コルドロン(ディズニー映画)

登録日:2023/02/07 Tue 20:53:10
更新日:2025/01/27 Mon 20:52:15
所要時間:約 10 分で読めます





『コルドロン(原題:The Black Cauldron)』は1985年に発表されたディズニー映画。



はい、そこ「そんな作品あったっけ?」って反応しない。
実際、ディズニーの長編アニメーション映画の中でも1、2を争うぐらいのドマイナー作品であり、『キングダムハーツ』などへの客演も皆無。
それどころかテレビ番組の「ディズニーマニア決定戦」のような企画ですらろくすっぽ取り上げられる機会がない、という代物なのである。
主人公のイラストだけ見てなんの作品か言い当てられたら、相当なディズニーオタクだろう。
原作はロイド・アリグザンダーという作家の「プリデイン物語」*1というファンタジー小説。

……別に封印作品というわけでもなく、現代でも「ディズニープラス」などに登録すれば普通に視聴可能な作品ではある。
が、ぶっちゃけクオリティにかなり重大な問題を抱えている作品であり、一部ファンからは「ディズニー最大の黒歴史」「失敗作」とみなされている曰く付きの代物だったりする。
当初の構想では「ディズニーの新時代を象徴する第二の『白雪姫』ポジションと言える革命的作品」になるはずだったのだが……。
いわゆるディズニー暗黒期の産物であり、ディズニーのお家騒動に絡んでかなり複雑な裏事情を抱えて世に出てしまったこともあり、興行収入も悲惨だったとかなんとか。
ディズニーの長編アニメーションで興行収入が予算を下回るレベルの赤字だったのは本作含めて4本しかない、ということからお察し下さい……*2
評価も映画レビューアプリ「Filmarks」では5点満点中2.9点という、劇場公開されたディズニー作品としては屈指の低さである。


内容としては、「平凡な少年が仲間たちの協力を得て勇者として魔王を倒す」という一周回って逆に斬新なぐらい平凡な超王道ファンタジー。
ディズニーでこのRPG風の題材は実は結構レアだったりするのだが、むしろこの盛り上がること間違い無しの王道なテーマなのに全然盛り上がらないシナリオが最大の問題である。
あと、世界観がかなりダーク寄りなのもディズニーとしては比較的珍しい特徴か。この辺のダークなデザインについては作画含めて本作で真っ当に評価されている数少ない部分である。
むしろ当初は「ダーク過ぎる」として何度もリテイクされた結果が現在のコレらしい。

なお、「cauldron」は「大釜」という意味の英単語。
本作がドマイナーなのはこの作品内容が全く伝わってこない邦題にも一因がある気がする。このタイトルから王道ファンタジーを想像できる日本人がいるとは思えない。


あらすじ

豚飼いの少年ターランは、ある日師匠のドルベンから予知能力を持つ豚、ヘン・ウェンを魔王ホーンド・キングから守るように伝えられる。
しかし、ヘン・ウェンはさらわれてしまった。
ヘン・ウェンの力で伝説の「ブラック・コルドロン」がホーンド・キングの手に渡ってしまえば、不死者の軍勢が地上を覆い尽くしてしまう。
果たしてターランはヘン・ウェンを救い出せるのか……。


登場人物


  • ターラン
CV:菊池英博
主人公。勇者に憧れる豚飼いの少年。
本作の批判の第一点は、彼が全然主人公らしくないことである。
まず、ヘン・ウェンを守れと言われた直後に100%完全な油断からヘン・ウェンをさらわれてしまうという責任感のなさ。
一応、ヘン・ウェンを救い出そうとホーンド・キングの城に忍び込むも、すぐに捕まってしまう。
城の地下で魔法の剣を手にして調子に乗る場面もあるが、あらくれを数人倒したぐらいですぐに魔女に渡してしまうため、イマイチ勇者らしくもない。
魔女に渡す際もいかにも名残惜しげだが、この時点では単なる「便利な剣」ぐらいしか視聴者には写っていないので共感し辛い。
そもそも、全ての流れがとにかく場当たり的で流されるばかりで、「自分の意志でどうにかしよう」という場面がことごとく皆無。
唯一の見せ場とも言える自己犠牲シーンすらガーギに取られる始末。

ただ、全体のシナリオを通して見ると、

  • 当初は勇者に憧れる平凡な少年だったのが、魔法の剣を手にして無双、しかし剣を手放すことになり友人を失う。最後には剣を取り戻す機会もあったが友人を選ぶ。
  • 魔法の剣で得た強さは本当の強さではない、友のため世界のために命も投げ出せる勇気こそが本当の強さなのだ。

