ずっとあなたが好きだった

登録日:2024/07/31 Wed 02:57:42
更新日:2025/04/14 Mon 16:03:41
所要時間:約 12 分で読めます






ずっとあなたが好きだった



ずっとあなたが好きだったとは、TBSテレビのテレビドラマ作品。
1992年7月~9月に「金曜ドラマ」枠で放送された。
脚本は『踊る大捜査線』知られる君塚良一、劇伴は音楽プロデューサーの小林武史が担当。




概要

高校時代に引き裂かれたカップルが10年以上の時を経て再会し、互いの今の相手を振り捨てて再び結ばれるラブストーリー
……なのだが、主人公の夫「冬彦さん」こと桂田冬彦と、冬彦を溺愛する姑が異様な存在感を放つ怪作でもある。

冬彦は表向き高学歴・高収入・高身長というバブル期で言う3高のエリートでありながら、度を越したマザーコンプレックスの持ち主、略して「マザコン」であり、その上好きな相手にはストーカーを拗らせるヤンデレという厄介な性質を併せ持っていた
彼は主人公と結婚し家庭を築くもマザコンと母親の過保護が露呈し、さらにヤンデレ気質が表面化して強烈な束縛や嫌がらせを始め、果たして主人公は昔の恋人の下へ逃げられるのか?というのが大まかな話の流れ。

最大の特徴は桂田親子の強烈なキャラクターで
  • 野際陽子演じる母親がが出た冬彦の指を熱心に口で止血する *1
  • 妻をフェンス越しに異様な表情で凝視
  • 思い通りにいかないと下唇を歪めて「んんー」と唸る *2
  • 妻へのストーカー行為に勤しみ撮影した映像を延々と再生
  • SMにハマって妻にプレイを求める(冬彦さんは虐げられるM役)
  • 子供の頃使っていた木馬に跨って奇声を上げる
  • 風邪を引くと母親が押しかけてきて看病を強行する
といった狂気あふれる言動の数々は、主人公カップルを食ってしまうほど大きな話題を呼んだ。

演じる佐野史郎の代名詞とも言えるハマり役で、放送当時視聴者に人間性を誤解され、電車に乗ったら悲鳴を上げられ睨まれた、子供に石をぶつけられたなどの逸話が残っている。


冬彦さん誕生の経緯

企画当初は『ロミオとジュリエット』のような禁断の恋をテーマとする予定で、1話制作当時は冬彦さんのマザコン設定すら存在しなかった。
物語の基盤は初恋が忘れられない女性の不倫ものであり、倫理的に問題があるため、冬彦さんに結婚生活から逃げ出したくなるのも仕方ないダメ夫という属性が付くことになる。
姑役の野際陽子が佐野史郎の指を熱心にしゃぶるアドリブで現場の方向性が固まり、「身勝手なマザコン夫に苦しんだ末に昔の恋人へ逃げる」という流れを確立。
冬彦さんのキャラを演者とスタッフで探り探り開拓し、撮影時期の関係で終盤には視聴者の反応も取り入れて結果的に大成功を収めた。
そうした経緯のため、冬彦さんが美和に執着する理由をスタッフは考えておらず、ラストでようやく明かされる結果となった。

そして、以上の経緯により当初の予定を越えて存在感が増した結果、最終的には“噛ませ”の筈だった冬彦さんがタイトルすら回収していってしまうという事態にまで発展した。
……ある意味では冬彦さんの一人勝ちである。*3

また、佐野にとっては本格的なブレイク作となったのは言うまでもないが、当人は「アングラ芝居をテレビドラマで行う」という目的があったことをのちに明かしている。
というのも、佐野はかつて唐十郎率いるアングラ劇団「状況劇場」に籍を置いていたが、戦力外通告のような形で退団。
その後、バンド活動をきっかけに林海象*4の初監督作「夢見るように眠りたい」の主演に抜擢され、映画作品を中心に活動するようになった。
当時は舞台活動から離れていたこともあり、本作は「状況劇場時代にできなかった宿題の再提出」のような気分だったと語っている。


反響

当時はトレンディドラマ全盛期だったにもかかわらず、その異色な作風から視聴率は回を追う毎に上昇し、最終回では34%を獲得*5
通称「冬彦(さん)現象」として一大ムーブメントを巻き起こし、「冬彦さん」が新語・流行語大賞の金賞を受賞。授賞式には佐野と野際がキャスト代表として出席を果たした。
サザンオールスターズが歌った主題歌「涙のキッス」はCD売り上げ150万枚を突破。*6
90年代においては「冬彦さん」がマザコンの同義語として扱われ、日本における「毒親」&「マザコン男」のイメージに多大な影響を与えた。

