有頂天家族 二代目の帰朝

登録日:2015/03/08 Sun 19:14:23
更新日:2021/06/20 Sun 21:57:28
所要時間:約 9 分で読めます




※「下鴨矢三郎」視点で執筆する (櫻井氏で脳内再生する事を推めたい)




面白く生きるほかに何もすべきことはない。
まずはそう決めつけてみては如何だろうか。

私は現代京都に生きる狸であるが、天狗に遠く憧れて、人間を真似るのも大好きである。
今は亡き父はそれを「阿呆の血」と呼んだ。

私は四足の肉球がしっかりするのも待ちきれず、狸界の健康優良問題児として頭角を現し、
「矢三郎は無茶なやつだ」と大いに顰蹙を買ってきた。

しかし父から受け継いだ阿呆の血を身の内に流す狸として、他にどういう生き方があったろう。
この道のほかに我を生かす道なし。

ようするに、面白きことは良きことなり!






「有頂天家族 二代目の帰朝」とは森見登美彦氏によって書かれた小説であり、「有頂天家族」の続編である。
第一部の刊行から七年半、つまり構想なんと七年半という超大作。
登美彦氏が編集者の方々・アニメ関係者の方々・舞台関係者の方々・そして読者の方々、あらゆる人たちの期待を不本意ながら裏切り続け、
掴んで然るべきビジネスチャンスをことごとく逸して、延期に延期を重ねて幾星霜、
「出る出る詐欺」を繰り返し、もはや登美彦氏が「出るよ」と言っても誰も本気にしてくれなくなりつつあった、
あの失われた砂漠の都的なハムナプトラと成り果てたかと思われた小説が、此度ついに刊行された。
このたび2017年4月からのアニメ化も決定した。



東山三十六峰ことごとく笑う新緑の候、かつて赤玉先生との闘争に敗北して欧州へ逃れた二代目が帰朝し、新たな物語の幕が上がる。
将棋を愛する雌狸南禅寺玉瀾、狸を化かす幻術師天満屋、自宅の庭に四半世紀籠もる菖蒲池画伯、宗教団体を率いる狸谷不動の祖母など、へんてこりんな狸と人間がゴロゴロ登場。
天狗親子の南座における決闘をはじめ、南禅寺家の狸将棋大会、胡散臭い幻術師と金曜倶楽部の暗躍、ふたたび勃発する大文字納涼船合戦まで、天狗と狸と人間がやりたい放題の洛中において、次第に沸騰していく天狗の血、阿呆の血。
偉大なる父の血を受け継ぐ下鴨家の四兄弟は、混迷を深める現代タヌキ社会を如何に生きるか。
天下無敵、融通無碍。史上もっとも毛深い京都絵巻『有頂天家族』、第二部「二代目の帰朝」ぜひ手に取って読んでみてほしい。

なお、この項目には第一部「有頂天家族」のネタバレ要素が存在することを警告しておく。


また、第一部と第二部の間に起こった出来事は「冬の女神と毛玉たち」という短編になっている。
これはアニメ版「有頂天家族」の公式読本に収められているので、ことらもぜひ読んでみてほしい。




さて、ここらへんで登場キャラクターを紹介しておきたい。


◆狸
皆はご存じだとは思うが、我々狸は喋ったり化けたりすることができ、人間に交じって暮らしている。


◇下鴨矢三郎
櫻井孝宏

狸の名門、下鴨家の三男。
不肖ながら主人公を務める狸。つまり私の事である。
相も変わらず阿呆なことを繰り返し、栓抜き瓢箪から騎馬隊まで変幻自在に姿を変え、天狗や人間や狸を相手に、洛中かくも狭しと京都の町を西へ東へ、八面六臂の大活躍を繰り広げる。
この毛深い物語は、5月某日洛中に花咲き乱れる新緑の候、私という狸が面白く生きているところから幕を開ける。


◇下鴨矢一郎
諏訪部順一

下鴨家長男にして我が長兄。そしてわれら下鴨家の頭領。
相変わらずカチカチに堅い真面目な性格。
少しはヤワラカくなったような気もするが、それでもやっぱりコチコチである。
ただ、それが長兄の良いところでもある。
そろそろ浮いた話の一つでもあってもいいような気もするのだが。
去年はなんやかんやで結局「偽右衛門」にはなり損ねたが、今年はなかなか有望そうである。


