概要
歴史
学区の治安を揺るがした出来事の多くは、ウォールム校の地下に拠点を置く組織の活動に端を発している。
ガルグ紛争
この紛争は、共立公暦720年に勃発し、ガルグ街の全体を巻き込む大規模な武力衝突となった。
勃発
紛争の火の手は、学区の一角から上がって瞬く間に市街の全域に広がり、空洞の内側にある地区のほぼ全てが戦火に巻き込まれた。戦闘の当事者として表舞台に現れたのがウォールムレジスタンスであり、学区の外にも組織の名が知れ渡ったのは、紛争が契機となっている。それまで大学の地下に潜んでいた組織は、紛争を通じて武装の規模と活動の実態を晒すことになり、学区の治安を脅かす勢力として広く認識された。市街の各所で続いた戦闘は学園の施設にも及び、ステーノス学校では校舎が半壊する被害を受けている。逃げ場の限られた空洞の中で戦火が広がったことから、住民は避難の行き先を求めて地区の間を移り、学区の暮らしは長く乱れた。自警騎士団は応戦に追われ、学区の手勢は事態の収拾に手を焼き、紛争は学区の外からの関与を招く段階に入っていく。
中央の介入
紛争の長期化を受けて、
共立機構国際平和維持軍が事態の収拾を迫る圧力を強めると、状況を重く見た
学生理事会は、介入に踏み切った。派遣されたのは、
軍事委員会の指揮下にある
学徒防衛隊であり、学生の部隊が学区の紛争に投じられる形がとられた。軍事委員会には各学区の紛争に介入する権限が与えられており、学区の自治を重んじる建前のもとでも、国際部隊の圧力が中央の背中を押した。現地に入った防衛隊は、高位の術を扱う隊員の力を生かしてレジスタンスの拠点に攻勢をかけ、一定の戦果を上げている。防衛隊の投入は学区の同意を取り付けたうえで段階的に進められ、自警騎士団の騎士が土地勘を生かして部隊を市街に導いた。もっとも、組織の根は大学の地下に深く張っており、戦果は紛争の拡大を食い止める段階で頭打ちとなった。学区の外から差し向けられた部隊の働きは、自前の騎士団で街を守ってきた学区にとって、中央の力を受け入れる転機ともなった。
隔離制裁
緊張状態は今なお尾を引き、学区には引き続き
軍事委員会による特別治安維持体制が敷かれている。紛争の未解決を理由に、歴代の
代表理事はウォールム・エリアに対する隔離制裁を継続しており、改善の兆しを欠く大学に向けては、学園助成金を打ち切る措置も講じられた。山脈の向こうの
セドルナ学区からは、主に大人たちで構成される
治安維持アライアンスが定期的な巡回に訪れ、レジスタンスの襲撃に対応してきた。隣の学区から差し向けられる巡回の手は、伝統的な協力関係を背景としており、学区の外から治安の空白を埋める。制裁の継続を巡って、ウォールム側は
学生理事会の決定を批判しているものの、隔離の線は維持されたまま、張り詰めた状況が続く。大学の資金源が細ったことで、制裁の重みは、地下の組織に届く前に、地上で学ぶ学生の暮らしにのしかかっている。
広告飛行船ハイジャック事件
事件は共立公暦802年、ウォールムレジスタンスのハッキング部門アンダー・ルガルグによって引き起こされた。
乗っ取り
事件は、東地区を受け持つ広告飛行船036号が、突然のハッキングを受けて制御を奪われたことに始まる。船上の監視レーダーと対地機銃を備えた飛行船が敵の手に落ちたことで、市街の上空には武装した船体が無人のまま漂う事態が生じた。自警騎士団は即座に騎士団所属のハッカーを動員し、電子の領域から036号の制御を取り戻す奪還作戦を展開する。ハッカーは制御の回復を試み続けたものの、レジスタンスの組んだ妨害の壁は厚く、作業の進みは船の速度に後れを取った。奪還の手が届く前に、036号は針路を変え、他の学区の方面に向けて暴走を始めた。武装した飛行船が学区の境を越えれば、事件は一学区の騒ぎから学区間の問題に発展する恐れがあり、騎士団は電子の奪還を待つ猶予を失った。暴走する船体を止める手立てとして、上空で船そのものを物理的に阻む策が浮上し、事態の収拾は空の上での決断に委ねられた。
