大塚周夫

登録日:2012/05/01(火) 05:25:39
更新日:2024/03/12 Tue 23:37:25
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●概要

大塚(おおつか)周夫(ちかお)

1929年7月5日-2015年1月15日
青二プロダクション所属の俳優・ナレーター・声優。東京都出身。
以下、可読性を考慮して敬称略とする。

日本でアニメが製作・放送される以前から声の仕事に携わっている重鎮で、かつては厳しい環境下での苦労が続いていた。
なおこの頃は俳優としても活躍しており、当時所属していた劇団東芸の看板スターと言えば大塚周夫と言われていた。
この東芸時代に、後々『ゲゲゲの鬼太郎』で共演する田の中勇や野沢雅子などと同じ釜の飯を食う劇団仲間となった。

このため元々は役者であり、映画、時代劇、そして特撮とこの頃から作品を問わず出演していた。
特に丹波哲郎のやられ役として「丹波が強そうに見える」という理由で重宝されていたらしい。
なお俳優引退前にも大河ドラマへの出演経験も存在し、舞台にも積極的に参加していた。

声の世界に入るきっかけは、リチャード・ウィドマークの芝居を研究していたことが始まり。
そこでウィドマークの作品の吹き替えをやるとなった時、周夫は自ら出向いてこの役者はとことん研究したからやらせて欲しいと直訴。
これを聞いた外画部のスタッフが、自ら吹き替えをやりたいという周夫の言動に物珍しさと気概を感じた*1こともあり、その場で採用した。
以降、ウィドマークの吹き替えは周夫のライフワークの一つとなった。

……と、そんなこと言われても知らんという人も多いだろう。
アニゲーヲタ的にはスネーク役である大塚明夫の父といえばパッと思いつくだろうか。
演じた役で言えば『忍たま乱太郎』の山田先生、と言えば国民的キャラということもり馴染みがあるだろう。
洋画ファンには先のリチャード・ウィドマークに加えて、チャールズ・ブロンソンの吹き替えで有名。先の山田先生役も周夫の吹き替えのファンだった原作者の指名によるものである。
また総統閣下シリーズでも有名な『ヒトラー 最期の12日間』では、ブルーノ・ガンツが演じるアドルフ・ヒトラーの声を吹き替えている。
先の通り俳優としても活躍していたが、90年代後半に共演者(特に若手)の演技力低下や、マネージャーがギャラをガメていたことなどを受けて俳優業界に失望したのか、
踊る大捜査線』のSP版の出演をもって引退、声優事務所の大手である青二プロダクションに移籍して声専門の役者となる。

この人が声優業界でどれくらいすごい立ち位置の人かというと
  • 野沢雅子のことを公の場で「野沢くん」呼びができ、さらに現場等では「マコ」と呼び捨てに出来てしまう。後輩は愛称で呼ぶにしても「マコさん」である。
  • 小林清志が次元大介勇退の際、コメントで周夫のことに触れた際に「大塚周夫先輩」と先輩呼びする。
というくらい、経歴としては上の上の人物である。

芝居に関しては自分にも他人にも厳しいが、後輩に対しては優しく、どこか茶目っ気があり、場を和ませることも多々ある。
喋るのがとにかく好きなのかインタビューを多く残している。特に後輩らとの談話が好きだったようで、面白い話や興味深い話をたくさんしてくれたという。
一方で役に対する思い入れ……というより作り込みが激しいため、自分が担当していた役者の吹き替えを別人に担当させた際は制作会社に怒鳴り込んだこともあったという。

80歳を超えて現役で活動していたほど元気であり、青野武や納谷六朗などと並び重鎮にして近年の作品に理解を示していた数少ない人。
特に周夫は亡くなる前までほとんど声が衰えた様子がなく、これが80代の演技かというくらい凄まじい演技力で視聴者を魅了し続けた。
本人によると総入れ歯にしないといけなくなった際、声が変わらないよう前と同じ歯並びになるよう特注したり、
医者で首に注射を打ってもらうなどして喉の健康を維持していたらしい。そうでなくても足腰は晩年まで衰えた様子がなかったが。
おかげで荒野の七人の再録時、他の役者の声が少しくたびれたりしていく中、ただ一人ほとんど遜色ない吹き替えを行うというとんでもない芸当を見せた。
ちなみにその時はまだ70代だった。

息子の明夫がどっしりと構えているのに対し、比較的ネクタイを弄ったり体を揺らしたりと、よく動く。そしてよく笑う。
実家では猫を飼っており、専らの猫派。そのため息子の明夫も一応猫派。『墓場鬼太郎』の時は共演した中川翔子に猫の写真を見せていたとか。
どうでもいいが、芳忠の方の大塚も猫を飼っている(関係はない)。


