溶性物質」の3種類に分離する。
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樽の栓を抜き、一番下に溜まった水の部分(水溶性物質)だけを別の容器に移す。
ペニシリンは水溶性物質のため、この部分に溶けているということになる。
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ペニシリン溶液からさらに不純物を取り除く。
煮沸消毒して砕いた炭を入れた甕(かめ)にペニシリン溶液を流し込み、再びかき混ぜる。「ペニシリンは炭に吸着する」性質があるため、炭のみを取り出し、容器(※注ぎ口と排出口のついたもの)に詰めかえる。
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煮沸蒸留したきれいな水を注ぎ口から流し込み、不純物を洗い流す。
さらに純度を上げるため、今度は酸性水(お酢と蒸留水を混ぜたもの)を注ぐ。ペニシリンは酸性物質のため、酸性水で洗うことによって、炭に吸着しているアルカリ性の不純物質を取り除くことができる。
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最後に、容器の排出口に綿をつめた(フィルターの働きをする)器具を取り付け、受け皿となる容器を用意。注ぎ口から重曹を溶かした蒸留水(※アルカリ性)を通す。これによってペニシリンは炭から溶け出し、排出口からは純度の高いペニシリン溶液が抽出される。
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<ステップ3>
ペニシリン抽出液の薬効を調べる。
半合ずつに分けたペニシリン抽出液を、患者の膿から採取したブドウ球菌をなすりつけた寒天培地に少しずつたらす。蓋をして数日待つ。
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<ステップ4>
薬効の確認できたペニシリン抽出液を和紙に染み込ませ乾燥させる。
乾燥しきった和紙(乾燥したペニシリンが付着している)を5cm角程度に切り分け、保存する。
こうすることで、長期の保存に耐えるため、ストックの確保や輸出時にはこの乾燥ペニシリンの状態で運ばれ、各医療機関でペニシリン溶液に加工され使用される。
<基本的な使用法>
1.重曹を溶かした蒸留水に乾燥ペニシリンの付着した和紙をつけ、しばらく置く、そうすることで、液中にペニシリンが溶け出し、ペニシリン溶液を得ることができる。
1.重曹を溶かした蒸留水に乾燥ペニシリンの付着した和紙をつけ、しばらく置く、そうすることで、液中にペニシリンが溶け出し、ペニシリン溶液を得ることができる。
2.このペニシリン溶液を患者の傷口や、手術を行う際の開口部に塗布、あるいは綿などに染み込ませ貼り付ける。
3.後述の対薬剤耐性菌用のディミニッシュ はペニシリン溶液の塗布後に傷口周辺にかけられる。
このように、ペニシリン溶液及び対薬剤耐性菌用ディミニッシュは基本的には傷口周辺に直接施されるものであるが、全身に細菌感染が広がっていることが予測される重篤な症状の場合には患者の全身に作用させるため、ペニシリン溶液の経口摂取と全身に対してのディミニッシュ措置がとられることもある。
[薬剤耐性菌への対応]
ペニシールの完成から百数十年余り、長きにわたって使用されてきたペニシールは今や自由都市同盟にとどまらず、三国全体で広く使用される医薬品となっていた。
もっとも、それは帝国、聖王国に対してはその明らかに科学技術由来である出自と製法を徹底的に隠すことで、そして両国ともにそれを察しつつも革命的な医薬品であるという一点を理由に黙認することで実現されているものではあった。
もっとも、それは帝国、聖王国に対してはその明らかに科学技術由来である出自と製法を徹底的に隠すことで、そして両国ともにそれを察しつつも革命的な医薬品であるという一点を理由に黙認することで実現されているものではあった。
しかし、そこまで広く普及し、普遍的に使用されるようになったことで、ある一つの大きな問題を引き起こすようになっていた。すなわち、薬剤耐性菌の出現である。
細菌は、人間をはじめとする多くの生き物と比較して非常に生命サイクルの短い生物である。それはつまり、淘汰圧に対する適応が早いことを意味している。それに加えて、細菌に対して効果的な抗生物質は確かに効率的に細菌を殺すものの、その物質に対して僅かに耐性を持つ細菌は細々と生き残り、結果としてその薬剤に対して耐性を持った細菌が「選抜」されることになるのだ。
これにより、通常の進化の速度よりも遥かに速く、普遍的に使用される薬剤に対して耐性を持つ細菌、薬剤耐性菌が出現してくることになる。
細菌は、人間をはじめとする多くの生き物と比較して非常に生命サイクルの短い生物である。それはつまり、淘汰圧に対する適応が早いことを意味している。それに加えて、細菌に対して効果的な抗生物質は確かに効率的に細菌を殺すものの、その物質に対して僅かに耐性を持つ細菌は細々と生き残り、結果としてその薬剤に対して耐性を持った細菌が「選抜」されることになるのだ。
これにより、通常の進化の速度よりも遥かに速く、普遍的に使用される薬剤に対して耐性を持つ細菌、薬剤耐性菌が出現してくることになる。
もちろん、医療者側もただ手をこまねいていたわけではない。耐性菌に対しても有効なペニシリンを研究し、製造方法に工夫を加え続けることで抵抗を試みた。
しかし、技術的な限界からペニシリンの化学合成という手法が取れない以上、どうしても後手に回ることになってしまっていたのだ。
しかし、技術的な限界からペニシリンの化学合成という手法が取れない以上、どうしても後手に回ることになってしまっていたのだ。
そのような状況を覆すことになったのが、付与魔法フィジカルブーストの応用で生み出された、弱体魔法ディミニッシュをさらに応用し、身体を侵す細菌に対し、ディミニッシュを発動し薬剤耐性を低下させた上でペニシールを投与するという手法の確立である。
この手法は自由都市同盟の医師たちにより生み出されたものであるが、まさに、科学に対する知識と魔法に対する知識、両方を持つ同盟の医師だからこそ生み出せたものと言えるだろう。
この手法は自由都市同盟の医師たちにより生み出されたものであるが、まさに、科学に対する知識と魔法に対する知識、両方を持つ同盟の医師だからこそ生み出せたものと言えるだろう。