特攻作戦
事態の収拾に動いたのは、儀仗宣伝隊の指揮下にある広告飛行船006号である。暴走する036号に006号が体当たりを敢行する特攻作戦によって、乗っ取られた船体の進路は断たれ、事件は解決を見た。広告の船体を武器に転じる判断は、上空の飛行船を指揮下に置く隊ならではの選択であり、006号は036号の針路を正面から塞ぐ位置に回り込んで突入している。もっとも、特攻の結果として、二隻の飛行船はもつれ合ったまま市街に墜落している。落下した地点の真下には、ガルグ紛争の半壊の後に建て直されて久しいステーノス学校の新校舎があった。紛争の痛手を乗り越えた校舎は、空から降ってきた二隻の飛行船の直撃を受け、再び瓦礫の山と化す。学校は仮設のプレハブ校舎で授業を続ける羽目になり、仮住まいの日々は同820年まで続いた。在学の大半を仮設の教室で過ごし、そのまま卒業の日を迎えた学年は、複数に及んでいる。
地理
学区の置かれたブラムスティは、ネルトヴィンリル星系の第1惑星にあたり、ハビタブルゾーンの外側すれすれの軌道を公転する。
大空洞
ガルグ街の市街は、赤道域のホットスポットに口を開けた大空洞を拠点に据えている。全球を氷に閉ざされた惑星にあって、地熱の行き渡る空洞の内側は、人が暮らしを営める数少ない土地にあたる。住民の生活も学園の営みも、大半は岩盤に囲まれた市街の中で完結する。拠点を構えた当初の空洞は手狭であったものの、都市計画の一環として大規模な拡張が重ねられて久しく、掘り広げた空間の天井は市街の上に広い空域を残す高さにまで達した。市街は方角を冠した複数の地区に分かれ、行政の受け持ちも区画ごとに割り振られている。空洞の一角を占めるウォールム・エリアは、同名の大学の校舎を中心に広がる区画で、学区の中では治安の乱れが最も深い一帯にあたる。地上の街並みと地下を巡る軌道、天井の下に開けた空域が、限られた空洞の容積を幾重にも使い分け、市街は上下の方向にも厚みを増してきた。
周辺地域
大空洞の外側には、生き物の暮らしを拒む氷原と険しい山脈が連なる。山脈を隔てた向こう側には
セドルナ学区が接しており、二つの学区は境を挟んで都市計画を共に進めてきた。主な活動の場を空洞の中に置く学区にとって、外部と繋がる経路の確保は生命線にあたる。空洞と外の世界を結ぶ役目には、ヒート機能を備えた人工河川が充てられ、凍り付く寸前の環境を流れ下る水路が、氷原を貫いて外部との接続を保つ。周囲の一帯は
過去大戦で主戦場となった土地であり、氷に半ば埋もれた旧文明の廃墟が、空洞の周辺の各所で数多く確かめられている。戦火の痕を残す廃墟は、学区の建設が始まる以前から氷原に佇んでおり、現在の市街は、かつての戦場の只中に新しく打ち込まれた拠点の姿をとる。山脈と氷原に囲まれた地勢は、外敵の接近を阻む壁ともなり、空洞の出入口は人工河川の流路とわずかな通路に集まっている。
政治
自治体制
学区の舵取りは、実質的にカーノルト学園の手に握られている。独自の騎士団を抱える学園の発言力は他校を圧しており、学区の治安を同団の警備に頼る立場から、ウォールム校を除く全ての学校が同学園の方針に沿う運営を選んできた。一方で、学区の内側も
ユピトル憲法の基本権が及ぶ範囲にあり、内部の情報には一定の透明性が求められ、外部の報道や資料に触れる自由も住民に認められている。カーノルト学園が他校の運営に及ぼす影響も、透明性の求めに応じて住民の目に触れる形で扱われ、主導の構図そのものは公然の事実として受け止められてきた。権利の保障は、卒業後に
