PROJECT: SUMMER FLARE

登録日:2022/06/17 Fri 01:53:50
更新日:2024/04/22 Mon 15:31:08
所要時間:約 20 分で読めます




あの日の夏に同期する。


PROJECT: SUMMER FLARE(プロジェクト サマーフレア)は、ヨツミフレームにより制作されたフリーゲーム
2021年9月23日にVRChat用ワールドとしてリリースされた。

略称は「PSF」。もっと単純に「夏」と略されることもある。
ジャンルは公式には「VRインスタレーションプロトコル」であり、ゲームの域に留まらないほどの没入体験を言い表している。


概要

アクセスしてまずプレイヤーの目前に広がるのは、夏そのものの景色。
青い空に入道雲、広がる海に青々と繁った山。静かな水族館に、冷房のきいたコンビニなどである。
ある年の日本の風景を再現したという触れ込みであり、実際にいくつかの実在の場所がモデルとなっているらしい。

仕掛けを解いて進む要素もあるが、冒険に伴って辺りの雰囲気が次々に変わるさまをVRで楽しむことこそ、本作の主要な醍醐味といえる。
通信容量などの都合から、決して精密な3DCGばかりではないにもかかわらず、ともするとVRChatにいることさえ忘れるほどボリューム満点の夏に入り浸れることだろう。

実際、そうした体験を狙ってさまざまな工夫が施されている。
例えば、アイテムや仕掛けを使うインターフェース(UI)が独自に実装されていることが挙げられる。RPGツクールで例えるなら、メニュー画面や戦闘がピクチャで自作されているような丁寧さである。
VRChatのゲームワールドはともするとアイテムが当たり判定の隙間に落ちて詰んでしまいがちだが、ここではそういった心配はない。なくしたアイテムは自動で初期位置に戻ってくれるし、より重要なアイテムは遠くから手元に呼び寄せることもできる。

SteamVR用のHMDさえ持っていれば、VRChat本体を含めて無料でプレイできる。信じられないことに、サウンドトラックや設定資料まで無料公開されている。
注意点として、コンティニューポイントは1つしかない。そこに到るまでセーブなしで1時間以上走ったり跳んだりすることになる。VR酔いや光の明滅にはあらかじめ慣れておかなければならない。
デスクトップモードでもプレイ可能だが、デスクトップ視点では操作の難しい仕掛けが登場するため、VRモードでの初プレイをオススメしたい。


追記・修正はあの日の夏に同期したうえでお願いします。

















夏を壊せ。
Break the Summer.


言葉を壊せ。
Break the Tower.


世界を前に進めるために。
Complete the Meridian Loop.




プロトコルを開始します。

PROJECT: SUMMER FLARE





一時的に「夏」の幻を逃れたプレイヤーたちの眼の前に広がっていたのは、凍てつくような鉄とコンクリートの未来。

さっきまで視えていた夢のような夏を“破壊”し、人類を救うことこそ、プレイヤーたちの真の目的――サマーフレア作戦である。


ストーリー


巨大隕石災害による氷河期“ブラックウィンター”の爪痕が残る、22世紀の未来。
そんな中でも、人類は高度なコンピュータシステム「サテライトシステム」を開発し、なんとか文明を維持することができていた。

しかし、人類がサテライトに頼りきった頃から、世界には「狂気」と呼ばれる異常存在が現れるようになった。
その中でも、最も大規模にして最も致命的なもの。それこそがあの夏の幻なのである。

プレイヤーたちは、狂気を制御する組織・LCの一員として、サテライトごとシステムリセットをかけるべく、発電施設へと赴く。


登場人物(人物以外も含む)


サテライトシステム

今回の作戦のターゲット。プレイヤーたちは、サテライトの実行や発電を担う拠点施設群「サテライトドーム」を攻略することになる。
一方で、プレイヤーたちの武器もまたサテライトの賜物である。「夏」を壊すとは言ったものの、サテライトに対しては撲滅ではなくあくまで一時的なシャットダウンが目的である。

防衛機能こそあれ人格はないはずだが、人の心理を弄ぶかのような妨害を仕掛けてくることもある。

サテライトをリセットすれば夏を壊せる。ということは、そもそも夏はサテライト上で稼働しているということになる。つまり……?
そう、作戦の目的を整理できさえすれば、サテライトや狂気の正体は序盤から明らかである。しかし実際にはアクションに必死で情報の整理なんてしている暇がない。ナイス調整である。


