グリセルブランド/Griselbrand(MtG)

登録日:2012/05/28(月) 19:49:36
更新日:2024/01/21 Sun 16:05:19
所要時間:約 7 分で読めます




アヴァシンは破壊された獄庫から現れたが、彼女の自由には代償があった。



―奴だ―。



グリセルブランドとは、Magic the Gatheringのエキスパンション「アヴァシンの帰還」に収録されたカード。強大なデーモンである。

グリセルブランド/Griselbrand (4)(黒)(黒)(黒)(黒)
伝説のクリーチャー ー デーモン
飛行、絆魂
7点のライフを支払う:カードを7枚引く。
7/7

○カードとしての性能

8マナクアドラプルシンボル7/7に3つの能力が付いた、いかにも黒の巨大なデーモンらしいクリーチャー。
この中でもライフを払ってのドローが非常に強力。単位が7刻みではあるがライフ1点=1ドローがいかに強力かは先人たちが証明した通り。

また、このドロー能力は絆魂とも非常に相性が良く、自身のパワーも7なので1回攻撃するだけで7ドローの回数を増やすことができる。
このためライフが7点以上ある状態で着地した場合、維持し続ける限り毎ターン最低7枚ドローできる計算になる。もっとも、2ターンも維持すればゲームが決まるくらいのアドバンテージ差は付くと思うが…

飛行はこの中では相対的には地味だが確実に攻撃を通しライフレースを優位に進めることができるので便利。


3つの能力がガッチリ噛み合っている上、

  • ライフを積極的に攻めてくる速攻デッキ相手なら、絆魂で回復しライフ優位にできる
  • ライフをあまり攻めてこない低速デッキ相手なら、ドロー能力で圧倒できる

と相手に合わせて柔軟な対応ができることからフィニッシャー適性の高さが非常に高い。


除去耐性関連のキーワード能力は持たないが、黒いので《恐怖/Terror》系の除去が通らず、タフネスが高いので場持ちもそこそこ。
そして何より、相手の除去に対応してドロー能力を起動すれば、グリセルブランドを守れる呪文を引き込んだり、あるいは2体目のグリセルブランドやリアニメイト呪文を引き込んだりもできる。
使ってきた除去が《剣を鍬に/Swords to Plowshares》などの「相手にライフを与える」カードだった場合はライフ損失を抑えてカードを7枚引けてしまうため、牽制にはバッチリ。このためドロー能力の存在そのものがある意味除去耐性として機能している。


欠点はやはりその重さ。
頑張って出したところでライフが6点以下なら能力も起動できず、返しのターンに除去をくらってそのまま殴り切られて終わるということもある。
仮にコントロールでフィニッシャーに据えるとしても、8マナというのは並のマナ基盤ではなかなか伸びるところではなく、
そもそももう少し下のマナ域に《墓所のタイタン/Grave Titan》やら《ワームとぐろエンジン/Wurmcoil Engine》と言ったフィニッシャーとして十分な性能を持ったクリーチャーがいる。
素出しするにしても普通に8マナ貯めるよりは何かしらのマナ加速を絡めるか、踏み倒し手段で出す方が現実的だろう。

7/7、7点払って7ドローと7が多いが、マナ総量だけはであるため注意。
開発時に7マナでテストしたが流石に強すぎた模様。
かのMaroは「私ならなんとかして7マナにしただろう」とのこと。そんなことしたら環境がヤバい。少しは反省しろ


○環境での活躍

登場時のスタンダードにはFritesというリアニメイトデッキが存在し、それに使用されている強力なリアニメイトカード「堀葬の儀式」が黒であるためすんなり入るので活躍している。


だが彼はカードプールが広がれば広がるほどその真価を発揮する。重いマナ・コストを捻出したり、踏み倒したりする手段が増えるからであろう。


レガシー環境では登場とともに【スニーク・ショー】や【リアニメイト】のフィニッシャー枠の有望株として鳴り物入りで参戦した。

【スニーク・ショー】はリアニメイトと同じくデカブツを踏み倒すデッキだが、その手段が《騙し討ち/Sneak Attack》と《実物提示教育/Show and Tell》の2枚に変わったもの。

リアニメイトと異なりレガシーで跋扈する墓地対策が通りにくく、《引き裂かれし永劫、エムラクール/Emrakul, the Aeons Torn》が採用できるという利点があるが、ここにグリセルブランドが加わると踏み倒して勝ちにつながるカードが単純に増えて動きやすくなった。

