あかね噺

登録日:2022/06/12 Sun 18:49:00
更新日:2025/04/14 Mon 01:37:26
所要時間:約 8 分で読めます




あの日 落語家阿良川志ん太は死んだ



でも 終わりじゃない

むしろ あの日から始まったんだ

朱音(あたし)(ものがたり)



『あかね(ばなし)とは、週刊少年ジャンプで2022年11号から連載されている漫画作品である。
原作は末永裕樹、作画馬上鷹将。


●目次

【概要】

週刊少年ジャンプの歴史上、連載漫画では史上初となる落語を題材にした作品。
原作の末永と作画の馬上は漫才漫画『タタラシドー』の読み切りを経てからこの作品を連載させた。
ちなみに末永は初連載となるが、馬上にとってはサッカー漫画『オレゴラッソ』(2016年52号- 2017年13号)以来の2度目の連載となる。

落語部分の監修は林家けい木。その縁で彼のSNSでは時折本作の宣伝がされている。

【評価】

連載開始から話を重ねるにつれ、笑福亭鉄瓶、三遊亭王楽、ウマおじさん月亭八光等様々な落語家達が反応しており、それぞれYouTubeチャンネルやSNSで感想を語り合うなど落語界隈でも好意的に触れており、本業の落語家が本作の魅力を語るというイベントまで開催されるほど。
なお、落語好きとしても知られている尾田栄一郎からも単行本1巻の帯にて「ハイ好き!」とコメントを寄せている。

1巻の発売に合わせ、ジャンプYouTubeチャンネルにて1話のボイスコミックが公開されたが、主人公親子を担当したのが山口勝平&山口茜というリアル親子で、主人公の朱音役を茜が演じるということが話題を呼んだ。
ちなみに2人とも落語を嗜んでおり、特にボイスコミック内では山口勝平の演じる『芝浜』を聴くことができる。
なお、アフタートークによれば尾田栄一郎が山口親子にあかね噺を読むよう薦めたそうである。


【あらすじ】

主人公、桜咲朱音は二ツ目の落語家である父・徹の影響で幼い頃から落語に親しんできた。
徹はなかなか芽が出ない今の状況から脱却しようと真打の昇進試験を受けるが、審査委員長・阿良川一生から他の参加者もろとも破門を宣告され、落語家の道を閉ざされてしまう。

しかし朱音は父を破門させた一生や、周囲を見返すために落語家となり阿良川一門の真打を目指すのであった。


【登場人物】

桜咲家

  • 阿良川あかね/桜咲朱音
CV:山口茜
階級:見習い→前座
17歳の現役女子高生。父親の影響で落語に親しんできたと同時に巧みな話術を身につける。自身にクレームをつけてきたモンスターペアレントを言い負かしたことも。
落語家としての父親が好きだったが、破門後に営業マンに転職した際、周囲の人から「よかったね」と褒められたことを屈辱的に感じ、父親の無念を晴らし一生や周囲を見返す為、落語家を目指すようになった。
志ぐまの下で6年もの間密かに稽古を付けてもらっており、落語の技量を高めていった。
強い信念を持っており、担任の教師から大学進学を勧められても高校卒業後に進学せず弟子入りすると貫き通した。
一生に恨みを抱いており、可楽杯の審査委員長が一生だと知った瞬間、破門させた理由を突き止めるために可楽杯参加し、見事優勝する。
その後見習い期間を経て8か月後に高座名「阿良川あかね」として弥栄亭にて前座デビューを果たし、様々な逆境や試練を乗り越えて噺家として、人間として少しずつ成長していく。

  • 阿良川志ん太/桜咲徹
CV:山口勝平
階級:二ツ目→破門(1話)
朱音の父親。阿良川志ぐまの一番弟子として13年もの間活動し続けてきたが、パッとせず家計面ではむしろ真幸に助けて貰っているなどいつもギリギリの生活を続けてきた。
一家の暮らしを安定させるため、妻や「父親がヒモ」だとクラスメイトに馬鹿にされた朱音にこれ以上迷惑を掛けたくないために一念発起し真打昇進試験に参加。「芝浜」を披露するが、最後の講評で一生に破門を通告されたことにより阿良川一門より破門されてしまう。
実力が低いわけではないので他の一門の師匠から多くの声がかかったが*1、敬愛するしぐま以外に師事することを良しとせず廃業の道を選んだ。
その後コンクリートを売る会社の営業マンに転職し、皮肉にも落語家時代よりも安定した生活を送るようになってしまった。
2話以降、長らく回想シーンにしか登場していなかった。「失意の末に亡くなった」と勘違いされかねない演出であったため、作中でも読者間でも故人・幽霊扱いされるネタが定着してしまっている。

