怪獣二十六号(ボツ企画)

登録日:2024/04/02(火) 01:56:09
更新日:2024/04/30 Tue 16:58:34
所要時間:約 10 分で読めます




映画は常に観客にとって力強い前進を示さなければならないと考えます。
怪獣は常に人間にとって恐怖の存在でなくてはならないと考えます。
この映画は人間の前に怪獣が現われ、
人間は自らの身を守るために智慧と勇気で闘う、ただそれだけの映画です。
我々がこだわりたいのは、「ただそれだけ」にする事なのです。
~樋口真嗣~


長編特撮映画


怪獣二十六号



ガメラ 大怪獣空中決戦以前に東宝で樋口真嗣氏が企画していた怪獣映画企画。
昭和66年8月の長野県に出現した怪獣と人類の攻防を描いた作品である。
収録は怪獣アンソロ小説集『怪獣文藝の逆襲』(角川書店)。漫画作品『怪獣8号』とは無関係。


【概要】

1990年、当時25歳だった樋口氏は『ミカドロイド』の撮影後、原口智生氏と怪獣ものの映像作品を作れないかと構想していた。
ゴジラをやらせてほしいとはさすがに当時の樋口氏は言えなかったようで、オリジナルビデオの枠内で『ジョーズ』や『トレマーズ』をベースに、当時の自分でも手の届く作品を思いつき、企画書にまとめたという。
(もっとも、樋口氏は2016年に庵野秀明氏とタッグを組み、ゴジラ作品を手がけることになるのだが)
残念ながら東宝側の事情もあり没になってしまったが、内容や設定は後年の平成ガメラ三部作と同じく、かなりリアル路線を追求した怪獣作品になる予定だった模様。
また、後年の作品に受け継がれたのではないかと思われるシーンも散見されるため、怪獣ファンなら読んで損のない企画書と言えるだろう。

【世界観における怪獣呼称のルール】


この世界において、怪獣は確認された順に号数で公式に呼称、記録されている。*1
多くの場合はこれとは別に名前が存在するが、伝説や恐竜の名前から取ったものが多いようだ。
また、明らかに同一種と見なされた場合は号数の後に「a」や「b」といった英字をつけて表記している。
まず昭和29年に東京の品川を襲撃し、甚大な被害と膨大な被災者をもたらした二足歩行型怪獣「怪獣一号」と呼称。
昭和30年に大阪府大阪市に上陸した怪獣1号の同一種を「怪獣一号a」、同時に上陸した四足歩行型の怪獣「怪獣二号」と呼称。
さらに昭和37年にベーリング海で確認され、宮城県宮城郡に再上陸した怪獣一号aの同一個体は「怪獣一号b」と呼称されている。
これら以外にも昭和63年までに生物学上怪獣と見なされる生物は24種57件確認されているようだ。


【あらすじ】


時は昭和66年8月。オリンピックの会場と決まった信越地方の長野県北部山岳地帯のある村において、井戸の水が温泉になったり、震源不明の小規模地震、原因不明の山火事の発生や一夜にして起きた河の地形の劇的な変化、果ては家畜が忽然と消えるなどといった怪現象が頻発していた。
同地にトンネル工事の現場監督として派遣された天野立郎は、東京から来た調査技師松島庸子とともにスキャナーで地盤を確認したところ、明らかに人為的なものとは考えられないトンネルを発見する。
二人は怪獣の巣穴ではないかと疑い自衛隊に連絡するも、「被害が出てからではないと動けない」と回答され、門前払いを食らったばかりか恩師の象方博士にも連絡が繋がらず、途方に暮れる。
その頃、村役場では頻発する怪現象をネタにした村おこしが企画されていたが、折り悪くそこに体長18メートルの怪獣が出現。
電話線も怪獣に切断され孤立した村は怪獣の活動で地盤沈下を起こし、人間もろとも地面に飲み込まれていくのだった。
村を壊滅させた怪獣は攻撃のターゲットを近隣のペンションに移行。人間を片端からむさぼり喰らい、駆けつけた陸自の戦闘ヘリからの対戦車ミサイルや20ミリバルカン砲の攻撃もものともせず、熱光線で返り討ちにしてしまう。
その後、現地に派遣されていた陸上自衛隊隊員の宮嶋と合流した天野と松島は、脱出不能な状況下であることと、芦ノ湖に出現した怪獣の対応で自衛隊側が長野県に人員を割けない事実を知ることとなる。
覚悟を決めた天野と宮嶋は怪獣用にトラップを仕掛け、さらに現地にあったパワーショベルを改造。怪獣討伐に向けて一か八かの賭けに出るのであった。