特に速攻付きで踏み倒せた場合、いきなり3~4ターン目に出てきて7点ライフを奪われ、ちゃっかり回復したライフも込みで大量ドローされ、次のターンにはドローで呼び込まれたエムラクールが戦場を駆けていくというクソゲーを展開できる。


結果、スニークショーはトップメタに至るまでに勢力を拡大。

同じく踏み倒し系デッキのフィニッシャーで活躍しているジン=ギタクシアスと比較すると

  • 戦闘能力も場持ちも良くないものの、大量ドローしながら相手の抵抗手段をもぎ取り《意志の力/Force of will》の弾にもなるジン=ギタクシアス

  • 大量ドローでき戦闘能力も高く場持ちもそこそこだが、相手には干渉しないグリセルブランド

と見事に住み分けができている。

もちろんリアニメイトでも使われたグリセルブランドは、レガシー環境を激変させたと言えるだろう。


ヴィンテージでも《ドルイドの誓い/Oath of Druids》からの踏み倒し先として注目される。レガシー禁止クラスのカードだろうと最低1枚は使えるこの環境で7枚もドローできるなら当然ながらループコンボに組み込まれ、グリセル着地から大量ドローでストームに繋ぐというデッキが考案されたりしている。



エターナル環境での活躍も顕著だが、やはりモダンでの様々な活躍が語り草となるだろう。制定された初期から様々なデッキが考案されてきたカードだ。
当然だが7枚もドローしたら戦術は非常に広がる。とはいえ、それを使うためのマナがなければ大した意味がない。
……マナがないならマナを使わず唱えればいいじゃない!
そんなもんだからモダン環境では、モダン発足当初から何かしらの方法でさっさと墓地に落として
  • 2マナで伝説のクリーチャーをリアニメイトできる《御霊の復讐》でさっさと釣り上げる
  • 墓地のクリーチャーの起動型能力を得る《壊死のウーズ》でドロー能力だけ使う
といった方法で7ドローを行い、その7枚の中に「マナの代わりに手札をコストに使うピッチスペル」があったらそれを使って戦術を推し進める、というコンボデッキが組まれた。
さながらモダンの「ピットサイクル」である。
当時使われていたのはもっぱら、黒のカードを2枚追放することで4点ドレインを行う《魂の撃ち込み》と、赤のカードを2枚追放することで追加の戦闘フェイズを得る《大群の怒り》。
前者はライフ4点を補填してくれるので、初期ライフでは2回しかグリセルドローがもらえないのに対して1回分の仕送りを増やしてくれる。
後者は《グリセルブランド》自体で殴れば相手のライフに7点ダメージ+こちらは7点回復でもう一回グリセルドローを使える。
もちろん追加ドローの中にそれらのカードがあれば、もう一回遊べるドン!とばかりに使うことができる。
モダンでの《グリセルブランド》の最初の活躍は、このように最速2ターン目にして相手を殴り抜くデッキだった。
こういったコンボデッキの安定性のなさが突かれるようになり、次第にブラッシュアップされていくのである。

その後《怒れる腹音鳴らし》という、「土地を1枚捨てて3点のダメージを与える」カードとの相性に着目される。
つまり《グリセルブランド》で引いた大量の土地を《怒れる腹音鳴らし》で相手に投げつけて倒すのだが、
さすがに8マナの伝説クリーチャーを2枚も並べるなんてできるわけがない。
こちらはさっさとグリセル腹音セットを墓地に叩き込んで《壊死のウーズ》で起動型能力だけ借りる方法が主だったが(ウーズリアニメイト)、
どちらも伝説のクリーチャーなので《御霊の復讐》で釣り上げるというプランが取れたことがプレイングやデッキ構築に幅を広げた。
この悪魔、7/7飛行絆魂がなくてもめちゃくちゃやさしいのである。

他にも踏み倒し手段全般とも非常に相性が良く、その性質から初期は踏み倒しの定番《引き裂かれし永劫、エムラクール》とギミックを共有するようにして使われた。
エムラクールは墓地から釣り上げるのに一工夫必要なので、もっぱらそれ以外の行動で踏み倒す手段が好まれた。
手札のクリーチャーを素早く踏み倒す《裂け目の突破》が有名だが、これに加えて
  • 条件を満たすことで非常に安く唱えることができる「秘匿」という能力を持つ土地の中でも非常に使いづらく、当時まで唯一トーナメント実績がなかった《吠え歯のうろ穴》
  • すべての呪文のコストを「白青黒赤緑の5マナを支払ってもよい」とする《太陽の拳》
といった当時二線級と思われていたカードが脚光を浴びる。
ただしこれらのデッキでは「メインのエムラ、サポートのグリセル」といった役回りで、グリセルブランドはあくまでエムラクールにつぐ二番手のような扱いだった。

