有翼の叡智、ナドゥ/Nadu, Winged Wisdom(MtG)

登録日:2024/09/27 Fri 13:52:40
更新日:2025/04/12 Sat 09:51:55
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《有翼の叡智、ナドゥ》は、デザインに失敗しました。


《有翼の叡智、ナドゥ/Nadu, Winged Wisdom》とは、TCG『マジック:ザ・ギャザリング』に存在するカードの1枚である。



概要

「モダンホライゾン3(MH3)」で登場したクリーチャー・カード。レアリティはレア。
青いサギの顔と背中から生えた翼を持つ人物。モチーフはおそらくエジプト神話のトト神。
イラストの背景からしてエジプト風次元のアモンケットに存在する神官なのだろうが、設定はまったくもって不明の謎の鳥…人である。


さて、早速だがその性能を見ていこう。

有翼の叡智、ナドゥ / Nadu, Winged Wisdom (1)()()
伝説のクリーチャー — 鳥・ウィザード
飛行
あなたがコントロールしているすべてのクリーチャーは「このクリーチャーが呪文や能力の対象になるたび、あなたのライブラリーの一番上にあるカード1枚を公開する。それが土地カードなら、それを戦場に出す。そうでないなら、それをあなたの手札に加える。この能力は、毎ターン2回しか誘発しない。」を持つ。
3/4

まず3マナ3/4飛行という優秀な基礎スペックが目を引く。これだけでもアタッカーとしてもブロッカーとしても優秀。

更に「対象に取られたときにドローかマナ加速をする」能力を持つ。
自分の強化呪文などの対象にすることで、簡単にカードアドバンテージを稼ぐことができる。
またこの能力は相手の除去効果でも誘発する。即座に除去を撃たれたとしても1ドロー相当にはなり、アドバンテージを失いにくい。

更に更にこの対象時の能力は自身のみならず、自軍のクリーチャー全体に付与される。
つまり自軍全体がアドバンテージ獲得エンジン+疑似的な除去耐性を持つのだ。

そんな強力な能力のため、悪用・ループの防止に「1体につき2回まで」という安全弁もついている。
それでも普通に使えば十分なアドバンテージを稼ぐことができるため、優秀なシステムクリーチャーである。

また伝説のクリーチャーであるため、統率者に指定することもできる。
デザイン側も「統率者として使って楽しいカードを目指した」と語っており、実際に統率者戦との相性も良い。

総じて全体的に「モダンホライゾン3(MH3)」の誇る、いぶし銀な名カードと言えるだろう。









……それで終わらなかったから問題になった。

手甲/Shuko*1 (1)
アーティファクト — 装備品
装備しているクリーチャーは+1/+0の修整を受ける。
装備(0)((0):あなたがコントロールするクリーチャー1体を対象とし、それにつける。装備はソーサリーとしてのみ行う。)

そう、MTGというカードゲームにはノーコストでナドゥの能力を誘発させられるカードが複数種存在したのだ。
特にこの《手甲》は無色1マナと非常に軽く、更に土地である《ウルザの物語》からノーコストで持ってくることが可能なので非常に相性が良かった。

確かにナドゥの能力は「普通に使う分には」そこまで問題があるわけではなかったのだろう。
だが毎ターンノーコストでクリーチャーの数×2のアドバンテージを稼げるとなると話がまるっきり変わってくる。
1体で2枚、2体で4枚。つまるところ自分のクリーチャーの数×2枚のアドバンテージが毎ターン得られるのだ。
更にそこで引いたカードや加速したマナから適当なクリーチャーを出せれば、また1体につき2回分が追加される。

これだけでも十分ヤバイのだが……

春心のナントゥーコ/Springheart Nantuko (1)(緑)
クリーチャー・エンチャント — 昆虫・モンク
授与(1)(緑)(このカードを授与コストで唱えた場合、これはエンチャント(クリーチャー)を持つオーラ呪文である。クリーチャーにつけられていない場合、これは再びクリーチャーになる。)
エンチャントしているクリーチャーは+1/+1の修整を受ける。
上陸 ― 土地1つがあなたのコントロール下で戦場に出るたび、春心のナントゥーコがあなたがコントロールしているクリーチャーについているなら、(1)(緑)を支払ってもよい。そうしたなら、そのクリーチャーのコピーであるトークン1つを生成する。これによりトークンを生成しなかったなら、緑の1/1の昆虫・クリーチャー・トークン1体を生成する。
1/1