この大ヒットにより、同スタッフ・キャストによる次回作『誰にも言えない』も制作された。
『誰にも言えない』とは世界観を共有しており、最終回次回予告では本作を流用する形で美和たちが登場。加奈子や麻利夫と縁が深いことが語られる。

90年代を代表するTBSのドラマ作品のため名場面特集では必ず登場し、毎回主に冬彦さんが木馬に跨っているシーンが取り上げられ、スタジオと視聴者を戦慄させている


あらすじ

ホテル勤めの西田美和はエリート銀行員の桂田冬彦とお見合い結婚。
一見人が良さそうに見える冬彦だが、その本性は身勝手かつ偏執的な変人であり、姑の悦子も何かにつけて夫婦関係に介入、美和の心身は疲弊していった。
そんな中、高校時代の恋人であるラガーマン・大岩洋介に予期せぬ再会を果たし、心惹かれていく。
しかし、美和の心が離れるほど、冬彦の行動は過激さを増していくのだった……。


登場人物

※結末までのネタバレを含むため注意。

  • 西田(桂田)美和
演:賀来千香子
本作の主人公。一流ホテルのブライダル部門勤務。
高校時代はラグビー部のエースである洋介と付き合っていたが、七夕の日に朝帰りした翌日、洋介を好いていた思い込みの激しい女子生徒が自殺し大騒動に発展。
洋介とはそれっきり12年間会っていなかったが、不本意な別れ方で今も初恋として引きずっている。

父親の勧めで冬彦とお見合いし、熱烈な好意と不器用な優しさを目の当たりにして結婚。
ところが結婚した途端夫婦生活の欠如や奇行に翻弄され、不眠症を患うまでに疲弊し、どうにか冬彦と手を切ろうとあがく中、再会した洋介に徐々に惹かれていく。

冬彦がビデオテープ越しに内心を吐露し、一旦は夫婦関係を修復するも、SM趣味や律子との接触といった精神的威圧で再び険悪に。
最終的に、まだ平穏だった頃の初夜で冬彦の子供を妊娠していたことが発覚。洋介が共に育てる決意を固め、九州に移り住み、洋介との子供も誕生し親子4人で幸せに暮らすようになった。

次回作『誰にも言えない』の主人公・加奈子(演:賀来千香子)が、その美和と洋介の間に産まれた娘である。
美和と冬彦の間に産まれた兄*7は海で亡くなっており、加奈子も自身や麻利夫の真実を美和から聞き、全て知っていた。*8

  • 大岩洋介
演:布施博
サントス建設の社会人チームに所属するラガーマン。
キャプテンとしてチームを率いているが、選手としては古傷を抱えて限界気味。
性格はリーダーシップ溢れる直情的な熱血漢。彼女の律子に結婚を催促されているが、どこか乗り気ではなくはぐらかしている。

美和が高校時代に作ったお守りを持ち続け、お互いに未練を抱えていた中、結婚前に偶然母校で再会。思い出話に花を咲かせて友達以上恋人未満のような関係を続ける。
やがて結婚生活に翻弄される美和の心の支えになり、律子がいながら関わるうちに昔の想いが再熱。
冬彦の嫌がらせをものともせず、九州のラグビーチームに監督として声がかかったのを機に家族で移り住んだ。

『誰にも言えない』では県庁の職員として働いている。

  • 桂田冬彦
演:佐野史郎
東京大学卒のエリート銀行員。本作の裏主人公。
母から過度な期待と重圧を受け、母が望む通りの人生を送ってきたが、一方で望まない道を強制された恨みも抱え、依存しながら時にその存在を疎ましく感じている。
趣味はの標本収集と『FINAL FANTASY Ⅳ*9などテレビゲーム全般。大学では就職に有利としてラグビー同好会に所属したが、ラグビーそのものは「野蛮なスポーツ」として嫌っていた。

表向きは真面目な好青年に見えるが、勉強漬けと母の偏愛のせいで人間性を欠いたまま成長してしまったため、他者とのコミュニケーション能力や共感性が著しく欠如しており、どこか歪んだ形でしか愛情を表現できない。
美和に対しても尋常ではない執着心を抱え、蝶の標本のように愛を注ぐ
また、一度癇癪を起こすと下唇を歪ませて唸り声を上げる、自室に引きこもって爆音でクラシックをかけるなどの問題行動が目立つ。
それでも時には反省し不器用な優しさを見せるが、恋敵への嫉妬心の前では霞んで消えてしまう。