さらに《グリセルブランド》は、当時カスレアと言われていた《滋養の群れ》との相性がすこぶる良い。
神河謀叛で登場したこのカードは、「緑のカードを1枚追放するとマナを支払わずに唱えられる。そのマナ・コスト分のライフを回復」というもので、
たとえば《甲鱗のワーム》という8マナのカードを追放すればライフを8点回復できる。
とはいえ普通のデッキなら貴重な手札のカードを2枚(こいつ+コスト)使ってわざわざやるようなことじゃないし、
専用ギミックを組んでも《土着のワーム》の15点が関の山で、このワームは単体では役に立たない。
サイクル中では他4枚と違って一切活躍できるビジョンが見えず、カスレアの部類とされていたのだった。
しかし「7枚もドローするので手札がむしろ溢れてしまう」「大雑把に言えばライフ1点がカード1枚に化ける」というグリセルブランドの性質と合致。
なにせ「手札2枚を適当に切れば新しい7ドローがもらえる」のだから、弱い理由がないのである。
しょうもないカスレアが一気に「代替品のない必須パーツ」に成り上がった瞬間だった*1
このギミックが見つかったことで、手札から重量級ファッティを踏み倒すカード《裂け目の突破》で用いられる定番カードも塗り替わる。
  • 昔からの定番、殴れば相手の戦場をずたずたにできる《引き裂かれし永劫、エムラクール》
  • 7~21枚ドローを保証してくれてコンボを安定させてくれる《グリセルブランド》
にくわえて、
  • 《滋養の群れ》の餌としての仕事に加え、自分がエムラと同サイズで殴りにいった挙句3体のワーム・トークンの置き土産も残す《世界棘のワーム》
の3枚に絞った「グリセルシュート」「グリセルショール」と呼ばれるデッキが登場した*2

一時ながらまったく新しいタイプのグリセル踏み倒しデッキが流行したこともある。
アモンケットでルールが変更される前の分割カードのルールは「マナ・コストを2つ持っている」とでも言うべき状態だった。たとえば《強行+突入》の場合は2マナでもあり6マナでもある、といった感じ。
この性質を利用して《強行+突入》を《カーリ・ゼヴの巧技》という「手札の2マナ以下のカードを踏み倒して唱える」能力を持ったカードで唱えると、融合能力を使った状態で唱えることができるのだ。
つまり本来8マナで唱えるはずのカードを3マナの《カーリ・ゼヴの巧技》で踏み倒してしまおうというギミックで、これによって「自分のライブラリーを8枚削り、その後墓地のクリーチャーを釣り上げる」という動きができるようになった。
重すぎて使い道がないと言われていた分割カードの、しかも融合モードを用いたこのデッキは英語名から「グリセルフューズ」と呼ばれ、ドラゴンの迷路の評価を一時期大きく押し上げた。
しかしデッキリストが話題になり始めた頃に分割カードのルールが変更されてしまい、現在では同じギミックを組むことができなくなり、ドラゴンの迷路は「モダン(パイオニア)のプロフェシー」としての地位を不動のものにしたのであった。

さらに時が流れ、もうさすがに《グリセルブランド》も他のネタがないだろうと思われていた頃、
《新生化》というカードが登場。こちらは2マナのカードで、「クリーチャーを生贄に捧げると、ライブラリーからそれより1つだけマナ・コストが上のカードを出せる」という踏み倒し手段。
これまでも似たような《異界の進化》というカードがあったが、あれ1種類だけでは安定しなかったデッキが似たような効果の2種8枚体制を取れるようになったことで、
戦術が一気に引き締まる。
これまでネタコンボ扱いだった《アロサウルス乗り》という、手札の緑のカード2枚を追放して1ターン目から出せる7マナのカードを、
2ターン目にさっさと《新生化》させて《グリセルブランド》に大変身させてしまおうというものだ。
このコンボは後に「ネオブランド」と呼ばれるようになるが、当初はマリガンルールの変更もあいまって非常に危険視されていた。
そしてこれまで単なるカスレアだと思われていた《アロサウルス乗り》を一躍高額カードに高騰させてしまったのだった。

しかしその《グリセルブランド》によるライフ補填が重要視されるようになったため、もはやグリセルの女房役となった《滋養の群れ》に加え、
群れとアロサウルスのどちらのコストにもなり、そのコストの重さから法外な回復量を誇る《土着のワーム》まで採用されるようになる。