「土地が出るたびにクリーチャーを出す」カードと並べば、ナドゥの能力で土地を出すだけでも更に2回分増えるようになる。
こうなってしまえばもはや「1体につき2回」の制限など安全弁として機能しない。
多少の運は絡むとはいえ、ほぼ無限のチェイン・コンボが成立する。

こうしてライブラリーの全ての土地を出し、全てのカードを引き切ればあとはいくらでも勝ちようがある。
《タッサの神託者》でエクストラウィンするなり、《忍耐》でライブラリーを回復しながらループを続けて延々と盤面を強化するなりできてしまう。



相性の良いカード

召喚の調べ/Chord of Calling (X)(緑)(緑)(緑)
インスタント
召集(あなたのクリーチャーが、この呪文を唱える助けとなる。この呪文を唱えるに際しあなたがタップしたクリーチャー1体で、(1)かそのクリーチャーの色のマナ1点を支払う。)
あなたのライブラリーからマナ総量がX以下であるクリーチャー・カード1枚を探し、それを戦場に出し、その後ライブラリーを切り直す。
召喚士の契約/Summoner's Pact (0)
インスタント 〔緑〕
あなたのライブラリーから緑のクリーチャー・カードを1枚探し、それを公開し、あなたの手札に加える。その後、ライブラリーを切り直す。
あなたの次のアップキープの開始時に(2)(緑)(緑)を支払う。そうしないなら、あなたはこのゲームに敗北する。

「召喚」の名を持つ山札のクリーチャーに触るカード達。
昔からコンボデッキでは引っ張りだこのカード達だったが、勿論の如くナドゥとも好相性。
ナドゥや《春心のナントゥーコ》を呼び出すことでループ始動からループ継続まで補助する。

前者はクリーチャー版《手甲》である《コーの先導》をX=3で呼び出せるのが強み。
後者も土地を生け贄に捧げることで被覆を付与できる《森を護る者》なんかを呼び出しやすいため、チェインコンボが続行しやすくなる強みがある。

本来はどちらも重いコストがかかるが、ナドゥがいればそれも軽い。
前者は有り余るマナやトークンからコストを支払うことができ、後者は「次のターンに発生する」コストを使ったターン中に勝利することで踏み倒せる。



環境での強さ

登場当初からモダン環境では《手甲》との相互作用を活かした【ナドゥ・コンボ】として登場。
とはいえ研究が進んでいない当初は《タッサの神託者》などの「勝利手段にしかならないカード」の存在により、まだ付け入る隙があるデッキであった。

……だが、プロツアー・モダンホライゾン3にてガチの世界トッププレイヤーが研究を重ねた結果、
  • 基本コンボパーツの《春心のナントゥーコ》とチェイン続行役の《森を護るもの》と優秀な墓地対策の《忍耐》を併せることで無限マナ+無限トークン
  • 土地枠に入れられる《耐え抜くもの、母聖樹》と《天上都市、大田原》を無限に使いまわして基本土地以外を無限除去
  • 万能土地《ウルザの物語》と置物対策ついでにライフ回復ができる《機能不全ダニ》を組み合わせて無限ライフ
などなど、別に勝利手段を入れなくても基礎パーツだけで複雑なループを介して何でもできることが判明。

結果として【ナドゥ・コンボ】は完成形に至り、プロツアー勝率59%という異常な勝率を叩き出す。
そしてモダン環境をナドゥの夏に染め上げた。

【ナドゥ・コンボ】は純粋な強さ・勝率のみならず、
  • 有限コンボであり、しかもチェインが途切れる可能性があるので省略が不可能
  • 「1体につき2回」というナドゥで付与した能力が誘発したかどうかを、各クリーチャーごとに管理しておく必要がある
  • 領域を頻繁に移動するため(特に複雑な《忍耐》絡みのコンボでは)ターンが長引き、その間相手にできることはほぼ無い
という管理上の煩雑さ、ありていにいうと面倒臭さまで兼ね備えていた。

結果として2024年8月26日を以てモダンで禁止に。
さらにそのデザイン上の大問題からセット・デザイン・リーダー Michael Majors氏による反省文すら出されることとなった。

そして2024年9月23日を以て統率者戦でも禁止推奨に。
統率者戦においては使用率・勝率もさることながら、4人対戦であるため「管理上の煩雑さ」がモダン以上に問題となった形となる。