  • 桜咲真幸
朱音の母親で美容師。
全く芽が出ず不安定な生活をしている夫に対しては一切辞めさせようとはせず、むしろ密かに応援していた。
朱音が落語家になると言い出した時は、先述の破門が頭に過り反対しようと考えかけていたが、例え何度反対しようとも決して落語家になることを諦めないだろうと朱音の芯の強さを認めた為、彼女の入門を認める。


阿良川一門

  • 阿良川一生
CV:玉井勇輝
階級:真打(大看板)
阿良川一門のトップで当代一の呼び声高い落語家。
徹を含む真打昇進試験に参加した5名の落語家を破門させた全ての元凶。
当然のことながら世間から批判が飛び交ったものの、彼の落語の動画を見たその批判者の多くが掌を返して彼を支持することになった事で、皮肉にも一門の勢力を拡大させることとなっていった。
しかしながら朱音、こぐまなどから破門騒動の件で恨みを持たれている。
冷徹な一面ばかりが目立つが、様々な娯楽が溢れかえる世の中で落語が衰退していくということに危機感を持っており、その火を絶やさないためにも若い世代への落語の訴求に特に力を入れており、そのために可楽杯の参加枠を拡げるなど改革を行う柔軟性も持ち合わせている。
志ん太の破門についても「高座で客に弱さを気取られ応援されるような者は真打足りえない」「大衆を振り向かせる強靭な芸こそ阿良川の真打に求められるもの」として前述の実力主義を徹底した結果であり、志ぐまからは「頑固で我儘、自分勝手だが落語にだけは正直な男」と評されている。
周囲によると、現在は外を相手に取り繕えるようになったらしいが、自身の苛烈な振る舞いや独自の昇進規定により他の一門からは一生を異端視する声も多く、志ぐまが重病で倒れた際には(一門の幹部会で決定したとはいえ)ほぼ独断で志ぐま一門を解散させ、まいけるを除く二ツ目の弟子達を後見人預かりにすると決定したことで、読者からもその強引さを突っ込まれるようになる
そのキャラクターから立川談志がモデルとされている。

阿良川四天王

  • 『泣きの志ぐま』阿良川志ぐま
CV:斉藤拓哉
階級:真打(大看板)
阿良川一門のナンバー2で一生の弟弟子。志ん太、あかねらの師匠。志ぐまとしては六代目で、本名は「白波洋輔」。
柏家生禄(後の五代目志ぐま)の弟子。"泣きの志ぐま"と呼ばれる人情噺の名手。二ツ名は天神町で、町内の宇坂天満宮では一門とコラボした志喜彩祭が行われる。
一生のした事とはいえ破門騒動後、徹を守れなかったことを深く後悔しており、弟子を取る資格はないと考えたためそれ以降弟子を取らなかったが、朱音の直談判により彼女の想いを知り密かに稽古を6年も付け、その後入門を認める。
あかねの二ツ目昇進決定後に行われた恒例の独演会では、開口一番にあかねを起用した上で自身も十八番の一つに当たる『死神』を演じ、「引き算の美学」を念頭に置いた熟練した技芸を披露した。
その後あかねに先代から受け継いできた未完の演目「志ぐまの芸」を伝授するも、初回の稽古直後に心筋梗塞で昏倒、一命は取り留めるも、検査の結果ステージ2の喉頭がんである事も判明し、落語家としての今後の活動が危ぶまれている。
多趣味なようで、落語界の仕組みを説明する際に漫画家やプロ野球の世界で例えるなどした。
作者の末永によるとモデルは五代目三遊亭圓楽と立川志の輔。

  • 『享楽』阿良川一剣
階級:真打(大看板)
一生の弟子である阿良川四天王の一人で、名実共に阿良川志ぐまと同等の力を持っていると評される。ドラマや映画に出演する等、俳優としても活躍している。
常に笑顔を絶やさず飄々と振舞う一方で、阿良川一門の大看板の中ではしがらみや私怨にとらわれることなく中立的な立場を取り続けている*2