特殊フォーマットのモミール・ベーシックでも当然ながら大当たり。
飛行・絆魂とクリーチャー戦で優位に立てる能力に加えて基本土地だけとはいえ7枚も引けたら、よほどのことでもない限り負けることはないだろう。

ここまでに述べたグリセルの活躍はグリセルブランドの一部分。見識の狭い筆者が見た、主にモダンでの活躍にすぎない。
しかしここまで述べた中に、安レア、カスレアと罵られてきたカードは果たして何枚あっただろう。なんなら《御霊の復讐》だって、昔はろくな釣り先がいない弱レア扱いだったのだ。
この大悪魔はカード・アドバンテージという概念をぶっ壊すため、「カード数枚を使ってすることではない」という評価に陥るカードを一気に押し上げてしまう。
悪魔というより気前のいいおじさんと述べたが、どちらかといえばストレージの中のシンデレラを見つけてお姫様にしてしまう
プロデュース気質の激しいオッサンなのかもしれない。
あるいは、あるプレインズウォーカーの金言に「ノードロー ノーマジック」というのがあるが、
グリセルブランドはそれを身をもって教えてくれる大悪魔なのかもしれない。


さてこの大悪魔、ライフ7点を支払うと過剰じゃないかってくらい手札を仕送りしてくれる上に、
その仕送りに支払ったライフを絆魂で補填してくれる。

「悪魔にお願いするんだからライフ7点くらい払えるだろ。早く払え」

なんて言いながら、

「払えないんだったら無理に払う必要はないよ」
「払った?よっしゃ手札7枚あげようか。悪魔にお願いするんだからそれくらい見返りあって当然だよね」
「それとライフ少なそうだから絆魂で回復しておいてあげるね。頑張ってるものね」
「あ、農場に働きに行くことになっちゃった!最後に7枚ドローあげるね。頑張ってね!」

なんてことをしてくれる。
使用に特にデメリットがあるわけでもなく、《奈落の王》をはじめとしたこれまでのデーモンに比べると「カードを引くためにライフがいるだけ」とあまりにも素直。
そのライフにしても、カード7枚一括でないといけないとはいえ「1枚につき1点、マナは不要」。レガシー禁止カードの《ヨーグモスの取り引き/Yawgmoth's Bargain》と同じコスパである。
実際このコスパの良さゆえに、リアニメイトデッキをはじめとした「踏み倒しギミック」の定番枠に収まった。
そんなもんだから「デーモンではなくやさしいおじさん」「気前が良すぎる」などと言われる始末。
事実後述のストーリーで出てくるリリアナと契約した四悪魔の中では、カードパワーのぶっ飛びっぷりもさることながら気前の良さが桁違い。




○ストーリーでの活躍

屍術師の美女、リリアナと契約を交わした四体のデーモンの一角にして、イニストラード次元最強のデーモン。
かつて希望の天使、アヴァシンと大立ち回りを演じ、共に獄庫に封印されていた。

リリアナはグリセルブランドを殺害し、契約で得た力の対価を消滅させ、完全にその力を自分のものとすべくイニストラードを訪れる。
しかし、グリセルブランドは獄庫に封印されているため、このままでは倒せない。黒の呪文はアーティファクトを破壊できないのだから仕方ない。
そこで、女騎士《スレイベンの守護者、サリア》を脅して獄庫を破壊させる。

解き放たれたアヴァシンとグリセルブランド。

グリセルブランドは宿敵アヴァシンとの決着を付けるべく、その邪悪なる翼を広げて飛び立った―

と思いきや、リリアナに瞬殺されました(泣)まるでデジアドのムゲンドラモンのような最期である。むしろそれより酷い。

さて、イニストラード当時はその後、特にタルキール~ドミナリアの頃と違って「ストーリーなんてみんな真剣に読まんやろ」と考えられていた節があった。
当時はまだ電子書籍が一般的ではなく、ストーリーを展開した書物の売れ行きがよろしくなかったことを受けてである。
そのため当時は実験としてメインストーリーの物語が書かれず、ダイジェスト方式でストーリーが語られたのだが、
「アヴァシンが帰還して早々にリリアナに殺された」という、次回予告で滅びた悪の組織みたいな扱いでいつの間にか死んでいたのだった。
おかげでそっちにアンテナを張っていないプレイヤーが「グリセルブランドってこの後どんな活躍するのかな!」と尋ねて、
「死んだよ」と返され唖然とするなど、ちょっと面白い光景が各所で見られたのだった。


