ポリマーフレーム(銃器)

登録日:2011/03/18(金) 22:42:31
更新日:2025/07/03 Thu 05:44:49
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誕生当初は金属と木材製であった銃も、技術革新と共に材質も見直されつつある。
ここではその材質の一つであるポリマー素材とそれを用いたポリマーフレームについて述べよう。



概要

ポリマーとは合成樹脂、所謂日本でいうところのプラスチックのこと。
ジュにおいてはベークライトや強化プラスチック、ナイロン素材などを指し、それらを外装に使う場合ポリマーフレームと称される。

材質としてのポリマーは正確には『重合体』あるいは『高分子化合物』の事を指す(某タツノコプロのヒーローではない)。
おむつの吸水部とか衣服、タイヤなど多岐多様に用いられる。
ロジン(野球の投手がぱふぱふする白いあれ)や天然ゴム、アスファルトなどは天然樹脂。



歴史

銃火器は銃身を中心に強度と耐熱性を要する工業製品ではあるが、それほど強度を必要としない部品も少なくない。例えばグリップやフォアエンド、ストックなど元から木製が採用されることがあった個所である。
一方で、ポリマー素材も技術革新により耐熱性を高め衝撃に耐えうる素材*1も発見、発明され始めていた。
そしてH&K社のVP70にてフレーム(レシーバー)までも一体成型とすることに成功する…が、銃自体の性能や特性での問題により一般には受け入れられず、商業的には奮わなかった*2

ポリマーフレーム拳銃初の成功作はオーストリアのグロック17だろう。
同社はもとより軍に納入していたものの、これまで銃製品を販売していなかった。その分革新的な安全装置と斬新な製法を組み合わせた新しい拳銃を完成させることができた。
初製品という立場でありながら1983年にオーストリア軍にて採用。これにより注目を集め今日まで続くベストセラーとなった。
そして、本銃の成功によりポリマー素材は一躍注目を浴びることとなる。*3)*4



利点

  • 金属と比べて加工の際に大きなエネルギーを必要としない(はんだによるチェッカリングの追加等が可能)
  • 金型を使えば複雑な形状でも大量生産がしやすくコストダウンにつながる
  • 金属と比べて軽い
  • 熱伝導性が低く、射手が火傷や凍傷を負いにくい
  • 樹脂に着色すれば迷彩を施すことができる。塗装ではないので剥げず、カジュアル面でも需要を拡大できる(砂漠迷彩やFDE、子供向けのピンクなフレームまで)
  • 悪環境でも劣化しにくい。鉄の様に錆びたり、木材の様に腐ったりしない
  • 撃った時に微妙に変形してくれるので、リコイルがマイルドに感じる。



欠点

  • 樹脂製品自体かなりハードルが高い
 -原材料として石油が必要で、それらの供給能力(自国産出、精製もしくは輸入できる国家関係)がないといけない
 -生産/加工にも相応以上の技術力・資金・設備を要する*5
 -化成品のため、必要な条件を満たす樹脂の配合を開発するのが難しい*6
  • 金属に比べて剛性が低く、強度を確保するために大型化してしまいやすい*7
  • 熱に弱く、工夫もしくは運用上の制限を要する*8
  • 短期的な劣化は起こりにくいが、歴史が浅いため数十年~百年単位での経年劣化については未知数。同様の理由で、想定外の問題が発生する可能性がある*9



現在

メリットの認知に伴い各国各社から次々とポリマーフレームやポリマー素材を使用した銃が開発・生産されている。
グロックに近しい機構を持つポリマー拳銃をS&W、SIG Sauserその他各社こぞって開発。ポリマーフレームは実質的に拳銃のスタンダードになりつつある。
突撃銃ではAUGが成功を収め、他にもポリマー素材を用いたものも現れている。
今のところ、拳銃や突撃銃など比較的小型な銃器に採用される傾向が多い。強度が必要な対物ライフルや重機関銃など大型銃器のフレームは金属が主流である。

H&K社はポリマーが大好きなようで、多くのモデルを出している。
グロック17の成功を受けて再び開発に着手しUSPを発表。G11やUMPでもポリマーフレームを採用している。
さらには、これまでレシーバーのみの使用だったところをハンマーや機関部にも用いるようにしたG36も発表した。

こうしてポリマーフレームは今も進化し続けている。

近年では3Dプリンターの発達・普及により3Dプリンター製の実銃パーツ(金属含む)が販売されている。
図面へのアクセスが比較的容易にできてしまい、ミャンマー反政府軍などでは銃身など以外すべてプリンター製の短機関銃が使い捨て同然で運用されている。
無論日本では実包を入手できなかろうがなにかしらの法にふれるので図面の入手などは絶対にやめよう。