◇下鴨矢二郎
吉野裕行

下鴨家次男にして我が次兄。
長かった自主謹慎の時代を終え、たまに紀の森に帰ってくるようになった。
とはいえ、まだカエルから狸の姿に戻れたり戻れなかったりしているので、普段はこれまでどおり井戸の中で暮らしている。


◇下鴨矢四郎
中原麻衣

下鴨家の末っ子で我が弟。
もともと携帯を充電できるというヘンテコな特技があったが、最近は電磁気学においてムクムクと才能を表している。
そのため難しい本を山ほど読んだり実験に明け暮れたりしているが、私たちには何のことかさっぱり分からない。
雷神様嫌いの母の息子が電気に強いというのも、まことに不思議な縁である。


◇父(下鴨総一郎)
声 石原凡

我が父。京都狸界の頭領「偽右衛門」として広く名を知られた狸であり、天狗からも一目置かれていた。
総一郎が今少し分別のあった狸なら、鞍馬天狗たちに喧嘩を売ったあげく、人間に鍋にされてしまうこともなかったであろう。
しかし、彼が鉄鍋のヘリでダンスを踊るケタ外れの阿呆であったればこそ、幾多の伝説は遺されたのである。


◇母(下鴨桃仙)
井上喜久子

我が母。趣味はタカラヅカ観劇。
包容力と息子たちへの偉大な愛を持っている、気性の激しいところもあり、怒ると相手に対して「くたばれ!」とよく叫ぶ。
幼少のときは、狸谷不動の子狸を率いて、幼少の父率いるツチノコ探検隊の子狸たちと盛大な陣取り合戦を繰り広げていたらしい。
二人の結婚した経緯は「赤玉先生のおかげ」らしいが、どういうわけか父と母の主張は真っ向から対立しており、真相はさっぱりわからない。




◇夷川早雲
飛田展男

我が父の弟で我ら下鴨家のライバルである夷川の頭領。
夷川早雲こそ狸の分際で我らの父を金曜倶楽部の鍋に突き落とした黒幕であった。
去年その悪事が露呈し、今は逃亡中の身である。
もしもどこぞで出会ったならただではおかぬ。
有無を言わさず京都へ連行し、父の霊前に三日三晩引き据えて許しを請わせ、尻の毛を毟って鴨川へまくべし。


◇金閣(夷川呉二郎)・銀閣(夷川呉三郎)
声 西地修哉(金閣)・畠山航輔(銀閣)

早雲の双子の息子。
去年の出来事で少しはましになったかと思えば、その阿呆ぶりは全く何も変わってはいない。
今は海星に手綱を握られ、夜の巷で泣き濡れる姿がたびたび目撃されている。


◇夷川海星
佐倉綾音

早雲の娘で金閣・銀閣の妹。
相変わらず私の前には決して姿を見せようとしない。
口悪くいずこからか容赦ない罵詈雑言を浴びせるのも相変わらず。
早雲が失脚して風前の灯火だと思われた夷川家だったが、今は彼女が経営権を握り、兄たちにムチ打ちながらその手腕を存分に振るっている。


◇夷川呉一郎
中村悠一

早雲の息子で金閣・銀閣・海星の兄。
物思いに耽りがちで、仏像を彫ったり仏典を読んだりして暮らしていたが、ある時父である早雲と喧嘩して出奔し、以来10年以上も旅をしていた。
あの早雲のどこを絞ればそんな遺伝子が出てくるのかと思うほど、悟り澄ました立派な狸。




◇南禅寺玉瀾
日笠陽子

南禅寺家の頭領正二郎の妹。
かつては我が長兄と共に赤玉先生の助手役を務めていた。
良い狸だが三度の飯より将棋が好きで、狸界に将棋を広めようとしている。
しかし、その過剰なまでの将棋愛ゆえ、啓蒙活動はうまくいっていない。


◇祖母
我が祖母でわたしの母の母。狸谷不動に住んでいる。
漢方や健康法に詳しいことから狸たちから「教祖」として崇め奉られている。
たしかに祖母の薬はとてもよく効くが、少々ボケてきている気がしなくもない。


◇八坂平太郎
声 津田英三

父の親友で、父の跡を継いだ現・狸の頭領「偽右衛門」。
かつて慰安旅行で訪れたハワイの地に並々ならぬ憧れを抱いている。
その地位を誰かに譲り渡して南国の地に旅立たんとしているが、去年は残念ながらそれは叶わなかったため、今年こそはと息巻いている。