ただ、「イニストラード最強のデーモン」「リリアナの四悪魔の一角」という肩書だけでも充分だった。
だいたい当時はストーリーで立派な活躍をしても実際のカードが弱いパターンなんてたくさんあり*3
その逆と考えれば割と納得のいく扱いといえた*4
というか実際のところ、ストーリーなんて当時は誰も真剣に見てなかった*5*6
ストーリーラインとの整合性なんて当時は毛ほども気にされていない。だからこそスケベしようやなんてネタが大流行しているような時代だったのだ。

さて、こんなもんだから、すでにアメコミで殺されていたコソフェッドにも期待が高まる。
「こんな強力なグリセルブランドですら、ストーリーでは弱い扱いなんだ。当然残り3人だってきっと強いだろう!」
このように期待されていた残りの3人にも期待が高まるのだが…。

Kothophed, Soul Hoarder / 魂の貯蔵者、コソフェッド (4)(黒)(黒)
伝説のクリーチャー — デーモン(Demon)
飛行
他のプレイヤーがオーナーであるパーマネントが1つ戦場から墓地に置かれるたび、あなたはカードを1枚引き、1点のライフを失う。

6/6

まぁコソフェッドだもんな、最初に死んだクッソ情けない悪魔だもんな。グリセルブランドよりサイズ小さいもんな。貯蔵者じゃしょうがないよな。
グリセルブランドを見習ってか、当時すでに様々なデーモン*7が気前の良さをアピールしていた中で、なんともまぁみみっちい能力である。
自力で墓地に送ることはしてくれない。あくまで墓地に落ちたらお小遣いをくれる、それだけ。
使い道?ねぇよそんなもん。基本セット2013の《グリクシスの首領、ネファロックス》の方がまだ使いやすい。

ストーリーでは200歳を超えるリリアナが今でも若さを維持する力を与えたのがこのコソフェッド。
その若さを与えてやったのだから魔道具「鎖のヴェール」を取って献上しろと言ったのがこいつ。
その鎖のヴェールを逆に使われて、命乞いをしながら死んでいったけっこう情けないやつだと当時のヴォーソスの間では有名だった*8
鎖のヴェールは後のリリアナの象徴となるアイテムだし、リリアナ・ヴェスといえばちょっと妖艶なおねーさんである。そんな彼女がストーリー的にこんな人物になったのは、だいたいコソフェッドのおかげ。
どっちかというと、グリセルブランドがプロデュース気質だとすれば、彼は裏方で働くスタイリストさんタイプなのかもしれない。


Razaketh, the Foulblooded / 穢れた血、ラザケシュ (5)(黒)(黒)(黒)
伝説のクリーチャー — デーモン(Demon)
飛行、トランプル
2点のライフを支払う,他のクリーチャー1体を生け贄に捧げる:あなたのライブラリーからカード1枚を探し、そのカードをあなたの手札に加える。その後、あなたのライブラリーを切り直す。

8/8

サイズは立派なのだがコストは重い。コソフェッド(よわい)、グリセルブランド(ふつう)と考えると順当にサイズが上がっている。
そのサイズと飛行・トランプルによる突破力を見込まれて、スタンダードでは一部のリアニメイトデッキに採用された。
ただし各種機械巨人やエルドラージをはじめ、別のリアニメイト先も充実していた時代でもあった。
そもそもリアニメイトデッキ自体がそこまで支配的だったわけでもなく、釣り竿のひとつ《末永く》がスタン落ちした後はすっかりおとなしくなってしまい、そのままスタン落ち。
パイオニアやモダンでの活躍は言うまでもない。ただしEDHでは「クリーチャーなのでサーチしやすく、1ターンに何度も使うことができるサーチ手段」というのはかなり重宝されており、
当時はスタン民とEDH民の間で評価が雲泥の差だったという面白いカード。

ストーリーではこれまでの瞬殺2体に比べると、孤立主義のリリアナが「ゲートウォッチの仲間を利用する(頼る)」という協調に走らざるを得ないほど強く
リリアナを弄んだり、アモンケット次元の放浪の呪い*9で倒した後にも憂いが残りかねないとかなり厄介。
しかし登場時に「大河を血の川に変えて人々を絶望させながらド派手に登場」とやっちゃったせいで、川の中の生き物が窒息して死に絶えてしまい、
この死に絶えた川の中の生き物をリリアナが操ってワニやらピラニアやらで生きたまま食いちぎって勝利。
あまりのグロさにチャンドラもドン引きだったが、こうしておかないと甦っちゃうのだから仕方がない。


