ネルソン級戦艦

登録日:2014/11/27 (木) 06:20:55
更新日:2024/04/03 Wed 14:58:04
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ネルソン級戦艦(Nelson class battleship)とは、かつてイギリスが建造、保持していた戦艦である。
大日本帝国の長門型戦艦2隻やアメリカ合衆国のコロラド級戦艦3隻と並ぶ、所謂「ビッグ7*1」と呼ばれた栄えある戦艦達の内の2隻として名高い。
色々な意味で

名前の由来はトラファルガー海戦でナポレオン1世率いるフランス・スペイン連合艦隊を破り、イギリス本土上陸を阻止した海軍軍人ホレーショ・ネルソン提督から。




性能諸元

基準排水量:33,313t
常備排水量:34,000t
満載排水量:38,000t
全長:216.4m
水線長:214.5m
全幅:32.3m
吃水: 9.1m(竣工時)
   10.8m(1945年時)
機関:アドミラリティ式重油専焼三胴型水管缶 8基
   ブラウン・カーチス式ギヤード・タービン 2基2軸推進
機関出力:45,000hp
最大速力:23.0kt(竣工時)
     23.9kt(公試時)
航続距離:16kt/7,000海里
乗員:1,314名(平時)
   1,640名(戦時)
兵装:Mark I 40.6cm(45口径)3連装砲 3基
   Mark XXII 15.2 cm(50口径)連装速射砲 6基
   Mark VIII 12cm(43口径)単装高角砲 6基
   2ポンド(4cm)ポンポン砲 8連装8基
   62.2cm水中魚雷発射管 単装2基
   カタパルト 1基(2番艦ロドネーのみ)
装甲:
舷側:356mm(弾薬庫・傾斜角18度)
   330mm(機関区・傾斜角18度)
   38(19+19)mm(水線下隔壁)
甲板:159mm(弾薬庫上面部)
   95mm(機関区上面部)
主砲塔:406mm(前盾)
    279mm(側盾)
    184mm(天蓋)
副砲塔:37mm(前盾)
    25mm(側盾)
    25mm(天蓋)
バーベット部:381mm(最厚部)
司令塔:406~355~343mm
前級:R(リヴェンジ)級戦艦
次級:キング・ジョージ5世級戦艦



建造までの経緯

事の始まりは、ワシントン海軍軍縮条約で「建造途中の艦は廃艦」と聞いた日本がゴネはじめた時に始まった。


米英「陸奥は廃艦 米英」 ←と英語で書いてある

日本「うっお――っ!!」
  「くっあ―――っ!!」
  「ざけんな―――っ!」


結局、日本は涙ぐましいアピールの末に陸奥の建造権を得たが、その対価としてアメリカ・イギリス両国も16インチ砲搭載艦2隻の建造枠が認められることになった。

だが、そこで困ったのがイギリスであった。
軍縮条約で新造戦艦の排水量が35,000tに制限されていた為、廃艦予定だった建造途中のコロラド、ウェストバージニアを完成させればいいアメリカに対して、
イギリスは即時建造可能な艦が無く、以前に設計したG3型巡洋戦艦(予定排水量48,000t)は排水量をオーバーしていたのである。
基準排水量43,000tに下方修正したG3型2隻の建造を目論んだが承認されるはずもなく、結局はG3型とN3型をベースとした新造戦艦O3型の設計に着手することとなり、これが後に「ネルソン級戦艦」となった。
所謂「条約型戦艦」である。




設計と特徴

建造はマイティ・フッド金剛型戦艦を手掛けたヴィッカース社。
新造艦の設計にあたって、「ユトランド沖海戦*2」で得た戦訓を活かすことが大前提とされた。
特に最重要点は以下の3つ。

1.遠距離砲戦における水平防御の重要性

2.速力は装甲の代わりとならない

3.低速艦は戦場まで間に合わない

何せドレッドノートやフッドで世界をリードしてきた英国海軍の威信に泥を塗った事件、名誉挽回にも力が入ろうというもの。
今後約10年は各国が新戦艦を造らないであろう中で、英国はその中の貴重な、それはもう大っ変貴重な戦艦建造枠を使ってジョンブル魂持前のチャレンジャー精神を発揮してみせた。

