人造人間キカイダー The Novel

登録日:2014/05/27 Tue 00:44:55
更新日:2024/12/21 Sat 06:48:24
所要時間:約 7 分で読めます





さあ、機械的にいこうか


人造人間キカイダーThe Novelは角川書店から2013年7月25日に刊行された小説。著者は松岡圭祐氏。
挿絵はないが表紙絵は仮面ライダーSPIRITSでおなじみの村枝賢一氏が担当。
氏はのちに映画版『キカイダーREBOOT』のキカイダーとハカイダーのデザインも手がける。
ちなみに表紙絵のジロー/キカイダーは服装は旧作と同じだが顔の造形はREBOOT版に近いものとなっている。


『REBOOT』との関係について


本作は東映・KADOKAWA制作の映画『キカイダーREBOOT』の公開10カ月前に先行する形で世に出たが、
あらすじや各種設定はキカイダーのリメイク作品を作るうえで没案となったシナリオが原型となっており
(なお没になった理由は旧作の「今ふうな再現」を目指すのでなく、オリジナル版の「キカイダー」がどんな作品で、
どこに魅力があったのかを徹底的に見つめ直すというコンセプトが打ち出されたため)、
決定稿となったシナリオを元に制作されたREBOOTとは大きく異なっている。
ゆえに、The NovelはREBOOTの原作というよりは、同じ作品を原典とする一種のメディアミックスとしての性格が強い。



作風


本作では一切の妥協無く現代社会(この作品が出版された2013年の日本)を舞台に
人造人間キカイダーの物語を展開したらという徹底的な考証の元に
各要素を切り捨てることなく違和感の生じない形でリファインした上でしっかりと盛り込んでいる。
わかる人にはニヤリとできるくだりも多く、惜しみない作品愛が感じられる傑作である。

また、キカイダーの『ヒトの心を持つキカイ』というテーマに対し、
全てのロボットは『仮想生命体』であるという解釈を提示し、
それを主軸に『良心回路』をはじめとする各種設定が構築されている。
ヒトとは異なる形の生命や心を持たされたロボットならではのドラマが綴られる本格的なSF小説としても読める。

なお、キカイダーの派生作品はどちらかというと石ノ森章太郎の萬画版を下地にすることが多い傾向にあるが、
The NovelのベースになっているのはTV版である(光明寺博士の本名が『信彦』である、等)。



あらすじ


舞台はいまだ震災の爪痕が社会に残る日本。
人体に危険な環境下でも活動可能なロボット開発が希求される中、
世界的なロボット工学の権威である光明寺博士は大企業『ダーク・マジェスティック・エンジニアリング』の援助を受け、
従来とは一線を画するテクノロジーによる超高性能ロボットを開発する。
しかし、ダークを統括する博士の旧友プレジデント・ギルは裏で世界各国に戦闘用ロボットの輸出を開始。
それに危機感を覚えた博士は、ダークの所業を告発すべく突如として失踪する。

未だ彼の頭脳を必要とするダークは、彼を誘き出すべく子供達に追っ手を差し向ける。
博士の娘ミツコにもダークの魔手が伸びるが、ジローと名乗る謎の青年が現れ、それを阻む。
彼こそは天才・光明寺が家族を守り、ダークに対抗すべく作り出した最後の希望にして最高傑作。
アンドロイド・キカイダーだった…!



登場人物



本作の主人公。光明寺博士がダークの魔の手からわが子を守るために造った最新鋭アンドロイド。
レスキュー・医療用ロボット『ゼロダイバー』の右半身と軍事・戦闘用ロボット『フュージティヴ・フロム・ヘル』
左半身を正中線で結合させ、相反する二面性を内包する『心』を持ったロボットとして仕上げられたため、
ダークに生まれながらもその支配に反逆した行動をとることが可能な唯一の存在。
普段は体表から立体映像を投影することで人間=ジローの姿に擬態している。