帝国本土で職に就いた者にも引き継がれる。
近衛騎士団を含む一部の中枢組織に籍を置く者を除き、帝国で働く卒業生には、ユピトルに戻る自由が保障された。学区で育った人材が帝国の職場と郷里の間を行き来する道は、権利の保障によって開かれたまま保たれている。
中央との合意
学生理事会との関係は、ウォールムレジスタンスのテロ活動を境に大きく揺らいだ。テロの続く状況を受けて学区に対する地方交付金は停止されて久しく、学区の財源は、事実上、
帝国本土からの投資に多くを頼っている。帝国の資金が流れ込む構図は、国内の安全保障を掲げる中央の警戒を招き、学区は合意に基づいて、関係団体が抱える投資の比率に占有の上限を設けた。合意の柱は、中央に一定規模の介入権を認める取り決めにあり、学区は自治権を丸ごと停止される事態を免れている。停止に至っていれば、帝国と
ユピトルの関係にも亀裂が走る恐れがあった。介入の範囲を巡っては、更生プログラムを含む過激派対策の継続を前提として、ガルグ街に根付いた実地教育の制度は学区の裁量に委ねる線で折り合いが付いた。中央の側からは、治安の乱れの根に、カーノルト学園の敷いた制度的な差別の構造があるとの指摘も上がる。
共立連合党ヴェルノー派
この派閥は、
共立連合党の内部でガルグ街の出身者が形づくる集まりである。党内に数多くある派閥の中で、この一派の結束の根は郷里の縁にあり、学区を同じくする党員が会合のたびに顔を揃えるうちに、自然と一つの勢力にまとまった。結束の成り立ちが政策の対立と無縁であることから、他派閥とも穏当な間柄を保ち、党内の議論に学区の事情を持ち込む窓口を務める。派閥には、カーノルト学園の自警騎士団に属する騎士も名を連ねており、党の集会では、身なりを整えた団員が会場の警備に就く姿が見られる。党員が自前で警護の手を用意できる派閥は珍しく、党内の催しが重なる時期には、他派閥からも警備の手伝いを請われる。
序列の下位に置かれた者の暮らしを支える給付の拡充を訴える党の主張は、差別の構造が指摘される学区の出身者にとって、身近な主題に触れるものでもある。
教育
学区には三つの主要な学園が置かれ、規模と生徒の出自に応じて、それぞれに独自の教育の場を受け持っている。
カーノルト学園
この学園は、ガルグ街で最大の規模を持ち、構内には学区の治安を守る自警騎士団の本拠が置かれている。
課程
学園の課程は、国家運営と騎士道の教育を二本の柱に組み立てられ、在籍する学生の多くは、家名を背負う貴族の子弟と、叙任を目指す見習騎士で占められる。国家運営の講義では、出資元の
帝国に倣った統治の作法が教え込まれ、領地の経営を任される日に備えて、学生は行政の実務を在学中から学ぶ。騎士道の課程は、剣の修練に忠誠の作法と礼法の稽古を重ねる構成をとり、一通りを修めた見習騎士の多くは、構内に本拠を置く自警騎士団の門を叩く。学びの場と騎士団の本拠が同じ敷地に収まる配置から、上級の学生は講義の合間に訓練に顔を出し、現役の団員から実地の指導を受ける。学科の幅は統治と武芸の外にも及び、運輸科では学区間を結ぶ飛行船の運用を学生が受け持って、交通の現場に立ちながら技能を磨く。統治と武芸を同じ学び舎で修める仕組みは、領地を治める貴族と主君に仕える騎士を、学生の時分から一つの秩序のもとに置く。
学生気質
