SCP-777-JP

登録日:2020/07/03 Fri 16:05:50
更新日:2024/04/09 Tue 17:35:12
所要時間:約 11 分で読めます




SCP-777-JPとは怪奇創作サイトSCP Foundation日本支部のオブジェクトである。
項目名は『鶴の翁』。
スリーセブンで縁起のいい番号だが、オブジェクトクラスは取り扱いに失敗すれば人類存亡の危険性すらあるKeter

オブジェクトの概要

さて、Keterクラスオブジェクトではあるが、実は意外なことにオブジェクト本体に危険性はほぼない上に収容にも協力的。
まずはこのオブジェクトがなんぞや、というところから説明する。

簡単に言えば、 鶴人間 である。

皮膚は鱗状に変質し、体毛は羽毛になっているし、口は嘴になっているし、手は翼(ただし飛行能力はない)である。
全体的に「鶴と人間の混血児」というよりは、「人間に無理やり後天的な鶴の特徴を備えた」といった外見。
その身体的特徴から、発話や複雑な道具類の使用は極めて困難。

どう見ても生物的に明らかにおかしくアンバランスなこの御仁だが、見た目に反して極めて優れた身体能力と野山に関する深い知識を有してい




……そう、過去形である。

現在の彼は 加齢によりかつての面影がないほど老い衰えており、さらに慢性的な心不全まで患っている状態 なのだ。
ぶっちゃけ、いつ死んでもおかしくないのだが、財団は総力を挙げて彼の延命に努めており、なんと「最優先事項」とまで断言している。

財団がここまで言い切るのはもちろん人道的な理由からではない。
正直、この鶴爺さん自体はどうでもいいのだが、付随する部分にとてつもなく厄介な事象がまとわりついているのだ。

事象777-JP

SCP-777-JP本体は「単に鶴の特徴を持った老人」以上でも以下でもないのだが、実はこの爺さんの心臓には謎の翡翠が埋め込まれている。
爺さんが生きている限り、この翡翠は特に何も起こさない。
しかし彼の心臓の拍動が弱まったり乱れたりすると、それに呼応して「事象777-JP」と称される怪奇現象が海域777と呼ばれる地域に発生する。

その事象777-JPのタイムラインが以下である。

事象777-JP開始からの経過時間 結果
約5分 海域777内の海底に物質化した霊素によって作られた鳥居が出現する。
約15分 鳥居の向こうから大量のSCP-777-JP-A-1が出現する。
約2時間40分 海域777内の海底にSCP-777-JP-A-1で出来た"道"が作られる。
約3時間 鳥居の向こうからSCP-777-JP-A-2が行列を作り出現する。SCP-777-JP-A-2群はSCP-777-JP-A-1によって作られた"道"の上を歩行して移動する。
約16時間後 SCP-777-JP-A-1群による"道"が上陸する。
約26時間後 SCP-777-JP-A-2群が上陸する。
約45時間後 鳥居型の物質化霊素から、複数体のSCP-777-JP-A-2群によって運ばれ護衛される、物質化霊素によって作られた駕籠が出現する。
約104時間後 SCP-777-JP-A-1群による"道"がSCP-777-JPの元に到達する。

なお、SCP-777-JP-Aとは、「エリファスモデル型霊素生命体」……まぁ詳しい説明がないのでよくわからないが、たぶん妖怪みたいなものである。
普通の海洋生物みたいな-1と、婚礼の儀式の付き人の衣装を着た海洋生物の-2が存在する。
一応攻撃して排除することは可能みたいだが、即座に増援が補給されるため無意味である上、彼らを過剰に刺激して余計事態を悪化させる可能性が指摘されているので攻撃は禁止されている。

財団はこの「駕籠」がSCP-777-JPのもとにたどり着く……つまり事象777-JPが完遂すると非常にマズいことになると予測している。
マズいといっても色々なレベルがあるが、この場合発生する結果は極めて単純。



世界の破滅である。




  • 約7時間の間、制御不能な神格が完全顕現し活動を行う。対象神格を信奉しない存在のうち、特に対象神格に対しての涜神行為とみなされる行動を行ったものは、その血縁者を含め全員が神格による攻撃的改変の対象となる。
  • 海域を中心とした約250km内の陸地は全て沈下し、海底となる。
  • 全人類は神格の姿を知覚したことにより致命的な精神的・ミーム的影響を被る。
  • 残存した全人類のうちおよそ16%はミーム汚染され、出現した神格の信奉者となり、既存の超常組織に対して積極的抵抗を試み始める。


というような極めて壊滅的な影響が全世界にまき散らされ、人類は終焉する……少なくとも現在の社会体制を維持することは不可能になる、と予測されている。
XK、世界終焉のKクラスシナリオである。

一応、あくまでシミュレーションなので実際にこのようなことが起こるとは限らないが、実験することは不可能なので財団は「鶴老人が死んだら世界が滅びる」前提で行動している。

なお、一応事象777-JPが発生しても、儀式手順777(道反)を行えば抑制することが可能。


ただ、儀式手順777が有効なのはあくまで鶴老人が生存している限りであり、万が一SCP-777-JPが死亡、もしくは事象777-JPが完遂した場合、 即座に老人の死体を日本海に遺棄、半径250キロ圏内の全ての財団施設は閉鎖 され、手順777(水面の月は真の月なり)が実行される。

何が起きているの?

