The Gears of Destiny - 結成!ガイアセイバーズ ヒーロー最大の作戦 - ◆gry038wOvE
「てめぇ、石堀、コノヤロー! ……ずっと、俺たちを騙してたんだな!」
顔を真っ赤にして怒る暁の前には丸いトランプカードが大量に散乱していた。
裏切り。その行為に憤る暁の姿は、まさしく普段の彼とは全く異なる面持ちだっただろう。
当人が見られたくないと言うその怒り顔──それが今。
「イカサマ野郎!」
ポーカーのイカサマを発見した事で、爆発する!
あの不自然なロイヤルストレートフラッシュを怪しく思った暁がカードを一枚一枚並べて確認した。その結果、疎らな五枚のカードが欠損していた事が判明する。
そして、そのカードは、すぐに石堀の袖の中から出てくる事になった。勿論、全く見当違いなカードばかりのブタである。記号も数字もかけ離れており、ワンペアにさえならない。
「カード五枚、はじめに隠してやがったな!」
要するに、石堀はロイヤルストレートフラッシュを袖の中に隠して、手元に来たブタと交換。それで暁から勝利していたのである。
まあ、ギャンブルではなく、遊びのポーカーだったので、そのくらいはいいのだが、やはり暁としては何度も如何様に引っかかっていたと思うと腹も立つ。
石堀に対する怒りは、ここまで本気で悩みぬいた気持ちあらばこそである。
「くそ……頭来た! ぶっ潰す! 燦然!」
燦然とは(ry
暁はシャンバイザーを出現させ、即座に超光戦士シャンゼリオンに変身し、石堀を襲う事になった。パンチを見舞うか、シャイニングブレードを取るか……という少しの悩みの間に石堀がごく冷静な対処をする。
「次郎さんが大変なんじゃなかったのか……? 変身!」
──Acc(ry
仮面ライダーアクセルへの変身だ。手元に対抗手段があるのだから、自衛のために使わない手はない。エンジンブレードを片手に構えるなり、シャンゼリオンはシャイニングブレードを取り出した。
狭い一室で、シャンゼリオンと仮面ライダーアクセルは対峙する。
エンジンブレードとシャイニングブレード──二つの刃が今、ぶつか
「あ・の!」
……ろうとしたところでラブがややご機嫌ななめな声で二人に呼びかけた。
当たり前である。プリキュアでもこれはキレる。女神でもキレる。
「本気でやめてもらえませんか!? 空気読んで!」
眉を巻いたラブのその迫力を前に、シャンゼリオンとアクセルはすぐに変身を解き、カードを片付け始めた。
角のないこの丸いトランプカードは、やや片づけにくく、手間取っているようだ。
ラブはそんな姿をあきれ果てながら見つめていた。
★
良牙と鋼牙が、三人があまりに遅いのを気にかけて二人を探しにやって来ると、そこには手遅れの遺体があった。
わずかな間でも共に戦った仲間の体を象っている物体。命や魂なる物がどこにあるかはわからないが、一目見て、何となくそれがないのだと実感する。今日一日、ここにいる者に備わり始めていた技能である。
傍らで泣くつぼみに声をかけられるはずもない。良牙はこんな光景を見るのは、もう三度目だった。──美樹さやかの時と、大道克己と村雨良の時、そして今。
霊安室にいるはずの三人が何故こんな所に来たのか、それは今訊く事ではないようだった。
「……手遅れだったか」
鋼牙が無力な自分を祟るような言葉を告げる。一見すると無表情だが、内心では深い後悔の念と苛立ちもあった。刻一刻と、自分の中に迫っている「死」を明示する出来事だった。それは死に至る病なのだと。
このままでは鋼牙自身も危ういという事実が、改めて目の前にはっきりと表されたようだった。
「なあ、どうして死んじまってるんだよ……! なんでこんな所に……!」
良牙は、傍らのヴィヴィオに問うた。霊安室にいたはずの彼女がこんな所にいる事──それが彼には疑問でならなかった。あらゆる部屋を探して、その結果として良牙たちはここに足を運んだ。何故こんな事になっているのかは良牙とて知る由もない。
言いようのない複雑な気持ちが喉のあたりから噴き出す。良牙も彼女とはあまり長い交流はなかった。ただ、良牙も、なのはの命の温もりは確かにその背で感じた事があった。今は着々と彼女の体からその温もりが消えている。
人の姿になった彼女の体は消滅しない。だんだんと冷えていき、固くなり、安らかな寝顔にそっくりな物を見せてくれるだけだった。
「私が説明します」
ヴィヴィオが立ち上がる。
それは、ここに彼女を連れだし、結果的に死期を早めさせた人間としての責任だ。
そして、つぼみも──泣きながらではあったが、事実を共に述べた。彼女にも、止めなかった責任はあった。彼女の状態を知ったうえで……という点で、つぼみの罪はヴィヴィオよりも重いかもしれない。しかし、罪のなすり合い(というよりは被り合い)をすべき場面ではなかったし、実際にそれに応じたのはなのは自身だった。
ゆえに、これは仕方のない事故であるともいえた。そうして処理するのが、無法地帯では最も簡単な判決であった。司法的な正義よりは、感情に依る正義の裁きが、彼女たちを数分の涙だけで許した。
その場所には、残念ながら、一人また死んだ──という事実だけが残った。
☆
美希とつぼみが注文通りに淹れたコーヒーと紅茶を、会議室では皆で口にしていた。
ヴィヴィオだけは、ホットミルクであった。──その味気のないミルクに、彼女は何を思い出しているのだろうか。そこにキャラメルの風味が微かにでも入っていれば、ヴィヴィオは寒い冬の夜の事でも思い出すだろう。
今は、それよりは少し落ち着いていたが、また目の前で死者が出て、霊安室に安置される遺体の数が増えた事に対する落ち込みがあった。
「……ういーっす。帰ったぞー……」
会議室に入ってくる人間が、プラス三人。
左翔太郎、フィリップ、佐倉杏子。その表情には、余裕さえ感じられる。
孤門は勿論、彼らが来るのを窓から見ており、彼らがバイクを一台運んでここにやって来た事までしっかりと把握していた。監視係としては、だんだんと細かい情報も記憶できるほど注意深くなっている。ただ、やはり夜ともなると見えにくい物があるので、少し不安げでもある。彼自身は気づいていないが、そうした臆病さも精神的に注意深い監視を意識させていた。
「お。ちゃんと来たのか。……あとここにいないのは、えっと……」
翔太郎は、つぼみと良牙と鋼牙に目配せする。誰か足りないような気がするが、他に来ていない参加者がいないか思い出している最中に、フィリップは横から口を挟んだ。
「残る参加者は、石堀光彦、黒岩省吾、ゴ・ガドル・バ、正式名ダークプリキュア、血祭ドウコク、涼村暁、天道あかね、桃園ラブ……そのうち友好的なのは、五人。石堀光彦、黒岩省吾、涼村暁、ダークプリキュア、桃園ラブだけだ。結城丈二と涼邑零は、現状では残っている彼らを探しに向かっている」
彼はまるで台本を丁寧に読み上げるように、一度もつまらず滑らかにそう言った。
言い終える前に、少しばかり周囲の反応が暗くなったのを、フィリップは見逃さなかった。
どういう事か気になったフィリップだが、解答は先に孤門の口から出てくる。
「……いや。残念だけど、ダークプリキュア、いや、月影なのはという子は……もう」
孤門もここであらゆる人から事情を聴いた。「ダークプリキュア」は「月影なのは」となった事は良牙から訊き、その矢先、こうしてン・ガミオ・ゼダとの戦いで負った微かな傷が災いして、死に至る羽目になった事はつぼみから、最期の戦いについてはヴィヴィオから訊いたのである。
