強襲装甲艦(鉄血のオルフェンズ)

登録日:2016/02/16 (火) 08:47:11
更新日:2025/05/29 Thu 20:32:24
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このページでは、『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』に登場する戦闘用宇宙船の解説を行う。





強襲装甲艦とは?

まず閲覧者の方々に理解しておいてほしいのは、『鉄血のオルフェンズ』の世界観・Post Disaster(PD)の基礎知識。
作中時点から約300年前に終了した大戦争「厄祭戦」。
その勃発の原因となった、人工重力の生成も可能な反応炉「エイハブ・リアクター」(以後「リアクター」)。
リアクターの波動に反応して高質化する特殊塗料装甲「ナノラミネートアーマー」(以後「NLA」)である。
これらは作品の紹介ページをご覧いただきたい。


「厄祭戦」によって技術レベルが後退し、リアクターを採用した軍用兵器の新規設計・独自製造が可能な組織がギャラルホルンただ一つとなったPD世界では、旧時代からの兵器が大切に使用されて続けいる。
劇中に登場する艦は、基本的に厄祭戦当時から使用され続けている骨董品寸前の代物なのだ。ガンダムAGEもビックリである。

その中で、民間軍事業者や宇宙海賊たちが好んで使用する戦闘用宇宙船が「強襲装甲艦」と呼ばれる艦種。
「強襲」「装甲」の名の通り、強襲装甲艦はそのどれもが強固な正面装甲高い機動力(速力・旋回性)を有している。
流石に艦後方の比較的装甲が薄い部位はモビルスーツ(MS)用火器で袋叩きにされると火を噴いてしまうが、正面からならば、ギャラルホルンの大型艦・ハーフビーク級戦艦の主砲をバンバン被弾しても全速で突撃を続けられる。
縦横無尽に動き回る様は、さながら超巨大なモビルアーマー(MA)*1とでも言わんばかり。人工重力発生や慣性制御を行えるリアクター様々である。

PD世界では、艦全体に塗りたくられたNLAによって、大砲ではよほど集中させないとダメージが通らず、NLAを溶解させる対艦ナパームミサイルは迎撃されやすい。
恐らく、強襲装甲艦はこうした状況への回答として「強引に敵艦や敵ステーションへ肉薄し、至近距離からの攻撃を加える」というコンセプトに基づいて建造されたものと思われる。
実際に劇中の鉄華団では、艦首の巨大なアンカーを使って敵艦に強行接舷し、モビルワーカーで陸戦隊を送り込む戦術がセオリーと化している。
衝角突撃すらも厭わぬ、あたかも帆船時代に逆戻りした野蛮な発想だが、逆にそうしたダイナミックな戦術が珍しくなりつつある現在では、鉄華団はこの戦法によって幾度も勝利を重ねてきた。
……というか、そういう自殺攻撃が大前提と化していた厄祭戦ってどういう戦争だったんだと。


どの艦にも共通する基本構造は、魚類を思わせる曲面状の艦隊と、その下部につきだしたカーゴベイ。
大きさとしては中型クラスで、現実で例えるならヘリ1,2機程度の簡易艦載機運用機能が有る駆逐艦や小さいフリゲート艦に当たるか。
どの艦も外装以外の極端な差異は無いため、本項では以降、主役艦である「イサリビ」を基準として解説を行う。


メカニックデザイナーは海老川兼武。ちなみに海老川氏はかつて『ダライアスバースト』に参加していた。
彼の名を聞いて「なるほど」と思ったシューターも多いのではなかろうか。
一部のバリエーション艦は寺岡賢司が担当している。



NOA-0093 イサリビ

概要

主役艦として活躍する鉄華団の母艦。なんか反乱でも起こしそうな艦籍番号だが気にしてはいけない。
鉄華団の前身であるCGS時代には「ウィル・オー・ザ・ウィスプ」の名でよばれていたが、オルガ・イツカが「辛気臭い名前」と断じて改名した。
(ウィル・オー・ザ・ウィスプとは伝承上のいわゆる鬼火のことで、諸説あるが航海中に死んだ子供の魂が姿を変えたものとされる。たしかに縁起が悪すぎる)