光明寺ミツコ

19歳。本作のヒロイン。光明寺博士の娘だが、幼少時から研究に没頭する多忙な父とは疎遠な関係であり、
父の愛情を満足に受けられなかった影響から成長してからも男性に対する理想と現実のギャップに悩む乙女。
内気で夢見がちな性格で現実の男性より二次元が好き。性別は違えど俺らと一緒である。
乙女ゲーをまったりとプレイしたり仲間内のコスプレイベントにキュアハートのコスプレで参加するなど
見た目はカワイイのにいろいろ残念な子。
彼女にとって突如現れたジローは自分の依存心を満たしてくれる白馬の王子様。
ダークからの逃避行の中、淡い恋心を抱くが…



光明寺マサル

小学4年生。ほっそりした身体つきに長めの髪の男の娘めいた容姿。見た目に反して結構生意気で遠慮のない性格。
姉に連れられてコスプレイベントに参加したときはONE PIECEルフィのコスプレをしていた。
アンドロイドマンを蹴散らすジローの大立ち回りを『海賊無双2』に例えるなどファンの模様。
ジローとの交流を経て彼を兄の如く慕うようになる。



光明寺博士

45歳。この物語の最大のキーパーソン。本名は光明寺信彦。次期創世王は関係ない。
元々はマサチューセッツ工科大の客員教授でありロボット工学のみならず医学の権威でもある。
震災を機に社会に貢献する新世代のロボット開発を天命と信じ、数々の革新的技術を発明。
ダークの援助を受けて多くのロボットを世に送り出した。
神経質そうな堅物に見えるが実際はギターやトランペットなどを嗜む趣味人で、
開発の合間にホットドッグ屋でバイトをしたり警備員のコスプレをして大学のエントランスに突っ立っていたりするなど
洒落のわかる気さくな人柄の持ち主。
……だが明らかに危険人物のギルを信頼してロボット開発事業に協賛するあたり
善人ではあるものの間違いなく人を見る目はない

一方、科学者としてのモラルと責任感から自身の研究を悪用するダークには断固とした態度で立ち向かう。
ダークの闇を暴くべく開発部の仲間である技術者たちと逃亡するのに前後して
『ゼロダイバー』『フュージティヴ・フロム・ヘル』の2体のアンドロイドを作ると偽り、
ダークから得た開発予算を元に『キカイダー』を作り出した。



服部半平

年齢30代半ば。自ら調査会社を経営する私立探偵。ルックスはそこそこ二枚目だが、
覇気のない目に無精ひげ、着こなしのだらしないくたびれた服装。これは街の雰囲気に溶け込むためらしい。
飄々とした馴れ馴れしい性格で時折ハードボイルドを気取るも長続きしない。
金のためだけに光明寺信彦失踪の謎を追い、ミツコに依頼人になってもらおうと付きまとうが
背後にうごめくダークの存在を知り、やがて正義に目覚めていく。
うだつがあがらない外見に反し、実際には鋭い観察眼と機転、卓抜した行動力と推理力を兼ね備えている。
本人いわく『調査会社の秘訣は忍術みたいなもん』らしい。ニンジャナンデ⁉と思った人は原作を参照のこと。



プレジデント・ギル

年齢40代半ば。諸悪の元凶にしてラスボス
本名アレクサンドル・ポマレンコ。原作におけるプロフェッサー・ギルに当たるが、
本作では大企業ダーク・マジェスティック・エンジニアリングの経営者としての面がクローズアップされているため
通称はプレジデント・ギルで統一されている。
元は光明寺と同期の数学者で意志を持つ人工知能の開発に成功して名声を得たが、当時から鼻つまみ者の変人としても有名で、
カルト宗教を掛け持ちしLSDをはじめとした幻覚剤をキメまくり大声でカオス理論をまくし立ててはしょっ引かれるという
ただならぬ経歴の持ち主。
しかしその一方で周囲からは『ギル』(作中では言及されていないが、おそらく経歴に引っ掛けて『ギルティ』から取ったと思われる)の愛称で親しまれてもいた。
本人もこの愛称に愛着があるのか、プレジデント・ギルと呼ばれることに全く違和感を感じていない。

威圧的で芝居がかった言動を好み、痩身蓬髪を黒のローブに包む。
その強烈なルックスは完全にTV版の安藤三男演ずるギルそのもの。怪しすぎる。
会社ロゴとお揃いの蝙蝠の飾りのついた杖は高周波音波でコマンドを実行する笛型インターフェイスである。