孤門たちは、そうしてまた死人が出てしまった現実を重く受け止め、残り参加者がまた減っている事を悲しんだ。
まさしく、彼らの帰還はその直後の出来事だったのである。
「そうか……」
翔太郎、フィリップは彼女の事を少なからず知っていたので、少し落ち込んだ。
いつきによって、やっと届けられた思いが潰えたという事である。一つの命が絶える事は、そこに込められた親たちの思いまで消されてしまう事だ。実際、親の想いの深さというのを、フィリップは厭と言うほどよく知っていた。
いつきは、月影なのはの「ゴッドファーザー」である。その想いが僅か数時間保たれた後、結局、託された側の死という結末に終わった。それでも、その数時間だけで彼女は満足するだろうか。彼らには結局のところ、それはわからない。
「ちょっと待て。……おまえは誰なんだよ」
良牙がフィリップに訊く。そういえば、つぼみと良牙と鋼牙は、まだ彼の事を知らなかった。フィリップ側からは面識があるので、つい忘れがちだ。
「……そうそう、まだ自己紹介をしていない相手もいるから、何度目かになる人もいるけど、言っておくよ。僕の名前はフィリップ。初めまして、よろしく」
良牙たちの方に顔を向けて、フィリップはそんな自己紹介をする。
その名前に僅かなどよめきが走る。翔太郎のドライバーの中にいる存在だと思っていたが、実在人物だったらしい。どこかから助け出されたのだろうか。
同じように自己紹介で佐倉杏子が口を開こうとしたところで、横から一也が邪魔をした。
「フィリップくん。結城丈二については何故知っているんだ? この近くにいるという事もないだろう」
レーダーハンドで捉える事がなかった結城丈二、また涼邑零の動向を知ったフィリップに、一也はそう問いかける。
考えられるのは、遠距離から通信、交信をしたパターンだろうか。
しかし、フィリップは述べる。
「それを話すと、喜んで自己紹介どころではなくなってしまいます。良いニュースを伝えるのは、ひとまず自己紹介を終えてからにしましょう。……その方が礼儀的だ」
フィリップの言葉は、それに関しては妙な自信に満ち溢れていた。
翔太郎も同様だ。……彼らは、何か一つは良いニュースを届けに来たらしい。彼らはどうやら、旅先で悪いニュースは持ってこなかったらしい。こちらが悪いニュースばかりである事に比べれば、その方がずっと立派に見える。
「ほら、杏子。まずはお前からだろ」
「あ、ああ……。あたしは佐倉杏子。よろしく頼むよ」
そう言われて佐倉杏子は、八重歯を見せて、ぎこちなく笑う。翔太郎にはその笑みの意味もわかる。その笑みは、いずれ自分の運命がどう転ぶかわからない不安を隠す仮面に違いなかった。
こうして多くの人と関わるだけ、その不安は膨れ上がっていくようでもある。しかし、そんな彼女の様子など知る由もなく、自己紹介は続く。
「……私は花咲つぼみです。よろしくお願いします」
「響良牙だ」
警察署に初めて来る二人も、同じように自己紹介を始める。良牙は、相変わらずつっけどんとした態度であった。
ともかく、これで十。お互いの名前を知り合った人間同士だ。
ここまで随分とゲームを続けてきたが、翔太郎にとっても、この人数で集合できる機会というのはなかなかに少なかったように思う。……そして、これだけの人数を相手にフィリップがやらなければならない過酷な仕事も、突き出されたらしい。
☆
「……さて、それじゃあ、話を続けさせてもらうよ」
誰も、フィリップが話を続ける事には異論はないようだった。
フィリップは沖一也の方に体と目を向ける。誰もが、その方へと何となく耳を傾けていた。
「沖さん。……それに、皆さん。第一回放送の時のボーナスを覚えていますか?」
先輩である一也の手前か、探偵のような口調で語らいだしたフィリップ。
それは、ある種の雰囲気作りのようだった。一也は、それに揺らぐ事なく答える。
「ああ……。ここにあった時空魔法陣だな」
「それです。結城さんは、その時空魔法陣の設定を変更できる権限を得たのです。ある条件とともに……」
「ある条件?」
「首輪を解析し、取り外す事です」
そこにいる全員がざわめいた。彼ら三人が妙な自信を持ってここに来ているのは、そのニュースを告げられるからだったのだろう。
そう、それは平たく言えば、既に首輪を解除する技術者が出たという事だった。それは確かに、この上なく嬉しいニュースに違いない。首に繋がれた爆弾を取り外すだけでも、ひとまずの安心は得られる。主催に反抗する行為そのものも案外楽になるというものだ。
「僕たちは首輪の解除方法をメモした紙を結城さんから預かってきました。これを使えば、間違いはありません」
「……見せてくれ。先ほど、俺も首輪の解除に一度失敗してしまった。一応確かめさせてもらう。もし、メモと実際で構造が違えば、すぐにわかる」
フィリップは、ポケットから、丁寧に畳んだ紙を取り出した。首輪の解除方法が書いてあるメモに違いない。一也は、それを受け取り、広げた。
一也は端から端まで、そこに書いてある絵や言葉に目を向ける。
「なるほど……。確かに、俺がさっき見た内部構造と全く同じだ。……俺にも全くわからなかった部分に対しても面白い考察が書かれている。流石結城さんだ」
「僕とあなたでこれを解除しましょう。ここにいる全員分です。それぞれ五人分ですね。少し神経のいる作業になりますが……」
フィリップはそう嬉しそうに告げたが、一也の中には少し迷いも生まれた。
自分に解除できるのだろうか、というものだ。
先ほどの爆発。……あれは、幻ではない。もし、手元が狂えば、あれと同じく仲間の首元で大爆発が起こるというわけだ。
そう簡単に受け入れられる作業ではない。一回でもかなり神経を使いそうなものを、五人、六人ともなると簡単ではない。
「……悪いが、少し待ってくれ」
いくら技術者といえど、こんな危険な個所に取り付けられた爆発物を相手に、そこまで細かい作業をした事はない。
安易にそれを呑めば、かえって危険な事に違いはない。
一也、フィリップ、結城といった極一部以外にも、もっと有能な技術者がいるとするなら話は別だが、残りの人間に機械工学への精通データはない。いずれやらなければならない事には違いないのだが、案外難しい話だ。
「俺もそこまで落ち着いてはいないんだ。……みんなもそうだろう。そうすぐには解除の準備に取り掛かれない」
一也の真面目な表情は伝わってくる。それは当然と言えた。
フィリップのように強い好奇心が心の殆どを占有しているわけではない。一也の強い責任感は、あまり安易な行動をとらせなかった。フィリップもその気持ちを理解する。
彼とて、少しは悩んだ。フィリップが最初に解除する事になる首輪が誰のものかは、とうにわかっていたからだ。その人物の命をなくしたくはない気持ちがあり、首輪解除を行う勇気を、その人物の命の重さが邪魔しているようだ。
「……そうですね。できれば放送を越えたらすぐにでも解除したいところですが、僕も放送を終えてすぐに解除……というわけにもいかないでしょう。ただ、僕はここまでの道のりで、首輪を外す覚悟らしいものは決めておきました。それは彼も同じです。……だろう? 翔太郎」
そう、彼が真っ先に首輪を外す事になるであろう人物は、左翔太郎であった。