学園の学生は、総じて気位が高い。誇りの源は、家名を受け継ぐ貴族の血筋と、皇帝に剣を捧げる騎士の理想にあり、学区の他校が方針を仰ぐ筆頭校に籍を置く自負が、日々の振る舞いの隅々に滲み出る。身なりと言葉遣いには上級生の目が光り、礼を欠いた後輩は、騎士道の課程で学んだ作法を一から稽古し直す羽目になる。気位の高さは学内の結束を固める支えにもなり、騎士団の巡回に加わる学生は、学区の秩序を背負う役目を進んで引き受けてきた。騎士の理想を掲げる以上、弱い者を見捨てる振る舞いは恥とされ、街で難儀する住民を見かけた学生は、頼まれる前に手を貸す。一方、名門の看板を守る意識が強い分だけ、他校の生徒と交わる場面では尊大な態度が顔を出しやすい。体面を重んじる気風から、学園の名に傷が付く事態には学生自身が過敏に反応し、身内の失態は学内で始末を付けてから外に出す慣わしが根付いている。
ステーノス学校
当校は、平民の子弟を主な対象に据え、少数ながら貴族の生徒も同じ校舎に通う。教育の軸は、学区の内外に事業を構える様々な企業に人材を送り出すための基礎教育にあり、読み書きと計算を土台として、職場で最初に求められる実務の素養が順を追って教えられる。課程は企業の求める人材像に合わせて組まれており、卒業を控えた生徒は、進路の先にある職場の仕事を見据えて履修を選ぶ。家業の経営に携わる前に実務の基礎を固めようとする貴族の子弟が、平民の多い学び舎をあえて選ぶ例もあり、身分の離れた生徒が同じ教室で帳簿の付け方を学ぶ光景は、学区の中でも、この学び舎に特有のものにあたる。運営はカーノルト学園の方針に沿って行われ、平民の学校でありながら規律と礼節を重んじる校風は、騎士道を掲げる筆頭校の影響のもとで形づくられた。学区の暮らしを下支えする働き手の多くが当校の卒業生で占められ、街の事業所の帳場や工房には、同じ校舎で学んだ顔ぶれが並ぶ。
ウォールム校
同名のエリアに校舎を構える大学は、学区で唯一、カーノルト学園の方針から独立した運営を続けている。
校風
大学は、「自由な校風」を看板に掲げて学生を集めてきた。校則の縛りを緩め、学びの進め方を学生自身に委ねる方針は、筆頭校の流儀を窮屈に感じる若者の受け皿となるはずであった。ところが、門を叩いたのは、カーノルト学園とステーノス学校が手を焼いた末に持て余した生徒ばかりであり、看板の文字どおりに振る舞う学生が構内を埋め尽くす結果となった。講義の教室は欠席と私語で荒れ、構内の掲示は数日のうちに落書きで上書きされ、学生の自治に委ねられた運営は、声の大きい者の言い分が通る場と化している。筆頭校の方針から独立した立場は、学区の秩序から距離を置く拠り所ともなり、構内には他校の規律を嫌う気風が根を下ろした。手綱を緩めた教育の帰結として、大学は学区で最も統制の緩い学校となり、乱れた空気は校舎の周辺から地域一帯に広がっている。
地下組織
校舎の地下には、学生による違法な地下組織、ウォールム・レジスタンスがアジトを構えている。地上の自由な校風の陰で育った組織は、構内の地下深くに拠点を据えることで、騎士団の巡回の目を逃れながら活動を広げてきた。組織の内側には役割ごとの持ち場が設けられ、ハッキングを専門とするアンダー・ルガルグも、部門の一角を占める。電子の領域を受け持つ部門の存在は、組織の手口が、地上の破壊工作から学区の通信と制御の網にまで及ぶことを物語る。学校の周辺ではレジスタンスによるテロが頻発しており、学区の交通の要が繰り返し標的に選ばれてきた。治安を守る自警騎士団とは武力の応酬が日常と化し、ウォールム・エリアの街路は、両者の衝突が繰り返される戦場の様相を呈する。アジトが大学の校舎の真下にある以上、騎士団が踏み込めば学園の自治に触れる問題が生じ、地下組織は学校の看板を盾に生き延びている。
交通
山脈を越えた
セドルナ学区とは、伝統的な協力関係のもとで鉄道路線が開かれ、二つの学区の密な往来を支えている。
環状地下鉄
この鉄道は市街の地下を巡り、
帝国製の小型通勤電車を車両に充てて、住民の日常の足となっている。
