SCP-990-JP

登録日:2019/12/03 Tue 00:17:49
更新日:2019/12/10 Tue 13:15:39
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SCP-990-JPとは、SCP財団日本支部が収容しているSCPオブジェクトである。
タイトルは「特装救命士トリアージ・レッド」
オブジェクトクラスはEuclid。

特別収容プロトコル

SCP-990-JPの特別収容プロトコルは、
  • 高強度人型オブジェクトクラス収容室に収容してね
  • 食事として流動食を与えてね
  • Dクラス以外の直接の接触は禁止だよ
という、簡素なものとなっている。
ただ、「高強度の人型オブジェクトの収容室」という点で、なんか人型の戦闘力の高い存在だと察知することはできるはずだ。

またSCP-990-JP-aを脱がせることができたら、そちらは独立したオブジェクトとして扱う予定。

説明

SCP-990-JPは、「特装救命士 トリアージ・レッド」と名乗る、謎の装甲服(SCP-990-JP-a)と指定。以下、単に『装甲服』と表記)に身を包んだ人型実体。
装甲服の構成素材は(相変わらずの)未知の物質であるが、試料片の採取に成功したことから破壊は理論上可能と思われる。
まあ破壊でなくて確保・収容・保護が財団の方針である以上、滅多なことでは破壊には手を出さないが。
ちなみに、まだ脱がせることには成功していない模様。

SCP-990-JPは財団に対しては、非常に敵対的な態度を取っている。

SCP-990-JPは、「何か」(編集済となっており詳細は不明)の現場で救助活動の妨害をしているところを、財団の機動部隊に取り押さえられるという形で収容された。
取り押さえられた時点では高い身体能力と脅威度の高い武装が確認されているが、これらは現在では多くが使用不能となっている。まあ、その「ヤバい装備」が生きてたら、オブジェクトクラスはEuclidじゃなくてKeter待ったなしだろう。
以下は確認された事例である。

現象 説明
救助者に、SCP-990-JPに対する熱狂的な好意が発生。 薬物投与によるミーム災害と判明。薬物の回収は失敗
一般的な成人男性の約3.5倍の走力と跳躍力 SCP-990-JPは「ソニックドライブ」と呼んでいることが記録されている。恐らく装甲服の機能と思われる。現在は機能していない可能性あり
致死濃度の二酸化炭素を放出するファン×2。装甲服の両肩に内蔵 同じく「フレイムキャンセラー」と呼んでいるのを記録。現在は財団が外部タンク(CO2チャージャーと呼んでいるようだ)を回収したため、恐らく使用不能
ワイヤーアンカーを射出する装備×2。装甲服の両腕に内蔵 同じく「ソリッドシューター」と呼んでいるのを記録。初期収容時にワイヤーを切断し、アンカー部を回収。特異性は特に無い●=グシャァッ
高精度の複合センサー。装甲服の頭部に内蔵 同じく「ハイパーサーチ」と呼んでいるのを記録。作動時に発生する電磁波が観測されていないので、恐らくこれも現在使用不能
生命維持装置と思われる装備 収容から数日後にSCP-990-JPが食事を要求したため、多分これも機能していない

ここまで見た感じでは、救命士モチーフのいかにもな正義の味方だが、なぜそんな存在が救助活動の邪魔をしていたのだろうか。
ミーム災害誘発薬物など、どう考えても救助の域を超えたモンがチラホラしているのは気のせいである。

インタビュー記録006

財団はSCP-990-JPに対し、インタビューを何回か試みている。
以下はそのうちの一つである、インタビュー記録006。

インタビュアーはエージェント・マオ。
収容違反を防ぐため、カメラ越しでインタビューが行われた。

エージェント・マオ: こんにちは、SCP-990-JP。

SCP-990-JP: 俺はそんな名前じゃない。特装救命士トリアージ・レッドだ!

エージェント・マオ: 失礼しました。あなたの本名を教えてくれませんか。

SCP-990-JP: 俺の名はトリアージ・レッド! 俺のスーツを修理して、ここから今すぐ解放しろ!

エージェント・マオ: 質問を変えます。あなたの所属組織について、もう一度詳しく教えて下さい。

SCP-990-JP: 我々は"Hyper Electric Rescue Organization"、略して"超電救助隊HERO"だ! 俺を監禁しても、すぐに仲間が救助に来るぞ!

エージェント・マオが「あなたはあのときの『何か』の際、超電救助隊HEROとしての任務であの場にいたのか」と質問。

SCP-990-JP: そうだ! 我々は人命を救助し、人々を守る! お前たちとは違う!