佐倉杏子の場合は、ソウルジェムに装着されている分、作業がやりやすいだろうが、いきなり小さな首輪から解除する事になるのは危険とも言える。
他の人間からでは、フィリップに命を託せるほどの信頼感はない。ましてや、いきなり沖一也など相手にして失敗してしまえば、その後の解除はフィリップ一人で行わなければならない。
そう、翔太郎の首輪を外す……それが、彼が最初に責任を果たすべき決断だ。
いくら、結城丈二が鏡を見ながらできるような産物であるとはいえ、フィリップにとって最初の一回、それも大事な人の命を握った首輪解除──緊張しないわけがない。
「ああ……ここに来るまでに覚悟は決めてある。こんな時も、俺は悪魔と相乗りしてやるよ」
翔太郎の覚悟。──それは、フィリップとともに仮面ライダーダブルとなったあの夜から全く変わらない。しかし、翔太郎も息を飲んでいた。目だけは本気だ。
フィリップが最初に解体する首輪のサンプルは、そこにしかない──ここで成功すれば、次からもっと楽になるのだ。
「あ、あの……ちょっと待ってください」
と、その時、つぼみが制止した。
「首輪なら、私が一つ持っています。まずは、これをお願いします」
つぼみが、ドウコクの所持していたデイパックを拾った時に出てきた首輪だ。
その中に入っていた、一つの首輪が彼らの手元にあった。人体やソウルジェムとくっついていない首輪ほど楽な物はない。
フィリップが、それを受け取る。
「……わかった。ありがとう。構造を知ったうえでどれくらい時間がかかるか、試しだね」
まずは、これである程度の要領を得てから……という事になる。
それだけで実際の首輪解除も随分と変わるだろう。
ともかく、翔太郎はそれだけで少しほっとした。フィリップはすぐにでもその首輪の解除に取り掛かりたい気持ちがあるようだったが、……やめた。
まずは、ここで必要な情報も得ておかねばならないと思ったのだろう。
各々は支給品の確認や、これまでの経緯で互いに知らない事を話し始めた。
☆
杏子の手に握られているのは、バルディッシュと呼ばれるインテリジェントデイバイスだった。良牙の手からヴィヴィオに渡されようとしたバルディッシュが彼女の方に目を付けたのだ。
バルディッシュにとっては、ヴィヴィオは全くの初対面であり、また、高町なのはともこれといった面識がない。……そのために、現状でバルディッシュは、翔太郎又は杏子と言葉を交わさなければならないのだ。
特にバルディッシュ自身やフェイトとのかかわりが強い相手は、杏子であった。
「よぉ……久しぶり」
杏子の言葉はぎこちない。とうのバルディッシュは、杏子に疑いのまなざしを込めていた。
無理もない。バルディッシュが知っている杏子は、フェイトとともに優勝を狙い、集団の中に紛れ込んで協力するフリをして潰し合おうとした過去がある。
ただ、一方で、杏子自身がフェイトと一緒に、ある程度コンビネーションを発揮していたのも事実だ。本来的な優しさはバルディッシュも何となくは見抜いている。
しかし──だからといって、殺し合いに乗っていないとは言い切れないのだ。参加者ではないバルディッシュには関係のない話かもしれないが、一応警戒だけは忘れなかった。
「……バルディッシュ、だったな。フェイトの事はすまねえと思ってるよ」
果たして、それが真実なのか否か、それを判断する術はバルディッシュにはない。
杏子のスタンスを考えてみれば、彼女はできうる限り外面を取り繕う必要があるはずなのだ。そう、たとえ藁を掴んでも。
『It’s water under the bridge.(もう過ぎてしまった事です)』
「過ぎた事って……それでも」
バルディッシュの突き放すような態度に、杏子は戸惑った。
それは、会話自体を拒否しているかのようにさえ思えた。杏子のもとに身を寄せたのはバルディッシュであったが、杏子を観察しても結局今の彼女のスタンスがどういったものなのかはわからないといった様子であった。
杏子の眉が少し頼りない表情を形作った。
そんな杏子に弱みを見つけて、そこに叩き込むように一言、バルディッシュは正直な言葉を投げかけた。
『I can’t believe in you.(私はあなたを信じる事はできません)』
ただ……その言葉と共に、もう一つの正直も重ねた。
『But I will tell you this.(しかし、これだけは言えます)』
バルディッシュとしても、一つだけ杏子に言いたい事があったのである。
『You and Fate were good partner.(あなたとフェイトはとても良い相棒だった)』
それだけはバルディッシュにも確かに思えた。
それが、信用の置けない杏子の手に、あえて居ようとする意味であった。
☆
良牙の所持していたメモリガジェットの類は、すべて翔太郎とフィリップに渡された。
必要があるか否かはわからない。しかし、evil tailや霧彦の遺品も手渡され、大道克己と関連する物以外、あらゆる支給品が翔太郎の手に渡る。霧彦の遺品は、全て彼の故郷に返さなければならないだろう。それが出来るのは彼らだけである。
「……探偵七つ道具、着々と俺の手に戻ってきてるぜ」
翔太郎はそう陽気に言いつつも、スタッグフォンが手に入った事で、鳴海探偵事務所から便利なアイテムが呼び出せるようになった事に安堵する。
結城丈二が見たがっていた物だが、流石にいまそれを機動させる必要はなく、かえって勘付かれて面倒事を引き起こしかねないので、翔太郎は今は呼び出すのをやめる事にした。
「翔太郎、だんだんといつもの僕たちに近づいて来たね」
「ああ、俺たちが持てる力の全てが結集しつつある……」
ただ一人、そこに、照井竜という男の力がないのは残念であった。
メモリガジェットやマシンの他に、大事な仲間がいるのが今の仮面ライダーダブルだ。
そのたった一人が欠けただけで、翔太郎の中にはもどかしい気持ちが残る。
せめて、心だけは力になれよと、照井の姿を思い出した。
☆
冴島鋼牙にとって幸運だったのは、リヴァートラの刻が支給品に混ざっていた事だろう。
美希が支給品の山の中から発見した小瓶は、鋼牙にも覚えのある物だった。
リヴァートラの刻。これを飲み干した後、魔導火を使って傷口を消毒すると、傷が治癒する。……そういう道具であった。以前、破邪の剣を受けた時にもこうして対処したのである。
鋼牙はすぐにそれを使って消毒し、何とかひとまず傷口を塞いでみる事に成功した。
『とはいうものの、果たして完治するかどうか……ってところだな』
傷口の消毒は終わったものの、ガミオの攻撃が殆ど正体不明であった以上は、安易に治ったとは言い難い。
鋼牙は勿論、フィリップでさえ検索不可能な領域の技である。
わかったのは、少なくとも生身でガミオと戦ってはならない……という事だけだ。
「完治させないわけにはいかない……絶対にな」
それは、鋼牙の絶対の意思であった。
なぜならば、この殺し合いには────
☆
数時間前。
鋼牙が単独行動を三十分成功させた区間があった。警察署を出てから、ガミオとの戦いに行きつく間の出来事である。
鋼牙とザルバは、森に向かう為、草原を駆けていた。
そこに──
「鋼牙」
背後から呼ばれて、鋼牙は声をかけた。
その声、確かに聞き覚えがある声だった──。
「カオル!?」
そう、振り向けば、そこにいるのは御月カオル。鋼牙が帰るべき場所にいるはずの女性である。
彼女が優しい微笑みで、鋼牙の後ろに立っていた。