◆役柄とのエピソード


自身が演じた中でもお気に入りのキャラクター。
息子の明夫も「あれほどに人物像を作り込んだキャラクターは滅多にない」と絶賛し尊敬、自身も『ONE PIECE』の黒ひげでそれを目指した芝居を目指しているという。
ねずみ男はオーディションで決まっており、『うしおととら』の原作者である藤田和日郎曰く
「ねずみ男のオーディションでは小林清志がいい声だった、しかし自分はあえておどけた調子で演じて役をもぎ取った」と語っていたとのこと。

当初は役作りで悩んでいたのだが、最終的には「半妖怪という立場故に居場所が出来ず、その結果平気で他人を裏切るようになった」という考えに行き着いてから自信を持てるようになったとのこと。
それ故に第3期でキャスト変更が行われた際には、野沢と会う度に愚痴るなど相当残念がったという。
数年経ってからのインタビューでも「この役できる人いないんじゃないかな」「少なくとも僕と同じねずみ男が出来る人はいないでしょう」と語っていた。

後任の富山敬に対しては「思いきり演じてほしいと同時に先代を越えるものを目指してほしい」という思いを抱いていたと明かしている。
一方で役への思い入れが深すぎて、一度ねずみ男について語りだすと止まらない程に、強い持論を持っていた。
それを感じさせるエピソードとして、ねずみ男を演じることになった高木渉が報告しにいくと「自由にやりなさい」とその時はエールを送ったが、
初回を見た後で再会すると「ちょっと違うなあ、ねずみ男というのはね…」と急なダメ出しが始まり「話が違う!」と高木はタジタジになってしまったという。
その後、両者は同作で共演を果たすだけでなく掛け合いを演じることになり、この掛け合いが非常に楽しかったこと、そしてねずみ男経験者が白山坊を演じたという経緯から、6期のプロデューサーに白山坊を演じたいと直訴したという。
なお、生前におけるアニメ版『鬼太郎』においては3期を除いた全作品に出演していたりする。


  • うしおととらのとら
役を演じた際、作品に触れた周夫は「とらはうしおに惚れてるな」と推察したという。
当時のインタビューでは「一見おっかなく、悪いようでちっとも悪くない」「優しいところも子供っぽいところもある」
といったところから繊細な役と認識して演じていた。


  • その他悪役
悪役に対しても強い持論を持っており、かつては悪役が改心するのを好まないといった発言をしていた。
しかしそんな周夫でもノロイの最期は哀れに思ったため、普段悪役が同情を買うような演技を好まない周夫もこの時は少し思いを込めて演じたそうである。
(ただし上手く表現できなかったと自省している)

一方で愛される悪役になるにはどうすればいいかということについても長年の経験から、
「悪の権化といった風にやっても子供は離れる。ツッコミどころがある方が愛される」と語っていた。
よってどちらかというと愛嬌のある悪役が好きなようで、エッグマンをアニメ版でも演じることになった際、
「相当なテンションが必要な役なので歳の割にはキツイ、ただ喋ると(画面の)半分が口で埋まるのでどうしても迫力を出したい」
「それでいて子供達からあまり嫌われないようなワル役を目指してます」(要約)
とコメントしている。

また、金丸淳一とはソニックシリーズで長年共演しており、特に『ソニックX』については印象深かったようで、
地上波放送が叶わなかった第2シーズンについて、金丸と会う度に「あれ(2シリーズ)いつやるんだ?」と口癖のように聞いていたという。
金丸は生前、周夫から様々な言葉を授かっており、今でもSNSやインタビューで昔言われた「金言」として紹介している。


◆突然の逝去とその後
出番は少ない役ながらも、これだけの大御所ながら多数の準レギュラーをこなし、ゲーム作品等で役を得るなど精力的に活動し、齢80を越えても声の張りも損なわれなかった。
ナレーションとアニメなどの空想キャラクターは苦手と言い、硬派な考えで知られていたが、果てはソーシャルゲームでも出演し、ナレーションも稀に担当するなど、
役を演じるためならどんな媒体も問わなかった。そのため若い人間ならば既に知らない人も増えた古豪の声優の中でもその名を知る人は多い。
中にはどうしてこんな役を当てたんだと思う端役もちらほらある。なお某ラノベの話。

80を越えてこれからも益々の活躍が期待されていたが、2015年1月15日に虚血性心不全によりこの世を去る。85歳であった。
この日は普通に仕事をこなしており、所属事務所である青二プロダクションの新年会にも参加していた。平野文などは簡単な挨拶も交わしている。
そのほか、数多くの同業者が周夫が元気にしている所を目撃していたのだが、その帰宅の途中の地下鉄内で急に倒れ、帰らぬ人となったという。
なお、大塚周夫の考えとして「役者は人間観察のために日々周囲の人を観察する必要があり、そのため個の空間となる自家用車等は役者には不要、」という持論を持っていた。
このため移動には公共交通機関を使っていたという話があるが、倒れた場所を見るに最期までそのポリシーを貫き続け、
これだけキャリアを重ねても最後の最後まで終生人間観察を怠らなかったことがうかがえる。
弔辞は『鬼太郎』等で共演した元いた劇団の後輩である野沢と、「山田先生役は大塚周夫で」と指名した尼子騒兵衛(『落第忍者乱太郎/忍たま乱太郎』原作者)が読んだ。
野沢雅子曰く、新年会の席で「俺は知ってる奴が誰も居ないところで死ぬんだ」と冗談めかして話していたが、まさにその通りとなってしまった。