結婚後は仕事優先で家庭を顧みず、帰宅しても黙々とゲームに没頭して美和を寄せ付けず、悦子の介入もあって夫婦関係は冷めきっていた。
にもかかわらず、洋介への嫉妬に狂い彼に関連する物品を焼却し、美和が自分から離れるとストーカー行為を繰り返す。

中盤、銀行での不正の露呈と悦子の過保護に嫌気が差し、反抗も兼ねて消費者金融に転職。帰宅時間に融通が効くようになり、素直に愛情を表現して美和との仲を修復し初夜を迎えるも、性的不一致から再び思い悩む。
部下に勧められたいかがわしいクラブでSM嬢が蝶のタトゥーを入れていたためにそっちの嗜好に開眼してしまい、ボンデージ衣装やピンヒールを買い込んで美和を戦慄させた。

美和の妊娠が発覚すると、洋介との仲を疑って堕胎を迫り、律子に接触するなどして2人の仲を引き裂こうと目論む。
最後には半ば自暴自棄を起こして離婚に了承するが、未だ冬彦に執着する悦子に反発し、ついにに与えられたPCや蝶の標本を破壊した末ガラス片で腹部を突き刺し逮捕。
収監によってようやく美和への歪んだ執着を捨て、憑き物が落ちたように穏やかな表情を見せる。
亡くなった父親が美和の実家の駄菓子を気に入っており、小学生の頃何度か美和を見て一目惚れしていたことを明かした。

『誰にも言えない』では美和の面影を持った女性と再婚。彼女を真っ当に愛していたものの出世とは縁遠く、逃げられた末に交通事故で死んでしまう
再婚後に産まれた子供が佐野史郎演じるまたもやストーカーヤンデレな麻利夫であり、母親の面影を求めて加奈子に付きまとい続けた。
父親の冬彦を「妻に逃げられた男」と軽蔑していたが気づかぬ内に自分も同様の行動を起こし、「美和と冬彦から続く輪廻」と表現された。

作中では冬彦の象徴として様々な場面で蝶が姿を現し、『誰にも言えない』でもファンサービス的に登場している。
演じた佐野史郎も俳優人生で印象的な存在として冬彦の名を挙げることも多く、「僕が死んだら木馬に跨っているシーンが使われるんだろうな」とも語っている。
件の木馬は2020年代でも現存し、TBSのバラエティ『THE!爆報フライデー』で再会。
放送30年以上が経過しても佐野史郎で検索すると「冬彦さん」がサジェストに入り、如何に強烈な存在であったかを物語っている。

  • 桂田悦子
演:野際陽子
冬彦の母親。職業は華道の師範。
裕福な家の出ゆえにエリート意識が高く、「自分の言う通りに生きていれば間違いはない」と豪語する典型的な教育ママ。
物腰や口調は柔らかいが、自身や冬彦に楯突く者にはヒステリックな一面を露にする。
亡くなった夫は銀行マンで関係各所に強い影響力を持っていたため、死後もコネを利用している。

冬彦のデートに押しかけ、仕事でミスをすると出向いて土下座するほど過保護で、嗜好を熟知し手取り足取り何かと溺愛。
一方で自由意志を剥奪して自らの望む道に進ませ、夫と同じ社会的成功者とすることに固執。
その姿は後の世で言う「毒親」であり、冬彦が親離れできずマザコンを拗らせてしまった原因である。

冬彦の初恋を思って美和とのお見合いを提案し、常雄の弱みにつけ込む形で成立。桂田家とは離れて暮らしているが、頻繁に訪れては何かと夫婦の間に干渉してくる。
美和が仙台に帰郷した際は先回りして牽制し、探偵に素行調査を依頼し就職先への嫌がらせや実家への圧力でヨリを戻すよう画策。
妊娠後は桂田家の跡取りとして産まれてくる孫に執着し、亡き夫のコネをちらつかせて美和と洋介の周囲に圧力をかける。
過保護に嫌気が差した冬彦に刺されてしまうも、大事には至らず冬彦が美和を昔から好いていたことを明かした。