路線網
路線は、市街を一周する環状線と、輪の途中から枝分かれする二本の支線で組み立てられている。岩盤を穿って通した隧道は断面が小さく、車体の幅を抑えた小型の通勤電車は、狭い坑道を縫う路線の造りに合わせて選ばれた。輪の形に閉じた本線では、列車が終点で折り返す手間を省いたまま走り続けられ、限られた編成の数でも途切れの少ない運行が組める。支線の分岐する駅では、環状線の乗客が向かいのホームに渡って乗り継ぎ、輪の外側に位置する区画まで足を延ばす。軌道は自警騎士団の装甲列車にも開放されており、騎士団の車両が走る時間帯には、乗客を乗せた編成が駅の側線に退いて道を空ける。市民の足と治安部隊が一つの線路を分け合う運用から、運行の管理には平時から騎士団の連絡員が加わり、事件の報が入れば、旅客列車を止める判断も即座に下される。
ウォールム高架線
環状線のうち、ウォールム・エリアを抜ける区間は地上に姿を現し、高架の上を走る。
出資元の帝国では、地下鉄道の一部を都市の地上で高架として通す造りが採られてきたが、学区の高架線も同じ流儀に沿って建設された。隧道の覆いを外れた高架の軌道は街路から丸見えであり、ウォールムレジスタンスにとって狙いやすい標的となった。高架線ではレジスタンスの仕掛ける爆破テロが頻発しており、橋脚と軌道の修繕に追われる保線の作業員は、復旧の目処が立つたびに次の襲撃の報を受ける。車体に描かれる落書きも連日増え続け、車庫で塗装を洗い流された車両が、翌朝の一周を終える頃には新たな絵柄を纏って戻ってくる。区間の利用者は、遅れと運休を見越して家を早めに出る習慣を身に付けており、高架の下を通る住民は、頭上を走る列車の音に紛れる異変の兆しを聞き分ける。
飛行船
空洞の拡張によって市街の上に一定の高度まで飛行できる空域が開かれ、学区の空には、用途の分かれた二種の飛行船が浮かぶ。
広告飛行船
広告を掲げて市街の上空を巡る船体は、側面に据えたモニターで日々のニュースと速報を住民に伝えている。船体には三桁の番号が振られ、地区ごとに受け持ちの船が割り当てられており、東地区の上空にも専属の船が定位置を保つ。広告の掲示に加えて、船上には監視レーダーが設置され、上空から地上の動きを見張る目として学区の治安維持に組み込まれた。速報を流すモニターと街路を見下ろすレーダーが一つの船体に同居する造りは、事件の発生から住民に知らせる段取りまでを同じ船の上で済ませる運用を可能にしている。テロの標的となりやすい事情を踏まえ、船体には自衛用の対地機銃が備わり、地上から襲撃を受けた際には船自ら応戦できる。一部の船は自警騎士団の部隊の指揮下にも置かれ、平時は広告を流す船体が、有事には治安維持の戦力として動員される。
学区間飛行船
旅客を乗せた船体は、学区内に設けられた発着場から遠方の学区を目指して飛び立ち、他の学区との間を行き来する。氷原に閉ざされた学区にとって、空の便は外の世界と人を行き交わせる数少ない手段の一つにあたる。航行は全て自動運転で行われ、針路の維持から離着陸に至る操船は、船に組み込まれた制御の仕組みが受け持つ。運用の現場に立つのは、カーノルト学園運輸科の生徒たちである。自動化された船の上で、生徒は航行の監視と異常時の対処に当たり、発着場では乗客の案内と貨物の積み下ろしの段取りを整える。整備の工程も運輸科の実習に組み込まれており、出航を控えた船の点検は、教官の立ち会いのもとで生徒の手によって進められる。学生の手に旅客の安全を預ける運用は、課程の実地訓練と学区の交通を一体で回す仕組みであり、卒業の頃には、生徒の多くが一通りの運航業務を身に付けている。
軍事
セドルナ学区との境界には、違法集団の越境を阻むバリケードが築かれ、学区は更なる要塞化を遂げた。
