TDI ベクター

登録日:2011/08/07(日) 11:34:09
更新日:2025/08/28 Thu 23:05:17
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諸元

全長:617mm(折り畳み時406mm)
重量:2.54kg(弾薬含まず)
口径:.45ACP(9x19mm/9x21mm/.40S&W/.357SIG/10mmオート/.22LR)
装弾数:17/25~30+1
連射速度:1200RPM
動作方式:ディレイドブローバック
発射形式:S/F/2点バースト

概要

ベクターとは、アメリカのKRISS USA社が開発・販売している短機関銃である。



KRISS USA社とは

スイスのKRISS Systems社(旧 Transformational Defense Industries(TDI/革新的防衛産業))のアメリカ法人とされる。KRISSとはインドネシア産の炎のような波紋を持つナイフのこと。
起業家ヤン・ヘンリク・イェブセン氏によって2003年に設立された。
銃は基本的には本銃Vectorと.22LR系AR-15クローンであるDMK22 Carbineのみを販売している。Sphinx社買収後はそちらのブランドの拳銃も販売。それ以外はベクターのアクセサリーと服などのグッズがある。
ホームページに会社沿革などがなくスイス側でいつから活動しているのかは不明。調査追記求む。



歴史

.45ACP弾に恋心を抱いているアメリカは悩んでいた。トンプソンやグリースガンは高い成果を上げ、M1911は9mmパラベラム弾使用のM9に制式拳銃を譲った後でも大人気。
しかし.45ACPは高いストッピングパワーを誇るとされる反面、射撃時の反動も大きい。先に挙げたグリースガンでは発射速度を抑えて操作性などを上げていた。
テロ対策でも対象を制止させることを目的とするならば.45ACPは最適と判断していた。
その為アメリカは日々

「君仕様の短機関銃が欲しいな///」
「大口径低反動な短機関銃が欲しいよ///」

と恋歌を風に乗せていたのだった…
その恋歌を聞き、ピカティニー造兵廠とTDI社の共同開発が始まった。そこで生まれたのがKriss Super V System(KSVS)という反動吸収システムである。

2002年頃からシステム自体の構想はあったとされる。
2004年にはピカティニー造兵廠内の部門であるARDEC*1がJSSAP*2の一環として開発予算25万ドルを出している。
設計はフランス人のルノー・ケルブラ氏*3。そのほかにも元米軍将校なども開発に携わっている。



構造

銃は発砲時にマズルジャンプが発生する。薬室から真っすぐ後ろにかかるエネルギーを真っすぐ受け止められず跳ね上がってしまう現象であり、人間が構える以上従来の構造では多かれ少なかれ発生する。
ブローバック式の銃では射撃時、反動でボルトグループが後退するのだが、KSVSではボルトグループの後退方向が射手ではなく下向きとなっている。
これによりボルトが下がる際のエネルギーを下に向けることができ、マズルジャンプを下へ引っ張って相殺できる、というものである。
ボルトグループも軽く、衝撃と重心移動を抑えているため連射時の射手の疲労を抑えることができる。
実際にはボルトの移動は発砲全体で生じる反動の中では一番小さい要素であり、むしろ重くして慣性を載せないと意味がないのだが*4、構造的な自由度の向上にもつながるので下記の利点がある。

銃身はグリップ、ストックとほぼ同直線状、これはMTs-3マテバ/ライノリボルバーなどでみられる。従来の直銃床よりも自然に反動を真っすぐ受け止めやすく跳ね上がりを抑えられる。
この配置を実現するにもKSVSは役立っており、ボルトの移動方向を下向きにしたことで機関部が縦長になり、銃身の真後ろにグリップを配置しつつ銃の全長を短くすることが可能になった。
結果、.45ACP弾を高レートで連射しながら高い集弾性と高い操作性を両立することが可能となった。
MP5との比較テストでは銃口の跳ね上がりが90%減少し、体感するリコイルショックも60%少なかったという。

逆に前方に銃としての機構を収めたことで問題も発生した。
まずフロントヘビーである。銃は肩付けするならグリップあたりかグリップ/ストックの中間あたりに重心を置くのが一般的だがそれらとは違う構え肩を要求される。まぁ短機関銃として重くはないのであまり問題ではないが…
そしてそもそも構え方が固定されるので窮屈。P90などでもグリップの位置的に姿勢が固定化される傾向にあるが、こちらはかなり「こう構えろ!」と強制されている感がある。