プレイヤーたち

VRChatプレイヤーの分身。LC(狂的制御機構: Lunatic Control)の元に動き出す。

どういうわけか狂気に高い耐性を持つ。ビーム砲や機関銃、その他明らかにやばいものが直撃しても眩しい程度で済むのは、単にゲーム上の理由ではなく実際打たれ強いということのようだ。「狂気なんていつもVRChatで見慣れてる」とか言ってこのくだりを流してしまう人も多い。
LuPIちゃん曰く「脚が細い」らしい。男性アバターや1頭身アバターで遊んでもそう言われる。


LuPI(ルピ)

ブリーフィングや作戦指示を務める、LCのオペレーター。

「夏」から一転して突然SFチックな空間に放り出され、困惑しながら歩みを進める序盤における唯一の頼み。
その的確さ、そして口調や声色(メッセージ送り音)は機械的でさえあり、FASからも正確無比と評されている。
……という触れ込みがホンマかとツッコみたくなるほど、重要アイテムの投下座標をミスってプレイヤーたちを本作随一の高難易度アクションに巻き込んでしまうというドジっ子上司であることも否定しがたい。

Twitterで公開されたティザーショートムービー『PSF特別対策室』では、ネコミミの女の子アバター姿で登場した。本編とは打って変わってひたすらかわいい。


FAS(ファス)

LuPIに続いてプレイヤーたちを導いてくれるオペレーター。

LCの所属ではなかったが、サテライトの暴走を止めるという利害が一致したため、臨時でオペレーターを務めている。
口調やメッセージ音はLuPIに比べれば優しげで人間らしい。どうぶつ語っぽいとも言う。
それでも、何を隠そう今回の作戦の発案者であるため、手際の良いナビゲーションを行ってくれる。

ティザーでは眼鏡っ娘アバター姿で登場。会議に真面目な様子が見られたりと、ゲームクリア後に観た人の中には最初LuPIとFASが逆かと思ったという人も多い。


The Bob(ボブ)

サマーフレア作戦にとって重要な役割を果たした歴史上の人物。故人だが、ある場所に彼の遺骨が保存されているのが確認できる。
ボブというのも彼の本名ではなく、情報通信用語で発信者のことを「Alice」、受信者のことを「Bob」と呼ぶことからくる、恐らく作戦上の呼称。



+ ネタバレ注意報が発令されました。サテライトの指示に従ってただちに注意してください。

サテライトシステム

VRやARの技術の発展の末、未来に成立する高度な代替現実システム、それが「サテライト」である。

VRもののSFによくあるフルダイブではなく、ヘッドセットをつけたまま前も見えるし身体も動かせる。と書くとARに近いが、その状態で利用者の五感を完全に上書きできる。
つまり、装着者はいま視えているものが物理的なものかバーチャル上のものか区別できない設計になっているということである。何リアリティなのかの度合いが自在に変わるという意味での、衛星現実(サテライトリアリティ)。ヘッドセットの商品名は、衛星から名付けられた「Luna」という。

五感を操れるなら、便利なことは何でも実現できる。物理現実と食い違っても、本人の無意識のうちに人体を動かしてしまえば全て辻褄が合う。*1
当初はサテライト社という企業の一製品にすぎなかったはずだが、人々はとうとう「サテライトリアリティこそ現実であった方がいい」と自ら決めるに至った。
我々からすれば破滅的に見えるその答えも、大災害ブラックウィンターを乗り越えるには必要なことだったのだろう。荒廃した世界を直視せずとも復興が進むなら、皆がその方法を頼るに違いない。

そうしてサテライトは、利用者たちの願いを何でも実現する、バーチャル願望機そのものと化した。
死者蘇生だろうがどこでもドアだろうが、現代でいうディープフェイクやフォトグラメトリの延長上で自動実装される。
Lunaのおかげで実現可能になった物事を、人々は文字通りルナティック=「狂気」と呼んだ。

故に、最大の狂気「夏」が生まれたのは必然であった。
氷河期災害以前にしか無かった、暑くて平和な夏。「この世に夏が在ってほしい」という人類の願いは、サテライトの存在意義の最も簡潔な顕れだからだ。