エージェント・マオ: 人命を守ると言いますが、あなたの使用した二酸化炭素散布器……

SCP-990-JP: "フレイムキャンセラー"だ! CO2チャージャーを返せ!

エージェント・マオ: あれは救助の手段としては不適切ではありませんか? 現場にいた消防士に任せた方が良かったのでは?

SCP-990-JP: フレイムキャンセラーは彼らの放水消火とは異なり、一瞬で炎を消す! 間に合わない正義など正義ではない! だから早く直せ!

間に合わない正義は正義ではない、彼の言い分ももちろん理解できる。
いや、消防、警察、救急と言った、一般の治安・防災組織もそれは全く同じなのだ。
万が一あってはならない「もしものこと」が起こったなら、現場にいち早く駆けつけ、早期に事件を解決することを是としている、それが何よりの証だろう。
決してトリアージ・レッドこと、SCP-990-JPだけの信念ではないのだ。

それに、消防とて正義と使命を間に合わせることに対し、手をこまねいているわけではない。
圧縮空気と共に少量の水を爆発的な勢いで放出し、フレイムキャンセラーのように一瞬で火を消す高圧放水銃が現実でも既に実用化されており、その機能を再現したガジェットの作り方を紹介している書籍も存在する。
誰もが正義を確実に間に合わせ、人命を救うために、日夜訓練を積み新技術の開発に明け暮れているのだ。

エージェント・マオ: しかし二酸化炭素の濃度が高くなると、消えるのは火だけではありません。人体にも有害です。

二酸化炭素は人間を含めた動物の呼気にも含まれる、或いは保冷のためにドライアイスとして提供されたり食品のパッケージに「不活性ガス」として保存のために注入されることすらある、非常に身近な物質の一つ。
このため実感は薄い人も多いかもしれないが、実際のところは高濃度(30%以上)では致死性を発揮する、れっきとした「有毒物質」の一種なのだ。
実際、過去に八甲田山で訓練を行っていた自衛隊員が、火山性ガスとして発生した高濃度の二酸化炭素の溜まった窪みに転落し、「中毒死」したという事件も発生している。

もちろん、二酸化炭素は不燃性・不活性ガスであるため、24系客車の電源車の非常消火設備など、消火用に使われることも実際にある。
ただ、消火として使う場合は、(二酸化炭素を含めた気体による消火ではよくあることだが)屋内や車内などの密閉された空間において、内部の人員を退避させた上で二酸化炭素などを充満させる、という使い方が基本である。
消火用ガスの中でも明確な毒性を持つ二酸化炭素を開放された屋外で消火に用いる、
それも(後述の内容の通り)一瞬で炎を消し止める程の量を散布すれば…

周囲は文字通りの地獄絵図となるのは明白だろう。

SCP-990-JP: そんな心配は無用だ! お前たちも聞いただろう、助かった人たちの感謝の声を!

エージェント・マオ: 確かに[編集済]の負傷者の大半は、あなたによって救助されました。そのことについては感謝しています。

SCP-990-JP: ようやくわかったか! 俺たちは正義のヒーローだ! いずれ仲間が俺を必ず救助に来る! きっとだ!

エージェント・マオ: では、こちらの画像を見て下さい。

(モニタに[編集済]が表示される)

SCP-990-JP: まさかお前たち、この子を人質に取ったのか!? 卑劣な!

エージェント・マオ: それは不可能です。この子は既に死亡していますので。

SCP-990-JP: なんだと?

エージェント・マオ: 二酸化炭素は空気より重いので、低い場所に溜まります。背の高い大人は平気でも……。

SCP-990-JP: 黙れ!

エージェント・マオ: 救助のためにあなたは人命を奪いました。救命士としても、ヒーローとしても失格だとは思いませんか?

SCP-990-JP: 違う! より多くの人を救うためには、他に方法がなかったからだ! それは正義だ!

……あのトマトですらツッコむ気が失せそうである。
華々しく輝かしく活躍しているヒーローとはある意味対照的な、『人類を守る』ためであればどこまでも黒く、或いは返り血塗れになり、冷酷で冷徹になる財団すら、
「誰かを、あるいは人類そのものを守るために多数を犠牲にする」という選択は、人類や文明そのものが消え去るかどうかの瀬戸際において、
他に選択肢が無いときの最後の苦渋の決断なのだ。
それを一般の人々から尊敬を集めるであろうヒーロー、そして救命士を自称する存在が、躊躇なく取っていいのだろうか?