カラーリングは赤みが濃い赤紫と白。ラフタ・フランクランド曰く「海老みたいでおいしそう」。やっぱりダライアスじゃないか!
普段は火星軌道上の共同ステーション「箱舟」に係留されている。

恐らく歴代ガンダムナンバーワンのタフネスを備えた艦と言っていいだろう。艦体サイズに対する耐久力がおかしい。
劇中では小さなコロニー並の大きさがある低軌道ステーションに全速力で正面衝突したが、全くの無傷。ステーションの外装を抉って火を噴かせたばかりか、軌道を狂わせて大気圏へ叩き落としかけた。
(抉られただけで済むステーション側も異常だが…。なお、イサリビの離脱後にハーフビーク級が4隻がかりで引っ張り、辛うじて元の軌道に戻っている)。

操艦は有機インターフェイス・阿頼耶識システムにも対応している。これを使うことで通常時よりもさらに細かく、繊細な機動が可能となる。
阿頼耶識操艦時の具体的なイメージは描写されていないが、大体はガンダム・バルバトスと似たような感覚のようだ。
第7話のユージン・セブンスタークが阿頼耶識操艦を担当するシーンで大まかに推察できる。
  • 敵MSが艦前方から後方に抜けて行った際、ユージンは座席から身を乗り出してまで、モニターがない艦橋後方を振り返っている→敵MSを(網膜投影された)自分の目で追っている。
  • 「対空砲じゃ追いきれねぇぞ!」と敵MSに悲鳴を上げている様子から、火器管制もユージンが行っている模様。
  • 敵艦からのミサイル接近を警告、迎撃を促したのはビスケット→索敵・観測はユージン以外も補佐。

他の艦とデータリンクすることで遠隔操縦も可能。劇中では阿頼耶識操艦のデータを僚艦に流し、安全な航路を誘導した。
有線接続して直接阿頼耶識で2隻同時に操艦することも不可能ではないが、これをやるとMSと同等の肉体的な負荷がかかってしまう。


武装

◆主砲
計5門の2連装砲。側面ブロック・上下に2基ずつ、艦上部・艦橋後方に後方を向いた砲が1基。後方主砲は艦内に格納可能。
◆対空砲
計2門の2連装速射砲。艦上部・両側面に1基ずつ配置。
◆ミサイル発射管
計8門。両側面に4門ずつ配置。射角は艦前方。
◆多目的発射管
計2門。両側面に1門ずつ配置。射角は艦前方。劇中では閃光弾を発射している。
◆艦首アンカー発射機
計2基。両側面に1門ずつ配置。艦全体の重量を支え切る高い強度を確保している。
敵艦に取り付く際に使用される。

側面主砲はレール上を可動する仕様になっており、射角はかなり広い。
ただ、それでも火器の射線は前方に寄りすぎている感がある。特に艦体後方下部を撃てるのは主砲二門だけと、かなり手薄。
これは仮説だが、そもそも常に前方の敵目がけて突き進んでいく強襲装甲艦では、後ろを撃てる火器があってもあまり使う機会はない。
ビスケットも「船体が振られた状態での砲撃は当てにならない」と語る通り、高速ですれ違う状態では無駄弾になってしまうため、あえて重視していないのかもしれない。