Demonlord Belzenlok / 悪魔王ベルゼンロック (4)(黒)(黒)
伝説のクリーチャー — エルダー(Elder) デーモン(Demon)
飛行、トランプル
悪魔王ベルゼンロックが戦場に出たとき、土地でないカードが追放されるまで、あなたのライブラリーの一番上からカードを1枚ずつ追放する。その後、そのカードをあなたの手札に加える。そのカードの点数で見たマナ・コストが4以上なら、この手順を繰り返す。悪魔王ベルゼンロックはあなたに、これによりあなたの手札に加えられたカード1枚につき1点のダメージを与える。

6/6

「土地以外のカードが出るまでライブラリーめくって全部あげる」「勝手に押し付ける癖に代価はちゃんと要求する」「それが4マナ以上だったらもう1回強制する」という、
グリセルブランドとは違った点で気前の良さと悪魔らしさを示したカード。
捲れ方が悪いとデモコンデスならぬベルゼンデスを起こしちゃうのでは?というイメージがすぐに分かる。こいつはいけるんじゃないだろうか?と期待させた。
ただ、当時はもう黒絡みのファッティなんてこいつより優秀なのがたくさんいたのでさっぱり使われなかった
《ベルゼンロックの祝福》という絆魂を与えるカードと組み合わせると、こいつが要求する代価を事実上踏み倒せる。
また、デッキ構築を工夫するとデッキを全部引ききることも可能。そのためそういったギミックを利用し、手札を増やしまくって何かに使う、なんてデッキもあった。
あまり知られていないが、実はモミール・ベーシックで出てしまうとデッキがすべて土地なので全部めくった挙句ダメージを与えてくるという事実上のフェイジとしての役割も持っていた。後述する「勝手に名乗った二つ名」の中にも、触れられざる者があったのだろう

ストーリーで最も活躍したのはこのベルゼンロックだろう。
なんの実績もないのを「ドミナリアのあらゆる邪悪の経歴を詐称する」ことでごまかして信者を増やしていた*10*11
「要塞のエヴィンカーにして闇の末裔、愚者滅ぼしにして荒廃の王、漆黒の手の主にして陰謀団の永遠総帥……*12」なんてことを信者に言わせる姿は、ストーリーを知る者には面白くて仕方がなかった*13
ただやはり最後の悪魔だけありかなり手ごわく、リリアナが自分のせいでアンデッドにしてしまった兄、ジョスを手元に置いておくことで裏切りの牽制とし、
リリアナが裏切ったとわかるとそのジョスに多大な力を与えて戦わせることで彼女を心身疲弊させて優位を保とうとするなど策略性もばっちり。
部下にもヤーグル、ウィスパー、アゴロスなど個性豊かな連中がそろっており、
ゲートウォッチ+古参プレインズウォーカー+新生ウェザーライト号の乗組員の連合軍を戦略面で終始圧倒した。

しかし最終決戦において、リリアナにキレッキレな煽り文句で挑発されてしまい激怒。*14
激怒して冷静さを欠いたところをリリアナに倒されてしまうのだった。
経歴コレクターにして自分の宣伝に余念がなく、挑発にクッソ弱いという、なんだか三流ユーチューバーみたいな大悪魔になってしまったのだった。

さて、話をグリセルブランド基準に戻すと、グリセルブランドが一切の二つ名を持たないことで偉大さを示しているのに対し、
ベルゼンロックは他人の経歴とはいえ妙にたくさんの二つ名を持っており、
グリセルブランドは支払いを要求してものすごいお返しを渡すという気前の良さと計算しやすさを持つ優しいおじさんなのに対して、
ベルゼンロックは能力が妙に押しつけがましくまったく計算しづらい。
そしてグリセルブランドは単騎というメカニズムがフィーチャーされていた孤高の悪魔なのに対し、
ベルゼンロックは「偉大さを示すフレイバーテキストを作るためだけにクリーチャーが作られる」と、メタ的な意味での宣伝にも手を出している。

かたや、能力主義の大悪魔。かたや、宣伝上手な大悪魔。
誰が一番偉大かは……まぁ人それぞれだろう。


 ○私生活

Hound of Griselbrand / グリセルブランドの猟犬 (2)(赤)(赤)
クリーチャー — エレメンタル(Elemental) 犬(Dog)
二段攻撃
不死(このクリーチャーが死亡したとき、それの上に+1/+1カウンターが置かれていなかった場合、それを+1/+1カウンターが1個置かれた状態でオーナーのコントロール下で戦場に戻す。)