自警騎士団
騎士団は、カーノルト学園を拠点とする学区の治安維持部隊であり、皇帝に捧げた忠誠を胸に、その出資によって築かれた街の守りに就く。
本隊
学園の構内に駐留する部隊は、騎士団の指揮の中枢を占めている。日々の任務の柱は市街の巡回であり、騎士の装いをまとった団員が地区の街路を歩き、住民の目に見える形で治安の存在を示す。巡回の網は地区ごとに組まれ、上空の広告飛行船が送る監視の情報と、地上を歩く騎士の目とを重ね合わせて、異変の兆しを早い段階で拾い上げる。巡回の当番は担当の地区を定期的に入れ替える形で回され、特定の街路に慣れすぎた騎士が見落としを生む事態を避けている。テロの報が入れば、団員は現場に急行して初動の対処に当たり、必要に応じて専門の部隊に出動を命じる。団員の多くは学園の騎士道の課程を修めた者で占められ、学び舎と同じ敷地で暮らしながら、任務と鍛錬を日課として回す。皇帝に誓った忠誠は団員の行動の拠り所であり、出資者たる
帝国の名誉を守る務めが、学区の秩序を守る務めと重ね合わされている。
装甲騎士隊
隊の装備は戦車と装甲砲を主体とし、騎士団の中で最も重い火力を抱える。巡回の騎士の手に余る規模の武力衝突に備えて編成され、レジスタンスとの戦闘が激しさを増した局面では、火力の要として前線に送り込まれる。空洞の市街は建物が密に立ち並び、車両の動ける道筋は限られるため、隊の騎士は狭い街路で車体を操る技能を重点的に磨いてきた。ウォールム・エリアの路地に陣取った武装集団を相手取る際には、装甲砲の射撃で拠点を崩し、戦車の車体を盾にして徒歩の騎士を前進させる。境界のバリケードを守る持ち場にも隊の車両が配され、違法集団の越境を力で阻む構えが敷かれた。重装の車両を駆る騎士は、本隊の団員と同じく騎士道の作法を身に付けており、車上にあっても礼法を守り通す振る舞いが隊の矜持とされる。車両の整備も騎士自身の手で行われ、出撃の前夜には隊員が総出で砲身と履帯の点検に当たる。
列車隊
隊員は、環状地下鉄の軌道を主な活動の場とし、装甲列車を駆って路線の警備に当たる。旅客の列車と同じ線路を走る装甲列車は、輪の形に閉じた路線の特性を生かし、市街のどの地区にも短い時間で兵員を送り届けられる。駅や隧道で事件が起きた際には、旅客の運行を止めた軌道に装甲列車を滑り込ませ、乗客の避難と現場の制圧を並行して進める。爆破テロの頻発するウォールム高架線は隊にとって最も警戒の厚い区間にあたり、高架の上を往復する装甲列車が、軌道に仕掛けられた爆発物の探索と、修繕に当たる作業員の護衛を引き受ける。列車の車上から街路を見下ろせる高架の区間では、装甲列車そのものが移動する見張り台となり、地上の巡回の合間を縫って一帯に睨みを利かせる。装甲列車の車庫は環状線の沿線に置かれ、出動の命令から発車までの段取りは、日々の訓練で秒刻みに詰められてきた。
儀仗宣伝隊
広告飛行船を足に使う騎士たちは、名のとおり、儀礼の場を飾る儀仗と、住民に向けた宣伝の二つを任務に据える。式典の折には、隊の指揮下にある飛行船が市街の上空に列を組み、騎士団の威容を空から示す。宣伝の面では、船体の広告用モニターを用いて騎士団の告知と治安に関わる呼び掛けを流し、事件の際には避難の指示を空から住民に伝える。飛行船の対地機銃は隊の戦力にも数えられ、有事には広告の掲示を止めた船体が上空からの火力支援に回る。監視レーダーの捉えた情報は、隊を通じて本隊に送られ、空と街路の連携を取り持つ役目も隊の仕事に含まれる。広告の枠を管理する立場から、隊は学区の告知の編成にも関わり、騎士団の募集や式典の案内を流す時間帯を割り振る。華やかな式典と荒事の両方を受け持つ隊の騎士は、礼装と戦闘の装備を同じ船内に積み、出動の内容に応じて身支度を切り替える。
