マリアビートル

登録日:2018/12/30 Sun 17:31:16
更新日:2023/05/17 Wed 18:54:48
所要時間:約 10 分で読めます






「どうして人を殺しちゃいけないんですか?」



『マリアビートル』は2010年に発売された小説。原作者は伊坂幸太郎。ジャンルは……一応サスペンスという事になっている。
「殺し屋シリーズ」の2作目であり、前作『グラスホッパー』を読んでいるとニヤリとさせられる箇所がいくつもある。


<概要>

今回は新幹線が舞台であり、作中時間で2時間半の物語が繰り広げられる。
登場人物達それぞれの視点から話が進んでいく。


<登場人物>

〇木村雄一
元殺し屋。アル中のオッサンであり、かなり粗暴な性格。
息子・渉が出来て以降、仕事はやめている他、彼が入院してからは酒も辞めている。
愛する息子の渉が王子によって屋上から突き落とされてしまい、復讐のために彼を狙う。
だがそれ自体が王子の策略であり、スタンガンで返り討ちにされ、さらに王子の部下に渉を人質に取られてしまう
「踏みつぶしても、死なないタイプ」。

〇王子慧
中学生の少年。「王子」は本名。項目上の言葉も彼のもの。
かわいらしい顔立ちと態度の少年。だがそれは演技であり、内心では周りの人間を馬鹿にしきっている。
自身が周りと比べて圧倒的に頭が良く、幸運な選ばれた人間だと信じ切っており、実際間違いと言い切れないだけの知性と幸運に恵まれている。
周りの人間を操り、標的をどん底の絶望からさらにどん底に突き落として面白がる外道。
中学生ながら人心のコントロールに異様に長けており、同年代はおろか大人すらリアルな意味で洗脳している。
同時にかなりの幸運の持ち主であり、作中でもあり得ないような境地から助かっている。あちらの幸運野郎と対決してほしいものである。
伊坂幸太郎作品によくいる「同情の余地なき悪役枠」なのだが、その中でも特にヘイトを稼いでいる存在。それだけに末路はかなりスカッとする。

〇蜜柑と檸檬
2人組の殺し屋。スズメバチを押しのけ業界No.1の殺し屋になっている。身もふたもないことを言うと今作の蝉枠。
冷静沈着で思慮深く読書家な方が蜜柑で、おちゃらけていて油断しやすく『きかんしゃトーマス』が大好きなほうが檸檬。
「蜜柑は付き合いやすいが、檸檬は面倒くさい。レモンは酸っぱくて食べられないだろ」と言われたのが名前の元ネタ。
口を開けば常にいがみ合うような2人だが、決して仲は悪くなく、仕事中に雑談に花を咲かせたり互いの趣味を勧めあっている。
もっとも、両者共に負けず嫌いであるため、それぞれの趣味をバカにしあっていたが。
裏社会のトップである峰岸から依頼を受け、息子であるぼんぼんと身代金の入ったトランクを運ぶ仕事をする事になる。

〇天道虫/七尾
気弱な殺し屋。殺し屋では珍しく本名が判明している。
ひたすら不運な殺し屋であり、毎回簡単な仕事を引き受けているはずなのに本人とは関係ないところでアクシデントが起こってしまう不幸体質で、本人もそれに慣れてしまっている節がある。
気弱な性格も相まって殺しの能力も低い……というわけでもなく、むしろ滅茶苦茶強い。
単純なキルスコアは蝉に並び、機転もかなり利く方で咄嗟の策で相手に勝つことも多い。
そもそも名前の元ネタは「天道虫は追いつめられるとバッと飛び立つ」という物騒なところから。
ちなみに特技は首折り。大藪さんとどちらが強いかは、たまに話題に上がる。
とある筋から新幹線の中のトランクを運ぶ仕事をする事になるが、小さなトラブルが相次ぎとんでもない大事に巻き込まれてしまう。

〇真莉亜
七尾の仲介業者。明るいお姉さん気質で七尾を尻に敷いている。
中国拳法が特技であり、ぶっちゃけ七尾よりも強い。そんな彼女が仲介業者をやっていることに対して七尾自身は微妙に迷惑がっている。
とはいえ、ただ嫌っているわけではなく、公私ともに付き合いがある。

〇木村渉
雄一の息子。王子の策略によって意識不明に陥り、入院している。本作一の被害者。

〇木村茂と木村晃子
雄一の両親。既に定年退職しており、岩手県で老後を楽しんでいる。

〇峰岸
裏業界で有名な男。恐怖で人間を支配する事に長けている。
身内には甘いタイプで、それが今回の事件の発端になった。




<余談>

2012年には大須賀めぐみ女史が表紙を手掛けた文庫版が発売された。
イラストは「木村」「王子」「蜜柑と檸檬」「天道虫」の5人で、それぞれ特徴を捉えたキャラデザとなっている。
本作はは角川書店の作品だが、一応大須賀は小学館の漫画家であるため、この引き抜きはちょっと話題になった。

舞台の元ネタは恐らく東北新幹線。終点までの移動時間はだいたい2時間半。
実際に乗りながら本書を読もうとする伊坂ファンも多いが、文庫版で500ページ強と結構分厚いため、かなりの速読力が求められる。


<映画化>

2022年に『ブレット・トレイン(原題:Bullet Train)』のタイトルで、ハリウッドにて実写映画化。
配給はソニー・ピクチャーズ エンタテインメント。日本ではR15+指定となっている。
監督が『アトミック・ブロンド』『デッドプール2』『ワイルドスピード/スーパーコンボ』のデヴィッド・リーチという事もあってか、原作よりもコメディタッチかつアクション要素を前面に押し出した内容となっており、
いくつかの登場人物が改変された他、こちらでは天道虫(レディバグ)が主人公として扱われている。
また、挿入歌アーティストとして、日本からはアヴちゃん(女王蜂)と奥田民生の両名が参加している。

キャスト

日本語吹き替え版のキャストだが、男性陣はプロ声優で固められた一方、メインの女性陣に関してはいわゆる「芸能人吹き替え枠」となっている。
  • レディバグ(天道虫):ブラッド・ピット(吹替:堀内賢雄
  • プリンス(王子):ジョーイ・キング(吹替:山本舞香)※性別が女性に変更された。
  • タンジェリン(蜜柑):アーロン・テイラー=ジョンソン(吹替:津田健次郎
  • レモン(檸檬):ブライアン・タイリー・ヘンリー(吹替:関智一
  • 木村雄一:アンドリュー・小路(吹替:阪口周平)
  • エルダー(木村父):真田広之(吹替:井上和彦
  • ウルフ(狼):ベニート・A・マルティネス・オカシオ(吹替:木村昴
  • ホーネット(スズメバチ):ザジー・ビーツ(吹替:フワちゃん)
  • ホワイト・デス(白い死神):マイケル・シャノン(吹替:立川三貴)※原作における峰岸の役回り。
  • サン(息子):ローガン・ラーマン(吹替:吉野裕行)※原作における峰岸の息子の役回り。
  • マリア(真莉亜):サンドラ・ブロック(吹替:米倉涼子




「ナナホシテントウムシの星の数みたいじゃない」
「だからと言って、俺のせいじゃない」
「あのさ、君はたぶん、みんなの不幸を背負って、肩代わりしているんじゃないの」
「だからついていないのか」
「そうじゃなかったら、あんなについていないわけないよ。君はみんなの役に立っているのかも」



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最終更新:2023年05月17日 18:54