◆息子・大塚明夫との関係
息子らに遺産がないことを謝ると、明夫に「俳優として一番大事な血を残して貰った」というような事を言われ感動したらしい。

他にも色々と親子で仲が良さそうなエピソードがあるが、これでも昔はかなり仲が悪かった。
というのも周夫は役者業のため休みがかなり不定期で、子供だった明夫は満足にも遊園地にも連れて行ってもらえなかったという。
さらにねずみ男を演じていることをクラスメイトに話したところ「お前は子ねずみ男だ」と馬鹿にされるなど、父の影響で嫌な思いをしてきたとのこと。
そのため「誰が役者になんかなるか」と突っ張っていた明夫だが、紆余曲折あって役者になったことで、今度は父のコネにもよく頼らせてもらったそう。
乳飲み子の頃は、生まれたばかりで泣き喚く息子をうるさく思い、押し入れにしまいこむというほとんどDVスレスレのこともされていたというが、
役者になったことで、父親のそういった一般には酷とも言える行動も「無理はない」といえるくらい、仕事での苦労を理解出来たとのこと。
親子ということで共演も多く、特にMGS4のラストは明夫のモーションキャプチャーに対し、父である周夫がアフレコをするという不思議なことも起きた。

亡くなった後は、元々父・周夫の演技を真似したり研究していたこともあり、自身のレパートリーに本人曰く「周夫さん枠」が増えたとのことで、山田伝蔵やマスター・ゼアノートの役を父から引き継いでいる。
また、最期の仕事となったナレーション業も、追加収録は明夫が担当している。
この「周夫さん枠」の演技に対しては、
「何わかったことを言ってんだと(父からは)言われるかもしれないが、親父だったらこう演じるだろうと考えながら音を真似して演じている」
「親父の役を引き継いだり、真似をして似たような演技をしていると、親父がまだ生きているような…また会えるような気がしながらやっている」
と答えている。

余談だが、春名風花(通称・はるかぜちゃん、かつてSNSの未成年論客として有名だった)が声優志望と公言していた中、
周夫の死後、ふいに大塚周夫のことを知らないといった発言をして、「声優志望なのに知らないとは何事だ」と炎上した際に
明夫はそれを庇う発言をしている。(世代的に知らない、興味を持てないのは仕方ないという意味で)
一方で忘れられてしまうことには思うことがあるようで、インタビューでは高頻度で父のことを持ち出している。
大塚明夫が現役な限り、恐らく稀代の叩き上げ役者・大塚周夫の魂が消えることもないだろう…。


●主な出演作

◆アニメ&ゲーム
山田伝蔵*2(忍たま乱太郎)
ノロイ(ガンバの冒険)
ヒラー総統、ヌーボー(鉄腕アトム)
ねずみ男(ゲゲゲの鬼太郎/墓場鬼太郎)
クリーパー(コルドロン)
ブラック魔王(チキチキマシン猛レース)
ワリオ(ワリオランド等のCMアニメ)
スティンキー(ムーミン)
ゴール・D・ロジャー(ONE PIECE)
石川五ェ門(ルパン三世(初代))
モリアーティ教授(名探偵ホームズ)
海原雄山(美味しんぼ)
スーさん(釣りバカ日誌)
Dr.エッグマン(ソニックX)
ピエモンアポカリモンデジモンアドベンチャー
桃白白(ドラゴンボール)
エイパー・シナプス(機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY
イオリア・シュヘンベルグ(機動戦士ガンダム00)
ぬらりひょん(ぬらりひょんの孫)
グエン・ヴァン・チョム(OVA版エリア88)
神崎定義(サクラ大戦)
ビッグボス(METAL GEAR SOLID 4)
マスター・ゼアノート(KINGDOM HEARTSシリーズ)
とら(うしおととら)
ジャギ(劇場版・PS北斗の拳)
ヨラン・ペールゼン(装甲騎兵ボトムズシリーズ)
Dr.バイルロックマンゼロ
マクスウェル(テイルズ オブ エクシリア)
ピーター・N・ビーグル(ACE COMBAT 5)


◆吹き替え
チャールズ・ブロンソン全般
リチャード・ウィドマーク全般
ブルーノ・ガンツ(ヒトラー 最期の12日間





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最終更新:2024年03月12日 23:37

*1 当時は声の仕事というのはまるで浸透していなかった他、この時代の前後において俳優の中では下賤な仕事と見られていた。

*2 初代。後任は息子の大塚明夫。