……というメッセージはちゃんと隠れている。
そのため、ターランが全然活躍しないことも、一見成長しているように見えないことも、「内面の成長こそが本当の成長」ということを意識した意図的な演出なのだと思われる。
問題は、その辺りの内面描写が全然されないせいでイマイチそのメッセージが伝わらなくなってしまっていることだが。

  • ガーギ
CV:山崎唯
ターランが森で出会った毛むくじゃらの小さな森の住人。
嘘つきで臆病なため、ターランからは当初嫌われていたが、ターランを「友達」と呼んで一方的に懐く。
本作のマスコットのはずだが、やはり心中描写が不足しまくっている。
ホーンド・キングの城に向かおうとするターランを悲痛な面持ちで見つめる辺り、何かしら複雑な過去を抱えていそうな気配はあったが、その辺りの描写は皆無である。
最後はブラックコルドロンを止めるために身を投げ出すが、魔女たちに蘇生してもらえた。

  • エロウィー
CV:冨永みーな
一応ヒロイン……のはず。某国のお姫様らしい。しかしディズニープリンセスにはノーカウント。
魔法使いを名乗るが、使える魔法は光の玉を出すだけというロウソクかカンテラで十分じゃね?と言いたくなるようなしょぼいもののみ。しかも初登場時以外使っていない。
これで、王道ではあるが「光の魔法で目くらまし」のようなシーンがあれば、「一見役に立たない魔法も使い方次第」というような演出にもできたように思うが……。
ホーンド・キングはこの魔法でブラックコルドロンを探そうとして彼女をさらったらしいが、どう考えても人選ミスだろう
しかも自力で普通に脱獄している辺り、大した見張りもつけていなかったようであるし、重要視していたのかしていないのかハッキリしていない。
なぜか成り行きでターランの仲間に加わり、ろくに心中描写もないのにラブロマンスを繰り広げる。ぶっちゃけ最初にターランの脱獄を助けた以外に見せ場はない。

  • フルーダー
CV:はせさん治
ホーンド・キングの城に囚われていた吟遊詩人。嘘を言うと弦が切れる不思議なハープを持っているおじさん。
ターランに助け出されて、やはり成り行きで仲間に加わるが、正直エロウィー以上に何で仲間になっているのか不明な人である……。
別に吟遊詩人のスキルを活かした見せ場もないし、持っているハープもなんか役立ちそうなフラグ立てていたが、特に何もなかった。
ただ、ラストで魔女たちに交渉を持ちかけるところだけは年の功を見せつけているため、一応見せ場自体はある。

  • ホーンド・キング
CV:飯塚昭三
本作のヴィラン。具体的にどういうやつなのかやはり説明が皆無であり、「世界征服を企んでいる魔王」というテンプレ以上の情報がほとんどない
一応「数世紀に渡って計画を進めてきて、ブラックコルドロンで蘇らせるために戦士の死体を集めていた」というのが数少ない個人情報。
性格は横暴で残忍。その上すぐに怒ると、悪党としての威厳やカリスマにも欠ける。デザインだけはなかなかカッコいいのだが……。
遠くの相手の首を締めることができるなど、念動力を持っているはずだが、なぜかターランにはわざわざ素手で襲いかかり、その挙げ句蹴飛ばされて暴走するブラックコルドロンに飲み込まれて消滅するという魔王らしさに著しく欠ける情けないやられ方を晒す。本気を出して恐ろしいドラゴンになる...と言う展開もなかった。

なぜか主人公とヒロインを差し置いて「ツムツム」に参戦している。

  • クリーパー
CV:大塚周夫
ホーンド・キングの部下のゴブリン。一応、下っ端の山賊たちよりは上の立場らしいが山賊からは舐められまくっている。
ホーンド・キングには表向き従っているが、実際には内心不満を抱いている。
上述の首絞めを非常に嫌っており、絞められる位ならホーンド・キングが満足するまで自分で思い切り首を絞めあげるほど。
最後はブラックコルドロンに飲み込まれる主君を目の当たりにし、その魔力の恐ろしさと彼の最後に嘆く……
が、よくよく考えれば大嫌いな上司が目の前で無様にくたばっただけだという事に気付き、それまでのお返しだと言わんばかりに大喜びでしこたま煽り散らかしてどこかへ去っていった。

  • 山賊たち
ホーンド・キングが従える荒くれ達。
当初は、コイツらが生きたまま溶けてゾンビになるというディズニーらしからぬ超絶グロ展開があったが当然のようにカット。
……が、親子試写会でこのシーンが混入したバージョンが流れてしまい、号泣する子供と激怒する親が続出、本公開時の悪評に繋がった……という噂がある。

  • ドルベン
CV:熊倉一雄
ターランの師匠で、ヘン・ウェンの飼い主。具体的に何の師匠なのかの説明が作中では全く無いため、ぶっちゃけなんか意味深なことを言っているだけの老人にしか見えない。
冒頭とラストしか出番ないし。