冬彦同様に本作を象徴する存在で、「着物姿で息子に甘い姑」はTBSドラマにおける野際陽子の十八番となった。

  • 西田常雄
演:橋爪功
美和の父親。仙台駄菓子を扱う和菓子屋を営んでいる。
高校時代の一件から美和を信用できず、将来を心配してお見合い話を持ち込んだ。
桂田家には資金援助を受けた恩があり、店の融資と引き換えの政略結婚のため悦子には頭が上がらず、仙台に帰郷した美和を冷たく突き放す。
次第に苦悩する姿を目の当たりにして考えを改め、店を手放す覚悟で味方した。

  • 西田春子
演:高田敏美
美和の母親。
仙台に帰郷した心境を察して優しく寄り添い、過去に囚われる美和を諭した。

  • 北野智美
演:中村久美
美和の友人。
冬彦や悦子に翻弄される美和を気にかける良き相談相手。
既婚者で夫の啓一(演:明石家さんま)との夫婦仲は良好。
明石家さんまは後年TBSで『明石家さんまのずっとあなたが好きだった』という本作のタイトルを冠したバラエティ番組を担当。

  • 中井律子
演:宮崎ますみ
洋介の彼女で所属するラグビーチームのマネージャー。
明るく気立もいいが、女の勘で昔の恋人である美和を警戒する。
洋介とは6年間交際を重ね、結婚を催促しているが相手にされていない。
洋介が引きずっている美和の存在に怯え、自ら別れを切り出すも諦めることができず、思い悩んだ末に洋介との子供ができたと嘘をついて自殺未遂を起こした。
退院後は失恋を振り切るためニューヨーク支社に転勤する。

  • 中井健治
演:小沢仁志
律子の兄で洋介が所属するラグビーチームの監督。
何かと洋介と律子の仲を気にかけ、美和に傾いていることを知るや大喧嘩に発展。
洋介の想いの強さを目の当たりにし、律子が傷つかないうちに離れるよう忠告する。

  • 浅井なつみ
演:坂井真紀
美和や洋介と同じ高校の後輩。
冬彦との関係に思い悩んで帰郷した美和と出会い、ラガーマンの先輩・高田幸治(演:田辺誠一)との関係を相談。
高校時代の美和と洋介を彷彿とさせる存在で、美和はその姿に自身を重ねて相談相手として接する。
高校生で先輩の子供を妊娠し、洋介の後押しで産む決意を固めた。


冬彦さん迷言集

+ ...
「マダツマダトハミトメテイナイ」

「ボクノイウトオリノツマニナッテイナイ」

「君が淫乱だとは知らなかった」

「僕がこんなに愛しているのに。君にはスクラップブックが必要なの」

「あんな物取っとくからいけないんだよぉ!」

「終わりじゃない…終わりじゃないよ」

「美和ああああああああああああ!!!!」

「その時は俺が美和を幸せにするー!ですかwwwwwwwww」

「美和…あんな奴には渡さないからね」

「開けろー!開けろー!開けろー!開けろー!」

「美和ー!必ず戻ってもらうからね…いーち、にーい、さーん、しーい、ごーお、ろーく」

「あんな男に僕の子供を抱かせるなんて…あああああああああ、許さないぞぉ」

「この二人が一緒になろうとすると必ず誰かが犠牲になる」

「こんな男とじゃお前まで人殺しになるぞぉ」

「触るな僕の妻に!汚らわしい手で!あーっ!あーっ!ああああああああ」

「初恋の人は忘れられないね」



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最終更新:2025年04月14日 16:03

*1 野際陽子のアドリブによるものだが、佐野史郎もそこへさらにノッている

*2 佐野史郎の妻によるアイデア。当時、赤ん坊だった我が子のぐずった表情を反映したもの

*3 実際、美和を射止める役だった布施博は脚本の変更に納得がいかずに不満を漏らしていた、との話も。

*4 「私立探偵濱マイク」シリーズで知られる映画監督兼プロデューサー。

*5 テレビドラマにおいて視聴率が上がり続ける現象は珍しく、当wikiの項目では『3年B組金八先生』『家政婦のミタ』『半沢直樹』『あなたの番です』といった話題作のみ

*6 「涙のキッス」が流れるOPでは友田由里子演じる謎の女性が水泳をする様子が流れるが、最終回に冬彦のお見合い相手として登場する

*7 眼鏡をかけた冬彦や麻利夫とそっくりで、同様に加奈子に優しかったことが語られている

*8 加奈子に話した際は「幸せになるため沢山の人を傷つけた」と泣きながら謝り続けていたようで、この真相がタイトルである「誰にも言えない」に繋がる

*9 実際にFF4をプレイしている場面が放送された