◆天狗
様々な神通力を持ち、空を飛んだり天候を操ったりすることができる魔道を行く者たち。


◇赤玉先生(如意ヶ嶽薬師坊)
梅津秀行

大天狗の一人で我が師匠。私とは何でも先刻承知の仲。
もはやただのひねくれたジジイだが、プライドだけは一人前なのでタチが悪い。
此度そんな先生の息子が長い旅を終えて帰朝した。
天地間で偉いのは我一人。したがって父は子よりも偉く、子は父よりも偉い。それが天狗の考え方である。
そんな二人が丸く収まるわけがない。
二代目と出くわしたら、果たしてどのような事態になってしまうのであろうか。


◇二代目
声 間島淳司

かつて赤玉先生と喧嘩別れしたという赤玉先生の息子。
以来ずっと大英帝国にて暮らしていたが、100年の時を経て京都へ帰朝した。
シルクハットに黒背広の英国紳士風のいでたちで、先生とは似ても似つかない。
その立ち振る舞いは実に立派だが、その姿は正直時代錯誤も甚だしく、京都の町ではとても目立つ。
先生との親子対決の決闘の行方、そして弁天との跡目争いは、どちらに軍配が上がるだろう。



◆人間

◇淀川長太郎
声 樋口武彦

栄養学が専門の大学教授。
金曜倶楽部の元メンバーで、狸と食べることが大好き。
「食べるということは愛するということだ」を信条に狸を食べていたが、去年金曜倶楽部に対して「食うに食えないのも愛なのだ」という詭弁と共にその考えを転向し、金曜倶楽部の忘年会をめちゃめちゃにしたあげくに除名された。
今は私と共に反金曜倶楽部の秘密結社「木曜倶楽部」を結成し、「狸鍋反対」を合言葉に金曜倶楽部に対し抗議活動をしている。
まことに見上げた心意気であり、捨て身の狸愛であると言えよう。


◇菖蒲池画伯
声 麦人

狸と心を通わせている画家で淀川教授の友人。
なんとこの四半世紀一歩も家から外へ出ていないという。
狸絵を得意とし、実に単純素朴な筆遣いの絵を描くが、狸たる私としては「いくら狸だってもう少し端正で繊細な顔をしてら」と言いたくなる。
画伯のモデルは登美彦氏なんじゃあないの?という話もあるが、真実は登美彦氏のみが知るところである。




◇金曜倶楽部
人間たちの集まりで、七福神の名前の付いた7人の会員からなる。
一見ただの仲良しの食事会だが、その実忘年会に必ず狸鍋を食う残虐非道で野蛮な者たち。

◇弁天(鈴木聡美)
能登麻美子

金曜倶楽部の紅一点。
赤玉先生の弟子で愛人でもあるが、本人は歯牙にもかけていない。
4月に不意に「退屈したから海を渡る」と言い出して、神戸港から豪華客船に乗り込み、世界一周クルーズに出かけてしまった。
一応先生に手紙を送ってきてはいるものの、その中身は○とか×とかしか書かれていない。
私としては命の危険の一つが大きく減ったわけなのだが、どこか寂しいと思うのは、これもまた阿呆の血のしからしむるところだろうか。


◇寿老人
声 間宮康弘

金曜倶楽部の最長老で首領。
洛中で誰よりも恐れられているという高利貸し。
長年にわたって金曜倶楽部に君臨し、京都で一番狸を喰ってきた人物。
大還暦を目前に控えた老人だが、とてもそうは思えないほどの力と冷酷さ併せ持っている。
所蔵の3階建て電車が登場したことで、彼が「夜は短し歩けよ乙女」に登場する李白と同一人物であることはほぼ間違いなくなったが、受ける印象は逆に遠のいたと言えよう。


◇天満屋
島田敏

寺町通商店街に突如として現れた得体のしれない不気味な怪人物。
太った小柄な中年男で、人間の身でありながら恐ろしく高度な幻術の使い手。
私も一度はまんまと化かされてしまったほどである。
寿老人の手下で、一度寿老人の逆鱗に触れ京都から姿を消したが、再び舞い戻って寿老人の手下になっている。
口癖は「森羅万象これエンターテインメントよ」。





ちなみに『有頂天家族 二代目の帰朝』は刊行されたものの、十周年記念作品最後の一作『夜行』がまだ完成していないので、登美彦氏の呪われた十周年は未だに終わりを見せていない。
また、この「たぬきシリーズ」は全三部構成になる予定であるが、果たして第三部の完成はいつになることやら。



最後に、もし暇であれば、ぜひ追記・修正をお願いしたい。


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最終更新:2021年06月20日 21:57