2/2
こんなコワモテなオッサンなのだが、意外なことに犬を飼っている。モチーフは双頭の犬オルトロス。
二段攻撃のおかげで実質パワー4、タフネス2以下のクリーチャーは片方の頭で先に噛みついて殺してしまう。そして一度殺しても不死のおかげで厄介になって戻ってくる。
この不死の注釈文が妙に長いせいで、フレイバーテキストだろうと思って除去を打って痛い目に遭ったプレイヤーの記録も残っている。


Mask of Griselbrand / グリセルブランドの仮面 (1)(黒)(黒)
伝説のアーティファクト — 装備品(Equipment)
装備しているクリーチャーは飛行と絆魂を持つ。
装備しているクリーチャーが死亡するたび、あなたはX点のライフを支払ってもよい。Xはそのクリーチャーのパワーに等しい。そうしたなら、カードX枚を引く。
装備(3)

グリセルブランドなりきりグッズ。飛行と絆魂を持ち、さらにクリーチャーが死亡するたびにパワー分のライフを支払うことでドローが可能になるというもの。
ドロー能力が死亡しないと誘発しない上にパワーの値固定のためかなりマナ効率が悪い。どんなクリーチャーにこれを装備させてもグリセル様の足元にも及ばないというしょっぱすぎる性能。
「クリーチャーを犠牲にすることで繰り返し使えるドローソース」という意味では、どちらかというと《頭蓋骨絞め》に近いかもしれない。……あれ、あんまりグリセルっぽさないな?
彼の風貌だが、顔の左右両方に巨大な巻き角があるため、かなり邪魔に見える。上下と前方しか視認できなさそう。なりきりアイテムであるこの《グリセルブランドの仮面/Mask of Griselbrand》でもその巨大な角はしっかり再現されている。
また、腕先は手ではなく刀状になっており、物を握れない。おそらく猟犬の餌やりや散歩、愛人を囲ったりといったこともやりにくいだろう。
人間的な私生活を送るのは少々困難かもしれない。


Scroll of Griselbrand / グリセルブランドの巻物 (1)
アーティファクト
(1),グリセルブランドの巻物を生け贄に捧げる:対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーはカードを1枚捨てる。あなたがデーモン(Demon)をコントロールしているかぎり、そのプレイヤーは3点のライフを失う。

彼の名を冠する巻物《グリセルブランドの巻物》は「目にすべきではない言葉の数々、正気では推し量れない事柄を語る」内容らしく、黒スレからは
厨二病な触れられたくない内容が書かれてる。
と解釈されてしまった。もう彼は泣いてもいいのかも知れない。
実際リミテッド用のカードなのだが、そのリミテッドで見向きもされないほど弱い。きっとろくなことが書いてないんだろう。

現実では大人気の彼だが、イニストラード次元においても彼を信奉する悪魔崇拝者集団「スカースダグ」というファンクラブが存在していた。
しかしグリセルブランドが死ぬとオーメンダールという別のデーモンにあっさり鞍替えする薄情な連中であった*15
他にも吸血鬼の一族ダムナティ家は代々デーモンと交際しており、特にヘンリカ・ダムナティはグリセルブランドの愛人であったと噂されているとか。

○その他

MtGの伝説のクリーチャーにしては、珍しく二つ名(「希望の天使」とか「スレイベンの守護者」とか「要塞のエヴィンカー」とか「闇の末裔」とか「愚者滅ぼし」とか「荒廃の王」とか「漆黒の手の主」とか「陰謀団の永遠総帥」とか「悪魔王」とか……)を持たない。
理由は諸説あるが一説には
「何とかしてマナコストを7マナにするためセプタブルシンボル(黒黒黒黒黒黒黒)にした時があり、その名残り」
とも言われる。*16
まぁ真相は今のところ誰にも分からない。二つ名コレクター、ベルゼンロックと比べてみると、色々面白いものが見えてくるかもしれない。


○最新?情報

2012/6/20付けで、統率者で禁止カードに指定された。発効は7/1から。

初登場から僅か2ヶ月、リリアナに瞬殺されまたも瞬殺されました…。
まあ、8マナで35枚ドロー(しかも統率者に指定可能)などと気が狂ってる性能なので仕方ない。
ちなみにブン回れば2ターン目に速攻付与から殴りながら42枚ドローできる。
当然だが、こんなもん規制しなかったらいかにグリセルにつなぐかってゲームになるだけ。