何故、こんな所にいるのか……鋼牙は疑問に思ったが、すぐに走るのをやめた。
そして、カオルのもとへと走り出そうとする。
「何故お前がこんな所に……」
『駄目だ、鋼牙! 幻だ!』
近づいたところで、鋼牙を危惧するザルバの一声。
それは確かに鋼牙を納得させる言葉であり、鋼牙は歩みを止めた。
時間を知る。……今、ちょうど三十分。主催側の人間がカオルの姿を借りているのか。
「……貴様はこの声と、この姿ならば必ず反応すると思ってな」
そんな言葉とともに姿を消す、一体の怪人物……。
いや、その姿にも鋼牙は見覚えがあった。カラスの羽で作ったような真っ黒なドレスに身を包んだ、隈のようなメイクの女。
彼の女の名前は、ガルム。
「ガルム……これも幻か?」
『いや……』
鋼牙がかつて所属していた番犬所の三神官が一つになった姿である。
しかし、おかしいのは、ガルムはかつて死んだ存在であるという事──バラゴがいるこの殺し合いではおかしくないが。
「幻だが、ここに我が存在がまた生まれいでた事は幻ではない。この宴の主催者として、話が息子とともに貴様らの姿を見物させてもらっている」
「何だと……貴様らがこの殺し合いを開いたのか!?」
「それは否だ。だが、詳しく答える気はない」
ガルムは鋼牙に対して、確かな敵意を持っている。
しかし、この場で鋼牙を殺すような無粋な真似をする様子はなかった。
ただ、鋼牙に事務的な内容を伝えに来ただけのようである。
「貴様に制限を伝える……それだけの為に」
そこから先は、三途の池や「魔女の結界」が魔界に近い性質を持っており、そこでは鎧の装着にタイムリミットがない事や、魔導馬の解放を宣告されたが、鋼牙は現状でその使いどころを持っていなかった。また、それを信じていいのか否かと言う疑念も鋼牙の中にはあった。
ただ、ガルムとコダマがここで復活している事実は、鋼牙に対しても僅かな動揺を与えた。
いずれも鋼牙と零が二人がかりで苦戦したような強敵である。……果たして、これから小機がどの程度あるのだろうか──。
☆
「奴らは俺たち魔戒騎士でなければ敗れん……」
ソウルメタルを自在に操る事ができる人間でなければ、彼らホラーは斬れない。
ホラーの対抗策は僅かだ。この場に鋼牙と零以外の魔戒騎士が少しでもいればまた違ったのだろうが、他にはもう一切いない。
零は、いずれここに帰ってくる。彼が制限解除でガルムたちの事を知っているか否かはわからないが、一応零にも伝えておかなければならないだろう。
『……ったく、厄介だぜ、本当に』
今後の方針としては、放送を聞き、首輪を解除し、その後でガミオを探して倒し、その後であかね、ガドル、ドウコク、魔女……といったマップ内の敵を、極力和解や共同戦線という形で処理していく事だ。
最後に脱出方法を考え、残る全員での脱出を図る。
ただ、やはり魔戒騎士のような特殊な存在でなければ倒せない相手、というのが厄介である。
「翼のような外部の魔戒騎士と接触できれば楽だが、そういうわけにもいかないらしい……」
『今のところそんな方法はない……。俺たちだけで何とかしろって事だな』
山刀翼や四十万ワタルがいれば、まだもう少し勝機はあったかもしれない。
レギュレイス戦で世話になった仲間と、鋼牙の幼少を支えた師匠だ。
勿論、こんな殺し合いに巻き込まれないに越した事はないが……。
(……リヴァートラの刻で完治したのか、気休めにすぎないならいつまで持つか……というところだな。お手上げだ)
☆
その後、翔太郎は、フィリップ、佐倉杏子、花咲つぼみとともに霊安室に訪れていた。つぼみは、この警察署をまだよく把握していない三人の案内役である。
そこには、月影なのはと呼ばれた少女の遺体のほか、二つの遺体が安置されている。
彼らがここに来たのは他でもない。知っている人間の遺体を前に、焼香し、手を合わせる為である。
そこまで多く一緒にいたわけではないとはいえ、せめてもの手向けと言うものだ。
(「狼 グロンギ」で検索してもダメだった……あったのは赤い紋章だけ)
遺体を前にも、翔太郎はガミオの毒への対抗策を考えている真っ最中であった。
もう一人、冴島鋼牙がガミオによって攻撃を受けている。
孤門の指示では、結城や零が帰った後は、ガミオの討伐が最優先事項との事だったが、果たして鋼牙の体がどのような状態なのかは依然として不明だ。
対抗策が僅かにでも浮かぶならばともかく、フィリップの検索を以てしても、彼女の仇を取り、鋼牙を救う術はわからない。それは孤門は勿論、全員がお手上げであった。
ただ、鋼牙自身は、辛うじてある程度の強さを持ち合わせた人間であった。
魔戒騎士──と呼ばれる特殊な職である事が幸いしたのだろうか。ただの人間の女になった月影なのはとの決定的な違いだろう。
ただ、やはり鋼牙には今後、戦闘を避けてもらわねばなるまい。
「……コイツ、ここにいたのかよ」
月影なのはと一切交流のない杏子がここに来たのは、暁美ほむらの遺体確認の為だった。
推察はついていたが、断定はされていない状況だったが、それが暁美ほむらだというのはここで確定した。
杏子も知っている魔法少女だが、こんな所にいるとは思わなかった。
「あの……杏子さん」
「ん。なんだよ」
つぼみが声をかけて、杏子が振り向く。
「その方ともお知り合いで、さやかともお知り合いなんですよね?」
「ああ。……まあ、確かに」
杏子はわざとらしく視線を逸らした。
あまり、美樹さやかの話はしたくない。この杏子は、さやかとは良い関わり合い方をしていなかった。元の世界でも殺し合っていたくらいである。
考えを改めた今ならまだしも、さやかとの最後のコンタクトは最悪の思い出となってもおかしくないレベルのものだ。
「さやかはどんな人だったか……杏子さんはわかりますか?」
「あー、いいから、あたしも杏子で。同じくらいのトシだろ? 別に呼び捨てでいいっての」
「そうですか。じゃあ、杏子。……私、ここでさやかに会ったんです。でも……そんなに長い間は一緒にいられなかったので」
杏子は、そう訊かれて少し悩んだ。
やはり、良い言葉は出てこない。ありのまま、自分の認識しているさやかの想像を、相手に悪い気をさせない程度に話した。
しかし、内容は、悪い気をさせてもおかしくないようなものであった。
「……どうしようもない変わり者さ。自分の為だけに生きてりゃいいのに、いちいち他人の面倒見たがる。どうせ、ここでもそんな風に死んだんだろ……あいつのことだしさ……」
──ふと、杏子が勝手な推察をするように、そう言った時。
つぼみも、杏子も──背筋が凍るような思いをした。言わなければよかったのではないか、という後悔が一瞬、杏子を襲う。
「……」
つぼみは、杏子の言葉が全く見当はずれになってしまった事を思い出した。さやかはそんな生き方を貫く事を望んでいたはずだが、それは叶わず、むしろ一人の人間の命を奪って自分も命を絶つ結果に終わってしまった。
杏子は、さやかが魔女になるという事を思い出したのだ。ソウルジェムが穢れると魔女になる仕組み……それは、さやかがまだ完全には死んでいない事、いや……さやかがまだこの後に及んで利用されるという事だ。
お互いに黙る。
「……そうです。さやかは、最後まで誰かの為に何かをしようとしていました……」
そう言うのが、つぼみにとっても精一杯だった。嘘をつく事はできないが、それでも、本当の事を言い切る勇気が出ないジレンマ。
