登録日:2010/06/15 Tue 00:12:52
更新日:2025/04/04 Fri 22:56:36
所要時間:約 2 分で読めます
『ネムルバカ』とは、『COMICリュウ』で2006年11月号から2008年3月号に渡って不定期連載されていた漫画作品である。
作者は『
それでも町は廻っている』の石黒正数。
全7話+番外編が多数。コミック1巻で完結。
概要
プロのミュージシャンを目指す先輩・鯨井ルカと、彼女を慕う後輩・入巣柚美との女子寮での共同生活を描いた青春漫画。
基本的にだらっとした大学生の日常が描かれるものの、夢や才能と現実とのギャップに悩むモラトリアムの心情が紡ぎあげられる。
『ネムルバカ』はルカが作詞した劇中歌であり、そのタイトルの由来も作中で明かされる。
その「ネムルバカ」から始まる各話のサブタイトルは、番外編を除いて2文字でのしりとりになっている。また、最後だけ例外的に1文字でのしりとりとすると、1話に戻って円環を成す形になっている。
「ネムルバカ→バカショージキ→ジキューセン→センニチテ→チテイジン→ジンゾウニンゲン→ゲンキデネ→ネムルバカ」
1巻完結の作品にもかかわらず、完成度の高さから様々なメディアから高く評価された。
連載後『COMICリュウ』では、「2008年最大の収穫」と評された。
また、作中で登場する「駄サイクル」という造語は多くの人々に衝撃をあたえた。
ルカの造語で「需要と供給が成立した自己完結した世界」のことを指す。
入巣がバイト先の先輩に連れられて行った「自称アーティストの作品が沢山飾られ、店主のオリジナル曲を一方的に聞かされる飲食店」の話を聞いたルカがその店のことを指して駄サイクルと称した。
駄サイクルとは、アーティスト達が何人かで集まって、それぞれの作品を「見る→ホメる→作る→ホメられる→」を繰り返す自己顕示欲を満たすための完成された空間。
この空間の中にいる限り、アーティストは自分が才能あるアーティストであると思えるものの、外部からの評価が正式に下されるコンペやコンクールには身の程を知るのが怖いため逃げている。
この概念はネット上での創作活動においてもしばしば引用されることがあり、一種のネットミームとして浸透した。
ただ、そこでの用法は、ある種の「身内ノリ」や「社会的に価値がないもの」に対する断罪のようなもので批判的な意味合いで使われることが多い。
ただ、注意してほしいのだが「駄サイクル」という概念は必ずしも批判的な意味合いを持つわけではない。
趣味の範囲で楽しむために自己完結した世界に入って盛り上がることはむしろ健全なことではあるし、内輪で楽しんでいたサークル活動から実を結んでメジャーデビューに繋がる人物も昨今では珍しくもない。
重要なのは自分自身の夢と目標との折り合いと、自分が駄サイクルという輪の中にいる自覚があるかどうかである。
プロになりたい、技術が欲しいと言っているにも関わらず駄サイクルの中に甘んじている、輪の中にいることに気付いていない場合は問題であり、現在の自分の実力と目標の乖離を客観視する必要がある。
そもそもここで注目するべきは、ルカ自身も自らの生活が「駄サイクル」であることを自覚していることだ。
ルカも辛辣な言葉の数々は自分に向けて言っていたと語っており、彼女の駄サイクルの用法は自身に対する戒めのようなものであろう。
本作はその駄サイクルとの向き合い方を示すことがテーマの一つになっている。
映画でもそのことが反映されているのか、入巣がネット上での炎上に集まる人々を指して駄サイクル呼びをした際に、ルカは「そんなふうに使ってほしくないんだよなあ」とボヤいている。
「駄サイクル」以外にも名言はたくさん登場してくる。
作者の石黒正数は「20代の時にしか書けない作品」と述べており、大学生時代の自分の夢を追い足掻く部分を「先輩」に、怠惰な生活を過ごす部分を「入巣」に仮託したという。