事象777-JPが示しているものは明らかに鶴老人と海から来た「ナニカ」の婚礼の儀式である。
なんでこんな世界終焉をもたらす危険極まりない存在に彼は執着されているのか?
そのヒントとなるインタビュー(SCP-777-JPは発声ができないので筆談だが)がある。


古語の上平仮名なのでわかりにくいが、要約するとこういうことである。

海の底にある「常世」で暮らす姫と契りを結び、永遠の命を得た上に姫の力を借りて兄に勝って王になったが、姫の正体は「やひろのわに」だった。
そのことに驚き、地上に逃げ帰ったが、姫は「どこに逃げようとお前は常世の住人だ。お前が死ぬ時私は目覚めて、私の手下が迎えに行くだろう」と呪いをかけた。
不死の力が失われたので、死から逃れるために千年生きるという鶴の姿になったが、万年生きるという亀には敵わない。ましてや姫は「やひろのわに」なのだから。

要するに、人類の運命はこの鶴老人に執着しているヤンデレ女に託されているわけである。 なんというはた迷惑な
老人が延命のために収用に協力的なのが数少ない救いだが、それでも財団に根本的な解決策が存在しない以上、将来的なK-クラスシナリオは不可避である。


余談

このオブジェクトはかつて蒐集院の管理下にあった。その蒐集院による収用当時の彼の持ち物が以下。

長弓。樫、膠、鹿の腱が具材。くちばしを用いて射ることが可能なり。
鹿革の箙。矢は6本。矢の先には骨の鏃が付けらるる。
鉈。翼に合わせ、握りに工夫あり。
渋染の頭巾。
鹿皮の着物、腰巻。
干した猪と鹿の肉わずか。
干し魚2匹。
塩。
鉄の鍋。いずこよりか盗み出せるものやも。
火口。
いずこかの土地の風土記か、あるいは古事記のうつしか。古い紙に筆で「海幸と山幸」の一部分があり。

特に注目すべきは最後。これと前述のインタビュー記録を合わせると、この老人の正体がわかる。

ズバリ、このオブジェクトのモデルとなっているのは、日本書紀の「海幸山幸」である。
ご存じの方も多いだろうが、この話は「兄の海幸彦の釣り針をなくしてしまった山幸彦が海の底に向かい幸運を得る」という浦島太郎伝説のモデルともなったお話である。古事記にもそう書かれている。
というより、前述のインタビュー記録がほぼ山幸彦の伝説そのままなのでピンと来た人もいるだろう。
つまり、この老人の正体は山幸彦、姫の正体は豊玉姫であると考えられる。
なお、日本書紀の記述に従えば、豊玉姫の真の姿は「やひろのおおわに」……つまり、 体長15メートルぐらいある巨大なサメ であったらしい。そりゃ逃げるわ*1

なお、彼が本物の山幸彦だとすると、ぶっちゃけ弓矢の方も非常にヤバイ……というか、下手したら三種の神器に並ぶかもしれないほどの国宝級の代物なのだが、「くちばしで引ける」という説明からするとこれは彼が鶴になった後に作られたものっぽいのでそんなに価値はなさそうである。
ついでに日本神話によるとこのお二方、神武天皇の父方の祖父母かつ母方の伯母にあたる。財団世界の日本自体も割とヤバイことになってしまうような気も……

また、第二次世界大戦中に米軍の爆撃によりSCP-777-JPが大怪我を負ったことがあり、その際にも事象777-JPが発生したらしい。


これも昔の文章なので読みにくいが、「柱応ヘテ曰ク」より後の部分が貴重な「姫」からの証言記録になっている。


本オブジェクトが直接絡むと思しきオブジェクトが一つだけ存在する。
SCP-1500-JP、「和魂祭」である。
この祭りの主神である桜主こそが山幸彦の母親その人だろう……と推測されているのだ。
このオブジェクト内では、豊玉姫が「玄武」になぞらえられている。

ちなみに初稿時点ではこのオブジェクトには世界オカルト連合がかかわっていた。 被害者としてだが
ただ、「いくらなんでもかませ犬臭すぎる」と指摘され、現在はこの部分は削除されている。


追記・修正は嫁がサメでも逃げ出さない人にお願いします。


CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-777-JP - 鶴の翁
by tokage-otoko
http://scp-jp.wikidot.com/scp-777-jp

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最終更新:2024年04月09日 17:35

*1 ただし、執筆者はディスカッションで「駕籠の中に乗っている豊玉姫を直視したら発狂するよ」という趣旨の発言をしているので、神としての姿はまた別のおぞましいものである可能性もある。