その結果、ネルソン級はこれまでにない新機軸を打ち出した画期的な戦艦として完成を見る。


素晴らしい御姿に関して筆者は当Wiki伝える術を持たないので各自検索していただきたい。
まるでロイヤルネイビーの精神を具現化したかのような素晴らしい御姿に誰もが「あっ…(察し)」と感心するであろう。



攻撃力

ネルソン級最大の特徴は、3基ある主砲・Mark I 40.6cm3連装砲の全てが前面に配置されていることである。
これはバイタルパート(重要防御区画)を最小限に抑えて防御重量を削減、浮いた重量分を攻撃・防御・速力の強化に費やす為の措置。
しかし16インチ砲を連装4基8門に抑えた日米に対して、ネルソンは3連装を3基の合計9門と砲の数はビッグ7中最高。

副砲のMark XXII 15.2 cm連装速射砲は対空砲も兼ねた、所謂両用砲。
ただしこれは艦橋が邪魔で対空砲としては死角があったので、これを補う為にMark VIII 12cm単装高角砲と2ポンド(4cm)ポンポン砲が設置されている。

ちなみに次級のKGⅤは建造の際に時勢を見誤り14インチ砲が採用された為、英国の16インチ砲搭載艦はネルソン級のみだった。

艦首前方の水面下側面には62.2cm魚雷発射管が片舷1基の計2門が備わり、予備の魚雷が12本搭載されていた。
これは対艦用に設けられたものだが、最期まで外されずに魚雷発射管を装備していたのは珍しい。*3
戦艦のような遠距離砲戦が仕事の艦には滅多に使うことがないのが常だが、ロドネーはビスマルク追撃戦で実際に発射している。(ただし、命中弾無し)



防御力

垂直防御は最も厚い部分で356mmあり、ビッグ7の中でも最も厚い装甲を誇る。
特に司令塔と主砲塔の防御は強固であり、傾斜設置された装甲はカタログスペック以上の防御力を持つ。

課題であった水平防御も主砲弾薬庫は合計170mmとなかなかに重厚。
16インチ砲に対しても十分な防御力を持つ。



機動力

巡洋戦艦フッドや戦艦バーラムを建造したジョン・ブラウン・アンド・カンパニー製の機関を搭載。
限られた排水量で高い攻防性を持たせる為に妥協された部分ではあったが、戦闘に参加可能な速力を持たせる必要があった為にかなり難儀した箇所。

高性能かつ軽量化というかなり無茶な要求だったようだが、なんとか要求に応えてみせた。
記録に残る最高速は23.9kt、通常時23ktと前々級のクイーンエリザベス級戦艦には及ばないがコロラド以上長門以下とまずまず。



以上のように、カタログスペックはビッグ7中でも高いレベルでバランスが取れた艦であった。
それもこれも限られた排水量の中で最大限の性能を発揮させようとした知恵と努力の賜物であったということは言うまでもないだろう。

本級の設計は各国に衝撃を与え、特に主砲前面集中配置はフランスのダンケルク級戦艦及びリシュリュー級戦艦や日本の利根型重巡洋艦など様々な艦に採用されている。

まさしくロイヤルネイビーを象徴する戦艦であったと言えよう。









さて、ネルソン級の本番はこれからである。
もう勘のいい方はこの艦の正体にお気付きであろう。

そう、ネルソン級の正体は…








の申し子というべき迷戦艦だったのである。



安定の英国面

無理のある軽量化とその独特過ぎる主砲配置によって攻撃、防御、機動性、外見のどれもが欠陥だらけの戦艦として完成してしまった。
劣悪な操艦特性から「ネルソル」や「ロドル」と艦隊所属のタンカーに準えた蔑称*4を付けられて嘲笑の対象にされたり、
以降の戦艦における主砲設計で類似の配置は採用してはいけない(戒め)と注文されたり散々だった。

おまけにジョージVI世戴冠記念観艦式ではフランスのダンケルクと比較されて、アメリカの新聞で「ダンケルクがクルーザーならネルソンは給炭タンカー」と嘲笑される始末。


攻撃面の欠陥

◆主砲
まず、全砲を前に配置した結果、爆風が強烈過ぎて甲板と構造物が破壊されてしまう為に一斉射が出来ないことが発覚した。
第3砲塔に至っては後方に撃っただけで艦橋の精密機器が破壊されてしまう始末。