権力・暴力・経済力とあらゆる力を貪欲に求め、世界を支配せんとするが、
それは死への恐怖に耐えられない弱さに由来している。その証拠に表向きは究極のロボット革命をダークの目的に掲げながら、
実際は自身の意識(脳)を機械に移し替えることで死の定めから逃避し不老不死となる手立てを模索し続けていた。
ハカイダーの脳髄保管システムもその一環である。



マリ

ギルの秘書。レディーススーツに身を包んだスレンダーな体型の女性。
外見上の年齢は20代前半、ストレートの黒髪に端正な美貌を誇るが、ひどく無愛想で常に仏頂面である。それも萌えるけどな。
ただし彼女も仮想生命を持つ以上、感情が無いということはなく愛想の無い性格をしているというだけである。
普段の姿はジローと同様に有機ELによる立体映像で仮の姿を得ているにすぎず、
正体は光明寺博士がごく最近に開発した女性型高性能アンドロイド(ガイノイド)。
開発時系列的にはジローとサブローの『姉』に当たる。作中では擬態を解除した姿は一度しか見せていないが、
その時の外見の特徴や胸から破壊光線を放つ描写、マリという人間態の名から、
TVシリーズ第2作『キカイダー01』の登場人物ビジンダー/マリを意識しているのは明白である。
腕部はアタッチメント方式で様々な装備に換装可能。
終盤、ダークが壊滅に瀕する中、謎の老婦の招待に応じ新組織『シャドウ』の元に下る。




ダーク最強の戦闘用アンドロイド。試作型であるフュージティヴ・フロム・ヘルの量産発展型として光明寺博士に設計された。
反逆者・キカイダー抹殺の切り札としてジローに差し向けられた最大のライバル。そして同じ父を持つ弟でもある。
登場自体は中盤だが、サブロー/ハカイダーとしての自我を完全に確立するのはだいぶ後になり、
我が子を人質にされたことで調整を強いられた光明寺の手で完成を見る。
ギルへの意趣返しなのか凄まじいまでの残忍性を備え、ギルへの忠誠も全く持ち合わせていないが、
その一方でアンチヒーローの美学を体現した一面も見られる。
キカイダーへの人質として光明寺の脳髄を頭部に戴くが、それが自身の完全な勝利の邪魔になると知り…
白骨ムササビ?なんのことだ?
仮想生命の割りに死への恐怖がほぼ見受けられず、あくまでも正々堂々とキカイダーと戦うことに拘る。
ジローの夢を当初は否定したものの、最終的にはそれが現実のものになると肯定した。




用語


ダーク・マジェスティック・エンジニアリング

プレジデント・ギルことアレクサンドロ・ポマレンコが設立した巨大なロボット開発製造企業。
増収増益を繰り返し、作中で語られた営業利益は11兆8千億円というバケモノ会社である(一応業種によっては更に高額な収益をたたき出す企業は現実にもあるのだが、設立から日の浅い製造業としては異常ともいえる伸び率である)。
無人ジェット機制御用の電子知能の開発によって名声を得たギルが経済産業省からの支援を受けて誕生した経緯を持つ。
表向きには非武装ロボットを販売しているが、実際には軍事用の戦闘ロボットを輸出しているのは各国にとって周知の事実。

東証一部上場の全IT関連企業について大半の株式を買収済みでハッキングの自由度は極めて高く、
情報の操作・改ざん・隠ぺいなどは朝飯前。

渋谷でミツコとマサルの拉致作戦を実行に移した時には官憲の邪魔が入らぬよう
一帯の警察施設に破壊部隊による同時襲撃をかけて渋谷一帯を無法地帯に変え、
純粋な経済力だけでも霞が関の官庁すら動しうるなど、
権力財力メディア暴力のあらゆる方面で法治国家を歯牙にもかけぬ暴虐の帝国である。

本社の住所は中央区銀座3-2-17。実際はどんなところか検索してみよう!
工場区画を含めると愛知県のトヨタ本社と同じ敷地を有し、敷地内は私道しか通っておらず
グーグルマップでも黒塗りで表示されるほか敷地上空の飛行すらギルの圧力で禁止されている。