普通の救助隊や救命士であれば、「死者ゼロ、全員生還」こそが究極の目標であり最大の名誉のはずだ。
救える者や周囲の者を犠牲にすることを「仕方ない」と言い切るなど、よほどの極限状態でなければ出てこない発想だろう。

エージェント・マオ: この子とその遺族が、それで納得してくれると思いますか?

SCP-990-JP: 卑劣だぞ! 俺の正義を試そうというのか!

エージェント・マオ: 私はあなたの答えを聞きたいだけです。

SCP-990-JP: お前たちに正義を問う資格はない! ここから出せ!

エージェント・マオ: 私の質問に答えて下さい。

SCP-990-JP: 俺はヒーローだ!

エージェント・マオ: インタビューを終了します。

…この後、SCP-990-JPは一切の会話に応じなくなった。

補遺

2015年7月8日現在、SCP-990-JPは、
「俺はヒーローだ。」
という発言を不定期に繰り返している。


同じく超電救助隊HEROのメンバーであるSCP-387-JPの場合は、考えようによっては「財団が関与したことそのものが双方にとっての不幸だった」とも解釈できるかもしれない。
本人の正義感や使命感、ただそれだけで無条件で心停止から数多くの人々を救っていただけ、重大な副作用や代償も(財団の感知している限りでは)存在しなかった彼を、
「確保・収容・保護」の理念に冷徹に従い、SCPオブジェクトとして収容した結果、
行き場を失い暴走した『誰かを救うための力』に飲み込まれ、『命を脅かす存在』に成り果ててしまった。そのような点で。
財団の理念と個人の正義のすれ違いにより、起こるべくして起こった結末とも言える。

一方、SCP-990-JPの場合は、使用により明らかに甚大な被害が生じることが予想される装備を用い、
それに巻き込まれた人々は「正義のためだ」の一言で切り捨てている。
一見すれば、己の正義のみを押し通し周囲を省みない、ヒーローという名のモンスターだ。

…だが、少し考え直してほしい。
本当に彼は己の正義が暴走している、或いはウルトラスーパーデラックスなアイツよろしく「俺が正義になるため」に暴れていた、"ヒーローという名の魔物"であったのか?

そもそも補遺にある発言は、「俺はヒーローだ」を繰り返しているだけであり、「俺はヒーローだから正しい」等の自己正当化を言っていないようにも受け取れなくはない。
また、上記のインタビュー内容も、彼が完全に「正義を暴走させた結果である」、或いは「装備品の危険性を熟知した上で敢えて使っていた」と断言することはできない。
上記の通り、二酸化炭素という物質の危険性は案外知られていない面もある。
彼もひょっとしたら、二酸化炭素の毒性、とりわけ火を消す程の超高濃度でのものについては(そのシチュエーションも一般的にはまず起こらないのもあって)知らなかったのかもしれない。
そもそも「自身の装備品により"犠牲者"が出た」という事実そのものにも、今まで気づいてなかったのかもしれない。

もしかすると、彼は正義を標榜する悪魔ではなく、リバーサル・ゴールドことSCP-387-JPと同じく、ただ単純に、純粋に、正義感や使命感に突き動かされていただけの、まっすぐ過ぎた個人だったのかもしれない。
財団に対する敵対的な態度も、純粋に、誰かを救うことを許さない(と映っているであろう)財団の仕打ちに憤った結果に過ぎないとも受け取れる。
もし彼に、火災を消し止められるほどの――つまり人間にとっては致死量の――二酸化炭素を放出して火災を断つ装備、その「闇の部分」をハッキリと説明せずに渡したかもしれない存在がいたとすれば。
それこそが責められるべきものであり、トリアージ・レッド自身は純粋に自身の使命を遂行しようとしていただけと見ることもできる。

だが、仮に「知らなかった」とはいえ、自身の"救助活動"で決して少なくない数の犠牲者を出したことは、許されるべきことでないのも事実だ。
それを使えば何が起こるかを把握しなかった彼自身にも、決して非がないわけではない。

ヒーロー、いや、正義を標榜する者には、もしかしたら正義感に加えて「己を見つめ直す勇気」、そして「立ち止まる勇気」も必要なのかもしれない。
個人の正義というものは、嫌な言い方をすれば「自分の主義を正当性があるように言い換えているだけ」とも言えるのだから。


あなたの正義、本当に「許される行い」になりますか?
或いはなってますか?
}

余談

作者曰く、元ネタはメタルヒーローシリーズの「特捜エクシードラフト」だそうである。

周囲に被害を出さないようにしながら火災を瞬時に消し止めて、追記修正をお願いします。


CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-990-JP - 特装救命士トリアージ・レッド
by shinjimao
http://ja.scp-wiki.net/scp-990-jp

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