2023年になって同じく手札補充を狙えるデカブツとして《偉大なる統一者、アトラクサ/Atraxa, Grand Unifier》が登場。
「手札補充にライフコストが必要ない」「警戒と接死まで持っている」「赤を除く4色である点からピッチコストとしても使いやすい」という点から現在ではアトラクサに枠を譲ることも出てきており、
登場から13年弱、ようやくグリセルブランドの天下にも陰りが生じてきた。
一方でそのドロー枚数や能力の性質の違い、「青くない*17」というグリセルにしかない利点もあるため、ある程度の棲み分けという形になってきている。



アニヲタは立てられた項目を追記したが、彼女の文章は読みづらかった。―修正だ。

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最終更新:2024年01月21日 16:05

*1 当時はSuper Crazy Zooの初期型にもサイドボードに《滋養の群れ》が採用されていた

*2 ただしたいていは戦術に一貫性を持たせるためにエムラかワームのどちらか片方しか採用されない。グリセルさんは外れない

*3 ジェラード・キャパシェンをはじめとしたウェザーライトクルー、陰謀団の総帥、神河の今田魅知子と梅澤敏郎、ラヴニカのアグルス・コスやザデック、赤のPWとして推されていたチャンドラなど。彼らはストーリーでは大活躍しててもカードではさっぱりだった

*4 例えばストーリーではさっさと死んでしまう《汚らわしき者バルソー》や《ラノワールの使者ロフェロス》、《トリックスター、ザレス・サン》、そもそも明確なストーリーのない《悪辣な精霊シルヴォス》などは、ストーリーとは関係なくトーナメント実績やEDH人気が高い名カードである

*5 一応日本でも「燃え尽きぬ炎」などをはじめとしたコミカライズがなされていたが、今知ってる人が少ないことからお察しである

*6 ただし当時のMtGの設定はかなりこんがらがっており、身長2mのジェイスやレイシスト設定のニッサ、瞑想によって目覚めたサルカンや「闇の心の持ち主」など、なかったことになった設定も多い

*7 乾杯デーモンこと《血の贈与の悪魔》など

*8 余談ながら、当時のヴォーソスは「すぐ変動する設定」「公開場所で矛盾している情報」「訳語揺れや誤訳」「ソース不明の情報」に泣かされる修羅の道だった。たとえばMTG Wikiの「ウルザの罪」はかつて、当時の不明瞭なソースを元に書いてしまったせいで事実と異なるストーリーを広めてしまった

*9 要は死体をほっとくとミイラになって甦る

*10 設定的には「世界に干渉できないので歴史に干渉するしかない」のである。

*11 当時ショーンKという芸能人が経歴詐称で干されたこともあって、なんか悪魔のわりにやることがみみっちいなと小さな話題になった

*12 当時MtGプレイヤーの間には「すべてウルザが悪い」という言い回しがあったが、当然正義陣営扱いのウルザの名前は名乗っていない。このせいで「ウルザはあのベルゼンロックですら名乗るのをためらう巨悪」なんて揶揄された

*13 いずれもMtGの名ヴィランの二つ名

*14 新興宗教の教祖みたいなもので、大悪魔としてふんぞり返るのが仕事のベルゼンロックはこの不敬に対して怒らないと、勝ったとしても沽券に関わるという事情もある

*15 正しくはグリセル不在で不安がっているファンクラブに「新たな悪魔王が来たからもう安心!」と駆けつけて後釜に収まったのがこいつ。その後、本来は悪魔崇拝者を糾弾するべき立場にある月皇評議会の偉い人であるジェレンをそそのかしてスカースダグを迫害する人々をつるし上げていくという陰湿ながら厄介な悪事に加担した。サリアをはじめとした悪魔崇拝に屈さなかった騎士たちは月皇評議会を離れ、オーメンダールの時代がすぐそばまで来ていたのだが、エムラクールの来襲によって彼女の影響に屈してしまい、その後消滅した。つまりグリセルブランドが登場したと思ったら死んでた枠なら、こちらはなんか陰謀巡らせてた割にはいつの間にか死んでた枠であり、そういうところもグリセルの継承者である。

*16 日本語版をはじめとした翻訳前提の版ではあまり意識されないが、本家英語版ではフォントの大きさの統一性や文章の読みやすさにかなり気を配られており、たとえばインベイジョン・ブロックの「テク」というカードは「文章欄が長くなりすぎたために名前を短くする必要が出てきてしまった」という事情があった。

*17 多色は色対策カードに引っかかりやすい。特に青いことはレガシーでは《紅蓮破》で1マナで対処されるという弱点になる。