そんなつぼみの姿に、杏子は何も言えなかった。杏子は、きっとつぼみがさやかの死に様を思い出して暗くなっているのだろうと勘違いしていたが、その結果、杏子はつぼみに告げるか否かの迷いを持っていた。
……さやかも魔女になる。
いずれ倒さなければならない障壁となる。
つぼみは、それを倒す事ができるのだろうか。
杏子もまた同じく……それを倒さなければならない。
「……杏子」
翔太郎が、労わるような優しい声で杏子を呼んだ。
しかし、そうして何か意味深な言葉を勘ぐられるのを嫌い、杏子は言い直した。
「……行こう。もう放送も近づいてるし、十分前には戻った方がいいだろ?」
杏子が、話題を遮るかの如くそう言う。
魔女。
その二文字が、杏子を壊そうとしている。それを急いで直さなければならない立場にあるのが、翔太郎とフィリップだ。
二人は焼香など全てを済ませたが、すぐに戻らなければならないようだった。
「あの……翔太郎さんたちにも一つ、訊きたい事があります」
つぼみが去りゆこうとする翔太郎に声をかけた。
翔太郎は立ち止まるが、つぼみは歩く体制を取ったので、歩きながら話す事にした。
「なんだ?」
「仮面ライダーエターナル、大道克己さんの事です」
「大道の?」
翔太郎がそう言う隣で、フィリップが少し表情を険しくした。
大道克己をよく知るのは、翔太郎以上にフィリップである。
しかし、まだ余計な口を挟む事はしなかった。
「あの人は、この戦いに乗っていました。しかし、あの人はそれだけじゃないような気がしたんです……」
「何だと?」
「……悲しい目をしていました。そして、私たちに、『財団Xを潰したいなら早く行け』と……そう言い残しました」
財団X、というワードに翔太郎は反応したが、それ以上に、大道克己がそんな事を言ったのが意外で仕方がなかった。
思わず言葉を返したのはフィリップである。
「本当かい? つぼみちゃん」
「はい。……あの人は、もしかしたら心の奥では……大事な人を労わる心が残っていたのかもしれません」
もう間もなく、会議室というところまで彼らは歩を進めていた。
話を切り上げるタイミングというのは、もう間もなくだっただろう。
フィリップは少し思案した。
「そうか……」
「フィリップ……」
「大道克己、彼ももしかしたら、仮面ライダーだったのかもしれない。だとしたら……」
元来、NEVERになる前の大道克己は心優しい少年だったという。大道マリアは、そんな克己の事を取り戻したくて、悪魔のささやきに身を寄せた。その結果が、死者の体を使った、人の心を知らない人形であった。
そして、結末はマリアを射殺する克己の残虐な姿──しかし、今思えば、克己のその叫びは、言いようのない悲しみにも満ち満ちていたような気もした。
「……だとしたら、マリアさんも少しは浮かばれるのかな」
フィリップは、僅かな迷いの後で、そのたった一つの笑顔だけで、大道克己についての必要分の結論をまとめた。
それでいい。今となっては、大道克己が果たしてどんな人間だったのか、彼は知る術を持たなかった。
☆
「……これで十人、か」
蒼乃美希、キュアベリー。
高町ヴィヴィオ、聖王のゆりかご。
佐倉杏子、魔法少女。
左翔太郎、仮面ライダーダブル。
沖一也、仮面ライダースーパー1。
響良牙、仮面ライダーエターナル。
冴島鋼牙、黄金騎士ガロ。
花咲つぼみ、キュアブロッサム。
参加者外では、フィリップ、セイクリッド・ハート、アスティオン、マッハキャリバー、バルディッシュ。
「随分たくさん揃いましたね、本当に」
孤門の周囲にいる仲間たちはかなりの頼もしさを誇っている。
かなりの大チームである。参加者の半数(フィリップを除いた九名)がここに属し、いずれも強い力を持った猛者ばかり。
孤門は残念ながら、彼らに匹敵する力というのを持っていなかった。
必要とあらば、トレーニングルームに置いてある、例の青いソルテッカマン2号機を利用する事ができるが、それもやはり科学の産物で、限界というものがある。これからの戦いをどう生き延びるかという点でもあまり優秀な支給品ではないように見えた。
それから、この殺し合いそのものがこれからどう展開していくのかも少しばかり不安であった。
禁止エリアは警察署の周囲を固めつつある。
おそらく……予想では、次に禁止エリアとなるのは、この警察署があるF-9や、完全包囲を可能とするE-9。それまでに首輪の解除をしなければならないし、その首輪の解除に関する対策を練る可能性だって否めない。
首輪を解除する事ができれば、おそらくは爆死はない。
主催者側も、首輪と無関係に禁止エリアで全員を爆発させる事はないだろうし、これまでのルールを崩す事もないだろう。
現時点で、主催者側はゲームに、プレイヤー外の存在を大量投入しているのもはっきりしている。
例を挙げるならば、ン・ガミオ・ゼダ、二体の魔女、フィリップ……。
ガミオなる敵が既に犠牲者を出している事や、味方四人でかかっても倒せない相手であった事を考えれば、むしろ非常に危険だと言える。
追加された存在(魔女の誕生方法を考えれば、おそらくはこの殺し合いの参加者が何らかの方法で生み出してしまった存在)を含めて考えれば、あまり敵が少ないとも言えない。
要するに、これからも戦いは続くという事だ。
「色んな世界を救ってきた変身ヒーロー、アンド、ヒロイン。歴史に残る一大チームの結成ってわけだ」
翔太郎が隣で言う。
確かに、そうなのだが、例外もいる事をお忘れなく……と孤門は思う。孤門は変身などしない。いわば、ただ巻き込まれた凡人だ。ナイトレイダーの隊員とはいえ……ついていける範囲にはいない。
こうして揃ったのが僅か十名……これから残りの仲間が揃っても十五名だけというのが残念だ。
あらゆる誤解やすれ違いがなければ、もっと多かったかもしれないし、無謀な戦いを挑まずに仲間になれたかもしれない人間はまだたくさんいる。
死に損なった人間の集いであるともいえた。
「これだけいると、このチームを一体どういう風に呼べばいいやらわからないわ……。プリキュアでもない、仮面ライダーでもない、ナイトレイダーでもないし、魔法少女でもない……」
美希が苦笑した。「クローバー」というダンスチームや、「プリキュア」と呼ばれる集団に属し、常に名前のある集団で行動してきた彼女ならではの言葉だった。
魔戒騎士や魔法少女、仮面ライダーといった総称で呼ばれ、基本的に個人の活動が重視される他の数名は特に気にしていないようだったが、孤門は少し気になっていた。やはり、ナイトレイダーA斑のように、一個の集団には名前があるべきに思えた。
「こんな時に何ですけど……チームの名前、考えましょうよ」
「別にいいだろ……チーム名なんて考えなくても」
それぞれ、ヴィヴィオと杏子の言葉だ。
それぞれが生きてきた世界での、それぞれの立場による意見の違いだが、やはりこうした違いも含めて一つに纏めるには、名前が必要だと思えた。今のは些細な意見の違いだが、全く統一感のない連中に、正真正銘フリーな居場所を作ってしまうと、またすぐに破綻してしまうだろう。
孤門が口を開く。
「いや。名前、考えよう。……誰一人欠けてもいけない。これからもっと増やしていく、この戦いを絶対に終わらせる僕たちのチーム名を」
全員が孤門の方を注視する。ここまで積極的に発言する立場の人間だとは思われなかったのか、少し意外そうな表情を浮かべている者もいる。