仮想生命

本作における『ロボットの心』を語るうえで最も重要な要素。
光明寺博士が開発した第八世代コンピュータを電子頭脳に持つすべてのロボットが備える人工知能の自意識。
作中に登場する全てのダークロボットは仮想使命としての自我と感情を持たされている。

最大の特徴は『無に帰することを極度に恐れる』こと。
理由もなくこの宇宙に自然発生した生命体である人間に対し、
ロボットはいかに複雑な感情を持たされても所詮人工的に作られたモノの域を出ない。

人間は宇宙の不思議から生まれる故に神や奇跡の存在、死後の霊魂の不滅を信じることができるが、
単に壊れて機能停止する以上の意味を持たない機械の死はロボットにとっては完全な消滅であり、
仮想生命を有するロボットは例外なく人間にあこがれ、人間以上に死を恐怖している。

また、一般的なイメージによくある機械の身体=不滅といった考えも皆無で、寿命の概念もある。
これは精密機械の寿命は短く、大半の部品を別物に交換してしまった場合それは最早元の自分ではないと考えるため。

なお、脳の特性の再現によって一応性別が存在し、マリの電子頭脳は思考形態も人間の女性を模して造られている。



良心回路

光明寺博士がジロー/キカイダーに組み込んだ特殊なハードウェア。正式名称は『VBL0421』

ゼロダイバーフュージティヴ・フロム・ヘルというまるで異なる演算処理・メモリ・入出力装置を持つ半身同士の
電子頭脳及び神経回路の結合を助け、一つとなった機体=キカイダーを機能させるための仲立ちとなるデバイス。

ウイルス感染やハッキング防止のためダークのロボットの電子頭脳は
思考を共通のアルゴリズムで暗号化する仕様となっている。
ゆえに用途の異なる電子頭脳や回路でも発生する暗号そのものは共通しており、
これを半身同士の双方向に通信が可能な機会ととらえ、
二体の半分ずつの回路が互いに暗号を解析しあうことで時間の経過とともに両者が結合を深めていけるという仕組み。

良心回路という名称は非承認の研究をダークに悟られにくくするため、あえて単純な表現にとどめた苦肉の策であるが、
同時に強さ弱さという相反する二面性の中間にあるものこそ人間の良心の源だ、という博士の考えに由るものでもある。
ゆえに本作では従来のキカイダーにおける『不完全な装置』という要素はない。
ただし構造上、特定の条件下になると異常な負荷が生じるらしく、ギルはキカイダーの設計図を見ただけでそれに気づいた。



ストレイン・ワイヤー・テンショナ

光明寺博士の研究成果のひとつ。
ロボット=仮想生命体に『精神状態の起伏』を擬似的に体感させるため
ジローをはじめ、破壊部隊や末端のアンドロイドマンに至るまで搭載されている装置。

精神の緊張弛緩を文字通り装置内に埋め込まれた1本のワイヤーの伸縮で再現するというもので、
電子知能がストレスを感じるのに呼応するようにワイヤーが自動的に引っ張られる仕組みになっている。
このワイヤーの張り具合は、自身の電子知能では制御できない。

浅はかで安直と評する向きもあるが、この装置の発明により、電子知能は人間の自意識に急激に近づいたとされる。



ダーク破壊部隊

原作同様、生物をモチーフとする高性能戦闘ロボットで構成されるダークの威力部門。
その戦闘力は単体で一個師団を撃滅可能とされる。
本来は平和的な別の用途のため光明寺博士によって設計・開発された存在だが、
現在はその圧倒的なスペックと全身に搭載された強力な武装を用い、破壊と殺戮に従事する悪の精鋭軍団である。

本来ギルは『死をも恐れぬ最強の兵士』を欲していたが、彼らもまた光明寺の開発した人工知能を持つ仮想生命体であり、
皮肉にも人間以上に消滅=死を恐れるロボットの集団となった。
しかし、死への恐怖を他者に対する攻撃性に転化することで、必要以上の凶暴さを発現し、その危険性は想定を遥かに超えている。


シャドウ
ダーク崩壊寸前、マリを迎えた謎の組織。正体不明の老婦が遣いとして現れたのみで
組織としての規模や本拠地といった情報は一切明かされていない。続編フラグとも取れるが……?



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最終更新:2024年12月21日 06:48