艦内施設

●艦橋(ブリッジ)
艦の最上部に突き出ている。戦闘時には艦体に格納される。平時では人工重力が稼働している。
内装は必要最低限の小ぢんまりとしたもので、座席は5つ。中央に艦長席。その少し前方、両側のモニターに向かう形で2席。前方メインモニター前に2席。
艦長席には収納式の操艦用コンソール、そして阿頼耶識システムが配されている。艦長席の後ろには収納式のモニターテーブルが置かれている。
CGS時代は整備をさぼっていたのか、座席が軽く錆びてたり、染みが付いていたりと、痛みが酷い事になっていた。後にライドが絵を描くようになってからは改善された模様。
●食堂
平時では人工重力が稼働している。およそ30人程度が座れるテーブルが備えられているが、画面に映っていないだけで実際はもう少し大きいのかもしれない。
調理スペースは少し大きいシステムキッチン。無重力状態に移行しても食器を固定できるベルトが設けられている。
主なメニューはポレンタ(モロコシ粥)、アスパラガスとスパムの盛り合わせ、ニンジン・ミニトマト・ポテト・瓜のサラダ、合成肉団子とビーンズの煮込み、シチューらしきスープ、野菜ペーストのサンドイッチ。ドリンク類は市販のボトル飲料(ミルク、チョコ、スイカジュース)が多数。鉄血は飯テロアニメ。
作業員たちは弁当(大きめのサンドイッチやトルティーヤ巻)で食事を済ますことが多いようだ。
●艦内通路
平時では人工重力が稼働している。窓に面した通路はドラマの舞台となることが多い。
「すげぇよミカは」発言、おばさんとガキの会話、不意打ちのキスはここで行われた。
●格納庫
ほぼ無重力。艦底カタパルト直結のMS用格納庫と艦尾多目的格納庫の2つを持つ。かなり大きめのスペースが確保されており、立派に
武装貨物船としてもやっていける。
艦載機スペースにはMSを3機、モビルワーカーを最低5機、長距離輸送ブースターのクタン参型を収容可能。
●搬入ハッチ&カタパルト
下部に突きだしたブロック。MSは格納庫からうつ伏せに寝かせながら台車状のデッキに降ろされ、固定・射出される。ムサイ級に近い。
射出姿勢の関係で、戦闘中でも開口部を極力狭くできているのがポイント。


鉄華団がテイワズ傘下に入ってからは、艦首に鉄華団のマークが書き足されている。
また、イサリビの改名から暫く落ち着いた頃には、艦内の各所に鉄華団所属デザイナーのライド・マッスが様々な壁画を描いている。どれも一級のデザイン。


艦橋要員

◆指揮官:オルガ・イツカ
我らが鉄華団団長。
◆指揮官代理:ユージン・セブンスターク
ユージンはオルガの離席時に指揮を執る。更にオルガ直々の指名で阿頼耶識操艦を担当することもしばしばある。

◆操艦:チャド・チャダーン
◆火器管制:ダンテ・モグロ(orユージン)
◆通信・索敵管制:ビスケット・グリフォン
正規クルーでは以上の3人が席に座っていることが多い(というか代理がいない)。基本的にチャドは常駐している。
チャドは前方左、ダンテは前方右、ビスケットは後方左シートが定位置。この他、臨時クルーとしてフミタン・アドモスメリビット・ステープルトンが後方右シートに座ることもある。
省力化・高効率化が進められており、それぞれのシートで艦内管制や航法補佐、索敵、通信を一通りこなせる模様。人数が揃っている時には大まかな役割分担が行われる。
チャドとダンテが座る前方シートは艦内管制や航法、通常時の操艦にウェイトが置かれている模様。
おそらくはチャド(左シート)がメインで、陸戦隊に回る事が多いダンテ(右シート)がサブ。
フミタンとメリビット(後方右シート)は艦載機との通信を主に担当している。索敵関係は後方シートの担当か。




NOA-0132 ホタルビ

概要

組織規模拡大後、鉄華団が新たに使用する武装輸送艦。
強襲装甲艦をベースに、両舷の武装・推進ブロックと艦尾格納ブロック、艦底カタパルトを撤廃し、両舷に大型コンテナブロックを接続、推進用メインノズルを艦尾に移設したチグハグな構成をしている。
メインカラーはクリーム色。艦首部と艦橋前方には鉄華団のシンボルマークがペイントされている。