帝国駐留部隊
駐留宙軍
配備された艦は、宙域を航行する艦船の操船を学生に教える練習の場として用いられている。一隻の巡洋戦艦に教育の役目が集約されるため、受講する学生は班に分かれて交代で艦に乗り組み、航法と機関の操作を実地で身に付ける。宙域艦である以上、艦の活動の場は凍結した地表の外に求められ、学生は空洞の暮らしを離れて宇宙の航行に臨む。訓練の場は星系の外にも及び、
セトルラームの領内に赴く遠征訓練も実施されている。他国の領内を渡る遠征では、航路の取り決めと交信の手順も相手国の定めに従う必要があり、学生は艦の運用に加えて、異国の宙域を渡る作法も学ぶ。艦上での生活そのものも課程の一部とされ、学生は当直の交代と艦内の規律を、
帝国の士官と同じ時間割で守る。艦橋で指揮を執る帝国の士官は、航行のたびに学生の操船を採点し、遠征に加わる顔ぶれを成績で選ぶ。
駐留陸軍
陸の部隊は、陸軍の基本的な装甲兵器を操る技術と、戦場での活用の方法を学生に教える。小隊の規模に抑えられた装甲車の編成は、実戦の戦力というより教材としての色合いが濃く、学生は車両の操縦に始まり、隊列の組み方と火器の扱いに至るまで、段階を踏んで習熟していく。空洞の市街は車両の演習に使える土地が限られており、訓練の場は建物の密集した街並みの外れに設けた演習場に集約されている。演習場で装甲車を走らせた学生は、仕上げとして市街の外周に沿った道筋を隊列で走り、狭い街路での車両の取り回しを実地で確かめる。航空兵器の教育も陸軍の受け持ちに含まれ、拡張された空洞の空域を使って、学生は機体の扱いを学ぶ。地上と空の双方の兵器を一つの部隊が教える体制から、教官を務める
帝国の兵士は、装甲車と航空機のいずれにも通じた者が選ばれる。
駐留海軍
水上の艦艇は、新旧の水上艦船を操る技術を学生に教える教材として運用されている。旧式の装甲艦では古典的な艦の操作を、汎用巡洋艦では新しい世代の艦の運用を学び、学生は二つの時代の艦を乗り比べながら操船の基礎を固める。コルナス級は
セトルラームで退役した後、
帝国に譲渡されて久しい。全球が凍り付いた惑星で艦艇が動ける水面は、山脈の内側に広がる大空洞の水域に限られ、活動の場も空洞の中に定まっている。旧式の装甲艦は舵を切ってから艦首が向きを変えるまでの間が長く、学生は先を読んだ操艦を身に付ける。空洞の水面は外洋の荒波に比べて穏やかであり、学生は風浪に煩わされる場面の少ない環境で操艦の手順を反復できる。限られた水域で四隻の艦が演習を行うため、艦の配置と航路の割り振りには、教官による綿密な計画が求められる。
近衛派遣隊
一団は、
近衛騎士団から学区に送られた騎士たちであり、皇帝の直轄にあたる。駐留の拠点はカーノルト学園に置かれ、任務の一つは、構内で修練を積む見習騎士に向けた騎士教育にある。人数は限られていても、近衛の騎士が構内を行き交う光景は、学園が皇帝の膝下に連なる場であることを学生に日々意識させる。皇帝を守る騎士団の一員から直に教えを受ける機会は、騎士を志す学生にとって特別な重みを持ち、剣技の稽古から儀礼の作法に至るまで、近衛の流儀が学園の騎士道の課程に注ぎ込まれる。もう一つの任務は、皇帝が学区を訪れる際の対応であり、来訪の折には派遣隊が警護の中核に立ち、自警騎士団と連携して迎えの体制を整える。平時の教育と来訪時の警護を同じ顔ぶれが受け持つため、学生は、教官として接してきた騎士が皇帝の傍らに立つ姿を目の当たりにする。
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最終更新:2024年10月25日 01:54