ノーアトゥンでのひととき
聖華暦833年12月15日 13:09
僕は時間潰しを兼ねて、駐屯地の訓練場で素振りをする事にした。
この先は死地だから。
何かしていないと不安になってしまう。
この先は死地だから。
何かしていないと不安になってしまう。
最近は双翼刃を集中的に使っている。
双翼刃は一本の棒の両端に刃を持った薙刀のような武器だ。
持ち手を支点にくるくると回す事で素早く連撃を繰り出す事が出来る。
一撃の重さよりも手数を重視した武器だろう。
使いこなせれば相手に反撃の糸間を与えずに封殺する事も可能だ。
双翼刃は一本の棒の両端に刃を持った薙刀のような武器だ。
持ち手を支点にくるくると回す事で素早く連撃を繰り出す事が出来る。
一撃の重さよりも手数を重視した武器だろう。
使いこなせれば相手に反撃の糸間を与えずに封殺する事も可能だ。
もちろん言うのは簡単だけど、扱いはとても難しい。
けれど、僕は体格的に恵まれていない。
僕の渾身の一撃は、体格に恵まれた者にとっては大した脅威にはならないのが現実なのだ。
けれど、僕は体格的に恵まれていない。
僕の渾身の一撃は、体格に恵まれた者にとっては大した脅威にはならないのが現実なのだ。
それならば一撃の重さを捨てて、手数で圧倒するのが僕には向いている。
それにソウルイーターを使えば、その全てが必殺の一撃となるのだから、この選択は間違いでは無いはずだ。
そう思い、師匠から双翼刃の型を学んで修練している。
まだ付け焼き刃ではあるけれど。
まだ付け焼き刃ではあるけれど。
付け焼き刃ではあるけれど、どうせ一朝一夕に上達はしない。
ならば数をこなして身につける。
未熟な自分にはそれしか出来ないのだから。
ならば数をこなして身につける。
未熟な自分にはそれしか出来ないのだから。
身体を動かしていると、幾らか不安が和らぐ。
集中する事で雑音が消える。
自分は弱い。だからこそ、もっと鍛えなければ。
集中する事で雑音が消える。
自分は弱い。だからこそ、もっと鍛えなければ。
一通りの素振りを終え、深呼吸で昂った気持ちを落ち着ける。
少し気が楽になった。
少し気が楽になった。
「貴女は双翼刃を使われるんですね。」
声をかけられて、そちらに顔を向けた。
長くて綺麗な金髪と澄んだ青い瞳、優しそうな柔和な笑みを浮かべた女性だった。
長くて綺麗な金髪と澄んだ青い瞳、優しそうな柔和な笑みを浮かべた女性だった。
「ハーティスさん。」
「リリィで良いですよ、リコス・ユミアさん。リコスさんと呼んでも?」
「はい、構いません、リリィさん。」
僕の返答に彼女はにっこりとして、少しお話をしましょうと訓練場のベンチに座った。
僕もベンチに置いておいたタオルで汗を拭って彼女の傍に座る。
僕もベンチに置いておいたタオルで汗を拭って彼女の傍に座る。
「リコスさんはいくつですか?」
「14です。」
「私は今18です。貴女は修行を始めて1年経っていないと聞いています。かくいう私も、まだ2年に満たないほどですけれど。」
「そうなんですか? とても落ち着いているので、…えっと、失礼ですけどもう少し年上かと思っていました。」
リリィさんの年齢を聞いて、素直な感想を述べた。
僕の知ってる年上の弟子達は皆、こんなに落ち着いた物腰では無かったから。
僕の知ってる年上の弟子達は皆、こんなに落ち着いた物腰では無かったから。
「落ち着いているように見えますか? これでも不安で落ち着かないんですよ。」
そう言う彼女は笑みこそ絶やしてはいなかった。
けれど、握りしめた拳が僅かに震えていた。
けれど、握りしめた拳が僅かに震えていた。
「……やっぱり不安ですか? 僕も不安です。不安だから身体を動きていないと落ち着きません。」
「ふふ、ダメですね。年上の私が不安だなんて言っていては。ベインに叱られてしまいます。『ガーランド卿の弟子として自覚を持て』って。」
ふっと出てきた名前に僅かな疑問を感じて聞いてみた。
「そう言えばベインさん…もガーランド卿の弟子なんですよね。………いくつなんですか?」
「今25です。あの外見ですから判りませんよね。」
クスッと笑った笑顔が可愛くて、僕も釣られて笑った。
「あぁ、お話したらスッキリしました、ありがとうございます。またお話しましょう。」
「僕の方こそ気が紛れました。いつでも。」
彼女はとても親しみやすい方だ。
本当に僕の知ってる年上の弟子達とは随分な違いだなぁ。
本当に僕の知ってる年上の弟子達とは随分な違いだなぁ。
「リコス・ユミア、丁度良いところに居ましたね。」
リリィさんが中座しようとしていた時、彼女の師匠である暗黒騎士、ガーランド卿がベインさんを伴って現れた。
僕達は立ち上がって敬礼する。
僕達は立ち上がって敬礼する。
今の口振りから、僕に用があるらしい。
「ガーランド卿、何用でしょうか?」
「これからの勅命を遂行するにあたり、貴女の力量を知っておきたいのです。どこまで出来るかはイディエル卿から聞き及んでいますが、やはりこの目で見ておきたい。」
「判りました。何をすればよろしいでしょうか。」