おまけに砲弾は砲身の寿命を縮める高初速軽量弾。ドイツを真似た結果がこれだよ!!!
これはどういうことかというと、高初速軽量弾は軽量故に遠距離では失速して威力激減かつ散布界が悪化する。
すなわち 遠距離砲戦には全く向いていない ということを意味している。

更に言えば、照準の安定性を優先し弱装薬で初速を制限したら更に性能が下がった。オイオイ…
また、無理な軽量化の所為で故障もあった。

そして艦首の形が悪かったので凌波性がすこぶる悪く、第1砲塔は波を被りやすかった。
「海で戦うんだから波くらい被って当たり前じゃない?」と思ってはいけない。
温暖な太平洋ならいざ知らず、欧州方面の主戦場は大西洋北部。北方の寒冷地では凍結して使い物にならなくなるのである。
この欠点は次級キング・ジョージⅤ世級でも改善されなかった。
どうしてこうなった…

ただし問題があってもそこは欧州唯一の16インチ砲。火力自体はヨーロッパ最強である。
また、KGⅤのように頻繁に壊れたりしないという点で遥かに有用だろう。


◆副砲
死角があるのは前述通り。
水上戦闘では優秀だったが速射性も旋回性も悪く、航空機相手には使えない。


◆対空砲
高角砲はともかくポンポン砲はその壊れ易さと使い難さから英国面の一例として知られる。
マレー沖海戦など、恐らくポンポン砲だけで項目を建てられるレベルの伝説を持つ。

すなわち対空防御は不十分。
にもかかわらず主砲集中配置の所為でこれ以上対空装備の増設するスペースはなかった。
ただ、当然ながらポンポン砲をどかすことはできるので、アメリカで修理した際に一部をボフォース社製40mm機関砲に換装している。



防御面の欠陥

◆垂直防御
確かに厚い部分は数値以上の防御力を発揮したが、問題はその部位の少なさ。
水中防御は無いに等しく、防水区画にも余裕がなかったという。

取り敢えず兵員室などの非装甲部分には申し訳程度に木材を充てていた。
無論効果はお察し。

しかし3.1m程のバルジがあり、魚雷対策はしっかり施されていた様子。
ただ、艦首側面には魚雷発射管があるので、そういう意味では脆弱と言える。


◆水平防御
排水量制限を守るために重装甲の箇所が制限され、 全く足りていなかった。
最重要であるはずの機関室上部は僅か95mmの装甲しかない。
事実、ドイツの500kg爆弾は普通に貫通したという。

しかし装甲があるならまだマシ。
副砲弾薬庫という超重要箇所が非装甲 というモストデンジャラスな仕様であった。
危ねえ!



機動力の欠陥

一番無理をしていただけあって、最も大きな欠陥の持ち主。

◆操艦
やはり主砲集中配置の所為で重心が前に偏り過ぎて操舵特性が悪化。
その悪さたるや、衝突を避ける為に入港は艦隊の最後、出港する際は出港予定のない艦艇まで全部どかせてからの出港とされた程。
低速域での運動性は総じて劣悪であった。

ただしこの点に関しては欠陥ばかりではなく、高速航行中は小回りが良く効き、旋回半径は615mと良好だった。


◆機関
無理な軽量化を強いられた結果として信頼性が極度に低下、全力で航行するとタービンが壊れる。
無論おいそれと全力を発揮出来ず、通常時は21ktがやっとだった。
正直 10年前の前世代戦艦より遅い。