主な拳銃

オーストリア

  • グロックシリーズ
  • ステアー M

ドイツ

ベルギー

チェコ

  • CZE Cz75(一部モデル)
  • Cz P10

イタリア

  • ベレッタ9000s
  • ベレッタ Px4

アメリカ

  • SIGSAUER Pro
  • SIGSAUER P250
  • SIGSAUER P320
  • スタームルガー LCR(リボルバー)
  • S&W シグマ
  • S&W M&P

その他


上記以外

オーストリア

  • ステアーAUG

ドイツ

ベルギー

イタリア

  • ベレッタCx4

その他

  • ステアーTMP/B&T MP9(スイス)
  • KBP PP-2000(ロシア)



余談

  • プラスチックだから金属探知機に引っかからない?
否。銃身に機関部はもちろん、弾薬も金属なので確実に引っかかる。
尤もX線検査では形が映り難い(内部構造だけが映るのでただの針金細工か何かと勘違いし易く短時間で多数の荷物を検査しなければならない搭乗手荷物検査などでこれを「銃である」と即時判断するには無理が有る)という事で、グロックではフレームの樹脂成型時に造影剤を添加し拳銃の形がハッキリ映る様にしている。

  • ポリマーフレーム拳銃だったとしてもなんだかんだ600~800gにはなるので初めて持つと重く感じるかもしれない。

  • 遊戯銃としては、楽しむ側作る側ともにかなり助かる要素と言える。
日本の法律では全金属製の遊戯銃は実質的に認められていない。規制に適合するには銃口を金属で完全に閉鎖し、白または金色に着色、そして亜鉛以下の強度と定められているので、企業は全金属製のモデルガンの販売にかなり消極的。スライドだけを交換したハーフメタルですらグレーゾーンである*10
しかしポリマーフレームの銃であれば、そもそもがプラスチック製。「感触が本物と似てればなぁ」なユーザーも納得のブツが手に入るのだ。
その一方で、トイガンの設計段階では従来とは異なる部分が出てくる。本物もトイガン同様に外装を射出成型で作っているという話になるため、パーティングラインやゲート跡といった「射出成型の痕跡」が邪魔者から一転、本物らしさを表現する重要な手段に変貌することとなる。よって、ポリマーフレームの銃のトイガン化に際しては金型分割やランナー配置を可能な限り本物に似せ、リアルなパーティングラインやゲート跡の再現に努める必要が出てくる。実際にTMP・SPPシリーズ(KSC)やグロック19(東京マルイ)等、宣伝文句でパーティングラインのリアルさを謳った例がいくつか存在する。



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最終更新:2025年07月03日 05:44

*1 エンジニアリングプラスチック等々

*2 同時期にはほかにもTKB-022Pなど樹脂製レシーバーの銃は存在する

*3 よく「ポリマーフレーム拳銃はグロック17が元祖」という人がいるが、 。 。大事な事なので二度(ry

*4 しかしVP70では内部に金属を埋め込んだ状態で成型しているので、そのような構造ではないグロックは世界初の純ポリマーフレーム拳銃といえるかもしれない

*5 密造がしにくいという利点にもなる

*6 故に高性能な樹脂は高価なことが多く、安価という利点を潰してしまいやすい

*7 レーザーサイト等をレールマウントに固定するためにネジを締めたら形が歪んでしまう等が発生する

*8 M16では内部にアルミ製のジャケットを用意。AKでも純正のポリマーハンドガードでは連射に耐えないとしてサードパーティーであるZenit社が金属製の同等品を販売している

*9 実際、グロック17の最初期の個体などは発売から30年以上が経過して劣化してきているとか、G36の樹脂部品が高熱で歪むとか、少なからず問題が報告されている(いずれも製造元は設計上の欠陥ではないとしており、裁判で勝訴したものもある)

*10 ハイキャパシリーズ(東京マルイ)やSTIシリーズ(KSC)、SVインフィニティシリーズ(ウエスタンアームズ)といった所謂「2011系ガバメントクローン」は、一見すると工場出荷状態で「フレームだけ金属のハーフメタル」であるかのように見える。しかし、これらは引金やハンマースプリング、シアスプリングといった引金・撃発機構の重要箇所をグリップで保持する構造上、金属フレームのみでは機関部を構成できないためハーフメタルには該当せず、金属製グリップを装着しない限りシロとなる。