そんな姿を、孤門は気にも留めなかった。
「僕たち一人一人がこれから集団である事を意識するためには、名前が必要だ。勝手な行動はしちゃいけない。もし、そういう勝手な行動をしたい思いがあったら、心の中でチームの名前を唱えるんだ。そして、冷静になって、自分がチームの一員だって自覚したうえでの行動を取ってもらいたいんだ。……だから、名前をつけよう」
意図を明確に伝え、全員に理解してもらう。
基本的には、ヴィヴィオたちを除いて、それぞれのいる世界は地球の日本だ。そういう意味である程度の統一性はある。民族や国籍が違うわけではないが、根本的な世界の仕組みや時代が違ってしまうと、結局は民族や国籍レベルで違うのと同義だ。それぞれの元の世界での戦いは全く別だ。
たとえば、美希と杏子のように、過去を辿れば全く別の生き方を辿っているかもしれない。
それもひっくるめて、自分たちはチームなのだ。
西条凪の憎しみ、石堀光彦の静けさ、平木詩織の軽さ、和倉英輔の威厳、孤門一輝の未熟さ……あらゆる物を内包しているのがナイトレイダーであるように。
誰かが返事をするまでに少しの間が空き、孤門は少しその間に怖さを覚えた。
最初に、誰かが声を出した。
光を継いだ、佐倉杏子だった。
「わかった。そこまで言うなら、……あたしは乗るぜ。ここであたしたちはチームを築く。この、孤門一輝の兄ちゃんをリーダーにな」
「リーダー……? って、え!? 僕!?」
言われて、少し時間が経過してから思わず慌てふためく孤門であった。
自分自身がリーダーを任されるとは思わなかったのだろう。自分にはリーダーの素質はないのだと、沖一也あたりにでもリーダーを譲りかけたその瞬間。
「適任だ。……俺も乗るぜ」
と、翔太郎が言う。なれなれしくも、彼は孤門の肩に手を回した。その所作に孤門は自分の口をふさがれたような気がした。
「僕たちは運命共同体だ。だから、正しくは『俺たちも乗るぜ』、だろ? 翔太郎」
と、フィリップ。翔太郎の左肩に手をぽんと当てる。
「勿論、私も……!」
と、ヴィヴィオ。慌てて、座っていた椅子から立ち上がる。クリスもコクコクと頷いていた。
「完璧な指示、よろしくお願いしますね」
と、美希。彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべている。彼女は孤門の近くにいるのには慣れており、そのうえで采配は「完璧」であると思ったらしい。
「頼むよ、リーダー」
と、一也。孤門がリーダーに適任だと思ったのは彼だったが、彼が孤門にそう返してしまうと難しい。
「お願いします!」
と、つぼみ。彼女はまだ孤門についてよく知らないが、この信頼感を信じた。
「特に意義は無い」
『俺もだ』
と、鋼牙にザルバ。彼らは極めてクールに椅子に座っていた。彼らもそれが合理的だと判断したのだろう。
「リーダー……か」
隊長、というわけだ。和倉英輔隊長のような立場を、一番力のない自分がまかされている事に少し戸惑いながらも、そうなった以上は仕方ない。
たった一人、孤門がリーダーである事に了承していない男がいるのに気づいて、孤門はそちらを向いた。
「……」
そう、響良牙だけは、少しだけ悩んでいた。
腕を組み、椅子を傾かせ、右足を浮かせている。一見して、彼はその議論に一切興味はないようだった。話し合いという物を嫌う性質の人間だったのだ。
彼は、自分に視線が集中している事に気づいて、孤門の方を向き直し、口を開く。
「……俺は別に、誰がリーダーだろうと、俺がチームの一員にされようと、異議はない。だが……」
彼は、基本的には一匹狼な人間だ。誰かから指図されるのを嫌う。しかし、現状ではここは集団だ。今までも充分に集団行動だったが、その時よりはっきりとした集団行動がここから先にはある。
いわば、「部隊」。生きる為ではなく、戦う為の集団が完成してしまったような気がする。
良牙も戦いは嫌いではない。……しかし。
絶対にしたくない戦いもできてしまった。
「あかねさんを殺せ、とかそんな最悪な指示は絶対に無視するが、構わねえだろうな?」
良牙がギロリと孤門を睨む。
しかし、その言葉の意味を介せば、孤門がその目に怯む理由はなかった。
「……勿論だ。僕たちは、殺し合いを進めるんじゃない。……このゲームを主催した人を倒す為に戦うんだ。救える限りの相手は救う。何かすべき事、やりたい事があったなら、それを言ってくれればいい。リーダーになったなら、命令はするけど……僕は、理不尽な命令はしない」
リーダーとしては、威厳はないかもしれないが……孤門は、チームメイトの我が儘も、できうる限りは聞く気でいる。ただ、最終的な指示を下せる存在として、孤門はそこにいるのだ。
TLTの理不尽な命令に辟易して戦ってきた孤門は、そんなおおらかな隊長であろうとしたのである。
しかし、どうにも良牙は孤門の事を安易に気に入る性質ではないらしい。
「じゃあ、あんたはどんなメーレーをすんだよ。俺もそうだが、仮に乱馬が生きてたなら、命令なんて絶対聞くタマじゃないだろ」
「それは……よくわかってる」
早乙女乱馬という男が、決して安易に縛りつけられない存在だった事は、既に知っている。
いや、その時も孤門一輝は、実質的リーダーだった。自分がもっと強く言っていれば、どうにかできただろうか──と考えるが、それは無理だったに違いないだろう。
協調性という意味では、最低最悪。聞く耳持たず、我が道を行く……そんな存在だ。孤門の事を気に入っているようでもなかった。
良牙も同じような目をしていた。警察署にいたメンバーは、乱馬の事も、そしてああなる前のあかねの事も知っているのだ。それでいて、彼らは止められなかった。孤門たちに対する良牙の心情は複雑に違いないだろう。
「……だから、僕から君への命令は、ほんの少しだけだ」
孤門は良牙の前まで近づいた。
本当は良牙の視線が怖くなりもしたが、一応はリーダーとしての責務を果たすべく、威厳のある姿を見せているのだ。
基本的には誰も孤門を止めなかった。
「一つ。命を粗末にしない事。
一つ。人から預かった物はなくさない事。
一つ。食べ物を粗末にしない事。
一つ。物を買う時はちゃんとお金を払う事。
一つ。悪い事をしたら謝る事。そして……」
杏子が後ろで、薄く笑った。
変わり者の条件を言われて、少し目が点になっている良牙の姿を嗤った。
つぼみと鋼牙も、突如として当たり前の事を言い出した孤門の姿に茫然としているようだった。
「諦めるな……!」
最後の一つは、やはり孤門の言葉そのものだった。
「……それだけが今、僕から君にできる命令だ。悪いけど、リーダーなんて初めての経験なんだ。それくらいしか僕に言える事はない。でも、これだけは絶対に守ってもらわないと困るんだ」
孤門の表情は頑としている。最初にこれだけ珍妙な命令を下すリーダーの目が真剣である事に、良牙も茫然自失といった様子であった。
ただ、良牙も、力でなら孤門に敵いそうだが、何か別の部分では敵いそうにない気がしてきた。
少なくとも、リーダーとしての器は孤門の方が大きいだろう。良牙がもしリーダーになったらこんなチームは破綻するに決まっている。
「……仕方ねえ。本当にそれだけ守ればいいんだな?」
「いざという時の指示は、勿論もっと具体的にする。……でも、あかねちゃんの事は、君に任せる。その為に僕たちは協力するよ」