  • ヘン・ウェン
予知能力を持った豚。その力に目をつけたホーンド・キングにさらわれるが、ターランの手で救い出されて妖精たちに匿われる。
ブラックコルドロンを見つけ出すためのキーキャラクターっぽかった癖に、ブラックコルドロン発見の役には全く立っていない
というか、前半はあれだけ重要キャラっぽく描写されていたのに後半は出番が0になる。

  • アイデルリグ
CV:永井一郎
泉の中にあった妖精の国の王様。お気楽で脳天気な性格。

  • ドーリ
CV:槐柳二
アイデルリグの部下の年老いた妖精。王様含めて呑気者ばかりの妖精の中にあって数少ないまっとうに仕事が出来る人だが、そのせいで色々任され過ぎて偏屈な性格になっている。
『白雪姫』の「おこりんぼ」みたいな性格であるが、あちらと違って「根は優しい」というようなフォローもあまりないままフェードアウトしてしまった。
ブラックコルドロンまでの道案内を任されることになる。

  • オルドゥー、オルエン、オルゴ
CV:牧野和子、太田淑子、瀬能礼子
ブラックコルドロンを守る沼地に住む魔女の集団。
ホーンド・キングとは無関係な存在だが、迷い込んだ人間をカエルにして食べてしまうというテンプレな魔女そのもの。
一応契約は誠実に守るなど、決して悪だけの存在というわけではないが、大事なことを黙ったまま契約する辺り善玉とはとても言えない。
ちなみにオルエンはフルーダーに惚れている。


本作の主な問題点


  • とにかく全体的にキャラクターの心理描写が足りていない
各登場人物の内面描写がほとんどないままに話が進むため、視聴者が共感し辛い。

  • キャラクターの造形が「とりあえず役割に合わせて振っただけ」感が強く、薄っぺらい
特にヴィランであるホーンド・キングが「魔王」以上でも以下でもない個性に欠ける存在になってしまっている。
それ以外の登場人物も、一見個性はあるが実感し辛いし話にもあまり活かされていない。

  • 話の展開が雑&早過ぎ
原作で小説2巻分あったストーリーをたった90分に押し込めたため、とにかく展開が早い。
目まぐるしく場面が切り替わるのは評価点と言えなくもないが、むしろ飲み込めないまま次々と話が進んでいく感が強い。
これもキャラクターの心理描写が不足する一因になってしまっている。
特に展開が雑なのは、中盤ホーンド・キングの城から抜け出したら、いきなり泉に飲み込まれて妖精の国にたどり着いてしまい、そうしたらそこの王様がヘン・ウェンを助けていてくれた上に、
ブラックコルドロンの在処まで教えてくれて親切に道案内までつけてくれるという話の流れは、あまりにもご都合主義が過ぎる感がある。

  • 音楽も微妙
ディズニーといえば印象的な音楽も多いが、本作のそれは全体的に単なる環境音である。別段使い方が変とか、耳に障るということはないのだが、逆に耳に残るシーンもあまりない。
せっかく吟遊詩人という格好のキャラクターがいるのに、ディズニーといえばおなじみのミュージカルシーンすらないのはかなり異色。
担当したのは『荒野の七人』や『大脱走』、『ゴーストバスターズ』などで知られる映画音楽の巨匠エルマー・バーンスタインなのだが……。

ただ、本作の評価についてはあくまでも「ディズニー基準で見ると不出来な点が目立つ」だけであり、
いわゆる「Z級映画」と言われるようなとんでもない駄作群と比べれば一定のクオリティは保っている。
作画に関しては流石ディズニーと言えるだけの品質は間違いなくあるし、全体通したシナリオが極端に破綻しているわけでもない、
一本の映画としてはちゃんと完成している作品である。
逆に極端なネタに出来るほどの酷さもないため、話題になり辛い側面もあるのだが……。


シンデレラ城ミステリーツアーについて


実は本作、かつて東京ディズニーランドにあったアトラクション「シンデレラ城ミステリーツアー」の元ネタの一つである。
……が、このアトラクションを体験した人なら必ずターランとホーンド・キングの顔を見ているはずなのに、本作の知名度は極端に低い
というか現在でもこのアトラクションの元ネタが『シンデレラ』だと思っている人も絶対に一定数いるはずである。


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最終更新:2025年01月27日 20:52

*1 全5巻が出版されており、当作品のベースになったのは第1巻と第2巻。

*2 本作以外でこのレベルの赤字を記録した映画は、『トレジャー・プラネット』、『ホーム・オン・ザ・レンジ にぎやか農場を救え!』、『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』が該当する。