モダンホライゾン3(MH3)」において、統率者戦で楽しいカードを目指したナドゥ。
彼は結果的にモダンからも統率者戦からも追放される数奇な運命をたどってしまった。

残った使用可能フォーマットの内、レガシーではモダンほどの理不尽な強さではないにせよ活躍している。
特によく似たコンボを採用している【セファリッド・ブレックファースト】と組むことが多く、大会での優勝報告も度々なされている。
他にも【バントゼニス】やエルフ要素がほとんど失われた【エルフ】といったデッキのアドバンテージ源として活躍している。
しかし前述の面倒臭さの問題はレガシーでも存在するため、2024年末の禁止改定声明では注視が続けられているようである。

MTGアリーナでも「モダンホライゾン3(MH3)」が丸ごと実装されたため使用可能。
だが
  • コンボパーツの中でも重要な誘発させる部分を担う《手甲》や《コーの先導》が存在しない
  • 同セットの強力なカード群であるエネルギー関連もそのまま輸入された
といった事情により、ヒストリックやタイムレスでの活躍は控えめ。

これなら健全なカードで済んでめでたしめでたし……とは行かなかった
問題となったのはブロール*2。全カードが1枚制限な都合上起動にマナが要る装備品のような通常の構築では使わないコンボ要員でも十分強力に扱える。
登場直後から理不尽なほどのアドバンテージ獲得能力を発揮して環境を蹂躙していった。
当然のようにマッチングする相手が強力になるよう調整されたが、それでも凶悪さ自体は変わらず大暴れ。
最終的にその強さや回り始めた際にかかる時間が問題視され2024年11月13日で再調整の対象になった。
同時に再調整された《歪んだ看守、グレンゾ》共々、ブロールにおいて強さを理由に再調整がなされたという前代未聞の事態となった。

そうして再調整されたものがこちら。
A-有翼の叡智、ナドゥ / A-Nadu, Winged Wisdom (1)()()
伝説のクリーチャー — 鳥・ウィザード
飛行
あなたがコントロールしているクリーチャーが呪文や能力の対象になるたび、あなたのライブラリーの一番上にあるカード1枚を公開する。それが土地カードなら、それを戦場に出す。そうでないなら、それをあなたの手札に加える。この能力は、毎ターン2回しか誘発しない。
3/4

対象になった時の能力が自分のクリーチャー全体に付与からナドゥ自身が持つだけに変更された。
これにより《棘を播く者、逆棘のビル》+フェッチランドのような組み合わせでの爆発力が大きく弱体化された。
とはいえ優秀なサイズと緩い条件で誘発する強さ自体は保たれているので、ようやく健全なカードに落ち着いたと言えるだろう。
なぜ最初からこうならなかったのか。



このカードはどのようにして禁止されるに至ったのか?

さて、このカードは単純な強さ以上に「リードデザイナーをして『デザインに失敗しました。』と言わしめた」という点が話題となった。
このレベルの「反省文」が出されるのは《王冠泥棒、オーコ》ぶりとさえ言える。

では、どうしてこのようなカードが作られてしまったのか。
その流れは以下のようになっている。

ナドゥは元々、プレイテスト段階ではこのようなカードとしてデザインされていた。

有翼の叡智、ナドゥ(プレイテスト) / Nadu, Winged Wisdom(playtest) (1)()()
伝説のクリーチャー — 鳥・ウィザード
飛行
あなたはパーマネント・呪文を、それが瞬速を持っているかのように唱えてもよい。
あなたがコントロールしているパーマネント1つが、対戦相手がコントロールしている呪文や能力の対象になるたび、あなたのライブラリーの一番上にあるカード1枚を公開する。それが土地・カードなら、それを戦場に出す。そうでないなら、それをあなたの手札に加える。
3/4

カード化時には持っていない、パーマネントに瞬速を与えて相手ターン中でも唱えられるようにする能力を持っていた。
代わりに対象時の能力は「相手の」呪文や能力の対象になった時にしか誘発しなくなっている。

一見すると良デザインのカードに見える。少なくとも「モダンホライゾン3(MH3)」が想定するモダンの環境においては。
だが統率者戦においてはそうではないと判断された。
多人数戦である統率者戦で、たったの3マナでほぼ全ての呪文に瞬速を与える伝説のクリーチャーは強力かつ煩雑だと判明したのだ*3