しかも煙突の位置も悪く、追い風になると高温の排煙が艦橋を襲う。

なお、全ての責任は無理を強いられたジョン・ブラウン社に押し付けられ、以後同社製の機関は採用されなかった。




結論

ユトランド沖海戦の戦訓を活かして建造された本級は、 その戦訓が全く活かされていなかった。
出来の悪さはビッグ7随一であったと言わざるを得ない。

1937年に完成した同じ主砲全面集中配置のフランス戦艦・ダンケルクの完成度の高さが明らかになると*5、欠陥戦艦の評価は不動のものとなってしまった。
だが…




活躍

結論から言えば、ビッグ7中で最も活躍しました。

というのも、イギリスはアメリカ程でないにしても最新鋭戦艦を5隻も就役させた海軍大国であり、喪失を恐れる必要がなかったのである。

そして他のヨーロッパ諸国には15インチか14インチ級の戦艦しかいないので、格上の16インチ級が頻繁に出現するというのは尋常でない脅威なのだ。
なんだかんだ言って欧州でこいつに対抗できる艦艇はヴィットリオ・ヴェネト級リシュリュー級しかいない。

16インチの主砲を持つ。ただそれだけでも欠陥を帳消しにして余りある価値があったのだ。

太平洋のバケはほっとけ。


特に2番艦ロドネーはビスマルク追撃戦で近距離砲戦を敢行、蜂の巣に変えた。

だが無事では済まず、あまりに酷使された彼女らの機関部は大戦終盤すでに破壊寸前であり、もはや修理もままならないことから早々に退役・解体が決定された。

その後第二次世界大戦と共に数々の戦艦が生まれ戦い、海に還る時代は終わりを告げた。
役目を終えたネルソン達もやがて退役し、スクラップとして生涯を終えた。


欠陥戦艦の烙印を押されながらも数々の戦闘を潜り抜け、生き延びた戦艦の奇妙な艦生はこうして終わりを迎えたのであった。




同型艦


◆ネルソン
HMS Nelson

起工:1922年12月28日
進水:1925年9月3日
就役:1927年9月10日
退役:1947年10月20日

1番艦。
艦名の由来は上記同様ネルソン提督。

華々しい海戦に参加することはなかったが、船団護衛や沿岸への砲撃など、大西洋や地中海を駆け回った。
ノルマンディー上陸作戦にも参加している。
後に練習戦艦となり、退役した。



◆ロドネー
HMS Rodney

起工:1922年12月28日
進水:1925年12月17日
就役:1927年11月10日
退役:1946年

2番艦。ロドニー、またはロドネイとも表記される。
艦名は18世紀に活躍したジョージ・ブリッジス・ロドニー提督。
こちらのみカタパルトを装備、水上機の運用が可能だった。

仕事はネルソンと概ね同じだが、こちらは前述のようにビスマルクのリンチにも参加した。
戦後は予備役となり、解体される。


後世の創作では。

英国を代表する特徴的な艦影の戦艦だけに出番もそこそこある。
架空戦記においては「軍艦越後の生涯」などのようにネルソン級と同じ主砲配置の架空艦もしばしば見られた。
しかしなぜか?と言いたくなるような勘違いした形で出るものも。

アニメ「新・海底軍艦」ではアメリカ海軍の戦艦リバティーがなぜかネルソン級そのものな艦影で登場。欠陥戦艦で有名な他国の戦艦をわざわざ完コピするとは、あの世界のアメリカ海軍は英国面に落ちていたのだろうか?

ゲーム「艦隊これくしょん」では低速の標準的な性能の戦艦として登場。
艦娘としては騎士を体現したかのような勇ましく凛々しい性格。
単純に使えば長門型の下位互換だが、出撃の度に復縦陣を選べば一度だけ強力な火力で複数回攻撃が行える特殊攻撃「ネルソンタッチ」を使用可能。
特殊攻撃を行える戦艦は後にいろいろ登場したが、復縦陣で特殊攻撃をできるのはネルソンとロドネーだけであり、現在でも特殊攻撃の代表として提督たちの主戦力として活躍し続けている。


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最終更新:2024年04月03日 14:58

*1 ただし、この呼び名は日本くらいでしか使われていない

*2 旧来の巡洋戦艦の致命的な弱点を露呈した第一次世界大戦次中の海戦

*3 金剛型や長門型なども建造時に積んでいたが、魚雷の有効射程を超える距離での砲戦が普通なので順次降ろされていった

*4 「どんくさい」という揶揄

*5 もっともダンケルク級もカタログスペックに現れない面では問題を抱えていて、リシュリュー級も決して例外では無かった