サイドストーリーとして、『響子と父さん』(徳間書店)がある。
こちらは家族の物語を描いた作品だが、本作のある部分と密接に繋がっている。
実写映画版
阪元監督はベビわるシリーズでモラトリアム世代の日常と脱却を描いており、本作との相性が良い。
監督によるとベビわるシリーズが「永遠」で、ネムルバカは「刹那」だという。
原作者の石黒氏も「阪元裕吾監督の【べイビーわるきゅーれ】を観た時『そうそう、こういうの!僕はネムルバカをこういう風にしたかったんだよ』と思ったものです」と太鼓判を押している。
阪元監督は殺し屋を題材にした作品を多数撮っているが、本作は
入巣が寿司を嫌いになった理由が改変されたことで珍しく死人が全く出ない作品となった。
基本的に原作を忠実に踏襲しているが、前述の入巣が寿司を嫌いになった理由の改変や、ルカが田口の車で事故ったり、「勧善懲悪」するなどの暴力・器物損壊要素などの多くがオミットされている。
また、時代設定も連載当時の2000年代から公開時の2020年代に変更されているため、連載当初はなかったTwitter(X)、動画の前に流れる怪しげな早口広告、YouTuber、ファスト映画、
スイカゲーム等の要素が違和感なく組み込まれている。
特に早口広告のイラストは作者の石黒正数による描きおろしであり、作中後半の対比として大きな役割を果たしている。
「ネムルバカ」をはじめとする楽曲も演奏されており音楽集として販売されている。
ピートモスが演奏した「ネムルバカ」と「脳内ノイズ」は原作者の石黒正数の作詞をそのまま使っているが、作曲家は違うなど芸が細かい。
映画パンフレットもCDジャケット風であり、1ページ目がピートモスのアルバム「我蛾」の再現となっている。
また、映画の公開を記念して単行本未収録だった番外編2編と書き下ろし1編を含めた「新装版」も刊行された。
書き下ろしの「オマエノマケ」は入巣が
Nintendo Switchで遊んでいたり、田口の引き合いとしてワタナベエンターテインメント所属のジュノンボーイが挙げられたり、映画版の設定が汲み取られている。
【あらすじ】
大学の女子寮に同居する先輩の鯨井ルカ、後輩の入巣柚美を主人公として描かれた青春ストーリー。
大学生という不思議な時間。
一緒の布団で寝るぐらい仲の良い二人だが、楽しい時は長くは続かない。
ほろ苦いような、甘酸っぱいような、爽やかな、そんな作品。
【登場人物】
演:平祐奈
主人公の一人で金髪の女の子。クジラ イルカ。
インディーズバンド「ピートモス」のベースとボーカルをしている。
己の夢に向けて慢心することなく邁進するストイックな人。
ただ、音楽に集中しているためか大学に行っている描写は一切なく、常に金欠のため内職に勤しんでいる。
ややエキセントリックな部分があり、相手に非がある場合は「勧善懲悪」の精神で暴力的になったりする。
作中では美人扱いで、入巣相手にも気障なことを言ったりするので、彼女からレズ疑惑もかけられたが本人は否定している。
実は鯨井ルカはステージネームであり本名は別にある。
本名は『響子と父さん』と併せて読むことで判明する。
石黒作品の
スターシステムにおける『それでも町は廻っている』の
紺先輩顔。
『木曜日のフルット』における鯨井は顔の系統も苗字も同じだが別人。
演:久保史緒里
もう一人の主人公。ルカの後輩で、地方出身の黒髪ロングの女の子。
入寮当初はみだれた生活をしたくないと意気込んでいたが、すぐに堕落。酒に酔って授業をサボり留年ギリギリの単位となるなど駄目な大学生活に順応してしまっている。
またルカとは違って将来の目標が定まっておらず、漠然とした不安を抱いている。
中学生の頃の事件により、寿司が苦手。
石黒作品のスターシステムにおける『それ町』の
嵐山歩鳥顔。
「いりすゆみ」を一文字ずつ戻すと……?