  • 『喜劇王』阿良川全生
階級:真打(大看板)
阿良川四天王の一人で一生及び志ぐまの弟弟子にあたる落語家。アフロヘアーに色付きのメガネ若しくはサングラスをしている。
人間性に問題があり、弟子への愚痴や嫌味は当たり前。
嫌っている人物への嫌悪も隠さず、特に志ぐまとは犬猿の仲とされ、その弟子達に対しても様々な手段で妨害工作を行うため、作中の登場人物や読者から「クソアフロ」と呼ばれている。
しかし狡猾ではあるが媚び諂うこともせず嫌われることすら厭わない。どこまでも“我が儘”故に嘘がない性格でもあり、まいけるの真打昇進試験では開始前こそ煽りまくって会場の空気を下げていたが、最終的には悪態をつきつつも大粒の涙を流し、絞り出すようにまいけるの昇段を認めた。その描写は読者から某料理漫画の料理評論家を引き合いに出された。

  • 『怒髪天』阿良川泰全
階級:真打(大看板)
全生の弟子で阿良川四天王の一人である真打。オールバックで険しい顔つきをしており寡黙な性格だが、酔うと饒舌になる。
志ん太や今昔亭ちょう朝とは同期で前座仲間で、志ん太が受験した真打昇進試験の前年に阿良川一門でただ一人真打に昇進していたがちょう朝のように売れなかったことで、志ん太の破門を招いたことに罪悪感を抱いている。若手時代より寡黙であったが、自身を責め続けた結果自他共に厳しい「怒髪天」と異名を持つまでになった。
全生からの圧力であかねに二ツ目昇進の推薦を出さないつもりでいたが、徹の説得やあかねの高座を目の当たりにしたことで推薦を出す。

志ぐま一門

  • 阿良川ぐりこ
階級:二ツ目
朱音が入門を認められるまでは志ぐまの最後の弟子であった。
志ぐまが若い女の子と付きっきりになっているという噂を突き止めるために探った結果、朱音の存在を初めて知る。
兄弟子のまいけるからは「ぐりりん」、落語喫茶の女主人からは「ぐりちゃん」と呼ばれている。
二ツ目としてはまだ駆け出しで朱音の兄弟子に当たるはずなのだが、何故か対等な関係になってしまっており、前座選考会におけるあかねの高座を見て、二ツ目であるにもかかわらず、自分の芸は前座のあかねよりも下であると確信し、志喜彩祭後にその心情を兄弟子のまいけるに吐露。以降はまいけるの紹介で上方落語界の喜福亭鶴花に師事し武者修行をしている。

  • 阿良川享二
階級:二ツ目
坊主頭が特徴。
生真面目で礼儀作法や基本を重んじる堅物な性格。
落語に熱中するあまり学業を疎かにしている朱音を叱りつけ、故にぐりこからは「志ぐま一門のお奉行様」と呼ばれており、志ぐまの弟子の中ではまとめ役のような存在である。
師匠の助言から真面目さを貫くスタイルを持っており、その真面目さが結果的に観客達を笑わせることとなっている。
朱音に居酒屋の短期アルバイトを命じ、彼女に気配りを身につけさせた。
柏家三禄からは享一と呼ばれており、柏家一門に在籍していたことが示唆されている。

  • 阿良川こぐま
階級:二ツ目
メガネをかけており、大人しい性格の青年。普段は気弱で対人恐怖症気味。
しかし落語をする時はメガネを外し、髪型も整え、普段のスタイルとは大きなギャップを見せる。
亨二の兄弟子で、年齢も芸歴も上だが、普段の見た目と性格のせいで全く見えないと朱音に驚かれた。
なんと元東大生であり、偏差値70超の明晰な頭脳の持ち主。
様々な噺に対し時代背景、風俗、舞台になった場所など関連する文献を事細かく研究していき、それを落語に活かして説得力を持たせる理論派であり、故にぐりこからは「志ぐま一門の寺子屋」と呼ばれている。
これからプロに弟子入りが決まっている身でありながら、アマチュア落語の大会である可楽杯に出ようとする朱音に対し辛辣な言葉を浴びせたが審査委員長が一生だと知ると、彼もまた徹(慕っていた兄弟子)を破門にさせられた恨みからか朱音に協力するようになり、彼女に知識を身につけさせた。
その後一剣企画の次世代の阿良川一門を担う二ツ目四人会に出演をし、自身で掘り起こした噺である『擬宝珠』を披露して学問を驚かせた。