【登場人物】


◆天野立郎
本作の主人公で叩き上げの現場監督。派遣されていた地で怪獣災害に運悪く巻き込まれるが、パワーショベルを改造したり掘削機を用いて怪獣相手に勇敢に立ち向かった。

◆松島庸子
本作のヒロインで東京の建設会社から派遣されたプロパー社員。樋口氏曰く鼻持ちならない性格をしているとのこと。謎のトンネルを怪獣のものではないかと疑う。

◆宮嶋
怪獣対策で派遣された陸自隊員。現地をオフロードバイクで巡回し、被災者を救助していた。天野たちと合流し、最終的に土砂にせき止められた水を利用し、携行していた対戦車ミサイルで洪水を起こして怪獣に止めを刺した。

◆象方博士
松島の恩師。クライマックスにヘリで現地に駆けつけ、怪獣が絶命したことを確認した。

植物怪獣
直接は登場しないが、作中で芦ノ湖に出現したことが語られている。自衛隊が対応する事態になり、結果的に充分な人員を信越地方に派遣できない原因となった。
また、コイツがいることからチャンピオンまつり時代までの昭和ゴジラシリーズと、VSシリーズの怪獣が混在するパラレルワールドだと考えられる(公式に『メカゴジラの逆襲』までのシリーズと『ゴジラ(1984)』以降のそれは別世界線であるとされているため)。

◆怪獣二十六号
昭和66年8月の長野県に出現した体長18メートルの怪獣。生態的特徴が昭和40年に秋田県秋田市で観測された怪獣12号と酷似しているため、同科変種ではないかと推測されている。性格は非常に凶暴で肉食性。腹はパゴスやガボラのようにダボダボで、頭には岩盤を溶解させるための発熱器官があり、熱光線を出す。
体温は100度を超えているため、背中には排熱用のヒレがある。また、熱探知機能が高く、弱い視力を補っている。
弱点は強い光と低温であり、前者は頭部のヒレが遮光板となる事である程度対策しているが、後者は無対策であったためにそこを宮嶋たちに衝かれることとなってしまい、最期は天野が乗る建設重機や掘削機と闘って体力をすり減らされたところに、宮嶋が対戦車ミサイルで発生させた洪水に巻き込まれ溺死した。



【余談】


  • 樋口氏はバラゴンが大好きなことを公言しており、「設定身長が抑えられることで人間との差が縮まって作中での関係が濃密になるのと、人を食う習性があるのもダイレクトに怖くていい」と発言している。
    • 2022年に氏が庵野秀明氏とタッグを組んで手がけたシン・ウルトラマンにバラゴン系の怪獣が多数登場したのも、3Dモデルの流用以外にもそういった理由があったからなのかもしれない。

  • 「怪獣を号数で呼ぶ」というアイデアは山本弘氏の小説作品『MM9』に先駆けたもので、山本氏も設定に驚いていた。後年樋口氏は『MM9』のドラマ版を担当したが、「運命的なものを感じる」とコメントしている。



追記・修正は、バラゴンが大好きな人がお願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • 怪獣
  • バラゴン
  • 樋口真嗣
  • 没企画
  • ゴジラ
  • ゴジラVS ビオランテ
  • 長野県
  • 陸上自衛隊
  • ビオランテ
  • 没脚本
  • 怪獣映画
  • 怪獣二十六号
  • アンギラス
  • パワーショベル
最終更新:2024年04月30日 16:58

*1 樋口氏曰く「自衛隊員が号数で呼ぶのがプロっぽいと思ったから」とのこと。