原文
Le grand criard1 sans honte audacieux2,
Sera esleu3 gouuerneur4 de l'armée5:
La hardiesse6 de son contentieux7,
Le pont8 rompu,cité9 de peur10 pasmée:
異文
(1) criard : criart 1557U 1557B 1588-89 1620PD, criar 1568A 1568B 1568C 1590Ro 1772Ri, criat 1568I, Criard 1594JF
(2) audacieux : audatieux 1605 1649Xa
(3) Sera esleu : Esleu sera 1594JF
(4) gouuerneur : Gouuerneur 1594JF 1620PD 1656ECL 1665 1672
(5) de l'armée : dans l'armée 1656ECLb, le d'Armée [sic.] 1672
(6) La hardiesse : La hard fesse 1588-89, A l’hardiesse 1656ECLa 1668
(7) contentieux : contenteur 1600 1610 1716(a c)
(8) pont : Pont 1594JF
(9) cité : Cité 1589PV 1590SJ 1649Ca 1650Le 1656ECLb 1668 1672
(10) peur : paour 1588-89, pœur 1594JF, pur 1600
(注記)1656ECLでは2箇所に登場している(pp.147, 360)。p.147のみに見られる異文を1656ECLa とし、p.360のみに見られる異文を 1656ECLb とした。
日本語訳
とても喧〔かまびす〕しく、恥知らずで無遠慮な人物が、
軍の統率者に選ばれるだろう。
彼の対抗者の大胆さ(が表出するだろう)。
橋が壊され、都市は恐怖で卒倒する。
訳について
3行目 contentieux は現代語では「論争(の)、訴訟(の)」といった意味しかなく、DFEでもそうした意味が載っているが、
ピエール・ブランダムールはエドモン・ユゲの辞書から「戦いや論争を好む人」(qui se plaît aux luttes, aux débats) という語義を導き、rival (対抗者、ライバル)と釈義している。その3行目は名詞句だが、ブランダムールは「~が現れるだろう」(se manifestera) を補って釈義した。
リチャード・シーバースの英訳もほぼ同じで、contentieux を rival と英訳した上で、shall come to the fore (~が表面化するだろう) を補って訳している。
当「大事典」の訳は、以上のような読み方を踏襲しているが、
ピーター・ラメジャラーや
ジャン=ポール・クレベールは contentieux を1行目の人物の性質と理解している。すなわち「彼の好戦的な性格の大胆さ」という読み方である。
既存の訳についてコメントしておく。
大乗訳について。
1行目 「はじらいもなく大声で叫んで」は不適切。audacieux (無遠慮な、厚顔な)が訳に反映されていない。ただ、その点は、sans honte (恥知らずな) と意味が似ているために一まとめにしてしまったのかもしれない。
山根訳について。
3行目 「論争の大胆不敵」は、間違いではないにせよ、上述の contentieux の扱いからすると不適切ではないかと思われる。
信奉者側の見解
ジャン=エメ・ド・シャヴィニー(1594年)は1562年7月のヴァルレアスの戦い (Bataille de Vaulreas ; Vaulreas は現 Valréas) と解釈した。前半に描写されているのはヴァルレアスを守っていたスーザ伯、3行目に描かれているのはそれを破ったレ・ザドレ男爵フランソワ・ド・ボーモン (François de Beaumont, le Baron des Adrets) で、4行目は被害を被ったソルグの教皇宮殿 (Château du Pont de Sorgue) と、
アヴィニョンを指すと解釈された。
1656年の解釈書では、1557年のケラース地方 (Queyras) の攻囲戦と解釈されている。前半は、戦死したボニヴェを継いでフランス歩兵連隊司令官に任命された
シャルトル司教代理フランソワ・ド・ヴァンドーム、3行目はフランス元帥であったブリサック伯シャルル・ド・コセと位置づけられた。
テオフィル・ド・ガランシエール(1672年)は、この解釈を踏襲した。
ジェイムズ・レイヴァー(1942/1952年)は、前半の人物をクロムウェルと解釈した。
4行目の「橋が壊され」は、それを語源とするヨーク地方の都市ポンテフラクト(国王軍の拠点であったために、ピューリタン革命時には激戦地の1つとなった)とされた。
この解釈は
エリカ・チータム(1973年)が踏襲した。
ヘンリー・C・ロバーツ(1947年)は、かなり漠然とした解釈しかしておらず、
娘夫婦の改訂版(1982年)も同様であった。
しかし、
孫の改訂(1994年)では、ノーマン・シュワルツコフ(湾岸戦争で多国籍軍司令官となったアメリカの陸軍大将)のこととされた。
2016年のアメリカ大統領選挙でドナルド・トランプが勝利すると、前半に描写されているのがトランプだとする解釈が提示された。日本ではネットメディアのTOCANAがこれを(おそらく最初に)報じ、テレビ番組『Mr.サンデー』(フジテレビ、2016年11月13日放送分)でも紹介された。類似の情報は『ロケットニュース』などでも報じられた。
【画像】 ドナルド・トランプ著 『THE TRUMP - 傷ついたアメリカ、最強の切り札』
同時代的な視点
エヴリット・ブライラーは、当時フランス軍を率いていたモンモランシー公に対する反感が織り込まれている可能性を挙げた。
ピーター・ラメジャラーは、ノストラダムスがしばしば古代ローマをモデルにした詩篇を作っており、「都市」が
ローマを指している例があることを踏まえ、スパルタクスの反乱(紀元前73年 - 前71年)がモデルではないかとした。
【画像】佐藤賢一 『剣闘士スパルタクス』
その他
1672では79番になっている。1685ではページ順を変えずに詩番号のみ81番に差し替えている。
ヘンリー・C・ロバーツの版では、79番とする誤った詩番号がそのまま踏襲されている。
※記事へのお問い合わせ等がある場合、最上部のタブの「ツール」>「管理者に連絡」をご活用ください。
最終更新:2016年11月14日 03:55