  • 阿良川まいける
階級:二ツ目
ロン毛が特徴的で、当初はまだ17歳の朱音の面倒を見ると自分に惚れてしまうから条例違反という理由で面倒を見るのを断ったり、朱音の担任の先生を口説いたりなどとにかくチャラい性格をしている。
しかしこう見えて徹が去った後の「志ぐま一門の長兄」であり、江戸落語界においては柏家禄郎と肩を並べる二ツ目の筆頭格で、18歳になった朱音の面倒をみたり、ぐりこの悩みを聞いたりと長兄らしいことをしている。
志ん太のことはアニキと呼び、「人間にしてもらった」と並々ならぬ恩を感じており、真幸が勤務する美容室の常連で、彼女のことはアネゴと呼んでいる。
傘回し、三味線、長唄もこなすなどかなり多芸で、本来は天才的な技巧派であったが志ん太の破門騒動以後は8年半もの間、明るく陽気な芸風で活動していた。自分が見せたい芸よりも客が見たい芸を選ぶことを信条としている。
真打昇進試験で『たちきり』を演じ一生以外の審査員から票を集め、真打昇進を内定させた。

その他の門弟

  • 阿良川魁生
階級:二ツ目
一生の弟子の中では、先述の真打昇進試験以降一生が二ツ目に上げた唯一の人物で、入門から2年で二ツ目に昇進した超実力派。
顔の整った美男子といったビジュアルで、色気を持ち味としており、三枚目の役であろうと女形であろうと見事に演じ切ってみせる。
交通渋滞に巻き込まれた経緯により、自分の代役として「まんじゅうこわい」を披露した朱音の落語を偶然見て興味を抱き、一生の弟子にならないかと提案したが、拒否された。
その後可楽杯の審査員を務めることになる。
幼少期は困窮した母子家庭で育ち、母親が倒れた際に一生に金銭面で助けられたことから一生一門に弟子入りした過去がある。そのため表には見せずとも一生の弟子として、また落語家として高いプライドと野心を持つ。

  • 阿良川ひかる/高良木ひかる
階級:前座
可楽杯に出場した役者・声優達の中でも際立った人気と実力を持つ女性声優。
演者として実力を積み上げるために可楽杯に出場し、声優としての研鑽を活かした高い演技力を観客達に見せつけた。
大人しそうな印象とは裏腹に非常に負けん気の強い性格でで、家族と話す時や気が昂った時には訛りが強くなる。
可楽杯後、一剣からスカウトを受け声優業と兼業する形で「阿良川ひかる」として活動している。
可楽杯であかねに大きな実力差を見せ付けられたことで彼女へさらなる対抗心を燃やしている。

  • 阿良川嘉一
階級:前座
一生の弟子で魁生の弟弟子。第56席時点で入門からわずか2ヶ月目の前座。30代で妻子持ち。
元営業マンで営業成績社内トップを獲った実績もあるが、会社の利益のために自分の気持ちに嘘をついて評価を得たことで自身の仕事に迷いが生じ、たまたま一生の高座を見る機会があり、「人生を懸けるに足る“商材”に出会ってしまった」として結果落語家に転身した。
元営業職だけあり自身の利益よりも客を笑顔にさせることを何より幸福とするサービス精神旺盛な性格で、前座選考会ではネタのアレンジに否定的な審査員がいることを承知の上で自身のスタイルを貫き通し、その奉仕の精神を買われ高得点を出すなど浅い芸歴ながらも確かな実力を持つ。
高座名の由来は「"めでたき"こと事を第"一"とす」で、一生からはこの名に反した振る舞いをすれば破門と言い渡されている。

  • 阿良川ぜんまい
階級:前座
全生の弟子。
インパクトがないからという理由で、全生に前髪の一部分を三つ編みにさせられている。
前座選考会を経て二ツ目昇進が決まった。

  • 阿良川遊全
階級:二ツ目
全生の弟子。ドレッドヘアーのような髪型をしている。
ギャグを畳みかけて笑いを取るスタイルを得意とし、くすぐりやボケの多彩さが持ち味。