ここで統率者戦「だけ」を考えるなら瞬速付与能力を削除すれば良い。
しかし単に能力を減らして終わりだと、本来のターゲットであるモダンでの立ち位置を失う恐れがある。
こうしてモダンと統率者戦のどちらも良いようにとナドゥの能力は修正され、出来上がったのがカード化時のテキストである。

……しかし、この修正が決まった時期が問題だった。
それはよりにもよって最終チェックの会議。つまり刷るまで時間が無い。
その結果、テキスト変更後のナドゥはプレイテストをされることなく出荷されてしまったのだ。

MTGに限らずカードゲームのカードというのは、通常は刷る前に壊れていないかを実際に「デッキにして回す」ことで確認される。
これがプレイテスト段階というものである。
この段階でカードパワーやコンボが著しく強かったり、逆にあまりに弱いカスレアと呼べるようなカードを見つけ、修正していく。

だが、それが行われなかったとすれば?

結果だけ言えば《有翼の叡智、ナドゥ》と《手甲》の相互作用には誰一人として気づくことなくこの世に産み出されてしまったのだ。

普通にセファブレとかあるんですがね……

余談

カードイラストは通常版&エッチング・フォイル版とボーダレス版の2種類が存在する。
通常版は「両手から水のようなものを出しつつ水面を翔けるナドゥ」というまさしく青緑の鳥・ウィザードなイラスト。
対してボーダレス版は「真顔のナドゥのバストアップ」という特徴的なイラストとなっている。
一応「モダンホライゾン3(MH3)」のボーダレス版イラストはどれもその構図ではあるので、ナドゥだけが特段変なイラストにされているわけではない。
だが本人の大暴れ活躍もあって、一度見たら忘れられないイラストとなっている。
ちなみにどちらのイラストでもよく見ると結構筋肉質。3マナパワー3タフネス4も納得のムキムキ具合かもしれない。

「『君たちはどう生きるか』*4の青サギに(構図や色合いが)似ている」という声もあり、プレイヤー間ではそちらのネタも浸透。
「君たちはドゥ生きるか」だの「君たちは(禁止制限告知を)生き残れるか」だの「動画のサムネイルに使いやすい」だの、盤外でもネタを提供していた。

MTG日本公式Twitterで配信されている色々とネタまみれな4コマ漫画でも題材の一つとして使われている。
内容は上記の《春心のナントゥーコ》《手甲》とのコンボをインド映画『RRR』の劇中歌『ナートゥ・ナートゥ』に掛けたもの。
しかし結果としてネタで済まされないものになってしまった。「ナドゥをご存知か?」
これから派生して、プロツアー「モダンホライゾン3」配信では実況・解説がコンボ始動のことを「ダンスバトル」と呼ぶ場面もあった。

ナドゥのマナコストである(1)()()だが、このマナコスト、
……と、大暴れして禁止になったカードが何故かやたらと多い。
そこにナドゥが加わり四天王レベルにまで増えた結果、「(1)()()は呪われたマナコスト」などと言われてしまっている。
《ならず者の精製屋》だけ明らかに単体のカードパワーが低く、四天王呼びをするために無理やり連れてこられた印象が強いのはご愛嬌。

統率者戦で禁止されたのは既に述べたが、その告知の際同時に禁止推奨されたのは《波止場の恐喝者》と、あの《宝石の睡蓮》と《魔力の墓所》である。
特に後者2枚は統率者戦では必須級となっていた上に高額カードであったため、特大の爆弾を投げこまれた形となる。
ナドゥの一件で統率者戦と競技フォーマットの歪な関係と環境が露呈した最中であったため、プレイヤー達は大きな混乱に包まれた。
それはそれとしてナドゥと《波止場の恐喝者》の方の禁止推奨はだいたい妥当と受け止められていた。



追記・修正はプレイテストを行ってからお願いします。

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最終更新:2025年04月12日 09:51

*1 ちなみにこのカード、日本語的には「てっこう」読みが正しいのだが英語版では間違った読みで名付けられてしまっていたりすることで有名。しかもイラストに映っているのは「手鉤(てかぎ)」というまた別の道具であったりする。

*2 簡潔に言うと、1vs1で行う統率者戦に近い形式のフォーマット。

*3 類似した能力を持つ《クルフィックスの預言者》がすでに統率者戦で禁止推奨となっているのでこの懸念自体は妥当ではある。

*4 2023年7月14日公開のスタジオジブリ制作映画。青サギの顔面アップのみが映る劇場用のポスターが公開前に話題となっていた。