次に操作系。トリガーはブルパップ式のようにリンクで接続されている。セレクターとセーフティーは別々で場所も離れている(これは一長一短だが一体型がデファクトな今では慣れが必要)。
チャージングハンドル、ボルトキャッチ(+排莢口)はアンビではない。

この点が嫌われて(そして再訓練のコストも加味して)、軍や警察では使用されず従来的なUMPやMP5の使用継続などを選ぶこととなった。


マガジンがグロックと共用で、.45ACPモデルの場合専用17連/30連マガジン以外にもグロック21用の13連マガジンを使用可能。さらにはマガジンバンパーを交換して30連(実用上は25連)に拡張するキットもある。
これらの特徴は2010年以降のPCCで特に中小企業製の銃でみられる構成で、既存のマガジンが流用できる点から好まれる。
他にもマグプルがベクター用に開発したMBUSバックアップアイアンサイトは改良型がマグプルのベストセラー周辺機器のうちの一つとなっている*5

第一世代(2009)ではシュアファイアのライトをマウントできる丸穴が銃身の上にあり、セーフティーが120度回転させる必要がある構造であった。
第二世代(2015)ではトリガー周りの改修のほか、ライトマウントのキャンセルとセーフティー動作角度の45度への短縮がなされた。
第三世代(2024)ではトリガー周りの再改修、アッパーレシーバーの軽量化、マガジンリリースのアンビ化、レールシステムのM-LOKへの変更がなされている。



バリエーション

法執行機関向けのベクターSMGの他に以下が存在。

  • Vector SDP
ストックを取り外したモデル。

  • Vector CRB/SO(Carbine Rifle Barrel/Semi Only)
16インチバレルを使用した民間用セミオートモデル。

  • Vector 22 CRB
2020年に追加され、名前の通り.22LR弾を使用。それ以外はVector CRB/SO仕様。
.22LRでは十分にブローバックできないからか内部メカからKSVSを省略しており、上記のVecctor CRBの半額以下になっている。

  • Vector SBR/SO(Short Barrel Rifle/Semi Only)
5.5インチバレルを使用した民間用セミオートモデル。SBR規制のない国向け。

  • クリス KARD
ベクターとは別で発表していたKSVS搭載の拳銃。開発中止。

  • クリス K10
ベクター第二世代として発表された一回り小さいモデル。2012年に発表された。開発中止。

その他にもディスラプター.50BMG重機関銃やMVSショットシェルモデル、ライフル弾モデルなど多数のKSVS搭載火器を構想していたものの現状すべてお蔵入りとなっている。



登場作品

映画やゲームでは得な形状からよくお呼びがかかるようになった。
11、12話でゆりが使用。
  • ドリームバスター(漫画)
血塗れローズ。
PDW-XM.V2の名前で登場。
作者の趣味全開である。
タイトル画面でエージェントが装備している。ゲーム中でも使用可能。極めて高性能だったが、暴れすぎて弱体化を食らった過去がある。
VECTOR .45 ACPとしてスペイン対テロ特殊部隊GEOモチーフのMIRA、メキシコ海軍特殊部隊FESがモチーフのGOYOが装備。
また、フランス対テロ特殊部隊GIGNモチーフでCBRN所属のLIONが7.62mmNATO弾ドラムマガジン仕様のV308という変態架空銃*6を装備。

トイガンではKSCがガスブローバックモデルを出している。海外でもKRISSの系列会社であるKRYTACが直々に販売している。
マルゼンのP99日本仕様より遥かにアレな代物である。

余談

SMGモデルは「ベクター」という名前を与えられたが、内部機構の「クリス・スーパーV」という名称の方が国内外問わず有名である。




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最終更新:2025年08月28日 23:05

*1 ArmamentResearchDevelopment and EngineeringCenter/兵器研究開発工学センター、現在はCCDCAC

*2 JointServiceSmallArmsProgram/統合軍小火器プログラム。XM9トライアルやOICWなどもこれらの一種。

*3 もとFNハースタルの技術者

*4 AKE-971やAK-107などのカウンターマス式に近いものが必要

*5 尚ベクター側は安いからという理由でMidwest社製のものを採用した

*6 上述の通り構想はあった