  • 阿良川泰そん
階級:前座
泰全の弟子。あかねがフランス修行中に入門した新弟子。
ダウナーな雰囲気の今時の青年で、無愛想かつ協調性もあまりないため、他の前座達からはあまり快く思われていない。
初対面時のあかねが飛行機酔いでダウンしていたために事前にぐりこから聞いていた話と違っていたことから、「姉弟子らしいところを見せてほしい」と不満を零していたが、彼女の高座を聞いてからは姉弟子として認めるようになる(ただし「姉さん」という柄ではないとの理由から「アネキ」呼び)。

落語連盟

大看板

  • 柏家三禄
階級:真打(大看板)
落語連盟会長で現落語界で唯一の人間国宝。
落語連盟のトップでありながら、阿良川と溝を深めている現在の落語界に対しては思うところがあり、志ぐまに自身の本心を吐露している。
あかねの高座を初めて見た際、彼女に先代志ぐまの面影を感じている。
人間国宝で会長という設定から五代目柳家小さんがモデルとされる。

  • 『地獄太夫』蘭彩歌うらら
階級:真打(大看板)
落語連盟の一員。妖艶な雰囲気を持つ年齢不詳の女性落語家で、一生、志ぐま、三禄とは1960年代からの付き合い。
元ホステスで、昭和の名人と呼ばれた蘭彩歌しゃ楽に才能を見出され落語家へ転身し、まだ男尊女卑が根強かった当時の落語界において現在の地位まで上り詰めた。
その妖艶さと話術はその場の客を男女問わず虜にしてしまう程でしばしば麻薬に例えられ、聞き入る客を廓の世界にさらに没入させる。
りゑんとの騒動で孤立していたあかねに興味を持ち、値踏みとして『お茶汲み』を敢て教え、自身の出演する禄鳴会の開口一番に起用する。女性落語家初の名跡に成り、女に落語は出来ないと蔑んだ者を見返すことを目指している。

  • 『天遊博徒』今昔亭ちょう朝
階級:真打(大看板)
落語連盟の一員。その中で21人もの先達を抜き去って真打に昇進し、最年少で大看板にまで上り詰めた。
毎回変わった楽屋入りをしており、他の落語家からは苦笑されているが、自然と周りが笑顔になるような雰囲気を作り出している。
高座の前にサイコロを振り出た目で演目を決めるなど大の博打好きで、客席の空気を捉える読みの能力と、それを掌握する腕を持つ。
八正曰く破門以前の志ん太と仲が良く、前座時代は泰全と3人で「三馬鹿前座」と呼ばれていた。
自身と似た気質のあかねを気に入り、高座の出来次第で二ツ目昇進の推薦を出せないかと泰全に口利きをしている。

  • 『破邪顕正』六代目三明亭円相
階級:真打(大看板)
落語連盟の一員。
43名もの直弟子を持ち、三明亭の大名跡”止め名”の継承者。
落語の型を重視し、弟子は前座のうちは個性を出させず、徹底的に自身のの演じ方をたたき込む方針を取っている。
四角形の頭から、からしからは煙突ジジイと言われており、自身はからしのことを蟻ん子と呼んでいる。

  • 『理路刻々』椿家正明
階級:真打(大看板)
落語連盟副会長。眼鏡をかけた気難しそうな男性で代々世襲で守られてきた名跡の当代ということもあってか、『“落語の一族”の末裔』とも呼ばれ、一生の「落語会を背負っている」という強い自負や阿良川流の独自路線にかなり反感を持っている。
「高座前は3分間の精神統一」など独自の決め事を持ち、漢方薬も多数常備しているが、その決め事は高座にも表れており、演目の台詞を一言一句完璧に語ることで、全てを自身の決め事通りに進めるスタイルを取っている。
更に寄席の熱に浮かされず静心でいることで、常に寸分違わぬ作品を綴ることから『椿家の最高傑作』と称されている。
また柏家生禄の葬儀に学生服姿で参列している様子が描かれたことから、早い時期から連盟の大看板達と交流があったことが仄めかされている。

  • 暄風亭流雲
階級:真打(大看板)
落語連盟の一員。イケオジ風の優男。
阿良川流のやり方をよく思っていない様子。

連盟所属の落語家

  • 三明亭からし
階級:前座
可楽杯2連覇の実績を持つ学生落語の天才。
賢く見えるという動機で大学の落語研究会に入会し「練磨家からし」の名で活動している。周囲からは簡単に何でもできてしまうと思われることもあるが、台本などにはびっしりと書き込みがされているなど、影での努力家な一面もある。
落語は伝統芸能である前に大衆演芸だという信条を掲げ、登場人物や用語を現代風に改変する改作落語を得意とする。
その現代人にも分かりやすくなった演目によって観客からは大喝采を浴びたものの、『伝統』を重んじる一生からは酷評された。
可楽杯であかねに敗れた後、正統派の古典落語で有名な円相一門に弟子入りする。

