SCP-1429/原著者不明

登録日:2019/08/07 Wed 14:41:22
更新日:2025/02/12 Wed 22:24:06
所要時間:約 11 分で読めます



SCP-1429はシェアード・ワールド『SCP Foundation』に存在したオブジェクトである。

オブジェクトクラスはSafe。
項目名は『The Cylinder Bug (円筒蟲)』。今となっては原著者すらわからなくなってしまっている記事である。


はじめに──DV削除とは

シェアード・ワールド「SCP Foundation」の記事をすでに多く読んでいる皆様は度々出てくる「DV削除」をなんとなーくわかったつもりで読み進めてはいないだろうか

ここでいうDVはDomestic Violence(家庭内暴力)………ではなくDownVote(低評価)、評価が-3を下回り、72時間経過後に低評価で削除されたことを『DV削除』と呼ぶ。

つまりそのほとんどが「低評価を受けて消えた記事」で、賛否両論とかが拮抗して削除はレアケース。*1

かつては反面教師のDecommissioned(「こんな記事を書くな」)にした時期もあったが、名作『Duke 'till dawn』のせいで「俺のオブジェクトも破壊してくれよ」と、わざわざ書く人が後を絶たなかったので、削除して忘れさられた………………はずだった

しかし後述の理由により、有象無象の低評価記事として忘れられるはずだったのこの記事はTwitter支部や5ch支部の職員たちの語りぐさとなっている。



概要

SCP-1429は項目名の通り、2インチほどの長さがある小さくて薄い円筒形の虫である。開幕ヤード・ポンド法である。単位はメートル法に直して書けってあれほど以下略

重力を無視して飛んでいるように見えるらしいこの虫けらに人間が近づくと噛まれ、蚊の噛み跡に似ているがそれより緑がかった跡を被害者に残す。
その被験者は5分ほどで昏倒したあと、起き上がり[削除済]、致死的なSCPの開放、他の職員の殺害、有益なSCPやテクノロジーへの攻撃といった行為を行おうとするという。

以上

シリーズVなどでシンプルな記事に興味が回帰しつつある()とはいえ、いくらなんでも物語性がなさすぎるし、まさしくマッケンジー博士がいうところの『そこらの怪物』でしかないのにバカみたいにチートすぎるわけでもない。いっそ突き抜けたほうが幾分面白かっただろうに。

インタビュー記録も概要に負けず劣らず薄っぺら。
ちなみに書式が一般的な報告書と異なることはアニヲタ支部職員たちにとってはすぐに理解いただけるだろうが、原文ママのため許していただきたい。

インタビュー対象:
警備担当者████████
インタビュアー者:
████████

前書き:
本インタビューは1429-1発生後に行われた

<ログ開始>

████████:
では、感染した機動部隊員に何が起きたのか話してください。あなたは事件発生時に現場に居たそうですね。

警備担当者████████:
ええ、その……SCP-1429は保管庫から逃げ出して████の腹を5回、腕を2回噛んだんです。█████は5分ほどで意識をなくしました。そのあと、目を覚まして、私のチームを射撃して[削除済]。我々が応戦したところ、彼は逃げました。

████████:
感染した機動部隊員がSCP-049SCP-173SCP-299の保管庫を開放したのもそのときですか?

警備担当者████████:
はい、そうです。もういいですか。


警備担当者████████に礼を述べ、退出させる。


<ログ終了>

終論:
████████博士はSCP-1429のobject classをEuclidに格上げすることを提案。

※SCP-049は改稿後ではなく、改稿前であることに注意。

まあこんな調子なのでSCP-ENではDV削除の対象になった。

しかしここで、この円筒蟲くんが数奇な運命に巻き込まれていく。

日本SCP史


以下、かつての読者たちのTwitterなどを参考にしている。

まだ日本支部が成立してなかった頃の日本には『The SCP Foundation 非公式日本語化wiki』というwikiが存在した(以下、非公式翻訳wiki)。

このwikiにアカウントという概念もなく、翻訳予約制度もなかったが、高Rate記事はかけっこ状態になるほど翻訳熱はヒートアップしていた。

頑張って翻訳しても、すぐに誰かに投稿されて無駄になる。
だったら、『そうだ、逆に、低Rate記事から翻訳していけば絶対にかぶらないのではないだろうか?』と思った翻訳者がいたのだろう。

または「下書きが査読を受けて投稿された*2」ならば認められたという判断があったのだろう。(Twitterや5chなど多くのコミュニティにおいて当時はDV削除という概念を知られていない時代であったとする意見もある)*3