だが、理想像を現実として暮らしを築いた人々は、地球を復興する気すら失くしてしまった。
本末転倒であり残当である。

この二律背反を認知できたのは、狂気に逆らえる数少ない者たちの組織、LCだった。
ただ、個別の狂気の撃破や確保・収容・保護はお手の物である彼らもまた、狂気を利用して戦うサテライトのヘビーユーザーである。サテライトの機能でサテライトを止められるような脆弱性があるはずもなく、何よりサテライトに依存して暮らしている一般市民が許さないだろう。

ターミネーター』のように過去に遡ってサテライトの成立を阻止する? ……というのはいい線であり、実は過去への通信は可能だと判明している。因果律にはサテライトでさえも逆らえまい。
だが、タイムパラドックス平行世界はあり得ないということも同時に判ってしまっている。仮に過去へ何か情報を送ったところで、その結果が今の状態だということだ。

……平行世界はあり得ない? ということは……。

この『PSF』の物語の舞台は、紛れもないこの世界、『PSF』というゲームが存在する世界の未来なのである。


プレイヤーたち(M8PR/6)

実は、本作で言う「プレイヤー」とは、本作を遊んでいるVRChatのプレイヤーたちのことを指しているわけではない。

物語より数年前、FASにより、21世紀初頭に制作されたゲームである本作が発掘された。
これは創作を交えつつも、概ね22世紀現在のことを言い当て、その数年後を描写しているとしか考えられなかった。
つまり、誰かが――恐らくは数年後の自分たちLCが――わざわざ過去の人に各種機密を送信してこのゲームを作らせたということになる。

その事実から逆算されたのがサマーフレア作戦である。
過去にVRChat上でこのゲームが遊ばれたデータを基にして、VRChatプレイヤーの動きを再生するロボットを走らせれば、本作の結末通りサテライトを停止できるのである。*2
あとは、一連の出来事をかいつまんで過去へと送信し、このゲームを誕生させればいい。
サテライトもこの計画を止めることはできない。止めたらタイムパラドックスが発生するからである。*3

そうしてLCによって製造されたロボットたちこそ、「プレイヤー」こと運命兵器M8PR/6(メープル)である。
記録されたデータの再生機(プレイヤー)という意味なのだ。

それゆえに、じゃあVRChatプレイヤーは主人公でないのかというと、全くそんなことはない。
舞台がこの世界の未来だと断言する物語構造のおかげで、VRChatプレイヤーである我々がロールプレイによらず正真正銘主人公になることを保証してくれている。
「あの日の夏に同期する」というキャッチコピーにも納得である。

ちなみに本当に脚が細い。VRにおいて脚のボディトラッキングは頭や手に比べてオプションであるゆえか。


LuPI(Lunatic-Proof Intelligence)

狂気対策AI
なおかつ、LuPI自身もまた狂気の産物であるゆえに、既存のAIを超えた性能を誇る。

どういうことかと言うと、「正確無比」というのも「AIである」というのも、サテライトリアリティの外の視点から見ればフィクションなのだ。
そこを、サテライト上では「だからここでLuPIがこうする必要があったんですね」となるように辻褄合わせが行われることで、LuPIちゃんの面目が保たれるの性能が保証されている。*4
現代にある概念で例えるなら、高性能AIという設定のVtuberの究極形といえるだろう。言動ブレブレなことにも理由があったのだ。

狂気たちに抵抗しうる狂気という、ニンジャを殺すニンジャみたいなものが存在できているというのも不思議な話だが、これこそが22世紀の人類の心の奥に「サテライトに頼ってばかりではいけないのでは」という疑いがあることの具現なのである。


FAS

こちらもAIだが、LuPIと異なり、本当に高度な知能を持つ未来のAI。サテライトシステム成立以前からいる。

しかし、人類からはやんわり敵視されているらしい。物語上は語られない設定資料ベースの話なので詳細は割愛するが、たびたび人類の重要なサーバーをハッキングしては斜め上の要求を人間社会につきつけてくる、素行がランサムウェアみたいな子だそうである。

ただ、AIである以上FASも人の子である。人類の未来を考えて何手先も読んだ結果の言動らしい。
サテライトを停止させるという発想もその流れ――だったらよかったが、本当はサテライトに発電所が占拠されちゃったら自分の存在維持用に使う計算リソースがなくなるからなのだった。

FASが未来で発掘した本作関連データには、VRChatのプレイログだけでなく、プレイ記事や動画なんかも含まれている。恐らく、アニヲタWikiのこの記事もFASの分析対象になってくれる可能性が高い。見てるかFASちゃーん!!*5