  • 今昔亭朝がお
階級:前座→二ツ目
ちょう朝の弟子。
ポンパドール風の髪型が特徴で、あかねが前座修行を始めた際に立前座を務めていた。
落語家としてはぐりこと同期だが、ちょう朝を侮辱されたという理由でりゑんを殴ったことで前座見習いから修行をやり直していた。
その後二ツ目昇進が決まり、二ツ目披露興行までの半年間で勉強会を開くよう朝ちょうに言われた際には前座仲間であったあかねとからしを誘う。

  • 『麒麟児』柏家禄郎
階級:二ツ目
三禄の弟子である落語家。
現在最も勢いのある二ツ目で、100人を越える弟子を持つ柏家一門で頭角を現したことから『麒麟児』と称されている。
普段は比較的物静かだがあかねに突っかかるりゑんを諫めたり孤立しかかっていたあかねを気に掛けるなど良識人な一方で誰が主催の落語会でもその日一番のウケを狙う武闘派としての一面も持つ。
落語では「音」を重視しており、語り口や登場人物の演じ分けにおいて噺を音として客に聴かせ、緩急を織り交ぜた表現で客を沸かせる。

  • 蘭彩歌まゆら
階級:二ツ目
うららの弟子の女性落語家。落語家と同時に日本舞踊藤花流師範でもある。
うららに陶酔しており、また門下に前座がいないためか彼女が使用するティーセットや私服及び着物の替えなどを常に用意して共に楽屋入りしている。

  • 暄風亭雲うん
階級:前座
流雲の弟子。
ふくよかな容貌に素直な性格の青年で、あかねやからしとは同じ前座仲間。

  • 椿家八正
階級:真打
穏やかな物腰をした老齢の落語家で、高座でも会場を包み込むような柔らかい語り口が特徴。
りゑんとの騒動で仕返しに落語を利用したことであかねに噺を教えるのを拒否する厳格な一面もあるが、その後、禄鳴会でのあかねの活躍を認め『平林』を教える。

  • 今昔庵りゑん
階級:二ツ目
自身の立場を利用して目をつけた前座に様々な言いがかりをつけ小言を言う陰湿な性格をしており、「新人潰し」と呼ばれている。
弥栄亭であかねに難癖をつけ、立前座である朝がお共々陰湿な嫌味を言うが、それに反発したあかねに寄席の開口一番においてネタに絡めた仕返しをされ、自身の高座を潰されてしまった。
あかねのフランス修行後に登場した際には前座達とも打ち解けている姿を見せていたが、実際は自分の信用回復のために前座達に優しくしているに過ぎず、基本的な性格は全く変わっていない。

上方の落語家

  • 榊龍若
可楽杯の審査員常連の上方落語家。
阿良川一門前座錬成会四人会の審査員も務めた。
好物はラーメン。

  • 喜福亭鶴花
阿良川まいけるの紹介で阿良川ぐりこの修行を引き受けた女性落語家。

過去の落語家

  • 『天朱廓』蘭彩歌しゃ楽
昭和を代表する名人として名を残す廓噺の名手。一方で「師資不承のしゃ楽」とも呼ばれ、一切弟子を取らず芸を他人に教えなかったとされる。
男尊女卑が根強かった当時の落語界で女性落語家に否定的だった人物の一人だが、うららと出会ったことで彼女に廓噺の才能を見出し、唯一の弟子とした。

