ハスター

登録日:2021/04/16 Fri 11:55:20
更新日:2025/03/23 Sun 20:07:03
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ハスター(Hustur)、或いはハストゥル、ハストゥールとは、クトゥルフ神話体系及び、それと関連する(させられた)書籍等にて言及される神に類せる何か。
現在では、オーガスト・ダーレスにより体系化された神々の系譜と四大に当て嵌めた分類により、旧支配者の一柱にして、“風”に属する神性達の首魁となる神格……とする設定が定着しており、現在、ハスターという語が用いられる場合には“クトゥルフ神話の神”とされることが殆どである。

日本で紹介される場合には、主に名状しがたき者(The Unspeakable One)の添え名(通称)と合わせられている場合が多いが、他に知られた添え名として名づけられざし者(Him Who is not to be Named)や、邪悪の皇子(The Prince of Evil)等があるとされる。

所謂(・・)クトゥルフ神話に含められる作品集にて初めて名前が登場するのはロバート・ウィリアム・チェンバースが1895年に発表した短編集にして、同作中に登場する架空の戯曲にて言及される超自然的存在の名でもある『黄衣の王』であるが、神話体系にて初めてハスターの存在が言及された……として扱われるのは、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトが1930年に発表した短編『闇に囁くもの』である。

これは、ラヴクラフトが『黄衣の王』を読んで、自身の著作に活かした……というだけの話だったのだが、後にクトゥルフ神話体系が広がる中で、遡って『黄衣の王』もまた、クトゥルフ神話体系の中に取り込まれたという事情があるためである。
因みに、チェンバース自身もまた“ハスター”という語を、先輩作家のアンブローズ・ビアスが1891年に発表した『羊飼いのハイータ』から引用しており、その事実を知るラヴクラフトもまた『闇に囁くもの』に於いて、チェンバースのみならずビアスの著作から様々な架空の語句を引用していたようで、ハスターもまた、その一つに過ぎなかった。

因みに、ラヴクラフト自身はハスターが何を指した語なのか?ということを暈して描いているのだが、これは、ビアスの著作では“羊飼いに信仰された恵み深い神の名”として用いられていたハスターを、
チェンバースはアルデバラン、ヒアデスと並ぶ(星、または都市と解釈される)語句、或いは人間の鷹匠の名前として用いており敢えて意味を変えている……ということに倣ったのかもしれない。
更に、チェンバースはカルコサ、ハリといった語句もまたビアスの著作から引用しているのだが、更に後にダーレスもまた、これらの語句、及びそこから想起されたイマジネーションを膨らませて“名状しがたき者”と呼ばれる“ハスター”という神の名と設定を生み出したのだと言うことが解るのである。


【姿】

“名状しがたき者”という通称からか、比較的にイメージを固めやすい描写がされているクトゥルフ等とは違い、よく形の解らない、または“形が存在しない”とされている神性である。

目に見える形で描写された例としては“全長200フィート(約61m)にも及ぶ無数の触手を備えた直立した大トカゲ”とか“棲処である「黒きハリ湖」に棲息する大ダコに似た何か(に関係がある)”……等とされ、日本でも“よく解んないけど触手を備えた何か”として描かれることが多かった。

ハスターの化身とされるのが、前述のチェンバースの著作にて言及されている黄衣の王(The King of Yellow)であり、クトゥルー神話体系に取り込まれると共に、その設定が定着していった。
“黄衣の王”は、その名の様に襤褸にも見える不思議な色彩の黄色い衣を纏った怪人物とされ、常人の倍もの背丈があり、その素顔は蒼白の仮面で隠されていてうかがい知れない。
目撃された時によっては翼を備えていたり、後光が指して見えることもあるという。
黄色い衣は布ではなく、何かの皮膚であるともされる。
戯曲『黄衣の王』は二幕構成となっており、一幕目までは無害だが、童子の口上から始まる二幕目は惨憺と評しても生易しい狂気に彩られており、内容を知っただけでも読んだ者を破滅に導くという。
実際、チェンバースによる『黄衣の王』では、クトゥルー神話体系で語られる魔術書さながらに『黄衣の王』の戯曲が登場し、登場しているのはあくまでも本(・・・・・・)であるにもかかわらず、戯曲の内容を知った者達の運命が悉くに絡め取られて破綻したり、ねじ曲げられる姿が描かれるという、確かにラブクラフトの神話体系の始祖となった著作に影響を与えたと確信出来る程の内容となっている。

チェンバースの著作、及び神話体系に組み込まれることで更に設定が補完された“黄衣の王”は帝王達の仕える王と呼ばれ、聖書を引用した冒涜的な言葉で語りかけるともされる。
尚、王の中の王、皇帝の中の皇帝とも呼ばれてはいるが“黄衣の王”自身はハスターの玉座に座っている訳ではなく、その権利を支配を引き継いだ“息子”に与える存在、若しくは一種の破滅をもたらす預言者めいた存在として描かれる場合もある。
また、古風な金の象眼細工で“黄衣の王”を示すとされる紋様が施された黒い縞瑪瑙の留め金“黄の印(The Yellow Sign)”を持つ者の下に現れて魂を食らうとされ、この“黄の印”は持ってしまったが最後、所有者の意思だけで手放すことが出来ないという。
……以上のような性質から、クトゥルー神話体系が固まってからは“ハスターの化身”というよりは“ニャルラトホテプの化身”とする意見も出されている。

そんな訳で近年では、上記の触手状の(若しくはそうした要素を備えた)手足を持つ直立した怪物に黄色い衣を纏わせる……という折衷案あたりが主流となっている模様。
原典だと襤褸とされる黄色い衣もロングフードコートみたいな感じにされることも多く、絵師によっては一歩間違えるとオシャレなイカデビルに見えかねないデザインも。
この折衷案だと比較的に人間に近いフォルムで描ける為か、人間に近い姿でのアレンジ(とか女体化)でも、参考にされることの多いパターンである。


