獣避香
[解説]
粉末状のお香か線香の形で売られている。
使い方は、結界を張りたい場所(最大1ヘクタール四方)を囲む四隅に香炉を置くか線香を立て、火をつける。
すると立ち上った香の煙が高さ1丈(約3.3メートル)の上空で結界領域を囲むように滞留し、8時間の間、結界内に魔獣を寄せ付けなくなる。
調合は部族によって異なり外部には秘されているが、交易品として外部の人間にも販売されているため、秘薬の中ではよく知られた存在。
この秘薬は、鋼魔獣には効果がない。
また、魔獣でない普通の動物にも影響はないが、人間によってはどす黒い不快な気を放つ雲が辺りを取り巻いているようなイメージを見ることがあるのが知られている。
時代が進むと三大国家の人間により成分分析が行われたが、何種類かの魔獣の血液と、後は薬効の特にない品物(ヘビの抜け殻、クモの糸、蛾の鱗粉、鳥の骨、薬や毒ではない枯れた植物など部族の居住地で手に入る天然素材)がでたらめに組み合わされているだけで、虫除けなどの忌避物質は含まれていない。
香の煙を留めて結界を張るための術式以外の魔力も測定できない結果に終わった。
秘密
この薬の「有効成分」は、魔獣の死に際の強い恐怖感である。
この薬の「有効成分」は、魔獣の死に際の強い恐怖感である。
材料とする魔獣の血を採取する際に、死霊術の心得のある呪術師が、可能な限り魔獣を苦しめて、それもただ痛めつけるだけでなく魔獣の攻撃を捌いて無力化し、逃げようとしたら回り込み、とことん追い詰めて絶望の中で死に至らしめる。
苦しめれば苦しめるほど、絶望させればさせるほど良質の材料が取れる。
こうして死霊術で魔獣の血液に怨念を定着させ、穢された血が燃やされることであたりに解放される残留思念が魔獣の本能に訴えかけることで、結界を忌避して近寄らなくなるのだ。なお、残留思念は8時間で消失する。
「どす黒い不吉な気を発する雲」を見てしまう人間は例外なく、意識するとしないとにかかわらず浄眼の持ち主であり、浄眼を通して残留思念の断末魔を見ているのだ。
通常の魔法による分析で正体が判明しなかったのも当然である。
ちなみに、薬の材料のうち魔獣の血以外は、呪術的な意味をこじつけてはいるが、外部の人間から秘密を隠すための目眩しにすぎず、薬効は一切ない。