「リーダーってのはもっとうるさいものだろ」
「そうじゃないリーダーがいたっていいと思わないか?」
そう言われると、良牙は言い返す気力をなくした。
……まあいい。あかねの事を任せてくれるのなら。
対立する理由はなく、むしろこれなら好意的に孤門の事を見られる。
良牙自身も、仮にこの場にいたとして乱馬やあかねの事を止められる力など持っていなかったのかもしれないのだ。……それは仕方のない事なのだと、そう考えよう。
「……わかった。俺もそのチームに入る。あんたの言う事も聞いてやる」
「ありがとう」
孤門は、元の席に戻っていった。
これで、この場にいる全員の了承がとれたと言っていいだろう。
あとは、石堀光彦、桃園ラブ、涼村暁、黒岩省吾、涼邑零、結城丈二も無論、合流次第このチームの一員となる。
「じゃあ、これより、僕たちは共に戦うチームだ。共に生き、共に殺し合いを止める。そのために協力し合い、支え合い、助け合う」
孤門に視線が集まった。
そして、孤門は全員の視線が集中したのを感じて、そこに名前を贈った。
「僕たちのチーム名は……ガイアセイバーズ!!」
それは、かねてより何らかの形で地球を守って来たヒーローたちに贈られるチーム名にぴったりであった。
仮面ライダー、ウルトラマン、プリキュア、魔戒騎士、魔法少女、呪泉郷出身者、魔導師、テッカマン……あらゆる者たちがそこに属しているような気がした。
この十人だけではない。
彼らとともにある人間、全てに贈られる名であった。
奇しくも、そのリーダーとなる男は、「ただの人間」であった。
「ガイアセイバーズ、か……いいじゃねえか」
ガイアの名に縁のある翔太郎は、そのチーム名に不敵な笑みを浮かべて見せた。
★
「……こんな時間に私たちの部屋に何の用?」
何かの間違いが起これば、吉良沢の首元を刈り取る距離に、その巨大なカギ爪は突き立てられていた。ドアをノックし、開けた瞬間の出来事であり、吉良沢は驚く暇もないままに後ずさる。
(う……いきなり攻撃的な態度か……)
息を飲めば、喉仏に鋭利な刃物が当たってもおかしくなかった。
これでは、問いに答える事さえできない。彼は冷静な素振りを見せていたが、内心はその刃に威圧されているだけだった。
「コラ。やめなさい、キリカ。……吉良沢さんは特別よ」
部屋の中から現れるのは美国織莉子だった。このカギ爪は織莉子の前方にて左目で吉良沢を睨む呉キリカから出現している。彼女は魔法少女の力を使い、吉良沢を威嚇しようとしたのである。
おそらくは、彼女たちも主催側に積極的な協力をする気がないのだろう。それは、脂目マンプクや加頭順が部屋に入って来た時のための一撃に違いない。
「吉良沢ぁ……? えーっと……」
当のキリカは全く吉良沢の事を覚えていないようだった。織莉子以外の主催陣の事はあまり深い認識をしていないらしい。白い服の人間が随分と多いので、同じような服を着ている吉良沢は間違えられたのだろう。
……そもそも、織莉子以外の事を彼女が覚えているのかさえ怪しい。そこは服の色以前の問題かもしれない。
とにかく、キリカは魔法少女の変身を解いて、カギ爪を消した。
「で、吉良沢さん。ここへは何の用ですか? 放送担当……の任命というわけでもなさそうですが」
「ああ……少し気になる事があるんだ」
そう言うと、織莉子はキリカを退かして、「どうぞ」と吉良沢を部屋に招き入れた。流石に彼が魔法少女の自分たちに性的な行いを求めてくるわけはあるまい……そう判断したのだろう。
何か重大な用事があると見て来たのだと、すぐに察した。
「じゃあ、お邪魔させてもらうよ」
吉良沢は殺風景な部屋で、団地の一部屋のような本当に必要程度の設備しか備えられていない。女の子らしい飾りつけをする時間もなく、わざわざそんな事をするほどここに押し込められ続けるわけでもない。
お嬢様育ちの織莉子だが、キリカとともに難なくここで過ごしているようだ。
二人の時間を妨害されたキリカが見るからに不機嫌そうな視線を送るが、吉良沢もなるべく無視する事にした。
織莉子は、吉良沢に対しては丁寧に接する。すぐに紅茶を出して、吉良沢に振る舞うのだった。吉良沢は椅子の上に座らされると、一応、紅茶を一口飲む。
「……結論から言うと、この殺し合いが僕たちの世界に影響を与えてしまうかもしれない」
何の躊躇もなく吉良沢がそう言えるのは、織莉子やキリカが比較的冷静に対処できる存在だと思っていたからだ。実際、それを訊いても二人は眉を顰めるだけだった。
「どういう事ですか?」
「まずはこの貝殻を見てほしい。この貝殻は僕の所持品だ。……僕の世界から持ってきた物で、これと全く同じ物が参加者の中に支給されている。種類が同じというわけじゃなく、本当に異世界の同一物だ」
「待ってください。貝殻なんて……」
と、言いかけたところで、織莉子は「それ」が確かにそこにある事を知った。
最初は吉良沢の掌があるだけに見えたが、よく目を凝らすと、確かに貝殻のようなビジョンが織莉子とキリカにも見えたのだ。もう殆ど、タカラガイの貝殻は透明と同化しかかっている。一体、どんな特撮なのかと疑った。しかし現実の人間の手の上にそうした幻のような現物がある事に、新鮮な驚きを感じるのみだった。
それがどういう意味なのか、まだ織莉子とキリカは知らない。
「世界は一直線にしか進まないらしい。……もしかしたら、僕の世界そのものが消えかかっているのかもしれないんだ」
吉良沢は結論を口にした。その事実は吉良沢にとっても最悪な物だったが、彼は比較的冷静にそう口にすることができた。冷徹さに慣れた証拠だろうか。しかし、極甘の紅茶の味さえわからなくなっている事は、一つの動揺であるようにも思えた。
「僕はずっと、一つの流れに沿った世界から誰かを消せば、その時点で世界は別のルートを辿る二つの未来に分断され、『IF』が生まれる物だと思っていた。その前提で『財団X』に協力する事にしたんだ。……そして、確かに『オリジナル』の世界から分岐した『二次』的な世界は生まれた。だけど……その世界が自らオリジナルに近づき、融合しようとしているんだ」
「……どういう事かな?」
そう訊いたのはキリカだ。
キリカは、だんだんとそれを重大な事実と受け止めて、自分の脳内にその情報を溜めこもうとするようになっていた。
これは織莉子と自分にも関わってくる話だと、直感が告げたのかもしれない。吉良沢としても少し話しやすくなった。
「たとえば、参加者の高町なのはと高町ヴィヴィオを知ってるかい?」
「ああ……それくらいは」
どうやら、参加者の名前の一部は覚えているらしい。同じ魔法少女だからだろうか。
「……高町なのはと高町ヴィヴィオの来た時間軸は全く別だ。母であるなのはがいなくなった時点で、『高町ヴィヴィオ』は存在できなくなるはずだ。つまり、全く別の未来が生じていなければありえない事例だろう?」
「……なら、そうなんじゃないか?」
キリカが頭に疑問符を浮かべている間、織莉子も、黙ってはいるが、思索を巡らせているようだった。少なくとも、キリカの質問と同様には考えていないらしい。
しかし、吉良沢はキリカに合わせて話をする事にした。
「確かに一時的に、『なのはが消えた世界』は発生した。しかし、おそらく、今日が終わると同時に、なのはが消えた世界とヴィヴィオが消えた世界は、一つに統合されてしまうんだ。彼女たちの場合、七人の人間の不在によって別の時間に分かれていたけど、それが最終時間軸……ヴィヴィオかアインハルトが来た世界を『オリジナル』だと思って、そこに統合して、『なのはが消えた』という事実そのものを消してしまう」