よりによって、当時一番Rateの低かったこの円筒蟲くんが翻訳されてしまったのである。

訳文が投稿直後に元記事はあっさり削除されたが、CC BY-SA 3.0の都合上、すぐに消さなきゃいけないわけでもないし、それに次のSCP-1429にすぐに置き換えられるだろう。





そして、『SCP-1429_Organoid Organisms(類臓器性生命体)』が翻訳されるまで数年の時が流れた。






非公式翻訳wikiで数年間生き延びていた本家で数日で消えたはずの円筒蟲くんの数奇な運命そのものに想いを馳せようーーーーーーと意味が分からない?じゃあ、そういう楽しみ方もあるんだよってことでお願いしましたよ、日本SCPコミュニティではちょっとした語り草になっていた。

今となっては頑張ってアーカイブを探さなきゃ読めない記事となってしまっているが、ライセンスの条項に基づく限り、それから派生した作品の削除は止めることができず、また拡散を止められない。こうなった要因もまさしくクリエイティブ・コモンズ・ライセンスにあるといっていいだろう。

何らかの要因で削除されたとしても、どんなに忘れられたくても、ずっと記憶に残り続けるのである。





記録には残っていないが、記憶に残り続けるSCPたち


こいつが俺の列車らしいや、若ぇの。この連中にも、行くべき所に向かう必要が出てきたと見える。誰かがこいつらを見送ってやる時が来たんだよ。

SCP-2180 - End of the Line (終点)

djkaktus氏の自主削除により、現在は別の項目になっている。
ネブラスカ州█████ ██████の空き地にある放棄された鉄道の駅で、
どこからか現れる列車に、どこからか現れる透明な人形実体が乗り込む。
きっと、お迎えがきたのだろう。

"次ハ諸君ラノチッポケナ世界ダ。"

SCP-1548 - The Hateful Star (きらいきらい星)

作者のRPCへの移籍により削除。現在は別のきらいきらい星があなたを待っている。
人類への敵意を示す光学パルサー。地球に向かって高速で近づいてきており、
5700年後には地球にぶつかると考えられている。

暫くして、改稿版が投稿された。


なあ、俺たちの目的ってなんだったっけな? 異常ってなんだ? どこからが異常で、どこからが正常なんだ? 俺たちは何を守ればよかったんだ?

SCP-1978-JP - 日本海に位置する孤島██における異常な文化

作者によって自主削除されたが、なんとこのアニヲタwiki(仮)に解説が載ったことで存在が残り続けることになった記事。
身内が死ぬとその肉を喰らい、血を飲み干すというとても気味の悪い異常な文化がとある孤島で確認された。
財団はこのミームに対する対処として前頭葉切除手術(ロボトミー手術)を行っていたが…?

光芒よ、あなたは私が殺したのです!私が!お慕い申して……それでも!この世の春を!失った!

SCP-2536-JP-J - 模範的ミーム

項目名が示す通り、Jokeオブジェクトだった記事。こちらも後に削除されるもアニヲタWiki(仮)の一項目に説明の具体例として載ったことで奇しくも存在が残り続けた事例の一つとなった。
SCP-2536-JP-Jは記事の言葉を借りて言えば「非常に凶悪なミーム的性質を持ったメッセージ」らしいが…?
詳しくは ここ を参照あれ。

SCP-201-JP - ざんげのキッチン

作者の引退に伴う自主削除で、AiliceHershey氏の『ざんごのハイウェイ』を経て
現在は『次元ヤマノテ線』となっている。

人の死に対するトラウマを持つ者がキッチンに入ると、クロッカスヘッドギャルソンが生へのアドバイスをくれる。
そんなクロッカスヘッドギャルソン自身のトラウマとは…?


おわりに

こうして、円筒蟲くんはいまでも、記憶に残り続ける。
列車に乗って旅立っていった死者たちのことも、人類に敵意を見せるパルサーのことも、
文化を理解しようともせずロボトミーという凶行に及んだ財団の罪も、記憶に残り続ける。

まさしく、『忘れられない限り、ずっと生き続ける』のだろう。







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最終更新:2025年02月12日 22:24

*1 これ以外には荒らしへの対処や、自主削除など。

*2 円筒蟲くんが査読を耐え抜いたとは考えにくく、いわゆる『Kamikaze』であった可能性は高い

*3 「DV削除については知られていた」とする話もある。