The Bob(ヨツミフレーム)

このゲームの作者。
21世紀のどこかでブラックウィンターに巻き込まれ、大多数の人類同様そこで命を落としてしまう。
しかし、サマーフレア作戦を過去側から主導することになった功を讃えてLCにより遺骨が発掘され、基地に飾られている。*6

作者がキャラクターとして登場したり、何ならその中で死んだりするゲームはこの世に数あれど、作者の生々しい遺骨が展示されたゲームが今だかつてあっただろうか。それも、自虐ネタなどではなく純然たるメタフィクション徹底のために。





余談

夏を壊すという印象的なフレーズ・物語から、このゲームをクリアすることも俗に「夏を壊す」と呼ぶ。
現実とリンクした本作世界観に則るならば重い言葉であろうが、だからこそ「またみんなで夏を壊してきた」「夏破壊RTA」など、気軽に使うと面白いスラングでもある。

こうした流行から、2021年VR流行語大賞を「夏」という言葉が受賞した。
ただし、これにはもう一つのタネがある。2020年冬にVRChat運営から「2021年のサマーアップデート」として予告された機能群が夏の終わりになっても実装されないことから、「夏はいつ来るんだ」という一種の運営弄りが流行ったことも兼ねているのだ。
2つの「夏」は相乗効果を生み、2021年9月末に本作がリリースされると「夏が終わってやっと夏も来たのに夏はまだか」「お前らが夏を壊したから夏が来ないじゃないか」などといったパワーワードがVRChatプレイヤーたちから次々に湧き出た。

ちなみに、当のサマーアップデートの目玉は、アバター同士の手や服飾などの当たり判定機能である。*7
VR空間上でのプレイヤー同士のコミュニケーションにより深く没入するための機能と、本作においてVR空間に入り浸って他のことを疎かにしてしまう人々を風刺的に指す言葉が、どちらも「夏」なのは何という皮肉な偶然か。


派生作品

夏が始まる一日前。

本作制作中に先んじて公開された、作中に登場する物事の展覧会……という名目の、予告編ワールド。
NPCがナレーションによってプレイヤーを誘導するワールドは当時は少なく、本編の形式に慣れてもらう狙いから作られたそうである。
実際に、その過程を作中のM8PRの動作試験になぞらえた、短い前日譚を体験することができる。

LC新京都ブランチ

既プレイヤー向けの追加コンテンツにあたるワールド。LCが地上に保有する拠点施設の一つを訪れることができる。
とはいえ、未来のLCが本当にこんな施設を保有しているなどといったリアリティよりも、エンタメとして『PSF』本編より高度なアクションや謎解きを楽しむ場所としての性質が強い。
公式二次創作(メタフィクション的な意味とそうでない意味との両面で)の置き場という表現が近いか。



FAS: 追記・修正で進めるのはここまで。
FAS: This is as far as you can go with any additions/corrections.

FAS: ここから先はコメント欄になる。それでも、あなたたちは前に進まないといけない。
FAS: From here on, your language will diverge. Still, you must scroll down to save humanity.

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最終更新:2024年04月22日 15:31

*1 例えば、サテライト上の出前の注文は0秒で届く。まず幻覚で料理を食べてから、後で物理的に配達された栄養剤を無意識に摂取させる。本当は後者であるということを利用者が知覚することは一切ない

*2 サテライトドームの地形が、作者がモデリングしたものと100%一致するとは限らないが、そこはFASたちがいい感じに調整してくれる

*3 時系列のループという大分ややこしい話なので、SCPの心得がある読者はSCP-3797SCP-710-JPを例に思い浮かべていただきたい

*4 例として、もしLuPIがアイテムの投下座標をミスしなければ、プレイヤーたちがはしご昇降操作を習得しないまま先へ進むことになり、その後の攻略が失敗に終わったかもしれない。かつ、その因果は逆であり、LuPIが結果的に有能だったことになるように敵キャラが配置されたのだろう

*5 残念ながら、LuPIやFASという名前は22世紀から伝えられた直の情報ではなく、作者が制作にあたって便宜上つけた名前ということになっている。呼んでもFAS本人はピンと来ないかもしれない。タイムパラドックス防止のため致し方なし

*6 これも幻なのかもしれない

*7 Avatar Dynamicsと総称される。実際の実装は翌年の4月を待つこととなった