  • 柏家生禄→五代目阿良川志ぐま
一生と志ぐまの師匠にあたる落語家で阿良川一門の創設者。
「らっはっは」という笑い方と左眉の上に傷跡が残っているのが特徴。
太平洋戦争時は南方のラバウルで一部隊の隊長を務めており、一生と志ぐまが戦後の新宿を取り仕切る極道の組長(実はラバウルでの生禄の部下)に袋叩きにされていた際には「自身の顔を立ててほしい」とその場を収めて2人を弥栄亭寄席に誘い、その時に披露した「時そば」でただの蕎麦屋の店員に過ぎなかった志ぐまと一生が彼に弟子入りして落語家になる切っ掛けを作った。
現代以上に伝統と古典を重んじる風潮が強かった当時の落語界において、様々な高座を自由に紡ぎ語ることで客から高い人気を得ており、その型破りな技量は他の落語家達からも「彼が柏家三禄を継げば落語界は変わるかもしれない」と評価する声が出る程で、師匠にあたる四代目三禄からも「三禄」襲名を認められるほどに評価されていた。
しかし四代目三禄からは「柏家三禄」襲名の条件として一生と志ぐまの破門を提示されるもこれを固辞して一生を初高座に上げたことで3人とも柏家を破門された。
その後後継者が途絶えていた「五代目阿良川志ぐま」を襲名して新たに阿良川一門を創設し、未完の演目である『志ぐまの芸』を現在の志ぐまに託している。

  • 四代目柏家三禄
柏家生禄と当代柏家三禄の師匠で柏家の大名跡”止め名”「三禄」の継承者。
1960年代の落語界において絶対的な影響力を持っており、伝統と格式を何よりも重視していた。
入門前に極道と揉めた一生と志ぐまに対して柏家の名前で高座に上がることを禁じ、三禄の名前を託そうと考えていた生禄に対しても「三禄」襲名の条件として二人の破門を突きつけた。

  • 先代椿家正明
現在の椿家正明の実父。志ぐまから語られるのみで本人は未登場。
かつて志ぐまに「死神」を教えたことがある。

その他の人物

  • 吉乃紗季
落語喫茶の女主人。
かつて志ん太に期待を寄せており、魁生の会で代演をしたあかねに志ん太の姿を重ねた。

  • 樫尾公久
月刊落語記者。


【用語】

階級

本項では実際の状況についても適宜解説する。
江戸落語における階級制度は全部で3種類あり、前座→二ツ目→真打の順で位が高くなっていく。
芸歴や技能に応じて昇進していくシステムとなっている。
なお作中では志ぐまが
  • 真打:ヒット作家
  • 二ツ目:連載作家
  • 前座:新人作家
  • 見習い:デビュー前

と、落語の階級を漫画家に例えるとどうなるか分かりやすく解説している。
第1話の描写を見た限りでは、真打にならないと落語だけで生活していくのは相当厳しいようだ。
ちなみに朱音の見習いというのは、まだ入門していないため便宜上そう設定されている。

以下各階級の詳細
  • 前座
落語家になるための修行期間として、日々雑務や稽古に追われながらも落語家としての基礎を作る。

  • 二ツ目
基本的に入門3年~5年目で師匠などの判断から昇進することができる。
落語家として認められた者が自身の芸を鍛える期間で、羽織や袴の着用を許され、自分で仕事を取ってきてよいのもここからで、人によってはここからテレビ出演などメディアで顔を売る人も現れる。

  • 真打
落語界の最高位であり、多くの落語家がそこを目指している。
基本的に入門10年ほどで師匠などの判断から昇進することができる。敬称として"師匠"と呼ばれることが許され、また全ての階級の中で唯一弟子を取ることが出来る。
真打の中でもより高い技量を持つ者は「大看板」と呼ばれる。
現実の落語家における真打制度は大きく2種類あり、年功序列で真打に昇格するタイプと、弟子を追い抜いて昇進する「抜擢真打」と呼ばれるタイプがある。
後者については春風亭小朝や柳家喬太郎など、業界内でトップを走り露出の多い人はだいたい抜擢真打と思ってもらっていいだろう。
ついでに言うと現在の笑点メンバーも、制度のない円楽一門・立川流所属者と山田くんを除いた全員が抜擢真打だったりする。

ちなみに現実の落語家には昇進して何年たっても売れっ子にならない真打というのもごまんといる厳しい世界。いわゆる寄席*3に呼ばれず、仕事は地方ホールの営業ばかり…という人も少なくない。

一門

作中では以下の一門が確認されているが、改革派の阿良川一門と伝統重視な保守派の落語連盟の間には確執がある。
また本来は一門を破門された落語家が他の一門へ移籍するのはタブーとされるが、1話の破門騒動後は落語連盟の特例対応という形で破門者の一部が別の一門へ移籍し、そこで真打となった者もいる。
破門騒動は1978年に実際に起きた「落語協会分裂騒動」がモチーフとなっており、本作の登場人物も騒動の渦中にいた落語家がモデルとなっていることがほとんどである。
この分裂騒ぎも関係者による書籍が多数発売され、なんなら予言映画*4まである程なので見比べるのも一興。