そこでガーランド卿はベインさんをチラッと見た。
「こちらのベインと手合わせをしてください。この木偶は見た目通り頑丈ですから、思いっきり殴っても支障はありません。」
ひどい言いように、思わず吹き出しそうになってしまった。
……すんでのところで堪えれたけど。
……すんでのところで堪えれたけど。
「……判りました。よろしくお願いします。」
「うむ。」
ベインさんは長身で体格が良い。
それにあつらえたような大剣を右手一本で持ち、右半身を前に出して構えている。
逆に左手はだらりと垂れ下がっている。
それにあつらえたような大剣を右手一本で持ち、右半身を前に出して構えている。
逆に左手はだらりと垂れ下がっている。
アルカディア正統剣術・新月の構えに似ているけれど、左手に何も持たず胸の前に構えていないのがセオリーから外れていて不気味だ。
「二人とも、暗黒闘気を纏いなさい。」
「応!」
「はい!」
返事とともに暗黒闘気を纏う。
その瞬間に相手から感じる威圧感が一気に上がった。
先日のゴザレス卿の弟子達からは全く感じられなかった迫力が、彼からは圧倒的に感じられる。
その瞬間に相手から感じる威圧感が一気に上がった。
先日のゴザレス卿の弟子達からは全く感じられなかった迫力が、彼からは圧倒的に感じられる。
「どこからでも来い。」
彼は動かない。
けれども隙は無い。
明らかに実力は僕よりも上なのが判る。
けれども隙は無い。
明らかに実力は僕よりも上なのが判る。
とは言え、ここで何もせずに参るわけにはいかない。
ガーランド卿は僕の力量を知りたいのだから。
だから、思いっきり行く事にした。
ガーランド卿は僕の力量を知りたいのだから。
だから、思いっきり行く事にした。
僕は剣の持ち手を狙って双翼刃を下段から切り上げる。
ベインさんはそれを僅かな動きで狙いを逸らし、剣で受ける。
僕はそこを支点に接近し、反対の刃で上段から切り込んだ。
ベインさんはそれを僅かな動きで狙いを逸らし、剣で受ける。
僕はそこを支点に接近し、反対の刃で上段から切り込んだ。
でも、その攻撃を見切ったベインさんは左手の甲でそれを左に受け流す。
僕は左に流れる自分の体位を利用して彼が横凪にしようとした大剣に蹴りを入れつつ反動で間合いを取る。
僕は左に流れる自分の体位を利用して彼が横凪にしようとした大剣に蹴りを入れつつ反動で間合いを取る。
「ほぅ、やるな。」
ベインさんはあくまでも余裕だ。
一方で僕の方は余裕がない。
あれであっさり躱されたのでは全く気が抜けない。
それに、まだ向こうから仕掛け来ていない。
一方で僕の方は余裕がない。
あれであっさり躱されたのでは全く気が抜けない。
それに、まだ向こうから仕掛け来ていない。
僕は左回りにジリジリと移動しながら間合いを少しずつ詰める。
ベインさんの方はこちらに視線を寄越すだけで相変わらず微動だにしない。
と、ここで動いた。
一足で間合いを詰め、振りかぶった大剣を躊躇いなく振り下ろしてきた。
僕は半歩分右へ身体を捻ってギリギリで大剣を躱し、ガラ空きの右背中側に横凪に双翼刃を振るった。
一足で間合いを詰め、振りかぶった大剣を躊躇いなく振り下ろしてきた。
僕は半歩分右へ身体を捻ってギリギリで大剣を躱し、ガラ空きの右背中側に横凪に双翼刃を振るった。
だけど、ベインさんは大胆にも前へ倒れ込むように躱し、起き上がり様に足を狙って振り抜いて来た。
避けなければ足を払われて転倒してしまう。
けれど、ただ避けただけでは間合いからは抜け出せない。
けれど、ただ避けただけでは間合いからは抜け出せない。
瞬時に暗黒闘気を足に集約し、脚力を強化して後ろに跳んだ。
強化した跳躍で5mは一気に間を開ける。
強化した跳躍で5mは一気に間を開ける。
「それまで。」
ガーランド卿が模擬戦の終了を告げた。
「二人とも、ご苦労様でした。」
「これで良かったんですか?」
「ええ、これでおおよそ把握出来ました。」
時間にしてほんの数分ほどだったけど、ガーランド卿はこれで僕の力量を把握したと言う。
「流石にイディエル卿が目をかけているだけはあります。貴女はもっと伸びますよ。」
「あ…、ありがとうございます。」
師匠以外の暗黒騎士から褒められたのは初めてだから、素直に嬉しかった。
「私はショックです。今のはどう見ても私より強いじゃないですか……」
リリィさんは大袈裟にガックリと項垂れる仕草をしている。
けれど、なんだかショックを受けているようには見えない。
けれど、なんだかショックを受けているようには見えない。
「確かに、今のはリリィよりも上だな。」
ベインさんの一言で、リリィさんは本気で脱力した。
「リリィ、貴女も精進なさい。貴女にも十分な才能があります。これは慰めやお世辞などではありませんよ。」
「……はい、師匠、精進致します……。」
リリィさんの表情は渋いままだったけど、ベインさんが私に向かって親指を立て、うなづいた。
僕は三人に頭を下げた。
僕は三人に頭を下げた。
「御指導ありがとうございます。」
ガーランド卿はうなづき、ベインさんは軽く右手を上げ、リリィさんは頭を下げて、訓練場を後にした。