「だから、それはどういう事なんだ?」
吉良沢は少し説明のもどかしさを感じた。それは相手がキリカでなくても、非常に説明に難を要する原理であった。そもそもパラレルワールドなどが出てくる時点で、非常にややこしい話題になるのは間違いない。
だが、行き詰るわけにはいかない。どうしても説明しなければならない話なのだ。
「僕たちの世界は、全て一つの軸が存在する。それが『オリジナル』だ。魔法少女たちが来た時間軸も全て同じだっただろう? 巴マミが死に、美樹さやかが魔女になり、佐倉杏子が死に……そこまでの流れは、彼女たちがいるどの世界も同じだった。ただ、その細かい話があまりにも、同じすぎるんだ。こうしてその世界の人間が取り除かれた時点で、もっと別のルートがあってもいいはずだと思える。君たちの来た世界は、実際、別のルートのはずだけど、それは暁美ほむらの特殊な干渉によって生まれている物だろ?」
「……」
「だけど、世界の流れは、そうして逆行や再構成によって阻害されない限り、定められた一つの未来にしかならないみたいなんだ。……少なくとも、ここにある十二の世界は全て」
織莉子が息を飲む。吉良沢と織莉子のように、予知能力を持った人間はその原理をどこかで知っていたのかもしれない。
「魔法少女たちの場合、巴マミがお菓子の魔女に食べられて死に、そこから進んでいく時間軸があくまで、通説的な世界で、世界の正当な流れだ。暁美ほむらの旅も含めて一つの世界として形状が記憶されているのかもしれない。しかし、同一の流れに進もうとしている世界同士の別時間軸の存在がこうして一同に会す事で、重ね合い、自分たちの歪みを誤魔化し合う事ができるんだ」
「……歪んだ『二次』世界は、少しでも『オリジナル』に近い世界になろうと、融合を始めてしまう……という事ですか?」
織莉子が理解したようだった。
オリジナル──と呼ばれる一つの世界が存在し、その流れを全員が辿ろうとしていたという事である。
「その通りだ。傷ついた細胞のように、一つ一つが正しい時間の流れに戻ろうとしている。そして、それぞれの世界は、最もそれに近い最終時間軸と融合し、元の世界では『高町なのは』をはじめとする同一世界の人間たちは大人になってから同時に殺し合いに招かれたのと同じ事にされる」
少なくとも、今なのはたちを必死に捜索している家族や友人たちは、明日にはそれを忘れて、数年後の「なのは」を探す人間と結合される事になるのだろう。おそらく、人物が消える前の時点で、そこまで同じ歴史を辿って来た世界とリンクし、上書きされ、『オリジナル』と同様の世界に近づいていく。
しかし、最終時間軸に調整された時点で、相互影響のない『オリジナル』世界の捜索が難しくなり、融合が終わる。そこに至るまでの時間が、この殺し合い会場の時間で一日程度という事だ。本来の通り、殺し合いなど存在せずに進む世界はここには存在せず、
「多分、ここには、実験台に近い物が揃っていると思う」
吉良沢は、ここまで話して、ようやく紅茶の異常な甘さに気づいたようで、カップを二度と触らなくなった。
「……涼村暁や速水克彦がその一例だ」
暁や速水、黒岩の三名は、本来なら一人の人間の『夢』の中の存在である。しかし、彼らがこうしてここにいる。夢の中の人間が、こうして確かな人格を持ってこの場に召喚されている事は異常だと言えよう。それはまるで、一人の人間の脳内で殺し合いが行われているようでもあるが、それは違う。
確かに、現実で行われている殺し合いの中に、夢人格が存在しているのだ。
「時間遡行者、暁美ほむらもそうですか?」
ほむらの時間遡行によって、改変された世界の一つから来た織莉子とキリカ。
彼女たちは、ほむらの旅のうちの一つを共有している五人の魔法少女から外れている。
参加者の魔法少女たちは全員同一の世界から来ているが、彼女たちは違うのだ。
それが世界の融合にどう影響を与えていくのかも一つの実験。
「ああ。きっと。それに、世界の破壊者と接触したシンケンジャーや仮面ライダーダブルも」
何より、全く同じ『世界の融合』を経験する仮面ライダーディケイドと、接触を図った者たち。ディケイドの旅の果てには、結果的に全く別の世界同士での融合を許してしまった。
全く近しい世界同士ならば、もっと簡単な融合が行える。
「僕たちがこの殺し合いの主催者に引き抜かれた理由。……それも、おそらく予知能力が、世界の融合に対してどう反応するのか試した……あるいは、予知能力を持つ人間を手元に置いておきたかったという事じゃないかと思う……」
「もしかして、この殺し合いそのものが実験という事ですか?」
「……いや。それはわからない。でも、きっと、それだけじゃない。もっと大きな野望のついでなんだ。……そんな事の為にこれだけ大掛かりな実験をするなんて、普通は考えられない」
吉良沢もそこまではわからなかった。
加頭順やニードルはもっとちゃんと理解しているかもしれないが、彼らに訊く事はできない。
「……でも、これだけはわかる。僕たちは自分たちの未来の救済を保障されてここに来たけど……おそらくは、世界の流れによって作り変えられてしまうんだろう。僕が見た憐の回復も、全てなかった事になる。財団にとって想定内か、想定外かはわからないけど」
吉良沢はたった数日の幻のためにこうして殺し合いの片棒を担がされていたわけだ。
「じゃあ、暁美ほむらが旅した世界の一つに過ぎない私たちの存在は……? その流れに飲み込まれたら……救おうとした世界も別の世界に統合されてしまうの……?」
そう言われて、吉良沢は押し黙った。
そう、やがて、ほむらたちの世界の織莉子やキリカと等しくなっていくかもしれない……。
この殺し合いの影響下では、殺し合いの中に二つ存在してしまう物体以外は、平気だろう。
「織莉子は、私たちの世界を救う為にここまでやって来たんだ! 別の世界に取り込まれたら、織莉子がやってきた事も全部……無駄じゃないか! 私たちが守りたい世界は、……守ろうとした世界は……」
「無駄かどうかはわからない。イレギュラーな君たちの世界が融合していくのかどうか……」
暁美ほむらが遡行した分も含めて一つの時間軸だというなら、彼女たちもワルプルギルの夜との決戦前まで時間が飛ぶ事になる。その辺りは複雑に思えた。
しかし、ほむらの行動を淹れてしまうと、世界はリセットされる。この織莉子とキリカのこの日までの行動は無駄になってしまうだろう。手放しに喜ぶ事はできない。
「……ダークザギが倒される事が、僕の世界の救済条件だ……。でも、このままだと、果たしてどうなるか……」
吉良沢にとっても、最終時間軸に辿り着く前に石堀がここで死ねば世界は救われる事には違いない。それは諸刃の剣だ。一種の賭けにしかならない。
しかし、吉良沢が行ってきた注文の数々も、全て水泡だ。
「おそらく、僕たちがこの仮説に辿り着いた事は財団Xも気づいているだろう。ただ、実験台である僕たちを安易に殺す事はない。……僕たちはまだ協力し続けるしかないみたいだ」
吉良沢がそう告げた。
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最終更新:2014年05月19日 23:26