出発
聖華暦833年 12月17日 5:00
「やあ、おはよう。」
早朝、とある暗黒騎士に声をかけられた。
「あ、えっと…おはよう…ございます…。」
「まだ寝ぼけているのかね? シャキッとしたまえ。」
彼は……、彼だと思う。
思う、というのは、外見で性別がよく解らなかったから。
思う、というのは、外見で性別がよく解らなかったから。
というのも、その、なんと言うか、彼が亜人の、そう、烏の姿をしていたからだ。
「君はイディエル卿の弟子だね。名は確か…、リコス・ユミアか。おっと失敬した、まだ名乗っていなかったな。私はアンヴァーク・ロウ。アンヴァークが姓でロウが名前である。……何かね? 私の顔に何か付いているというのかね?」
「いえ、申し訳ありません。」
うっかりと顔を見続けていたのは不快に思われたかもしれない。
そう思ったけれど、当の本人は気にしている様子も……やっぱりよく解らない……。
そう思ったけれど、当の本人は気にしている様子も……やっぱりよく解らない……。
「君の師匠とは懇意にしている。何かあれば頼ってもらって構わない。」
「はい、ありがとうございます。よろしくお願い致します、アンヴァーク卿。」
「うむ、遠慮はいらないとも。」
どうやら気を悪くされてはいないようで、ホッとした。
「やあ諸君、おはよう。」
「おはよう。」
「リコスさん、おはようございます。」
「皆さん、おはようございます。」
「おはよう。」
「リコスさん、おはようございます。」
「皆さん、おはようございます。」
バキアさんにベインさん、リリィさんとサヤさんが揃ってやって来た。
「諸君、おはよう。」
皆はアンヴァーク卿を見るなり。
「鳥だ。」
「鳥だな。」
「鳥ですね。」
「鳥さん。」
「鳥だな。」
「鳥ですね。」
「鳥さん。」
「皆さんっ⁈」
皆の反応に、思わず突っ込んでしまった。
なんて遠慮が無いんだろう……。
なんて遠慮が無いんだろう……。
「若者達は元気があって良いのう。」
「ええ、そうですねぇ。」
さらに、二人の暗黒騎士が集まる。
どちらもだいぶ高齢のように見える。
一人は背がいささか低い、けれどその体躯はまるで巌そのもののように鍛え上げられている。
どちらもだいぶ高齢のように見える。
一人は背がいささか低い、けれどその体躯はまるで巌そのもののように鍛え上げられている。
バキアさんの師匠、バンザ・ジルベール卿だ。
もう一人は背が高くスラっとしていて、白髪を一本に結えている。
穏やかな笑みを湛えているけれど、片目は眼帯によって隠されている。
こちらの方は名前を知らない。
穏やかな笑みを湛えているけれど、片目は眼帯によって隠されている。
こちらの方は名前を知らない。
「おはようございます。」
「おはようございます。リコス・ユミアと申します。御名をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんですとも。わたくしめはイルドア。イルドア・スタンフィールドと申します。ご覧の通りのじじぃですが、以後、お見知りおきいただければ。」
「これから御指導、御鞭撻、よろしくお願い致します。」
「ふふふ、礼儀正しい子ですね。よろしくお願いします。」
スタンフィールド卿は物腰が柔らかく少しも偉ぶったりせず、なんとも頼りない気がする。
けれど、注意深く観れば身体の動きには一分の隙も無い。
それだけで、本人が言うようなただの年寄りなどでは無いと判る。
けれど、注意深く観れば身体の動きには一分の隙も無い。
それだけで、本人が言うようなただの年寄りなどでは無いと判る。
「今ナンつった! もう一辺抜かしてみろ‼︎ 」
突然、怒号が響いた。
「テメェ今バンザ様を馬鹿にしたかァ⁉︎ 明日の朝日拝めなくしてやらァよォ!」
「落ち着け、馬鹿になどしてはいない。ただご高齢ゆえに無理はさせられんと言っただけだ。」
「それを馬鹿にしてるってんだよ! バンザ様はテメェ如きに心配されるようなヤワなお方じゃねぇんだよ‼︎ 」
顔を怒りの形相に染めたバキアさんが、ベインさんに食ってかかる。
一触即発、只事では無い雰囲気に、けれども間に割って入ったのはスタンフィールド卿。
一触即発、只事では無い雰囲気に、けれども間に割って入ったのはスタンフィールド卿。
「双方引きなさい。目的なき諍いはただの蛮行。帝国の剣たる自覚を忘れてはなりませんよ。」
「いいや、勘弁ならねえ! そこを……」
静かに、背筋が寒くなるほどの静かな殺気が、場を包む。
その中心は、スタンフィールド卿だった。
怒気を強めていたバキアさんが、その怒りを受けてたとうとしていたベインさんも、一歩引いてしまうほど。
怒気を強めていたバキアさんが、その怒りを受けてたとうとしていたベインさんも、一歩引いてしまうほど。
「バキア、落ち着かんか。済まぬなイルドア、手間をかけた。」
「ふふ、本当に若い者は元気があって良いですね。」
暗黒騎士の真に恐ろしい、その一端を垣間見た気がした。
「さて、揃っておるか?」
ジルベール卿が僕達を見回す。
「一人足りてませんね。」
スタンフィールド卿が人数を把握してジルベール卿に言った。
確かに一人足りない。
確かに一人足りない。
「ジェラルディン・マルケスさんがまだ来ていません。」
サヤさんも誰が来ていないのかを把握し、ジルベール卿へ報告した。
「おやおや、仕方がありませんね。」
ジルベール卿は苦虫を噛み潰し、スタンフィールド卿も困ったような笑みを浮かべ、アンヴァーク卿は……よくわからない。
「私が見に行って来ます。」
「僕も行きます。」
サヤさんについて僕も行く事にした。
ジェラルディンさんに割り当てられている部屋は僕の部屋の隣だ。
忘れ物があったのでそのついでに。
ジェラルディンさんに割り当てられている部屋は僕の部屋の隣だ。
忘れ物があったのでそのついでに。
「ジェラルディンさん、ジェラルディンさん、起きていますか?」
サヤさんが部屋の扉をノックして、返事が無いので呼びかける。
しかし、部屋の中からは反応が無い。
しかし、部屋の中からは反応が無い。
「ジェラルディンさん、入りますよ?」
僕がドアノブを回すと扉はあっさりと開く。
中からはスヤスヤと安らかな寝息が聞こえて来た。
まだ眠っているようだ。
中からはスヤスヤと安らかな寝息が聞こえて来た。
まだ眠っているようだ。
「ジェラルディンさん、起きてください。もうすぐ出発の時間ですよ!」
「ん〜、ふあぁぁ、あ〜……おはよ。」
サヤさんがジェラルディンさんをゆすると、まだ眠い目をこすりながらジェラルディンさんはゆっくりと起き上がった。
「ジェラルディンさん、支度を急いでください。皆さん準備は出来ていますよ。」
「朝からそんなに急かすなよ。アタイのオカンかっつーの。」
「出発の時間が迫ってますよ。」
「えー、出発? ………あー!もうこんな時間⁈ やっば、師匠にどやされる!」
時計を見て、ようやく目を覚ましたジェラルディンさんは慌ただしく支度を始めた。
結局、僕とサヤさんも支度を手伝って、出発にはギリギリ間に合った。
ファリオン卿が一堂を激励する。
「出発する!」
数多の魔獣が蠢く死地へと。