阿良川一門

独自の昇進規定を始め、伝統の革新を推し進める落語界の革新派。
真打の数は7名(108席時点)。

かつて名跡となる「阿良川志ぐま」が存在したが一度途絶えており、一生と志ぐまの師匠に当たる柏家生禄が1960年代後半に「阿良川志ぐま」を襲名して興した一門とされ、柏家とは宗家と分家の関係に当たる。
徹底した実力主義が敷かれており、通常なら3~5年かかる二ツ目への昇進も基準(落語50席、歌舞音曲、寄席の太鼓、講談)をクリアして自分の師匠を除く阿良川四天王の推薦を得れば芸歴に関係なく昇進が可能とされる*5

  • 前座錬成会
阿良川一門前座の技量を測る審査会。
審査員は阿良川四天王の持ち回り制(志ぐま→泰全→一剣→全生→志ぐま…の順)で行われる。
二ツ目昇進への足掛かりとされ、ここで結果を出すことで四天王からの推薦を得ることも可能。

  • 真打昇進試験
阿良川一門において真打に昇進するための試験。
観客の前で落語を披露し、阿良川四天王と観客の投票で合否を決める。
ただでさえ審査が厳しいことで知られていたが、1話の破門騒動以降更に厳しくなり、本編中でまいけるが挑むまで挑戦者が現れなかった。

この試験は落語協会を脱会して設立された落語立川流に実在する制度だが、家元である談志の没後昇進についてはそれぞれの師匠に任されているとされ、試験を行わない場合があるとか。
なお、同種の試験はかつて落語協会にも存在したが、運営が上手く行かず1987年に消滅した。

落語連盟

作中における江戸落語界所属の落語家のとりまとめ組織。
史実における落語協会がモデル。

  • 柏家
200年以上の歴史を持ち、東京の落語界の伝統と歴史を背負う江戸落語界最大の一門。阿良川一門の源流でもある。
真打は54名(108席時点)。

  • 三明亭
蘭彩歌と今昔亭の源流。真打は36名(108席時点)。
明治より柏家と並び、江戸落語界を牽引してきた一門。
「型」を重視し、門弟は前座のうちは円相の演じ方を徹底的に叩き込まれるという。

  • 椿家
真打は30名(108席時点)。
落語界で唯一世襲で名跡「椿家正明」を継承している。

  • 暄風亭
真打は21名(108席時点)。

  • 今昔亭
真打は18名(108席時点)。

  • 蘭彩歌
真打は1名(108席時点)。

可楽杯

20年もの歴史を持つ、アマチュア落語家達が競い合う大会。
元は18歳以上の大学短大専門学生限定だったが、一生が審査委員長を務めることになった20周年では彼の意向により高校生以上と枠が広がることになり、結果的に朱音も参加できるようになった。
なお落語を嗜む学生だけでなく、一生のお墨付きで参加することとなった役者・声優陣も少数ながら存在している。
あかねはすでにプロに入門した身であるため、このような大会に出ることは不義理とされる。
そのため、志ぐまからは「寿限無」のみで勝ち進むように条件を付けられている*6

名跡

その一門で優れた功績を残した落語家の名前。
名跡の中でも代々受け継がれていくものを「止め名」と呼ばれ、作中では「阿良川志ぐま」「三明亭円相」「柏家三禄」「暄風亭流雲」「椿家正明」が確認されている。







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最終更新:2025年04月14日 01:37

*1 実際、同様に破門宣告を受けた他の試験参加者たちは他の一門に移った。

*2 全生の性格や泰全があかね以前に二ツ目昇進の推薦を出していなかった点から、あかねを除く志ぐま一門の門弟達の二ツ目推薦を出したのは(消去法で)一剣ということになる。

*3 浅草演芸ホール・新宿末廣亭・池袋演芸場・鈴本演芸場を指す。

*4 1971年に公開されたドリフターズ主演『春だドリフだ全員集合!!』のこと。

*5 それ故理論上は3年以内の二ツ目昇進も可能だが、それでも魁生の入門から2年の昇進は異例とのこと。

*6 通常の寄席での演目であれば特に問題はないが、可楽杯は客が全て落語にある程度知識があるので寿限無は当然知っており、ウケを取ることが難しい。