【棲処】

上記の様に“風(大気)”を司る神性である訳だが、コズミックホラーであるクトゥルー神話だけに、ハスター自身が根城としているのは暗黒の星間宇宙であり、牡牛座を構成する橙色巨星アルデバラン近くのヒアデス星団に潜む暗黒星にある古代都市カルコサ近くの「黒きハリ湖」に潜むという。クトゥルー神話では生まれた時代が時代だからか宇宙にはエーテルでも満ちていたのか星間宇宙にも風が吹いていて、ハスターはそれを支配しているのだ。

ダーレスが示したように、これはクトゥルフ等と共々に旧神に挑んだが破れた旧支配者達が各々に吹き飛ばされた後にハスターが行き着いた幽閉の地であるとも、単に元よりハスターの領地なのだ……ともされている。
クトゥルフ等と同じく星辰が動いた時に復活すると予言されている。
同じく地球では牡牛座を構成して見えるプレアデス星団のセラエノにも支配が及んでいた、とする説もある。

ハスターを首魁とする“風”の精に属する神々としては、カナダのマニトバ州の先住民族に“ウェンデイゴ”と呼ばれ恐れられていたイタクァや、ロイガーとツァールの双子神が挙げられている。
この辺の設定はぶっちゃけると後になってから纏められてきた部分もあるので矛盾してたり曖昧な時もあるのは気にしない。

また、ハスターには有名な奉仕種族であるバイアクヘーと呼ばれる、星間宇宙を飛行することの出来る巨大な虫の様な姿の怪物が居る。
ダーレスが『永劫の探求』シリーズで手順さえ踏めば人間にも使役されるとして描いたことで人気の高いキャラクターとなっている。
呼び出す際に必要な黄金の蜂蜜酒“いあ! いあ! はすたあ! はすたあ くふあやく ぶるぐとむ ぶぐとらぐるん ぶるぐとむ あい! あい! はすたあ!”…の呪文で有名で、序でに主の名声も高めている忠義者である。

また、ミ=ゴと呼ばれることもある“ユゴス星(冥王星)よりのもの”と呼ばれる、同じく星間宇宙を渡る力を持つ菌類生物もハスターを信仰、或いは仕えているとも言われる。


【血縁?】

そんな訳で、元々のラヴクラフトが遺していたアザトースから始まる系譜には名前が無かった訳だが、クトゥルー神話に“神の一柱”として加えられたことで、ヨグ=ソトースの子とされるようになった。

ヨグ=ソトースの子ということから、シュブ=ニグラスの生んだ子……とされることもあるが、そっちの方は明確に定めきれていないようで、それ処かシュブ=ニグラスに“名づけられざる者の妻”という添え名が『墳丘の怪』内で付けられた……という理由だけで、ハスターの母ではなく妻とされることもある。
黒山羊さんのビッチ属性への風評を強めただけの言いがかりに近いのだが、何となく広く定着すると共にキチンと記述されることが多い設定である。

そもそも、昔は一纏めで“旧支配者”だったのが、分類し難い、或いは偉いっぽいのが四大を越えた第五元として別格扱いされると共に出来た“外なる神”の方にシュブ=ニグラスもヨグ=ソトースも移ったので、定位置を得ていた方の筈のハスターが割を食ったようにも見えかねないのがアレだが。
シュブ=ニグラスは上記に挙げたミ=ゴが祭壇を作り信仰していることでも知られている。

因みに、ラヴクラフトの遺した系譜ではヨグ=ソトースとシュブ=ニグラスよりナグとイェブという、恐らくは双子とも解釈される神性が生まれており、ナグよりクトゥルフが、イェブよりツァトゥグァが生まれたとされ、後付けとなるがハスターは正式(という言い方が正しいか解らないが)な子ならば、クトゥルフ達の叔父となる筈だが、上記の様に父親は確定だが母親は不明ということで、クトゥルフ達とは半兄弟である……とされている。
なお、クラーク・アシュトン・スミスの執筆したSF小説『ヴルトゥーム』に登場する、花の様な姿をした神に類する怪物ヴルトゥームは、神話体系に組み込まれた場合(・・・・・・・・)にはハスターの兄弟であるという。


【敵対・同盟関係】

以上のように、実質的にハスターを神話体系に組み込んだのはダーレスだった訳だが、根本となる設定に四大を取り入れたダーレスにより“水”を司るクトゥルフとその眷属と敵対しているという設定が付けられて定着している。

人類から見ればハスターもまたクトゥルフと同じく危険で邪悪な存在であることには変わらないのだが、如何せん地球を根城としてしまった“水”の眷属に対して、ハスター率いる“風”の眷属は確かに地球上にも信仰の痕跡が残っていたり、イタクァの様に恐れられている存在こそ居るものの、(主が地球上に居ないこともあってか)まだ積極的に悪さをするような勢力ではなく、その為に毒には毒を的な感覚で、対“水”の勢力用の抵抗手段として力を借りるという展開が描かれている。

また、ハスターは四大の“火”を司る惑星フォーマルハウト、或いは恒星コルヴァスを根城とするクトゥグアとは同盟を結んでいるともされる。
クトゥグアは、クトゥルフとその眷属と同じく、地球では迷惑かけるタイプのニャルラトホテプと敵対し、その対抗手段として呼ばれたこともある等、ハスターと似たような使い方をされた経験もある者という共通点がある。ワンパターンなだけ?言うな。呪うぞコノヤロー。



追記・修正はいあいあしてから黄金の蜂蜜酒飲んで魂だけの星間飛行を楽しみながらお願い致します。

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