輸送艦ではあるが元が強襲装甲艦なだけあって、イサリビの戦闘機動速度に追従できる船足と海賊船団の砲火を耐えられる防御性能を持ち、本分である優れた運搬能力でMSを次々と出撃させて戦線を形成する展開力と併せて、非常に優秀なスペックを誇っていると言える。

戦闘時、オルガはイサリビの操艦をユージンに預けてこちらで指揮を執ることが多い。


武装

◆主砲・対空砲
両舷のブロックを撤廃したため、主砲は艦橋後方の1基のみに減っている。
◆ミサイル発射管
艦首部左右に4門ずつ配置されている。
◆艦首アンカー発射機
上記イサリビ参照。


艦内施設

●大型コンテナブロック
物資運搬用の貨物輸送船のコンテナを流用した全長300m級の格納庫。
コンテナ1基は4区画に分かれた構造をしており、それぞれ側面・上下面・前後面にハッチを備える。
グシオンや新たに導入した獅電のほとんどはこちらに収容されている。



TIR-0009 ハンマーヘッド

概要

テイワズの運送部門・タービンズの戦闘艦。艦長は名瀬・タービン。
塗装はクリームカーキ。艦首には横長の大型装甲版が取りつけられている。艦側面にはみ出した部分には推進器も搭載。
この装甲を活かした敵艦への突貫が必殺技。火星圏……ハンマーヘッドシャーク……シールド突撃……うっ頭が

リアクターから放出されるエイハブ・ウェーブを一時的に遮蔽する機能を持っており、これを使って奇襲をかける戦法を得意としている。
リアクターが常時ウェーブを出している=リアクター搭載機は位置が丸判りとなるPD世界において、これは大きなアドバンテージとなっているのは間違いない。

武装

◆主砲・対空砲
この2つはイサリビと同様のレイアウト。
◆ミサイル発射管
推定12門。艦首装甲両側・上下に3門ずつ配置。射角は艦前方。
設定画ではイサリビと同様の位置(艦側面)に発射管らしき書き込みが確認できるが、そこから発射すると艦首推進器を直撃してしまう。おそらくは使われていないものと思われる。

なお、艦首アンカー発射機は廃されている。

艦内施設

●艦橋
イサリビと同様だが、流石にあちらより段違いに整頓されている。
●応接室
赤絨毯が敷きつめられたシックな部屋。さりげなく古美術品が飾られている。
商談や内密の打ち合わせはここで行われる。日常では家族の団欒の場としても使われるようだ。
●託児室(!?)
まだ幼い名瀬の子供たちの部屋。学校に入る年頃の子供たちは「陸の学校」に行っているようだ。
●格納庫
イサリビと同様。艦載機は百錬2機と百里1機。
整備班には腕利きの面子が揃っており、MSのフレームごとの大改装をもやってのける。



オルクス商会の艦

概要&航海記録

火星圏の運送・航路仲介業者であるオルクス商会が保有する艦。
塗装はオリーブグリーン。前方装甲がイサリビよりも長めになっている。

鉄華団を裏切り、ギャラルホルンと内通してイサリビを追いかけるが、ワイヤースイングバイによる急激な軌道変更に対応できず肉薄を許す。
超至近距離から対空砲を撃ちこまれ外装を傷だらけにされた挙句、体当たりで右舷上部主砲をへし折られた。



ブルワーズの艦

概要&航海記録

大手の宇宙海賊・ブルワーズは空母仕様の装甲艦を1隻、戦闘仕様の装甲艦を2隻保有している。
塗装はネイビーブルーに赤いアクセントが加えられている。前方装甲はイサリビに比べるとより太く突き出ている。
この内の戦闘艦一隻は鉄華団&タービンズ連合との戦いの後、哀れな末路を辿ることになる。







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最終更新:2025年05月29日 20:32

*1 この比喩については、宇宙世紀作品等に登場するMAの一般的定義に基づくものとする。本作に登場するMAについては当該項目を参照。