シャングリラ(モジャ公)

登録日:2023/11/24 Fri 18:07:35
更新日:2025/06/28 Sat 22:14:53
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漫画モジャ公』に登場する星のひとつで、エピソード「天国よいとこ」の舞台。

モジャ公達三人は、このひとつ前のエピソード「自殺集団」で危うく自殺させられそうになった所を助けてくれたドキュメンタリー映画作家のタコペッティに連れられて訪れた。

かつては銀河系最古の文明をほこっていたとされるが、数億年前に滅んでからは誰も住む者もいない無人の星。
無人ロケットの報告によると、地表には広大な砂漠が広がり、かつての文明の面影は多数の遺跡や廃墟を残すのみである。
また、以前は太陽が存在していたが爆発してしまったため、常に暗闇に包まれた水も空気もない冷たい死の世界が広がっている。

ところが、送り込まれた星連の調査隊は全て「すばらしい!天国のような星です」という第一報を送って来るが、その後誰も生きて帰った者はいないという曰く付きの星なのである。

タコペッティはシャングリラの秘密を探って「天国か地獄か」のタイトルで発表しようとしており、道中で出会った調査隊の一人だった兄を探しに行くという少女・ミルルを加えて三人は嫌々ながらシャングリラに向かう事になる。

到着した一行はまず様子を見る事にし、くじ引きでモジャ公が行く事になったがしばらくすると様子がおかしくなり、誰かを見つけた素振りを見せたのを最後に行方不明になってしまう。
翌日、空夫とタコペッティがモジャ公を探しに出発するが、そこには何と……


・正体

実は、シャングリラ人は滅んでいなかった。
砂漠の先にあるのような湖の対岸に立派な都市を築いており、その歴史は何と建国十億年。
爆発したとされた太陽も存在しており、当然ながら水と空気もちゃんとある。
シャングリラに向かった調査隊が帰って来なかったのは、あまりにもシャングリラが素晴らしいのでそのまま住み着いてしまったから。
現在、入国管理官を務めているのは第一次調査隊の隊長だったジステンバー。
国のトップはや大統領ではなく、「大法官」と呼ばれる人物である。

ただ、どうやら星のほとんどは灼熱地獄の砂漠のようでとても人の住める環境ではないので限られた場所に集まって生活しているらしく、無人ロケットに発見されなかったのはそれが原因と思われる。

星を訪れた人は入国管理官と面会すればすぐに入国でき、旅行者には非常に友好的で歓迎してくれる。
シャングリラ人は皆天使の輪のような帽子を被る事が決まりで、旅行者もシャングリラにいる間は必ず被っていなければならない。
街の中心には街のシンボルであるドンヒル神の像があり、中には何らかの施設があるが国の機密のようで旅行者は近寄る事もできない。
移動や観光には無人タクシー雲を利用する。

唯一、ロボットは入国できないが意外とチェックは甘く、整形手術の失敗という程度のごまかしで入る事ができる。

シャングリラ人は、意識を具象化する事に成功している。
これは、主観的な世界を客観の世界に実体化するというもので、簡単にいうと頭の中でイメージしたものをそのまま実体化させて手に入れる事ができるのである。
食べたいものは何でも食べられるし、欲しいものは何でも手に入れる事ができる。

ただし、出した料理を食べた後の皿がそのまま残っていたので出す事はできても消す事はできない模様。食べた後の食器はちゃんと洗って片付けなければならない。
また、人間や動物などの生物も出す事ができるが、空夫の出したライオンがイメージ通りの動物として動いていたのに対し、モジャ公の作ったタコペッティはほとんど自我のないロボットのようだったので性格や思考まで細かく設定してイメージしないとその通りには動かないようだ。
ちなみに、何でも出せると言っても限度はあり、怪獣などのはた迷惑なものを作るのは禁止されていて違反すると警察の取り締まりを受けてしまう。

ちゃんと決まりを守れば後は何をしても自由であり、何でも好きなものが手に入るまさしく天国のような星だったのである。

さて、シャングリラの生活を満喫したモジャ公と空夫は、タコペッティに言われて新しいフィルムを取りにロケットに戻る事に。
すると、留守番していたドンモは何故か二人を見るなり怯えて逃げ出してしまい……?


・真の正体

モジャ公と空夫は、入って来たのが自分達だとわかったドンモにシャングリラの素晴らしい生活を話すが、何故か全く信用されない。
そこで、持って来たフィルムを写して見せるが、そこには何も写っていなかった。
砂漠の照りつける太陽も、湖も、立派な街も、何も写っていなかったのである。

代わりに、そこに写っていたのは無数の白骨死体が転がり、鬼火が飛び交う廃墟で楽しそうにしている二人の姿だった。
ドンモが驚いたのは、二人が衰弱して痩せこけ、まるで幽霊のような姿だったため。

実は、この星の正体は入った者を本人も気づかぬうちに死に至らしめ、仲間に引き込む死霊の星だったのである。


心とはなにか

もともとは脳細胞をかけまわる電流の働きにすぎない

脳が死ねばどうなる?心も消える

そんなあぶなっかしい体などにたよっていては安心して生きられますか

そこでわれわれは心と体の切りはなしをこころみ成功した

ドンヒル神像はコントロール・タワーなのです。たえず国民の心をさぐり……

望むままの世界を感じさせてくれるのです

これこそ本当の天国だとおもいませんか


つまり、シャングリラとは住人が肉体を捨てる事で星そのものを仮想空間とし、全てをバーチャル・リアリティで賄っている星なのである。
その秘密はコントロール・タワーであるドンヒル神像が国民の望みをキャッチし、その細かい情報を電波にして直接脳に送り込む事で再現している。
当然、それはただの幻覚でイメージして現れた食べ物を実際に食べているわけではないので訪れた人は自分が気づかないうちに餓死してしまい、シャングリラに取り込まれてしまうのである。
ロボットが入国できないのは、ロボットの目はごまかされないため。
天使の輪のような帽子は監視カメラであり、秘密を探ろうとする者などは餓死を待たずに直接殺されてしまう。

シャングリラ人とは、肉体を捨てて精神体のみになった存在である。
確かに、厳密に言えば彼らの言う通り死んでいるわけではないのかもしれないが普通の人間から見れば大して変わらず、数億年もこのような生活を続けている事もあってその倫理は完全に破綻している。
生きている人間からすればまやかしの世界であり、『もらったつもり食べてるつもりで生きてるつもり』というシャングリラの生活が正しく幸せなものと信じきっており、訪れた人が(一度)死んでいく事に何の疑問も持たない。
他の作品でいうと、『SIREN』に登場する屍人に似ているかもしれない。

ひとつ前のエピソードに登場したフェニックス星人は誰も死ななくなったために「」という概念そのものを無くしてしまい、ショー感覚で死を楽しむおぞましさがあったが、こちらは死(肉体を捨てる)こそが幸せだと信じている恐ろしさがある。

モジャ公達は危うく殺されそうになったが、ミルルの兄がドンヒル神像の配線を切ったためにモジャ公達の脳を支配できなくなり、何とか脱出する事ができた。


・その他

これは漫画の中の話であり、現実にはできるわけがない……と思いきや、何と仮想空間と五感を接続して意識全体で体験できる「フルダイブ」という技術が研究されているという。

もしかすると、シャングリラのような事ができるのも近いかもしれない……?


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最終更新:2025年06月28日 22:14