また、ルカが寮から出ていく時に米を足に落とす場面は、『それ町』での歩鳥と紺先輩の別れの場面でもセルフオマージュされている。
演:綱啓永
お金持ち男子大学生。入巣とは同級生。
カーナビ「萌えナビ」のナビ子(CV:立花日菜)のコスチュームを集めるのが趣味。
最初は入巣に惚れていたが同室のルカに一目ボレしてからは、ルカ目当てで寮に立ち寄るようになった。
一応そのことは謝罪したものの、その際に馬鹿正直に「入巣がアホに見えて来た」など要らんことを言ってキレられている。
演:樋口幸平
田口の友人。いつもイヤホンをつけている。
田口の相談によく乗るイケメンだが、その度に「深いようで深くない」ことを語っている。
イヤホンもかつて好きな女の子がよく音楽を聴いていた影響で、何も聴いてないのにイヤホンだけをつけて自分にホレてくれる女に神秘を提供するためと嘯くなどメチャメチャ浅い。
田口と入巣・ルカとの会談を和ませる目的で
ライダーベルトを装着して臨むなど奇行も目立つ。
演:伊能昌幸
演:吉沢悠
ルカを発掘した音楽関係者たち。
荒比屋はエリンギのような髪型の眼鏡でお洒落な靴下を履いた大手音楽レーベルOTレコーズのタレント部門担当。
粳間は太めの体型の音楽プロデューサーで音楽雑誌に載っていたルカを一目見て気に入った。
ルカを経歴一切不明で神秘性のあるシンガー“A”として売り出すためにプロデュースをする。
映画版では2人ともキャスティングが若くなっている。
演: 儀間陽柄(the dadadadys)
演:長谷川大
演:高尾悠希
ルカの所属するインディーズバンド「ピートモス」のメンバー。
全員大学を卒業したムサイ男共だが、ルカを入れるにあたって去勢も辞さないなど、一時迷走していたもののなんだかんだ音楽が好きでバンドをやっている。
ジャガー・モリィは黒の長髪でギター担当。ゲーム音楽の仕事も請け負っている。
岩徹は丸眼鏡のベース担当。歌詞ノートを持ち歩いており、歌も作るらしい。
DANは太ったモヒカンで常に帽子を被っているドラム担当。本名筑間定徳。軍艦ゲームが大好き。
本編ではほぼモブレベルの出番だが、本編終了後の番外編「サブマリン」で主役を務める。
また映画版でもルカとの関係やその後の音楽との向き合い方で掘り下げられており、入巣と共にラストシーンに加わっている。
演:兎(ロングコートダディ)
入巣のバイト先の古本屋の同僚。入巣に好意を持っている知ったか。
音楽に詳しいと言いながら、インディーズをバンドの名前と勘違いするレベル。
その有様なのに常に上から目線で話しかけてくるので非常にウザい。
また、ご飯をクチャクチャと音立てて食べるなど、生理的にも受け付け難い部分がある。
演:山下徳久
本名不明。関西弁のハゲ親父。
ビデオの買取を受け付けていない入巣のバイト先に「ミレニアム・ファイル」なるビデオを売ろうとして断られて文句を言っている。
若干クレーマー気質で押しが強く、持って帰るのも面倒ということで入巣にビデオを押し付けている。
ただ、再訪時には買取可能な本を持ってきている上、入巣にビデオの感想を伝えられると上機嫌になるなど、なんだかんだ気の好いおっちゃんではあった。
演:志田こはく
ルカが去った後に入巣の部屋に越してきた後輩。
かつての入巣と同様にきっちりした生活を望むことを宣言している。
彼女がピートモスのCDを見つけたところで物語は終わりを迎える。
彼女もスターシステムにおける『それ町』の福沢晶顔。
そのためか映画版ではアキラの名前がつけられている。
「追記…私…鯨井ルカ!!」
「修正…ピートモス!アンド…入巣柚美!!」
- さりげな~くだけど、それ町にも鯨井先輩と入巣さんは出てるよね -- 名無しさん (2014-04-20 21:07:46)
最終更新:2025年04月04日 22:56